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生骸屍肉  作者: 呉武鈴
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沈霊唄賛 14

すると幾つもの光の柱が登り、それを繋ぐように地面に線が浮かび上がる。数秒後には光の柱は消えたが棺桶の上には歪な闇が浮かんでおり、その中から黒い甲冑が出てきた。

「何あれ…」

「同族だ。だが、俺よりも格下だ」

呟く樟葉に少年はミクには聞こえないように返す。



「お前が私を呼び出したのか?」

甲冑は流暢な日本語で話しかけて大上は動じることなく「あぁ」と答える。

「お前は自分が何をしようとしているのか分かっているのか?」

「当然だ。そのためにキミを呼び出したのだから」

「ならこの後に何があるか分かっているのか?」

「当然だ。でなければ代役にやらせている」

「…あそこにいるのは何だ?」

「この後の事を任せようかと思ってね」

「そうか…なら始めるか」



甲冑はゆっくりとした動作で西洋剣を持ち上げ、樟葉達がこれから何が起こるのか気づく前に一文字に振る。刹那に大上の首は跳び、残された体は内部から黒い炎が吹き出し、ものの数秒で焼きつくした。誰一人として目を背くことが出来ない中、甲冑は自らの中に大上の首を収め、棺桶を開け、中にあった白骨に手をかざした。すると足元の光が棺桶に収束し中を満たす。やがてそれが収まり、骨が宙に浮かぶ。骨は十字架に磔にされたように腕を広げると虚空から肉が現れ、血管、内臓、筋肉の順に骨に絡み付いき、やがて肌色の皮膚が肉を包み、全裸の少女が出来上がった。


「…亨」

「なんだ?」

「あの娘のために服を調達してきなさい」

「はいはい」

緊張感のない会話をして亨が出ていく。



甲冑は少女の前まで上がると大上の頭を取り出した。頭部が紫の炎となり、元の大きさの半分程になると、甲冑はそれを少女の胸部に押しつける。炎は肉を焦がすこともなく何の抵抗もないまま溶けるように内部に消えていく。

「契約完遂だ…そこの人間達、こっちに来い」

樟葉達は互いに顔を見合わせ頷くと少年を先頭にして近づいていく。

「…何の用よ」

「一応聞いておこうと思ってな。お前達は何者だ?」

「ただの人間よ」

「ただの人間がこの状況を見て、まともにいられるとは思えん」

甲冑の言葉にミクは嫌な事を思い出し、顔をしかめる。樟葉は目の前の現実を直視するように甲冑から眼を背けず、ただ睨みつける。少年は必死に笑いを堪えていた。その様子に気付いた甲冑が少年に問いかける。

「お前は何故笑っていられる?もしかして精神に異常をきたしているのか?ならば私が…」

「ハハハハハハハッ!!」

甲冑の言葉を切るように少年が笑い声を出し始める。閉鎖された空間で響くその音は反響して幾重にも重なり、広がり、異常な世界を形成する。しかし樟葉には崩れた世界が『混沌』とした秩序によって形成されるのを感じた。ミクが意識を失ったのが視界の端に見えたが樟葉はそれを『必然』と感じていた。例えミクが超人だろうと世界が、常識が崩れる中にいては意識なんて保てるわけがない。なら樟葉は何故立っていられるのか?簡単なことである。『壊れた世界』を見ていたからだ。

「『混沌』を形成するだと…?そしてその中で意識がある人間…一体何者だ?」

「おいおい、まだ気付かないのかよ」

そういうと少年は帽子を脱ぐ。紅く燃える双眸、光すら飲み込むような黒髪。まるでおとぎ話に出てきそうな風貌の少年は帽子を甲冑に投げつける。甲冑は少年を見て動けない。しかし帽子が頭に当たり、我を取り戻すと剣を捨てて少年の前に(ひざまず)いた。

「えっ、何?どういうこと?」

事態を理解出来てない樟葉を見て、薄笑いをしながら少年は言った。

「コイツは俺専属の騎士だ」


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