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107 遠征ふたたび・何者なのか

 少年が生きている。

 つまり、ワーウルフの群れを相手にしてもソロで生き残れる実力がある訳だ。


『もしかして俺たちに匹敵するくらいのレベルがあるのか』


『バカな。今の我々はレベル33なんだぞ。それも大阪で頑張ったからだ』


『そうだな』


 それは否定しない。


『けど、事実は客観的に受け止めないとな。ソロでワーウルフが出没する中で生き残ってるんだぞ』


「ぐっ……」


 思わずうめき声が漏れてしまったようだ。

 この程度なら遠藤大尉たちに聞きつけられることはないとは思うが。


『もしかしたら本当に英雄スキル持ちなのかなー』


 真利がそんなことを念話で伝えてきたが。


『それはないですニャ』


 否定したのは俺ではなくミケだった。


『どうして断言できる』


 即座に英花が問い詰めた。

 根拠がなきゃ断言できないよな。


『少年はすでに生きてはいませんニャ』


『死んでいるならダンジョンに吸収されているはずだ。発見できるはずがない』


『いや、ひとつだけ死んでもダンジョンに吸収されないパターンがある』


『なにっ!?』


 驚きをあらわにする英花。

 よく声を出さずに堪えることができたものだ。

 思わず漏れたうめき声で注意していたからだろうな。


『英花はよく知っているはずだぞ。異世界転移した直後からさんざん苦しめられたからな』


 ここまで言えばわかるだろう。


『まさかアンデッドになっているのか』


『そのまさかだろうさ。ただ、ゾンビではないと思うけど』


『当然だ。たかがゾンビがワーウルフに勝てるものではない』


『いいや、ゾンビだったとしても勝つとか勝たないとかにはならないと思うぞ』


『どういうことだ』


『魔物化しているなら向こうも敵とは見なさないだろ』


『むっ、そうか。そうだな』


『ミケちゃん、それでどんなアンデッドなのかわかる?』


『ハイですニャ。レイスですニャー』


『ちょっと待て』


 英花が過敏とも言える反応をした。


『レイスは霊体型のアンデッドだろう』


『波長が少年と合ったんだろうな』


『どういうことだ』


 英花の表情は変わらぬものの、その疑問に怪訝そうな思念が乗っていた。

 どうにか無表情を貫いているのは先行する遠藤大尉たちに万が一にでも気付かれたくないからだろう。


『憑依されていたんだと思う』


『そういうことがあり得るのか?』


『ゲームとかに出てくるレイスとは少し違うんだよ』


『それも向こうの世界の知識か』


『まあね』


『それで憑依されることがあるのはわかったが、それで死んでしまうというのはあり得るのか?』


『そうだね。死んでしまうと憑依できなくなるんじゃない?』


 真利からも疑問が飛んで来た。


『まず、向こうの世界のレイスは肉体を失ったという強い強迫観念を持っていて生者に固執するアンデッドなんだ』


『だから波長が合うと憑依するのか』


『そう。そして憑依が成功すると相手の思考を誘導しながら徐々に同化していく』


『『同化!?』』


『肉体を失ったと思い込んでいるから乗っ取ろうとするのさ』


『なんと醜悪な』


『怖いね』


『当然だが完全に乗っ取られてしまうと憑依された人間は死んでしまう』


『どうして!?』


 真利が驚きをあらわにして聞いてきた。


『レイスはアンデッドで死者の魂しか持ち合わせていないからな。生きた人間の肉体と同化できるはずないだろ』


『そういうことかー』


 納得したようだが疑問はまだあるらしい。


『波長が合わないとどうなるの?』


 すかさず次の質問をしてきた。


『波長が合わない相手は死ぬまで生体エネルギーを吸収する』


『どっちにしても殺されちゃうよー』


『その前に倒せばいいだろ』


『霊体型の魔物なんてどうやって倒すの?』


『レイスは日光が弱点だ。そのため活動するのは主に夜だな』


『ダンジョンに日光は差し込まないよ』


『まあ、それ以前に憑依している間は日光の効果も落ちるから消滅しない』


『どっちにしても意味ないじゃん』


『そうでもない』


『えっ?』


『太陽の光を魔法で再現すれば有効だからな』


『でも、今の状態だと消滅しないんでしょ』


『攻撃は当てやすくなる』


『レイスって霊体なんでしょ。攻撃を当てても本体にはノーダメージなんじゃないの?』


『同化してしまうと肉体からは離れられなくなるんだよな。肉体を失うことを極度に恐れるから』


『あ、強迫観念ってそういうこと……』


『だが、物理攻撃は無効だろう』


 ここで話を聞くだけになっていた英花が指摘してきた。


『英花は同化状態のレイスと戦ったことはあるか?』


『いいや、涼成は?』


『一度だけな』


『どうやって倒した』


『憑依された者を仮死状態にして追い出した』


『へえ、考えたな』


 憑依の状態だと相手が死亡すると肉体にはとどまれなくなるからね。

 それは仮死状態でも同じこと。

 あとは魔法で倒せばいい。

 異世界のレイスには炎も有効だけど霊体に炎を当てるのは結構難しいから魔法一択なところはある。


『だが、同化した状態だとそれはできない』


 肉体から離れられなくなるからね。

 ならばレイスではないと思われそうだがゾンビとは違う。


『それで、どうやって倒すのだ?』


『わからないか。アンデッドとしての体を手に入れた状態なんだぞ』


『もしかして普通に物理攻撃でダメージを受けるのか』


 ちょっと誤解されてしまったな。


『そうじゃない。たとえ腕を切り落としてもすぐに元通りになる』


『ゾンビより厄介じゃないか。……あっ』


 気付いたようだな。


『頭がなくなれば倒せるのか?』


『ああ。同化状態のレイスは首から上が弱点になっている』


 つまり、ゾンビと同じという訳だ。

 腕を切り落としたときは影響がなくても首を切り落とせば話は別。

 二度と動けなくなるだけでなく本体とも言うべき霊体も消滅してしまう。

 これは推測になるが頭部を失うことで死を意識してしまうからではないだろうか。

 実際のところは不明だけどね。


『霊体の時の方が対処しにくいとか笑い話にもならないぞ』


 まったく同感である。


『ひとつ疑問なんだけど』


 今度は真利が聞いてきた。


『なんだ?』


『今回のレイスが同化したのはいつ?』


『たぶん昨日から今日にかけてだな』


『そんなことがわかるのか?』


 意外だったらしく英花の疑問からは軽い驚きが感じられた。


『昨日はこの名古屋城ダンジョンの階層を行ったり来たりしていたという話だったろう?』


『そうだな』


『あれが少年の最後の抵抗だったんだと思う』


 どう考えても意味のある行動ではないからね。

 それに生者を敵対視するレイスが憑依していたのに統合自衛軍の兵士は誰も死んでいないことも抗っている証拠だと言える。


『憑依されても意識は残っていたのか』


 初期状態だと思考が誘導されるだけだが、憑依がより深まってしまうと本人の意思は塗りつぶされてしまう。

 どんなに穏やかな人間もレイスの強迫観念が影響し暴力的な性格に変貌する。

 普通なら後は同化して終わりなのだが、まれに最後の抵抗が試みられる場合があるという。


『最後まで戦ってたんだね』


 そういう意味では英雄と言えるのかもしれないな。

 それだけに少年に英雄と思い込ませていたレイスには怒りを禁じ得ない。

 少年の無念を晴らすためにも必ず葬り去ってやる。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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