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113 遠征ふたたび・余計なことの余波

 翌朝、俺たちはどうにか寝坊せずに集合時刻を迎えることができた。


「本日もよろしくお願いします」


「あ、お願いします」


「お願いしまーす」


「よろしく」


 大川曹長の挨拶に三者三様で答えた後は今日の予定などを聞いた。

 堂島氏は病院からこっそり抜け出そうとしたものの失敗し捕まったそうだ。


「やたらとやる気になっているようですが無茶なことをしますね」


「子供好きなようですよ」


「意味がわかりませんが。捜索中の少年って15才でしたよね」


 大人とは言えないが子供好きと言われて想像するような年齢でもない。


「堂島さんにとっては未成年であれば子供のようですよ」


「お爺ちゃんみたいだね」


 真利がクスクスと笑っている。

 大川曹長も釣られるように笑みを浮かべたのだが、すぐに引っ込めて真顔に戻った。

 どうやら思わしくない話を持ってきたようだ。


「本日は待機していただきます」


「おや、何かありましたか」


 何が原因かはわかっているのに聞いてしまうとは我ながらわざとらしい。

 端的に言えば夜中の間に魔物の出現頻度がさらに上がったからである。

 それは強化された守護者ウルフベア・ネクロと俺たちが戦った余波とでも言うべき事象だ。

 戦い始めた時はそうでもなかった。

 切っ掛けはダンジョンコアとの魔力的な接続を断ったことだ。

 俺が地面に刀を突き立て切り上げた瞬間のことだな。

 刀に魔力の刃をまとわせてダンジョンコアから守護者へとつながる魔力の導線を切断し再接続できないようにした。


 水道でたとえるなら水道管を破断させ供給される側にフタをしたというところか。

 普通はそんな意味のない真似はしないけどね。

 水が供給されることでゾンビという毒が製造されるから意図的にそうした訳だ。


 供給側にフタをしなかったのは魔力自体は毒ではなかったからなのと急に止めてしまうと暴発を招きかねないと判断したから。

 大量に注ぎ込まれ続ける水を強引にせき止めてしまえば、どうなるかは自明の理というものだ。

 魔力でも同じことが言える。


 ただし、ダンジョンコアが魔力を暴発させた場合はもっと酷い結果になると言わざるを得ない。

 スタンピードが発生してしまうからだ。

 これは異世界でも経験のあることなので間違いない。

 魔王軍が意図的にスタンピードを起こしたことがあるからね。

 大きな街がひとつ壊滅したと言われて緊急出動したことがある。

 もっとも、壊滅したとされる街は元から滅んでおり魔物の軍勢はそこを通過しただけに過ぎなかったのだけど。


 とにかく最悪を回避するためにマシな選択をした結果、魔力はダンジョン全体に行き渡ってしまった。

 それが魔物の出現頻度上昇である。

 こちらは攻略難度が一時的にアップするだけで、さほど心配するほどのことはない。


 ダンジョンコアから供給される魔力だって無限ではないのだ。

 守護者との戦闘で一時的に全開にした蛇口を閉める時が必ず来る。

 全力を出し続けることは人間であれば疲労し機械ならば損耗することを意味する。

 ダンジョンコアとてそれは同じことであり限界を超えて全力を出し続ければ弱体化してしまう。

 故に必ず魔力供給を弱める時が来る。

 あとは待つだけという訳だ。


 問題は統合自衛軍にはそんなことがわかるはずもないということだろう。

 魔物が急激に増えればスタンピードの兆候かと勘違いされてしまってもなんらおかしくはない。

 間が悪いというか、すべての元凶はレイスだよな。

 奴がダンジョンに入ってダンジョンコアの支配権を奪おうとしなければ、こんなことにはならなかったのだ。


 元をたどれば俺たちがレイスのいたダンジョンを消滅させたせいだと言われるかもしれない。

 それは否定しないが、そこに罪があると主張する者がいるなら俺は真っ向から否定しよう。

 火災が広がろうとしているのに無視し続ける方が罪だと思うからね。

 言い訳に聞こえてしまうだろうけど俺たちは火消しをしているに過ぎないのだ。


 そもそもダンジョンは異世界の呪いの産物である。

 この呪いは大規模火災のように放置すれば広がってしまう。

 あっという間に燃え広がる炎ほどの勢いがないのがせめてもの救いだ。

 いずれにせよ地球が呪いで埋め尽くされれば異世界と同じ末路をたどることになりかねない。


 ただ、すべて消滅させてしまうこともできない。

 ダンジョンから得られる産物により人々の生活が成り立っている部分が少なからずあるからだ。

 今の人類にとってダンジョンは脅威であると同時に依存しているものでもある。


 すべてのダンジョンを掌握すればいいという声も聞こえてきそうだが、掌握するよりも増殖するスピードの方が上だ。

 母数が多ければ多いほど増殖速度が跳ね上がるからね。

 ひとつ消滅させれば母数がひとつ減る。

 だが、掌握した場合は丸々ひとつ減ったりはしない。

 掌握されたダンジョンもダンジョンであることに変わりはないからだ。

 魔物を湧き出させるというのは呪いの一種であるということがよくわかる。


 結局は適度に間引くしかない。

 俺たちにできるのはそれだけだ。


「魔物の出現頻度が上がっています」


「ああ、それでダンジョンに入るのは危険だと判断された訳ですか」


「そうですね。このままの状態が続けば市民に避難してもらうことになるでしょう」


「スタンピードですか?」


「はい」


 大川曹長は俺の問いを肯定したが、その割には張り詰めた空気を感じない。

 街ひとつが軽く滅ぶと言われるスタンピードが間近に迫っているかもしれないというのにもかかわらず、どこか余裕が感じられる。


「退避ではなく待機ですか」


「ええ。大尉曰く、最大戦力に頼らないのはバカのすることだそうです」


「買いかぶりすぎですよ」


「そうですか? 私も大尉と同じ意見なのですが。あと氷室准尉も」


 逃げ道をふさぐような物言いをしてくれる。

 どうあっても俺たちが遠藤大尉たちのチームより強いと認めさせたいようだ。

 そんなことをして何の意味があるのかと言いたいが、向こうには向こうの都合があるのだろう。

 だからといって簡単に捕まるのは御免だね。


「スタンピードともなれば銃火器が解禁されるんでしたよね」


 誰もが納得するような抜け道に誘導して逃げるとしよう。


「ええ、準備は進んでいると思います」


「俺たち民間人は銃が使えませんから最大戦力なんてとてもとても」


 子供だましかもしれないが、これならわかりやすい。


「ですが、スタンピードが発生しなければ我々も使えませんよ」


 しまった。

 誘導したつもりが俺の方が誘導されていたとは。

 これでは俺たちが向こうのチームより強いと間接的に認めたようなものだ。

 自分の間抜けさに情けなくなってくるね、ホント。


「つまり、スタンピードはないと遠藤大尉は考えていると?」


 今更話を誤魔化しても意味はないが話をそらさないと追い打ちがあった時に回避できる自信が無いのでね。


「そのようですね。昼過ぎにはダンジョンに入ることになるかもしれません」


「ずいぶんと早く警戒態勢が解かれるのですね?」


「調査隊が状況確認に向かっていますので、その報告によってはということですが」


 昼頃に帰ってくる予定ということか。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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