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生骸屍肉  作者: 呉武鈴
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沈霊唄賛 6

「どう思いますか?」

夜にも関わらず照明をつけずに手元のロウソクの明かりだけで作業をしている老人に捜査第零課の面々を担当した司祭が尋ねる。

「限りなく黒に近いんじゃないかな」

男は書類から目を離さずに世間話をするように軽く応える。

「なら…!いますぐにでも『異端者』として『裁く』べきかとっ」

信者の前で浮かべている笑顔を消し憤怒の表情で男に詰め寄る。

「いや、もう少し泳がせておこうじゃないか」

それまで作業を止めなかった男が初めてペンを置き、顔を上げた。そこには穏やかだが黒い意志が揺らぐ瞳があった。それに気後れしたのか司祭は少し身を引く。

「しかし…」

「私は『限りなく』黒に近いと言ったんだよ。確実な黒じゃないのに『裁く』のはマズイよね」

司祭の歯切れの悪い言葉に男―教祖は子供に話しかけるように優しく諭す。

「まぁ何かあったらすぐに対応できるように呼び掛けとこうかな」



潜入二日目

奇妙な歌声と共にこれまた奇妙な曲が部屋の隅にあるスピーカーからかなりの音量で流れだしたことにより樟葉は半ば強制的に目を覚ました。

「…何よこの曲?」

不機嫌を前面に押し出しながら亨に尋ねる。

「昨日06:30に起床と伝えられてたぜ」

「んなこと聞いてないわよ。アンタの聞き間違いじゃない?」

「そうだとしたらコイツを説明してみろ」

そう言いながら部屋に備え付けられているスピーカーを指差す。

「…帰ったら寝れなかった分取り戻そ」



支給されたローブを羽織り可能な限り表情を出さないように礼拝堂に来た樟葉だが滲出る不機嫌は隠しきれないらしく気安く話しかけてくる者はいなかった。

「どうしたの〜?」

樟葉達が礼拝堂に入って少し経ってから来たミクがいつも通りの間延びした声で話しかける。

「……」

無言でミクを見ると一拍おいて樟葉が溜め息を漏らす。そのままミクの後ろにまわりおもむろにミクの胸を揉み始める。

「あっ…」

「…この膨らみの中にはいったい何が詰まってんのかしら?」

「だっ…樟葉ちゃん…あぁ…皆が…見てるのに…」

「くだらんコントをすんな」

「三文芝居だな」

冷静につっこむ二人の反応がつまらなかったのか渋々と離れるがその目は未だにミクの胸を見ている。苦笑いをしながら少し距離をおくミクの背中に誰かがぶつかる。振り返れば黒のフレームメガネをかけた三十代半ばであろう男性が申し訳なさそうな顔をしていた。「おっと、すみません」

「周りを見てなかった私が悪いですよ〜」

「いえそれは私も同じことですから」

「ではおあいこですね〜」「ハハハ、そうですね」

ここにいるとゆうことは少なくとも悩みを持っているだろうが男性からは全くそれらしさが感じられない。それが樟葉が抱いた感想だった。

(…ねぇ亨)

(何だ)

(あの人どっかで見たことない?)

(ない)

(即答かよっ)

(当たり前だろうが…てかなんで俺が知ってるんだよ)

(仕事柄多くの人に会ってんでしょ?なら今までに会ってる可能性もあるでしょ)

(んなもん見たら分かるわ)

(あっそ)

「ところで貴女はどのような悩みでこのような所に?」

二人が小声で話している間にミクと男性の会話は進んでおり様子を見る限り短時間で親身になったようだ。

「お恥ずかしながら恋人にふられちゃって〜」

「まぁキミぐらいの女性ならかなり大きな悩みだろうね」

「はい〜。ところで貴方はどうして〜?」

「私は脱サラしてパン屋を始めたけど上手く起動に乗らなくてね…妻と子供に見捨てられてしまってね」

頬を掻きながら自虐的に笑う男性にミクは目に涙を溜めながらうなづく。

「でも最近はそんなことも気にならなくなってね。これも教祖様のお陰だよ」

「そうなんですか〜」

納得しながらミクが樟葉にアイコンタクトを始める。

(もう少し話してるね)

(了解)

一瞬で意思疎通を済ませ、ミクがまた男性に話しかける。それを確認して樟葉がその他を連れてその場から離れた。


「教祖様。ターゲットの一人が離れました」

舞台袖で司祭が横で清水で手を洗っている教祖に報告した。

「何をしているのかな?」「信者の一人と話しております」「うん、良きかな」

それを聞き満足そうに微笑みながら頷く。

「そんな悠長な…」

「何を言っている。私は私を信じてくれている彼等の幸せが好きなんだ」

微笑んだまま司祭を見る教祖から黒い意志は見えない。

「仲良くしてくれるならそれでいいんだよ。争いは愚かで醜いからね。このまま何事もなければそれが一番だよ」


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