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110 遠征ふたたび・レイスの目的

 俺たちはキャンピングカーに設置したゲートを起動して真利の屋敷に戻ってきた。


「お帰りなさいませ」


 リアが出迎えてくれる。


「悪い。すぐにトンボ返りだ」


「どういうことでしょう?」


「面倒な奴を倒しに極秘でダンジョンに向かわなきゃならなくなった」


 先にそれを言ってから事情を説明した。


「なるほど。キャンピングカーがもぬけの殻だと問題がある訳ですね」


「ああ。せめて誰かに留守番してもらって時間稼ぎと俺たちへ連絡してもらえるようにしようと思ってな」


 今回も一時的に紬に出張ってもらおうと思っている。


「でしたら私がお役に立てると思います」


「おいおい、あまり自分のダンジョンから離れる訳にはいかんだろう」


 まさかゲートですぐに戻れるから問題ないとか考えていないか。


「私はここに残りますが、向こうにも送り込めます」


「ちょっ……」


 言ってる意味がわからないんですけど?


「お土産はダンジョンコアでしたよね」


 なるほど、そういうことか。

 新たに入手したダンジョンコアを吸収すればリアがパワーアップする。

 それはダミーコアを増やしたり強化することにもつながる訳で。


「ダミーコアで用意した分体を増やすだけじゃなく遠距離でも操れるようになるんだな」


「はい。それだけではなく我が主の声を模倣することも可能です」


 物真似ができるようになるとは時間を稼ぐのに好都合だ。


「ありがたいことだね。じゃあ、頼む」


「はい」


 返事をしたリアにダンジョンコアを渡す。

 即座に吸収を始め、ものの数分ですべてのダンジョンコアを融合した。


 その後は、まず追加した分体をゲートでキャンピングカーに送り込んだ。

 これで遠藤大尉たちが用事で来たとしても一安心。

 それから相応の準備をして、うちのフィールドダンジョン経由で名古屋城ダンジョンの4層へと転移。


 ミケのアシストがあれば5層の好きな場所に行けたが、それは避けた。

 レイスが罠を仕掛けていないとも限らないからね。


「それでは偵察してきますニャ」


「任せた」


 いつものごとくシュバッと消えるように行ってしまった。

 その直後から俺たちも移動を始める。

 目指すは5層への階段。

 事前にミケから情報を得ているのでマッピングしながら移動する手間は省ける。

 進路上にミノタウロスという邪魔者が現れるが今の俺たちには敵ではない。

 鎧袖一触で排除しながら進んでいると、すぐに階段のところまで来た。

 丁度そのタイミングでミケが戻ってくる。


「シュバッと参上、シュバッと解決、忍者ミケただいま戻りましたニャン」


 前半部分は何かのネタなんだろうか。それとも全部?

 まあ、わからないのでスルーしておこう。


「それで首尾はどうなんだ?」


 英花もツッコミを入れずに結果を問う。


「あのレイス、ワーウルフをアンデッドに変えてますニャ」


「なにっ、どういうことだ?」


「手駒が欲しいんじゃないですかニャー」


「俺たちに対する迎撃準備を整えているってことか」


 向こうは俺たちを個別に認識はしていないだろうけど。

 こちらとしてもレイスが同化した少年の姿をじかに見たことはない。

 ブリーフィングの時に写真は見たけどね。


「迎え撃たれようが関係ない。少年を殺したレイスを消滅させるまでだ」


「そうだよ、レイスは倒さなきゃならないもんね」


 英花と真利の士気は高い。

 俺もある程度はある。

 2人ほど高くないのはレイスを倒す時のことを考えると、いたたまれない気持ちになるからだ。

 いじめられ引きこもったあげく魔物に体を奪われた。

 二度と元には戻れないとはいえ、まぎれもなく体は少年のものである。

 それを魔物を倒すために傷つけなければならないというのは、ね。


 もちろん、戦いになれば躊躇うつもりはない。

 勇者として異世界で戦ってきた経験上、躊躇って良いことなど何ひとつないとわかっている。

 まあ、戦う前に懺悔というか哀悼の意を表する気になっただけだ。


 5層への階段を下りながら空気の流れを感じ取って先の状況を読む。

 この先にはセーフエリアがあるが、ダンジョンの入り口付近のそれと変わらぬくらい広いようだ。


 しかしながら今は安全地帯ではない。

 どうやら外から来た魔物はダンジョンコアの支配下にないためセーフエリアも無視できるようだ。

 でなければ少年の体を乗っ取ったとはいえレイスが階層間を移動できるものではない。

 スタンピードという例外もあるが、あれはダンジョンから外界へ魔物を押し出すだけで自由に移動することはできない。


「なあ、涼成」


 英花が階段を下りきる前に立ち止まり話しかけてきた。


「どうした?」


 何か俺や真利の感知できない異常があったのだろうか。


「レイスは何を目的にしていると思う?」


 今まで考えもしなかったが聞かれてみれば確かに気になることだ。

 そもそも、はぐれの魔物がいるということだけでも異常事態である。

 何故どういう経緯ではぐれとなったのか。

 レイスが憑依した人間がダンジョンの外に出ている間にダンジョンが消滅したものと考えられる。


 消滅時にダンジョンの中にいたのであれば道連れで消されていただろう。

 それで憑依されていた人間が助かるかと言えば、そうではない。

 レイスからは解放されてもダンジョンの消滅に巻き込まれていたはずだ。

 また消滅する前に同化が完了していた場合も助からない。

 完全に魔物化してしまえばレイスを支配するダンジョンから出られなくなってしまうからね。


 憑依した状態でダンジョンが消滅したレイスは外の世界をさまようことになる。

 レイスの強迫観念は憑依した相手に向かっているので他の人間に襲いかかることがなかったのは不幸中の幸いか。

 この場合レイスに目的があるのかは不明瞭だったが、今回の件で何かしらの意思があることは確定したと言っていいだろう。


 では、それがなんなのか。

 ダンジョンに入ったのだから、それに関わることだろう。


「ダンジョンの乗っ取りは考えにくいよな」


 そうであるなら、とっくにダンジョンコアを目指しているだろう。

 だが、完全に同化した今となってもそんな様子は見られない。

 ダンジョンコアがあると思われる5層に陣取ってはいるようだけど。


「そうでもないぞ」


「どういうことだ?」


「レイスが単独では守護者に勝てない場合、どうすると思う?」


 ダンジョンを掌握するためには、まず守護者に勝ってダンジョンコアを丸裸にしなければならない。

 勝つことができないと判断したからダンジョンコアに近寄らなかったのか。

 その上で諦めないのであれば勝てるようにするしかない訳で。

 これが冒険者であるなら強力な武器を用意するなり防具をより頑丈なものにするなりと方法は色々とあるだろう。

 搦め手で行くなら魔石アタックやデスソースカプセルなどがある。


 しかしながら、魔物であるレイスにはいずれも使える手立てではない。

 使えるとすれば……


「なるほど。ワーウルフをゾンビ化させて手駒にするのはそれが理由か」


 アンデッドになるということは一度死んだことを意味する。

 ダンジョンコアの支配から外れるということだ。

 それでいて魔物となったことで、ただの死体ではなくなる。

 これによりダンジョンに吸収されないばかりかレイスの支配下に入ることで手駒にされてしまう、と。


「そういうことだ」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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