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沈霊唄賛 16
日は過ぎて、亨の事務所に樟葉は訪ねていた。
「結局、アレはあの娘と契約して、一緒に暮らしていると」
「あぁ、あの娘がまた自殺をするんじゃないかと心配だったが今んとこ、そんな素振りはしてないな」
「ふーん」
樟葉が煙草の箱を出したところで例の少女―大上靖子が盆に湯飲みと急須を乗せて入ってきた。そして会釈をすると二人にお茶を注ぐ。そのお茶を亨は一気に飲みきり、樟葉は冷めるのを待ってから飲んだ。
「…でも喋れないのよね」
「先天的な言語障害らしいからな」
「でもこっちの言葉は分かるのよね?」
「頼めば行動してくれるしな」
「ありがとね」
樟葉が靖子の頭を優しく撫でると少しくすぐったがりながらも笑顔になった。
一方その頃
「これが人間が普遍的に食べているものですか」
「この国のだがな」
樟葉の部屋で少年はTシャツにジーパンという格好をしている黒髪ポニテ少女―クロに食事を振る舞っていた。
「箸の使い方は分かるか?」
「分かりません」
「だと思った。だから今から特訓な」
「了解しました」
その日、樟葉家にあった割り箸は悉く粉砕されたが、それはまた別の話。