双方思奸 8
デパートの入り口付近で待機していた忍は樟葉達を見つけたがすぐに接触するのは避けて尾行を開始した。何処かに立ち寄ることもなく周囲を警戒しながら歩き回る樟葉を見て、接触して一緒に行動した方が良いのではないかと考えた。
しかし後ろから近づけば変に警戒心を植えつけてしまうと考えた忍は二人の道順を予想して先回りをすることにした。
早く来ないか。そんな考えが頭にこびりついて周囲の警戒が多少疎かになってしまっている樟葉は同じ進行方向に外人が複数人いることに気づいていなかった。彼らは最適なタイミングで発煙筒をつけて、混乱に乗じてララを拐うつもりでいた。
護衛は一人、それも女性なら作戦は容易いと楽観視していた。
彼らは忍が尾行を止めて先回りをしようとしていることに気づいていない。
階段を使って先回りをする途中で店内の火災報知器が突然鳴り始めた。もし騒ぎに巻き込まれてしまえば二人を見失ってしまうと考えた忍は急いで予測地点に向かった。
しかし出口から煙が溢れているのを見て足が止まってしまった。
「流石に自殺行為かな?」
無理に突っ切って二人が見つからなければ損だし、おそらく人為的に起こされた目の前の事態に何の装備も無しに入っていくのは危険と判断し、すぐに亨に連絡をした。
「あー、即刻撤退」
連絡を受けた亨は事態を把握するとすぐに指示を出した。
『あの二人を放っておいて大丈夫なの?』
「正直な話、こっちとしても少々予定外だけど起きたことを悔やんでもしょうがないからなぁ」
『そうだけど…って予定外?予想外じゃなくて?』
「予想はしてたんだ。思っていたけど予定より早く一番大胆な方法で来たからな」
『じゃあ対策も練ってあるんだよね』
「無い」
『はい?』
「このタイミングでは出来ないから撤退って言ってるんだよ。お前が助けに入ってみろ、『煙の中なのに何で私たちの危機が分かったの?』ってなるぞ」
『でも…!』
まだ納得しない忍に亨は苛立ちを覚えた。
「撤退が嫌なら突っ込んでもいいぞ、どうなってもしらんが」
『そうさせてもらうよ』
そこで電話は切られた。
イライラして思わず言ってしまったことに後悔するが過ぎてしまったことだと割りきり亨も目的地に向かって走りだした。