双方思奸 1
劉玄に電話で呼び出された樟葉は目の前にいる外人の少女を見ながら仕事を確認する。
「護衛?」
「正確に言えば『相手を釣る為の罠』だがな」
劉玄曰く「彼女―外国の某有名企業の一人娘を誘拐しようと企んでいる輩を捜査零課で捕まえる」との事らしい。
要は自分に護衛を頼み、他の面々には周囲の怪しい人間を捕縛してもらうと樟葉は解釈をした。
「つまり私はこの娘と一緒にそこら辺を観光してればいいと」
「まぁ、無茶しなければなんだっていい」
そこで会話を終えて、樟葉は対象を観察する。身長150後半、肉付きは太すぎず細すぎず。しかし出るところは出ており締まるところは引き締まっている。それが彼女が少女ではなく女に成り始めていることを示していた。
「私は樟葉。貴女の名前は?」
「ララ、ララ・バレンタイン」
自身が事件の渦中にいながら不安を表に出さず、いつも通りでいようとしているのを樟葉は「強い」と心の中で賞賛した。
「じゃあララ、何処か行きたい場所は?」
「日本の街並みを見てみたいです」
「オッケー、あと丁寧な言葉は止めて」
「わかったわ」
二人が部屋から出ていったのと入れ違いに日比野が缶コーヒー片手に部屋に入って来た。
「今のが護衛対象ですか?」
「お前の仕事は索敵だがな」
「分かってますよ。増田、発信機は付けたよな」
「ばっちりです」パソコンの画面には地図が表示されており、そのうえを赤い点が一つ移動している。
「よし、サポートはまかせたぞ」
「了解しました」
空き缶を握り潰し小型冷蔵庫から新たな缶コーヒーを取り出し無線のイヤホンを付けて日比野は監視に戻っていった。
「しかし、何故僕達がやらないといけないのですか?こういう仕事はもっと上の仕事じゃないのですか?」
「…多人数を動員して彼女にストレスを与えず、人混みを歩かせることにより可能な限り敵に強行手段をとらせない。と言うのは建前で」
そこで言葉を切り、劉玄は茶を飲みほす。
「コネを作っておくのも悪くないだろ?」
「何を考えているんですか」にやつきながら言う劉玄にパソコンから目を離さずつっこんだ。
「じゃが大事なことだ」
「別に今することじゃないでしょう」
「今じゃなきゃ出会えんだろうが」
「国内に沢山作ってるじゃないですか」
「国内だけだからな」
「海外進出でもするつもりですか?」
「もしもの時に役立つだろ」
しばし沈黙が二人の間に流れる。その沈黙を破ったのはキーボードを叩いて先に出ていった根岸にメールを送った増田だった。
「…僕は課長の思惑を理解する気はないですが、仕事はこなします」
「うむ、だが無理はするなよ。お前に倒れてもらっては支障が出るからな」
「そう思ってくれるなら休暇を貰いたいですね」
それを聞いた劉玄は軽快に笑いながら「お前も樟葉みたいになればいい」と言いながら席を外した。