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111 遠征ふたたび・レイス征伐?

「一人で勝てないなら数で勝負、か」


「ワーウルフが死ねばリポップされるから理論上は無限に手駒を増やせるってことだね」


 真利がそんなことを言ったが、それはダンジョンの空間が有限であることを無視している。

 ダンジョンは空間魔法によって拡張された空間ではある。

 しかし、その状態はなかば固定されている。

 無限にものを詰め込み続けることはできないのだ。

 まれに空間をさらに拡張するケースもあるようだけど、何らかの理由によりダンジョンコアがパワーアップしなければ起こり得ない話である。


「限度というものがあるだろう。守護者の間に入れなければ意味がないぞ」


 英花がさらにもっともなことを指摘した。


「そうだね。でも、入れなくても使えるよ」


 まるで謎かけのようなことを言う。


「5層が魔物であふれかえれば捜索隊の妨害にピッタリだと思わない?」


「レイスがじかに対峙したのは自衛軍の面子だけだぞ。それを無力化していたと聞いているだろう。普通に考えて5層に来ると思うか?」


 真利がドヤ顔で披露した持論に英花が反論する。


「保険じゃない? 石橋を叩いて渡る感じで不安要素があるなら少しでも潰しておくとか」


「とにかく行こう。面倒なことにセーフエリアに敵がいる」


「いきなりレイスが待ち構えているの!?」


「そうじゃない。保険の方だ」


「ワーウルフのゾンビが? どうして!?」


 真利が驚きをあらわにして聞いてくる。

 ダンジョン内の魔物はセーフエリアに立ち入ることができないからだろう。


「真利、ひとつ忘れているぞ」


「えっ」


「外から来た魔物はセーフエリアを無視できるじゃないか」


「でもでも、ワーウルフはここでポップした魔物だよ」


「レイスがアンデッドにしたことでダンジョンコアの管理下から外れているだろう」


「あっ、レイスに支配される形だから……」


「そういうことだ」


「ここから先は休む間はないぞ」


 ダンジョンだけでなくレイスからも敵として狙われることになるからな。

 ふたつの勢力から襲われる上にセーフエリアが5層には存在しないことになる。


「シビアだねえ」


 などと軽口を叩く真利。

 階段の先から伝わってくる殺気を感じて敵の力量をつかんだか。

 少し前までの真利であればできなかったことだ。

 大阪遠征で得たものが、ここで確認できるとはね。


 だが、それを噛みしめて余韻に浸るのは後でもできることだ。

 明日も4時起きだから可能な限り素早く事態を収束させて眠る時間を確保しないとね。


「行くぞ!」



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「本当に元はワーウルフだったのかと言いたくなるな」


「数だけだったね」


 英花や真利が拍子抜けしたように戦闘の感想を漏らした。

 戦闘は5層に突入すると同時に始まったものの詳細を語るのが馬鹿らしくなるほど呆気なく終了。

 ちょっとしたオールレンジ攻撃になっていた。

 ちなみに英花が地面に転がっている石を簡易結界で覆って頑丈にしつつ、その石を念動の魔法で操るのが真利という形で役割分担した結果である。

 複数の石が同時に飛び交い次々にワーウルフの頭に叩き込まれていったのは見応えがあったと思う。


 ちなみに俺は間近にいる奴らを近寄らせないよう斬り伏せる担当だった。

 また、つまらぬものを斬ってしまったとでも言えば良かったかな。

 つまらないというか臭くて汚いものだったけど。

 汚物は消毒だってことで刀の表面を浄化してから納刀した。


「相手はワーウルフの姿をしただけのゾンビだからな」


「元の性能は引き継がないんだね」


「そうでもないぞ。極端に遅く脆くなるだけでパワーとかは変わらないからな」


「あー、それじゃあ遠藤大尉たちだと苦戦しそうだね」


 確かにヒット&アウェイで戦うと簡単には終わらなかっただろう。

 それどころか周りを囲まれて、どうにもならない状況に追い込まれていた恐れすらある。

 まあ、大尉たちが明日ここに来ることができてもゾンビと戦うことにはならないさ。


「そんなことより次だ」


 英花が切り替えて次に行くべしとうながしてくる。


「そうだな」


 俺たちは再び移動を始める。


「こんな場所で足止めをされている間にダンジョンを掌握されでもしたら面倒だ」


 俺の言葉に英花が皮肉げな笑みを浮かべた。


「よく言う。この程度の雑兵を従えたところで守護者には勝てないことくらい百も承知だろう」


「えーっ、そんなことわかるのぉ!?」


 意外だと感じたのか真利が驚きながら聞いてきた。


「異世界で腐るほどダンジョンをクリアしてきたからな」


 ダンジョン内の魔物の出現頻度や強さなどを把握できれば守護者の強さもおおよそは見当がつく。

 そして、レイスの力量も今のゾンビどもとの戦闘で把握できた。


「羊の群れを引き連れた牧羊犬が野生の大型肉食獣に勝てると思うか」


 例えが微妙だが、可能な限りイメージしやすく言えばこんな感じだ。


「それは無理そうだね……」


「実際の実力差はもっとあると思っていいぞ」


「それじゃあ、そこまで慌てなくても大丈夫じゃない?」


 英花が早足でずんずんと先に進んでいることに真利は焦りすぎじゃないかと疑問を抱いたようだ。


「何が起きるかわからんから急いでるんだよ」


 俺は脇道から不意に飛び出してきたワーウルフゾンビをかわしながら答えた。

 すれ違うようにやり過ごしてゾンビの腰を押し出すようにグンッと蹴り込むと勢い余って通路の壁面に激突。

 汚え花火ならぬ汚え壁画になって動かなくなった。


「こんなのはレア中のレアで未知のケースだからな。何が起きるか予測できない」


 英花がフォローするように言ってくれた。


「そんなにイレギュラーなことが起きるの?」


 真利が目を丸くさせて聞いてくる。


「そういうこともあるという話だ。頻度の方はわからんな」


「わかったよ」


 そうしてさらに先を急ぐ。

 敵との遭遇頻度から全力ダッシュは無理だったがゾンビが相手の時はそれなりに走ることができた。

 ワーウルフには若干の足止めを食らったけどね。

 事前にミケからもらっていた情報を元に先へと進む。


 レイスが守護者との対決に相当数のゾンビを投入したのか魔物が少なくなってきた。

 それは守護者の間が近いということでもある。


「戻りましたニャー」


 ミケが戻ってきたので話を聞くために立ち止まった。


「ちょっと面倒なことになったかもしれませんニャ」


「なに?」


 英花が真っ先に反応した。


「レイスが守護者に倒されましたニャン」


「それなら問題ないんじゃないの?」


 真利が聞くがミケは頭を振った。


「そのせいで守護者が強化されてしまいましたニャ」


 まったく、余計なことをしてくれたものだ。

 レイスが守護者に倒されるのは読んでいたシナリオのひとつではある。

 しかしながら、その結果として守護者が強くなってしまうことまでは予想していなかった。


「もっと急いでおくべきだったな」


「悔やんでも今更の話だ。それよりも敵の情報を知ることの方が重要だろう」


 英花の言うことはもっともである。


「守護者はウルフベアでしたニャ。でも、レイスを吸収して闇属性が追加されたみたいですニャ」


「それってヤバいの?」


「ダンジョンが闇属性を持ったことで、これからはアンデッドも出てくるはずですニャ」


「うわ、何それ最悪」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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