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生骸屍肉  作者: 呉武鈴
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沈霊唄賛 12

しばらくして樟葉達は外壁に書かれた紋章を五つ見つけた。それらは等間隔に刻まれており、結ぶと大きな円を作っていた。

「結局これは何なのさ?」

「…さっきも言ったろ。『結界』だ」

「だから、何の効力があるのよ」

「それは知らん」

きっぱりと言う少年に不満そうな視線を向ける樟葉だがすぐに辺りを見渡した。

「しかし誰も来ないわね」

放送があってから既に10分以上経っているのに樟葉は誰一人として見かけていない。きっと亨達が足止めに成功しているのだろうと思っていたが少年がある一点だけを見ているのに気付いた。

「出てこい」

ただ一言、それだけ言うと茂みから真っ白な仮面をつけた男が一人出てきた。男と判別出来たのは短く切り揃えられた髪と衣服が前を開いたアロハシャツ一枚に短パンだったからだろう。

「アンタは?」

樟葉が聞くが男は何も答えない。

「お前は味方か?」

少年の言葉に男は首を横に振る。

「じゃあ敵ね」

樟葉の言葉に男はまた首を横に振る。

「……」

男は無言のまま二人に近づくと胸ポケットから紙を一枚出した。樟葉が男と紙を交互に見ていると男は少年の手を取り、紙を握らせた。そして振り向きながらポケットから防犯ブザーを取り出すと何の躊躇いもなく紐を引き、それを樟葉に投げた。

「何の音だ?」

左の方から声と複数の信者が来るのが見える。急いで樟葉は慌てて防犯ブザーを止めて隠れようとするが少年は愉しそうに口を歪ませると指を鳴らした。

「バカッ!早く隠れなさい」

「…はいはい」

渋々樟葉に従った少年を連れて茂みに隠れ、樟葉はもう一度防犯ブザーを鳴らし、遠くに投げた。

「あっちだ!」

愚直にも音に反応して手に棒を持った信者達は樟葉達の前を通り過ぎて行った。

「なんで殺らせてくれなかった?」

「なんでって…あの人達に罪はないでしょ」

少年の言葉に樟葉は呆れながら返す。

「なんでも殺していいってわけじゃない」

「知ってる」

「じゃあ何で?」

「それが奴らのためだったからだ」

「何でそう言えるのよ!?」

「コイツだ」

少年は樟葉に先程貰った紙を見せる。そこにはただ一言『贄』と書かれていた。

「古今東西、馬鹿が人を集めてやることなんざ限られてる。さらに『同族』が関わっているからには一つしかない」

「だからって殺すのは…第一、行方不明者だけですんでるかも知れないし…」

「だから?お前もあの時、罪の無い人間も殺しただろうが。それと同じだ」

「…でも殺すのは良くない」

過去の行為を思い出したのか、うつ向きながら弱々しい声で言う樟葉に背を向けて歩きだした。

「殺さなかったことに後悔するなよ」




その頃、亨とミクは

「しつこい奴らね」

「奴らも必死なんだろうな」

留まることを止めて森の中を走り回っていた。結局10人程叩きのめして面倒くさくなり強行突破しているわけだが結果的には時間稼ぎにはなっていた。

「しかし、これでいいのか?」

「どういうことよ」

「樟葉達とバッタリ会わないかってね」

「提案したのはアンタだからね」

信者達と一定の距離を保ちながら走り続ける二人は時折曲がりながら逃走を続ける。

そのうち、信者達が減っていき、4人しかいなくなったところで亨は方向転換する。疲れている上に急なことだったので反応が遅れた信者達を亨は一人づつ確実に殴り倒す。

「とりあえず、これで安心かしら」

「…いや、むしろまずい状況だな」

亨の言葉に首を傾げたミクの上から信者が二人、鉄パイプを叩き付けようと落ちてくる。それを難無く避けて顔に蹴りを放つが、体制を立て直す前に茂みから一斉に角材が投げられる。避けきれずに角材を身体中に受けたミクは倒れた。さらに追い討ちをかけるように角材が投げられるが素早く亨は両手に一つづつ角材を拾うと全てを叩き落とす。

「大丈夫か?」

「右足が折れたみたい」

痛みに我慢しながら言うミクの後ろからにやけた顔をした司祭が近づいてきた。

「引っかかったな、異端者共!」

辺りを見てみれば亨達を囲むように信者が角材を手に持ち、司祭の指示を待っていた。

「ここは我々の庭。お前達は我々の手の上で踊っていたに過ぎないのだ!」

「チッ…」

亨が一人ならどうとでもなっただろう。しかし怪我人(ミク)をかばいながら逃げるにはキツイ。

「さぁ!裁きを受けるがいい!」

『待ちなさい』

何処からか聞こえた声に信者は動きを止めた。

「しかし教祖様…」

『誰が彼等を殺しなさいと言いましたか?』

「我々は教祖様の事を思って…」

『そうか…でも大丈夫だ。準備は整った』

「そうなんですか」

『あぁ…皆、ありがとう。そしてすまない』

教祖の言葉に信者達は戸惑う。『時間稼ぎ』をしてくれてありがとうは分かる。しかし『すまない』の意味を理解出来ずにいた。

その時、遠くにある塀が光を発し始める。全員が何事かと確認する前に変化が起こった。

信者達が一斉に急に苦しみだし、やがて動かなくなる。ただ一人の例外もなく、原因不明の発作で動かなくなっていく。

「なにこれ…」

しかし亨とミクは苦しむことなくその状況を見ていた。



同じ頃、少年と樟葉も同じ光景を見ていた。

「どうしたの?準備式が急に光り出したと思ったら何で皆、苦しみだしたの?」

「これが答えだ」

愉しそうに口を歪める少年に樟葉は困惑しか出来ない。

その時、樟葉の携帯電話に劉玄から着信が来る。

『尋問中に全員が死んだ』

「…こっちもそうです。私達を捜していた信者が次々と動かなくなりました」

『本当か?』

「はい」

電話の向こうから劉玄の息を飲む音が聞こえる。

『…樟葉』

「はい」

『自分の生命を最優先にしろ』

「わかりました」



それだけ言うと劉玄は受話器を置いた。増田が不安そうな顔で見ていたので、樟葉達は無事だと伝える。自分も現場に向かおうかと考えたが、止めた。


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