116 遠征ふたたび・ついでに回って帰ります
俺たちが捜索2日目を終えた翌日にはダンジョンに強行突入した少年は中で死亡したことになった。
外でなら行方不明ということで処理されたのかもしれないけどね。
「今回は本当に助かったよ」
「二度も助けられちまったな」
「感謝します」
遠藤大尉たちに面と向かって言われると面はゆい。
「迷惑かけてしもてホンマすんません」
堂島氏はずっと平身低頭だったので恐縮させられたけど。
「別に迷惑ではないかな。それより退院できたようで何より」
「謙虚やなぁ。尊敬するわ」
別に命に関わるようなピンチを救った訳でもないのに、こんなことでリスペクトされてもね。
否定しても受け入れないだろうからスルーするしかなさそうだけど。
「この借りは必ず返す」
「2回分だから忘れるなよ」
「こんなので借りとか勘弁してくださいよ」
しかも2回とか言われてしまったし。
捜索初日の帰還時に送り届ける格好になったのはまだわかるとして、2日目のは同じ状況ではあったものの遠藤大尉たちにまだ余裕があった。
魔物の湧きが少ないことも合わせて考えれば自力で何とかしただろう。
それで釘を刺すように念押しされるのはどうかと思うのだが。
「細かい話は今度、家に伺わせてもらうよ」
遠藤大尉がそう言うと英花がウンザリしたような顔になった。
仕事で同行するなら我慢もするが家に押しかけてくるのはマジ勘弁と顔に書いている。
「事前に連絡はくださいよ。しばらく留守勝ちになると思うので」
「おいおい、大阪へ長期出張したばかりだろう」
それを知っていながら帰り道とはいえ名古屋に呼び出して仕事させるかねとは言わない。
今回の件で経験値はそれなりに稼がせてもらったからね。
素材の方はサッパリに近いけど。
唯一の収穫と言えそうなのがゾンビどもの魔石かな。
そうなると欲も出てくるというもの。
せっかくだから名古屋のダンジョンを軽く一回りしてから帰ろうという話になった。
「それなら、ここでの後始末が終わりしだい急いで行かせてもらうよ」
「あー、そのタイミングだとたぶん帰ってませんよ」
「なにっ!?」
「せっかく名古屋に来たんだから市内のダンジョンを巡っていこうかと」
「本気かよ。統合自衛軍はまだ多く残っているから宿泊施設は空きが少ないはずだぞ」
「俺たちにはキャンピングカーがありますから」
一瞬、虚を突かれたように目を丸くさせた遠藤大尉だったが。
「ああ。そうだったな」
すぐに失念していたことに気がついて苦笑いする。
「それにしたってタフじゃないか。大阪に長期遠征しておいてまだ足りないって?」
氷室准尉が口を挟んできた。
眠気覚ましに疲労回復のポーションを飲んだので言うほどタフじゃないと思うのだが。
一晩で名古屋城ダンジョンの魔物をほぼ一掃するような状態だったけど、相手は雑魚だったからそこまで疲れるようなことはなかったし。
眠気の方が強敵だったよ。
「足りないというより、もったいないですかね」
「もったいないだって?」
「本来の予定なら名古屋は素通りでしたからね。ひとつでもダンジョンに入ったからには市内のダンジョンも網羅しないと損した気分になるんですよ」
「ウソだろ……」
何故だか呆れられてしまいましたよ?
大川曹長や堂島氏もドン引きとは言わないまでも引き気味である。
そんな中で遠藤大尉は面白いと感じたのかクックックと喉を鳴らして笑っていた。
「君らは本当にダンジョンが好きだな」
「別に好きではないですよ?」
「ウソつけ。好きでもない奴がそこまでするかよ」
「いや、仕事ですから」
「俺たちだって仕事だよ」
「俺たちは時間も場所も好きに選べますからね。休みたければ休めるし」
上からの命令で動く軍人には無理な芸当だ。
そこのは大きな差がある。
氷室准尉もそれがわかっているから、ぐぬぬ状態で短くうなっていた。
「そういうことなんで、うちに来るならアポ取ってからにしてください」
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遠藤大尉たちと別れて最初に向かったのはラーメンと甘味の店として地元で知らぬ者がないと言われるチェーン店だった。
ちょうど昼食のタイミングだったんだよね。
スプーンとフォークを合体させた食器が印象的だったよ。
食後はロゴランドダンジョンへ向かった。
ここもULJダンジョンと同じく遊戯施設の間近に入り口のあるダンジョンなので遊戯施設に入らずに潜れる。
階層は3層までらしいが各層が広大だとのことで今日のところは顔見せ程度にしておいて本格的に潜るのは明日だ。
ここは植物系の魔物しか出ないダンジョンとして有名である。
おそらく守護者もそれ系だろうな。
受付で手続きを済ませて入り口へ向かう。
ここは余所者が来てもジロジロ見られることがないようだ。
全国から観光がてら来る冒険者が多いからかもしれない。
やはり、植物系の魔物しかいないというのはそれだけで人に興味を持たれるものなのか。
「ん?」
なんだか入り口付近が騒がしい。
「救急車だ、急げっ!」
どうやら重傷者が脱出してきたようだ。
見れば軽装の冒険者が血まみれで寝かされており冒険者組合の職員が応急処置をしていた。
重傷者は呼吸が荒く苦悶の表情を見せていたが不幸中の幸いか急所は外れているようだ。
「そんなに難易度が高かったっけ、ここ?」
あそこまでボロボロにされるような敵がいるのだろうか。
ここは遠征前の予定になかったから詳細は調べてなかったので植物系の魔物という情報しか知らなかったんだよね。
「1層は盾の所持推奨だって」
俺の問いに真利が答えた。
ここに来るまでの車中で簡単に調べてくれていたみたいだな。
「そんなに攻撃力の高い魔物がいるのか」
英花が眉間にシワを寄せていた。
「1層の魔物はマッドビーンだよ」
「なるほど、あれか。遠距離攻撃にやられたな」
マッドビーンはマメ科の植物が魔物化したと言えば良いだろうか。
大人の背丈をやや超える高さで茎や根が太く触手のようにうねらせながら移動や攻撃をしてくる。
しかも豆の実を魔力で大きくかつ硬化させて飛ばしてくるところが厄介だ。
通常は大豆や小豆、空豆などを飛ばしてくるのだが例外で穀物であるはずのコーンも飛ばしてくることがある。
ドロップアイテムは言うまでもなく、それらの豆などだ。
倒せば食材として普通に使えるのだが攻撃に使われると侮れない威力を持つ。
盾持ち推奨なのも軽装な冒険者が重傷を負ったのもうなずける。
間もなく救急車が来て冒険者はストレッチャーに乗せられ運ばれていった。
念のためすれ違う際にしばらくは流血しづらくなるよう魔法をかけておいたので万が一ということもないだろう。
できれば寝覚めの悪いことにはなってほしくないってだけなので死なないことに確信が持てたら後は気にしない。
現場というかダンジョンの入り口は騒然とした雰囲気の余韻が残っていたが、俺たちはお構いなしにダンジョンへと入っていった。
「おい、アイツらも盾持ってないぞ」
「命知らずめ」
「これだから、よそ者は」
「危機感が足りねえんだよ」
「それより情報収集が足りてないんだろ」
通り過ぎる際にそんな声が聞かれたが知ったことではない。
真利は多少気にしていたようで。
「盾を用意した方が良かったかなぁ」
中に入ってからそんなことを言い出したけどね。
必要かどうかはじきにわかるさ。
読んでくれてありがとう。
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