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104 遠征ふたたび・応援要請の結論は

 堂島氏が真っ白な灰になっていた。

 まるで古典的ボクシングアニメ作品のラストシーンを見ているかのようだ。

 まあ、あれはマンガが原作だけどさ。

 個人的にはアニメの方が印象が根強いんだよね。

 なんにせよ、前振りでグロッキーになったところへトドメの「厨二病」はKO間違いなしな訳で。


「事情はわかりましたよ。自衛軍が慌てていない理由もね」


 少年はソロでも魔物とやり合えるだけの実力を持っている。

 それこそ英雄を自称するだけのね。


 ただ、俺は少年が英雄スキルを持っているとは思っていない。

 あれはそれほどレアなものだし、もうひとつ否定的な見方をする理由がある。

 確かめる術はないものの英雄のスキルは無謀な真似をする者には取得できないと伝えられているからだ。


 それでも異世界でそういう文献が残っていたということは何かしら根拠があったのだと思っている。

 火のない所に煙は立たぬ、というのとはちょっと違うかもしれないけど。


「あー、それなんだが……」


 遠藤大尉が言いにくそうにしているな。

 何か事情があるのだろうか。


「少年は統合自衛軍の追跡を振り切ってダンジョンの深層へ行ってしまいました」


 代わりにそう告げたのは大川曹長だった。


「通常の部隊では確実に被害が出てしまいます」


「ダンジョンの深層って何処の何層です?」


 名古屋のダンジョンは1層の規模は大阪のダンジョンに匹敵すると言われる上に2層以降に潜れるため日本最大級などと目されている。

 そのため深層と言っても3層以降からそう言われているのだ。

 名古屋城ダンジョンとロゴランドダンジョンのいずれも3層以上ある。

 ロゴランドの方が難易度は低いと言われているので、おそらくは城の方だろう。


「名古屋城ダンジョンの4層ですね」


 思った通りだ。


「許可のない者の立ち入りが制限された領域です」


 制限されているとは言うが封鎖されている訳ではない。

 冒険者組合が単に行くなと宣告しているだけである。

 それだけに、その先に何層あるかは判明していないようだけど。


「何が出るんだっけ?」


 振り向いて真利に聞く。

 道中で調べていたからね。


「んーとね、ミノタウロスだよ」


 タブレットを操作しながら答える真利。


「オークより強いと言われているやつか」


「みたいだねー」


 もう何頭も狩っているため白々しいとは思うものの遠藤大尉たちが目の前にいる手前、こういう反応をせざるを得ない。


「強力な魔物がいる場所へ民間の冒険者を送り込もうというのか」


 英花が遠藤大尉たちを睨み付け押し殺した声で静かに吠えた。

 これもポーズである。


「前面に出ろとは言いません」


 慌てた様子で大川曹長が言ってきた。


「我々が先行しますので何かあった場合は即座に撤退し統合自衛軍に報告してください」


 うわー、死ぬ覚悟完了しちゃってるよ。


「堂島はそれでいいのか」


 視線を鋭くさせて英花は堂島氏に確認を取る。


「自惚れとるわけやないけどワイが外れたら戦力落ちるやんか」


 要するに行くつもりで覚悟を決めてきたということだな。

 遠藤大尉たちが何も言わないのは俺たちが到着する前に確認済みだからだろう。


「ワイかてこのチームでやってきたからな。他の奴らに任せたらアカンちゅうことくらいわかるわ」


 なんだか悲壮感を漂わせているなぁ。

 見たところレベルも前より上がっているようだし、そこまでヤバい相手でもなさそうだけど。

 ワーウルフあたりが出てくるとヤバいかもね。

 名古屋城ダンジョンに5層以降があるなら出てくるかもしれない。

 それ以前に、4層でも出る恐れはある。

 立ち入りが制限されるくらいだから詳しくは探索されていないだろうし。


「気負いすぎだ。どうせ死んでる」


「それでも確認は必要や」


「どうやって? ダンジョンは死体をいつまでも残してはくれないぞ」


「うっ」


 英花の指摘したことは堂島氏も理解していたはずである。

 それを忘れるくらいの状態に陥るとは入れ込みすぎなのは言わずもがな。

 堂島氏は正義感が暴走しやすいタイプだよね。

 いや、迷走と言うべきか。

 どっちでもいいけど指摘されて動揺するならまだマシな方か。

 引っ込みがつかない状態に陥っているのが最も危険だし、いざという時に止められない恐れがある。

 今のところ、そういう状態ではないようだけど果たして現場でどうなるやら。


「こんなのは失態の火消しに躍起になっている自衛軍の面子の問題だ」


「おいおい」


 思わずツッコミを入れてしまう。

 遠藤大尉たちの目の前で言っちゃうかな。

 大川曹長なんて耳が痛いと言っているようにしか見えない面持ちだし。

 まあ、氷室准尉は苦笑しているし遠藤大尉にいたっては涼しい顔で肩をすくめている。


「面子も大事なんだぜ」


 遠藤大尉が軽い調子で言った。


「周りから舐められると秩序が崩壊するからな」


 それについては納得するしかない。

 統合自衛軍が舐められてしまうと冒険者組合の制度自体に疑問符を抱かれかねないからね。

 嫌でも捜索には向かわねばならない。

 そして遺体を確認できないまま死亡を発表することになるだろう。


 目安の時間は災害救助などでよく言われる72時間か。

 すでに1日が経過しているので残り2日で言い訳できるようにはなると。

 嫌な考え方だが、そういうことだ。


 だが、不思議と陰惨な雰囲気がない。

 すでに諦めがあるからだろうか。

 遠藤大尉たちは、すでに少年を死んだものと考えている節があるのでわからなくはない。

 しかしながら俺自身は少年が今もダンジョンの中にいるような気がしているのだ。

 根拠はないので絶対とは言えないのだけど。


「その割には急ぐ様子が見られないな」


 英花の指摘はもっともだ。

 面子を大事にすると言うのなら、たとえそれが見せかけのポーズであっても相応の態度を取るべきだろう。

 それをしないというのは矛盾を感じて当たり前である。


「交代で潜ることになっているからな。俺たちもここに送られてきて間がないから準備を怠らず待機しろと言われているのさ」


 どうやら統合自衛軍は本気で少年を探すつもりはないらしい。

 いかに捜索している風に見せながら損失を最大限減らせるかと考えているようだ。

 まあ、少年に返り討ちにされているようじゃ、やる気も失せるか。

 そのことについては公表はできないものの自業自得だという方向へ誘導するつもりなのかもね。


 問題は遠藤大尉である。

 つい今し方の発言に微妙な苛立ちが見え隠れした。

 このオッサンは諦めていないということか。

 統合自衛軍のチームをソロで退けるなら生存の可能性は高いと踏んでいるのだろう。


「さて、君らには来てもらえるか返事をもらいたいんだが」


「大尉」


 大川曹長にジロリと睨み付けられて遠藤大尉が肩をすくめた。


「明朝6時までに決めてくれ。ギリギリの時は現場に集合になってしまうからマスコミに囲まれる恐れがあるがな」


「そんなに時間は必要ありませんよ」


 ちょっと失礼と断りを入れてから距離を取る。

 念のために音声結界も構築した。


「さて、どうする?」


「涼ちゃんは?」


「気になることがあるから行く方に1票だ」


「じゃあ私も」


「多数決なら決まっているじゃないか」


 英花が苦笑する。


「私もそっちだがな」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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