114 遠征ふたたび・勘がいい男は嫌いだよ
結局、昼からダンジョンに潜ることになった。
今日は氷室大尉たちと同行する形だ。
「報告じゃ魔物がウジャウジャいるって話だったのに、どうなってんだか」
魔物がサッパリと言っていいほど出てこないせいで氷室准尉が困惑気味に愚痴っている。
どうなってるかと言われると俺たちが昨晩のうちに間引いたんだけどね。
守護者はダンジョンコアからの魔力供給が断たれると一気に弱体化したので俺たちが攻撃に転じるとすぐに仕留めることができた。
当初は厄介だと思っていた攻勢防壁とも言うべき結界も満足に維持できず英花の魔法で消滅。
続いて真利の魔法がウルフベア・ネクロに直撃してジ・エンド。
そこからダンジョンコアを掌握したはいいものの、吸収したレイスのものと思われる魔力を排除しなければならなかった。
アレを残したままだと名古屋城ダンジョンはアンデッドもポップすることになるからね。
浄化することでレイスの残滓のようなものが消せたから良かったけれど。
ただ、それで終わりとはいかず、すでにポップしたアンデッドを消さねばならなくなった。
ダンジョンコアの機能で初期化しようにもレイスの要素が抜けたため初期化不能。
そんな訳で俺たちがRTAよろしく全階層のアンデッドを倒して回りましたよ。
終わった頃には寝る時間なんてろくに残っちゃいなかったさ。
そのあたりは疲労回復のポーションで誤魔化したけど。
「そうですね」
大川曹長も困惑しているな。
「言った通りだろ。スタンピードにはならないって」
遠藤大尉がドヤ顔で言った。
「それはわかりましたがね」
氷室准尉が苦笑している。
「大尉、根拠がなければコインの表と裏を当てるのと変わらないですよ」
「そうそう。自信たっぷりにスタンピードにはならないって言うもんだから、てっきり何か根拠があると思ってたんだが」
「まさかの勘だったとは……」
氷室准尉が苦笑に呆れを乗せ、大川曹長は嘆息し頭を振る。
「酷えなぁ」
大川曹長に冷めた目を向けられた遠藤大尉がボヤく。
「俺は勘を大事にしてるんだぜ。それで生き残ってきたんだからな」
「はいはい、当たれば何とでも言えますよ」
「あーっ、信じてねえな!?」
「それはそうですよ」
「自分も同じです」
向こうのチームの2人から否定された遠藤大尉は俺たちの方を見た。
「先に言っておく。信じない」
即座に否定する英花。
信じるかどうか以前に遠藤大尉のこと毛嫌いしているからなぁ。
「当たればドヤ顔で自慢し当たらなければ話題にはしないなんて詐欺師も真っ青ですよ」
とは真利の言葉である。
なかなか意地悪な御言葉である。
「辛辣だねえ」
さすがの遠藤大尉もメンタルにダメージが入ったか。
いや、犯罪者も同然と言われて怒らないところを見ると余裕はありそうだ。
あまり踏み込みすぎて地雷に触れるのは嫌なので俺自身は何も言わない。
「張井はどうなんだ?」
あえて語らなかったというのに、この人はわざわざ聞いてくるかね。
1人でも味方がほしかったのかもしれないけどさ。
「沈黙するということは他の意見に同意することだと思いますが、あえて言わなきゃいけませんか」
「いや、いい」
肩口あたりまで軽く手を挙げて遠藤大尉は寂しそうに笑った。
「そんなことより少年の捜索です」
大川曹長が切り替えるように発言してきた。
「やはり4層だよなぁ」
氷室准尉がボリボリと頭をかきながら憂鬱さを覗かせつつ言った。
「ミノタウロスは強敵ですが泣き言は言っていられませんよ」
「へいへい」
そんなやり取りをしながら階層をまたひとつ下りていく。
「2層も少ないな」
1層の頭突きウサギ同様、ここのゴブリンも大半がアンデッドになっていたからね。
アンデッドだけを間引いた結果がこれだ。
3層のオークも4層のミノタウロスも同様である。
しかも守護者と俺たちとの戦いでダンジョンコアは全力運転していたから、今は余力がない。
魔物が通常通りにポップするようになるのは何日か後のことになるだろう。
今なら遠藤大尉たちも5層に行くことができるかもしれない。
まあ、ワーウルフ相手だと負けはなくても苦戦はまぬがれないと思うのですぐ引き返すことになると思うけど。
その後も特に何の障害もなく4層まで来た。
遠藤大尉たちは警戒しつつも拍子抜けしている。
「ホントにどうなってんだ、こりゃ」
「ここまで魔物が減少しているとは」
氷室准尉も大川曹長も1層の時よりも困惑の色を濃くしている。
「張井、どう思う?」
何故か遠藤大尉が俺に聞いてきた。
「どう思うと言われてもわかりませんよ」
「何でもいいから聞かせてくれ」
「魔物が山ほど出てきた反動じゃないんですかね」
「そうだとしても出てきた魔物は何処に行った?」
「知りませんよ。適当に思いついたことを言っただけなんですから」
「そこも思いつきで何とかならないか」
無茶を言ってくれる大尉殿である。
そもそも俺たちが暗躍した結果だと言えないので適当なことを言っているだけなのに追及がしつこいのは迷惑極まりない。
いや、遠藤大尉は何か気付いているのかもしれない。
気付いているというか、ご自慢の勘で何か引っ掛かっていると見るべきか。
自身の勘に対する信頼度は相当なようだし厄介なことになったかもしれない。
「魔物としての存在が希薄で長時間はもたなかったとか?」
「何だ、それ」
「自滅したってことですよ。でっち上げた理由にしてはいい方だと思うんですけど」
「うーん」
遠藤大尉はピンとこないようだ。
「いい加減にしないと、魔物が来ますよ」
俺がそう言うと遠藤大尉は我に返って周囲を探るように視線をさまよわせた。
「おいおい、近くに魔物がいるような気配がないぞ」
「来るかもしれないという意味で言ったんです。注意が散漫になってると不意を突かれることだってあるでしょうに」
「わかった。この話はまた後でな」
「こっちはお断りです」
「つれないこと言うなよぉ」
無視してスタスタと先を行く。
なんでもいいから有耶無耶にしないと大尉が粘ってきそうだからね。
その後は必要以外のことは喋らず4層をくまなく探索した。
もちろん少年は見つかるはずもない。
「ずいぶん奥まで来たものだ」
「ミノタウロスとほとんど遭遇しませんでしたからね」
「ようやく奴らとの戦い方のコツがつかめてきたのになぁ」
氷室准尉が物足りなさそうにボヤいているが、それはフラグじゃないのか。
しかも、より強い敵と戦うことになると言う意味でね。
「大尉!」
先頭を進む大川曹長が緊迫感のある声で呼びかけてきた。
「敵はいないだろう」
気配でそれがわかっている遠藤大尉は落ち着いたものだ。
「いえ、前方に階段があります」
「マジで? 4層が最下層じゃなかったのか」
「どうしますか?」
「行くしかないだろ。行方不明者の捜索なんだから」
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