11 探索と魔道具試作1号
翌日、俺たちは南へ向かって進むことにした。
特に根拠などはなく適当に選んだだけだ。
ただし明日は北を探索し、以降は東と西の順とすることを決定している。
先に決めておけば迷いからブレたりせずに行動できそうだと英花と相談した結果だ。
探索よりも先に進むことを優先することも決めた。
これは転移先を確保するためだ。
今日のところは帰還するためだけに転移魔法を使うのだけど東西南北で転移ポイントを確保した後は往路でも転移する予定だ。
帰りの分の魔力が回復しきる前に夕刻になる恐れはあるものの、帰路は俺が魔力を負担すれば解決するので問題ない。
そのぶん探索中は魔法があまり使えないことになってしまう。
が、湯水のように魔力の使用が求められる状況などまず無いと言える。
魔物との戦闘は魔石アタックをメインにするので著しく魔力を消費するようなことはない。
魔石への魔力の過充填で消費する分も簡単に自然回復してしまうしな。
「懸念事項は命中率だったんだが」
「投てきスキルが仕事をしてくれるようになってきたな」
「ありがたいことにね」
前日までは7割程度だった命中率も昼過ぎには、ほぼ外さないくらいにまで向上していた。
スキルがない状態よりも能力の向上率が高いとはいえ普通ならこんなことはあり得ない。
勇者スキルのなせる業である。
「さて、休憩が終わったら進めるだけ進むぞ」
「心得た。敵は少ないんだな」
「ああ」
千里眼のスキルではそれなりにいるのを把握しているが、南下することを優先するなら手を出しづらい位置にしかいない。
今日は先に進む方が先決だからスルー推奨である。
その後は夕暮れの時刻まで特筆すべきことは何もなかった。
そろそろ切り上げようかという頃に発生した戦闘でレベル5に上がったくらいか。
「食料が増えるのは地味にありがたいな」
しみじみと英花が呟く。
この調子だとレベル6になるのは明後日以降だけど余裕はある。
ギリギリの状態に追い込まれることはないだろう。
「そうだな。妙なガラクタが出てくると微妙だが」
「ガラクタ? ゴミでも放り込んでいたのか」
「いや、こういうの」
いいながら俺は次元収納からそれを引っ張り出した。
装飾などは一切ない片手で持つには少々大きめの箱状の物体だ。
「魔道具か」
一目見て英花はそれが何であるかを見抜いた。
用途まではわからないとは思うが。
「シンプルな作りだとは思うがガラクタはないんじゃないか」
「じゃあ、使ってみ」
そう言って手渡すが受け取った英花は戸惑うばかりだ。
「すまない。サッパリだ」
お手上げだと降参した英花が返却してくる。
そりゃそうだ。スイッチやレバーの類いも無ければ脚もない。
魔石をはめたり入れたりする所もないんじゃ無理ないけど。
「これは魔力コンロだよ」
「魔石は上に置いて使うのか?」
「いいや。じかに魔力を注ぐしかできない」
「それは……」
あまりの拙い出来に英花が絶句する。
「酷いだろ。どっちが上か下かもわからないんだからさ」
「涼成が作ったんだな」
「あ、やっぱりわかるか。魔道具作成のスキルをゲットして最初に作ったやつだ」
「ということは今ならもっと良いものが作れるんじゃないか?」
「材料があればね」
「加工のための道具もいるだろう」
「錬成スキルがあるから」
「なんだ、涼成も錬成スキル持ちだったのか」
英花もとは驚きだ。
魔道具作成までは無いようだけど。
とにかく錬成は固有スキルの次にレアな特級スキルなので様々な加工が道具なしで可能となる。
ただし魔力も消費するので良し悪しだ。
そんなこともあって最初の魔道具は見た目がアレな感じになってしまった。
「だったら、それも作り替えられるだろう。今ならもっと良いものに仕上げられるんじゃないか」
「否定はしないけどコンロなんて必要な状況じゃないだろう」
「今すぐはね。それでも、いずれ野営することになるかもしれないし」
それは否定できないな。
今の方針では日帰りだけど今後もそうなるとは限らない。
もっとスマートに探索する方法を思いつくかも……
「そうか。その手があった」
それは必然とも言える閃きだった。
「どうしたんだ?」
「帰ってから説明するよ。もう暗くなってるしな」
思った以上に話し込んで時間を潰してしまったようだ。
ゾンビの動きが昼間より活発になれば狙いを定めにくくなる。
魔石アタックの成功率を下げるくらいなら撤退するのが吉であろう。
「そうだな」
英花も異論はないようだし、さっさと帰ることにする。
「マーキングしてっと」
解体用のナイフを使って周辺で一番大きい樹木に傷をつけた。
「準備オッケーだ」
「うむ。では、帰るぞ」
英花の転移魔法で俺たちは爺ちゃんの家に帰還した。
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「それで涼成は何を思いついたんだ?」
晩ご飯を食べ始めたところで英花が待ちきれないとばかりに聞いてきた。
「そんな大層なものじゃないさ。魔道具作成のスキルで小型の偵察ゴーレムを作ってみたらいいんじゃないかと思っただけさ」
「ほうほう」
コクコクと頷く英花。
「数がそろえられれば楽ができそうだな」
「けど問題がある」
「材料だな。特に魔石はゾンビのものだと稼働時間が短くなりそうだし」
「魔石は大丈夫」
「どういうことだ?」
英花が目を丸くさせているところを見ると知らないらしい。
「魔石は錬成スキルで融合させれば質を上げられる」
「そうだったのか!?」
実は魔石を融合させる方が物を加工するよりも錬成スキル使用時の魔力負担が少ない。
魔石自体にそういう性質が備わっているのだろう。
「詳しいことは知らんが、そうなんだよ」
「確かめてみたいが……」
「やめとけ。魔石アタック用にどれも過剰充填したものばかりじゃないか」
「やはり融合も刺激になるのか」
「ああ、爆発するのは間違いない」
知らずに一度やらかしたことがあるのは秘密だ。
「だったら明日は充填しない魔石も確保していかないとな」
そんな訳で行動計画に若干の修正が加わり翌日は北への探索を行った。
先に進むことを優先しているためレベルは上がらなかったし境界に行き着くこともなかったが想定内のことだ。
さらに東と西で探索をすること2日。
やはりレベルアップはお預け状態で密林は終わりを見せてくれない。
ただ、ひとつ朗報がある。
寝る前の時間を利用して製作を進めていた偵察ゴーレムが完成したのだ。
主な材料は魔導コンロである。
初製作品とはいえ思い入れなど何もない。
むしろ黒歴史的遺物と言いたくなるような代物なので躊躇うことなく術式を消去して作り直したよ。
今回もパッと見はシンプルだったけどね。
内巻きのボウルを伏せたような感じだけど底面もフタがされた格好になっている。
センサーは目立たないように配置されているし飛ばせるための仕組みも同様だ。
「これがゴーレム?」
想像していたものとは違ったせいか困惑の表情を浮かべる英花。
それでも手に取ってためつすがめつで見ている。
「偵察用だからね。飛ばすよ」
予告しながら起動させるとゴーレムは無音で浮かび上がった。
「おおっ、風が出た」
「空気を噴出して飛ばすからね」
「サーキュレーターみたいだな」
参考にしたのは否定しない。
魔法で浮かせる方法もあるけど魔力消費と機動性のバランスを考えると軍配はこちらに上がる。
隠密性では空気の流れがあるため無音に近づけても負けるけど。
今のところゾンビしかいないのと材料が限られていたので割り切っている。
大したこともできないし試作1号機ってところだ。
読んでくれてありがとう。
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