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100 遠征ふたたび・そろそろ帰ります

「そろそろ帰ろうと思うんだ」


「えっ、そうなんすか?」


 後になると最初にこの話をした相手が誰だったのかよく思い出せなかった。

 世間話の感覚で喋ったからだろう。


「ほな、送別会せんとあきませんなぁ」


「ハハハ、そんな大袈裟な」


 思わず笑いが漏れた。


「そうだぞ。少し長めに滞在はしたが、そこまでしてもらうほど長居をした訳でもないだろう」


 俺も英花と同じ考えだし真利もウンウンとうなずいている。

 だが、周りの冒険者たちは違ったようだ。


「何を言うてますのや、魔王様!?」


「ホンマや、ビックリするがな」


「冷たいこと言わんといてや」


 口々に抗議されてしまうとは思わなかった。

 他にも色々と言われたが同じような意見ばかりであったのは驚きだ。


「時間とか関係ありまへんがな」


「せやで。ワイら皆、世話になったんや」


 この言葉に他の面々から次々と「せやせや」と同意する声が上がる。


「世話って言われるほどのことはしてないと思うけどなぁ」


 英花や真利の方を見るが反対意見はない。


「勇者様まで何を仰いますねん!?」


「え、そう?」


「ワイらのチームは危ないとこ助けてもろたんでっせ」


「そうや。通路で魔物と戦ってたら脇道から追加が来たせいで一気に劣勢になってしもたけど、あっちゅう間に蹴散らしてくれたやないですか」


 そんなこともあったかな。


「うちも似たようなもんやで。挟み撃ちになったとこ助けてもろたわ」


「うちのチームは大怪我した仲間抱えて撤退してたときに守ってもろた」


「調子に乗って梅ダンの奥へ行ってしもて道わらかんで途方に暮れとったら入り口まで送ってもろたわ」


「ワイんとこもそうや」


 こんな風に何組かのチームが同意している。

 確かに劣勢なチームを助けたり迷っていた者たちを連れて帰ったことが何度かあるけど、言うほど世話をした感覚は薄い。

 困っていたら助け合うのが冒険者だからね。


「地元のワシらより詳しなってるんやもんなぁ」


「ホンマやで。こんな短期間にどないしたら地図も見やんと梅ダンの中をすいすい進めるようになるんやろ」


「それな。ちょっと信じられへんわ」


 なんだか話が脱線気味だ。

 この調子で彼らと関わったエピソードを聞かされ続けたら終わるのはいつになることやら。

 まあ、それだけ地元冒険者たちと関わってきたということでもあるのか。

 自分たちの地元よりこちらの方が関わりが深いのは、それだけ難易度の高いダンジョンが多いからだろう。


「そのくらいにしておけ。魔神様がお怒りだぞ」


「ぐっ」


 といううめき声は真利のものだ。

 自分が出汁に使われると思ってなかったからだろうけど、そのせいで地元冒険者たちがいっせいに真利の方を見た。

 せっかく気配を殺していたのに逆に目立ってしまったな。


「うわー。魔神様、お許しをーっ」


「「「「「お許しをーっ」」」」」


 地元冒険者の1人が上半身だけで平伏す真似事をすると、残りの面々がいっせいに続いた。

 相変わらずノリがいいよな。

 真利の怒り顔に見える緊張した顔にも慣れてしまえばこんなものだ。


 当の真利はまだ慣れないみたいで固まっているけど。

 これでもマシにはなった方だけどね。

 今日みたいな感じになった時は顔がさらに強張っていたからなぁ。

 一応は地元冒険者たちに慣れてきたんだと思う。

 画面越しに見るのと生とではやっぱり違うようで関西人のノリにはついていけないみたいだけどね。

 俺も最初は呆気にとられたもんな。


「ほな、送別会の予定組まんとな」


 この唐突な切り替えも、ね。


「おう。ここにおらん奴らにも声かけんと」


「呼ばんかったら絶対恨まれるて」


「せや、夢枕に立ってくるで」


「なんでやねん。それができるんは死んだ人間や」


 あと、何でも笑いに変えようとするノリもか。


「幹事長は誰がするんや」


「もっと頭数が決まってからの方がええんとちゃうか」


「連絡のまとめ役がいるやろ」


「そんなんうちのリーダーに任せといたらええねん」


「おい、勝手に決めんなや」


 毎度のことだとわかるようになったが、なかなかに賑やかである。

 話がまとまらないように思えるけど送別会の予定もそのうち決まるだろう。


「決まったら連絡くれるか。俺たちはもう行くよ」


「あ、はい。お疲れっした」


 声をかけると即応してくれるのも毎度のことだ。


「お疲れっす」


「またな~」


「お疲れー」


 口々に挨拶してくれる地元冒険者たち。

 こちらも挨拶を返して冒険者組合の事務所を出た。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「張井様、少しよろしいでしょうか」


 ホテルのラウンジで朝食を取っていると、いつぞやのように総支配人の内海氏が声をかけてきた。

 まあ、これで何度目かなので俺たちも慣れたものだ。


「はい、何でしょう?」


「近々お帰りになられるとお伺いしましたので、ご挨拶をと思いまして」


「それは、わざわざご丁寧にどうも」


「いえ。お願いをした件では皆様に大変お世話になりました」


「もういいですよ。お礼もしていただきましたし」


「そういう訳にはまいりません。あの程度のことではお返しできないことでございます」


 あの程度ねえ。

 宿泊費半額はあの程度とは言わないと思う。

 まあ、これでも無料にすると言われたのを居づらくなるからと交渉してどうにかこうにか半額にしてもらったのだけど。

 半額でも赤字じゃないのかと思ったけど、そこは例のダンジョンディナープロジェクトに参加しているホテル全体で負担するのだと聞いた。


 折半するなら大きな額にはならないのかもとは思ったけど半額でも長期滞在となると居心地が悪い。

 適当な期間を決めて、それを過ぎたら元の料金に戻してほしいと頼んだこともある。


「私の一存ではできかねます」


 こんな具合に、にべも無く断られてしまった。

 おそらく宿泊するホテルを変えても同じだろうということで、ずっと同じ所で宿泊を続けていたんだけどね。

 もし変えていたら宿泊無料を断る交渉を再びすることになってたんじゃないかと思う。

 だって、他のホテルの偉い人たちが忙しい合間を縫ってわざわざお礼を言いに来てくれたからね。

 アポなしだったとはいえ待たせてしまった人もいて、こっちが恐縮させられたよ。


「つきましては当ホテルで送別会を開かせていただきたいのですが」


「えっ?」


「御都合が良くなかったでしょうか」


「いえ、地元冒険者の人たちからも送別会に誘われていましてね。日程が被らなければ大丈夫ですよ」


 断るのも角が立つだろうから誘いを受けることにした。

 宿泊費の交渉の時も内海氏はかなり苦労していたみたいだし去り際くらいはお互い気疲れしたくないよね。


「それならば冒険者の皆さんもご一緒にどうぞ。もちろん費用のご負担はおかけしません」


「へ?」


 思わず間抜けな声が漏れてしまったさ。


「いや、あの、結構な人数になるんですけど」


 おそらく数百人くらい。

 窓口になっている英花によると、どうやって会場を確保するのかということで向こうの幹事が頭を抱えていたそうだし。


「それならば、尚のことです。例の件では地元冒険者の皆様にもお世話になりましたから是非」


 確かにそれはあるかもね。

 早い段階で専属契約を破棄した冒険者たちが他の冒険者の説得に回っていた。

 おかげで潮が引くように契約破棄が相次いだもんな。


 それに地元冒険者とのつながりを深く持ちたいという思惑もあるんじゃないだろうか。

 二度と同じような目にあわないためにもね。


 悪い話ではないよな。

 そう思って英花や真利の方を見ると、うなずきが返ってきた。


「では、幹事を頼んでいる人に連絡しておきます」


「よろしくお願いします」


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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