クリオネふれあいセンター
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『夢を見た。』
『夢は…身近な宝物だった。』
少なくとも、丹参にとっては。
「今日はどんな夢をみるだろう」と思って一日を過ごし、
「もうすぐ夢をみられる」と思いながらお風呂に入る。
でも今日見た夢だけは、いつもより特別だった。いろんな意味で。
次の朝おきたら忘れてしまうはずの内容も、一つ残らず覚えていた。
今日からの記憶をたどってことにする――
「––––始…まr…始m…る…始まる…‼︎」
見知らぬ男の子が言った。
(何が始まるんだろうか)
「ゴシュツジョウのみなさまは、主人様にウデワをもらってくださ〜い」
何かが言った。…どこかで見たことがあるような生物だな、と丹参は首を傾げる。
(確か、クリオネだったっけ…?クリオネにしては、大きすぎるけど)
ウサギくらいのサイズである。
「主人様、主人様あ!」
子供達も大人も、クリオネのような生物とは真反対の方向を見ながらこう叫んでいる。
(なぜそんなところを見ながら…?)
何がいるのだろうか。何をもって言っているのだろうか。などと、丹参は思っていた。
丹参も見てみた。興味本意で。
でも、今となっては見なかったほうがよかったかもしれない。
アレさえ見なければ、こんなことには巻き込まれず、すぐに忘れられた、と思う。
フグだ。フォークが反対向きに刺さった、それもゆるキャラマスコットのような目をした、フグだ。
本物のフグを見たことのない丹参からすれば、「ラッキー★」というくらいの話ですんでいたはずだが、そうはいかなかった。なぜなら、
『飛んでいた』からである。それも悠々と。
今までは外見に囚われすぎていたせいで気付いていなかったが、よく見ると、クリオネらしき生物も飛んでいたのだ。同じく悠々と。
しかも、衝撃で固まっている時、そのクリオネらしき生物が目の前まで来て行った言葉が、
「あなたもゴシュツジョウされるカタですカ?」
これだ。
それに、このクリオネのような生物、本当なら赤いはずのところが青い。ちょっと不気味だ。
「これは…なんでしょう?」
ワクワクしながら言った。目が光っているくらいだから、相当ワクワクしていたんだろう。不気味なやつはそんな丹参のしぐさで何を思っているのかわかったのだろうか。じぃっと見つめてくる。
「アリぇ!し、失礼いたしました…。初めてのカタですね。こちらへ〜」
クリオネ(クリオネと呼ぶことにした)は、こちらをすぐに見てから、何処かへ行った。なんだかんだ、そこまで早くないので、目で終えるし、小走りで行けば追いつく程度だったから、ついて行った。
「目を瞑ってくだサイ。」
いきなり言われたことにより、少し躊躇していたが、言われるがままに目を瞑った。クリオネは丹参の手を引っ張る。
(なんで引っ張る…)
「とウちゃクです。目をアけテください。」
歩いたのは、ほんの二分ほどだった。言われた通り、目を開けてみると、そこは何回も見ていた、家の近く、近所であった。
「…」
覚えのありすぎる景色に、呆然としている。
「ヨク見てください」
意味はわからなかったが、とりあえず、目を細めたり、パチクリしていると、次第に街は霧がかかり、霧の中から、地震でもあったかのように、ぐちゃぐちゃな街が広がった。
「見えましたカ?」
「はい…」
(何だここは)
「それでは、ゴショウカイしましょう。海界のオサ、海界主人様です!」
「あるじさま?」
クリオネの指す方向には、さっきの、『主人様っ』っと呼ばれていた、フグがいた。クリオネは遠慮せず、どんどん話を進めていく。まったくついていけない。
「では主人様、海界踊りヲ!」
その主人と呼ばれているフグは、コクリと頷いてから、胸びれをひらひらさせて、踊り出した。
踊りというか…なんというか…厳密に言えば、ひらひら動いているだけなのだが、と丹参は思う。
(ひまだ)
丹参以外の人間はみんな、目をキラキラさせてみている。
(何か特別な意味でもあるのか?)
そして、またも意味がわからいまま、話がどんどん進んでいく。
三十分ほど待たされ、やっと、移動することができた。(結局、話は全く聞いていない。)待たされている時も、一応足を動かして、痺れないようにはしていたが、全く意味がなかったように、足が叫んでいた。
痺れた…などと思っている間も、列は前に進んでいるので、無理矢理動かすしかなかった。フグを先頭に、みんな列になって進んでいく。クリオネは、一人の人間につき一匹が付くようだ。
(クリオネふれあい広場…?)
もちろん、クリオネはもっと小さいはず。
(あのフグのオーラ…あのお母様にそっくり)
そんなことを思っていると、丹参の足は、勝手に早足になっていた。
「どうしたンです?」
「まあちょっと」
(まさかこの夢、過去だったりしないよな?)
「もしかしてここって、過去の街だったりします?」
「あなたからみれバ、そうなりまスよ」
(『まさか』が当たってしまうとは)
丹参は、そう思いながら、しゃがみこむ。
(これは、ますます面倒なことになりそうだ)
「えっと、なんでしたっけ?海なんとか主人…」
「海界主人様でス」
「あ、そうそう、それそれ、カイカイアルジサマ…」
「海界主人様でス」
「海界主人様って、もう、私のいた時には生まれ変わってますよね?」
「…」
(黙ってるってことはそうなんだな)
「…」
お互い、何も言わない。
しばらく沈黙が続いた。その間も、列はどんどん進んでいく。
(行ったところで、なにをするんだろうか)
「到着したら、なにをするんですか?」
「着いてかラのお楽しみでス」
「はあ」
(嫌そうな返事をしてしまった)
あとでなんかありそう、などと、嫌な顔をする丹参だった。
移動が多いが、やっと着いたようだ。
「看板に合わセて、移動しテくだサ〜い」
みんな、一斉に走り始めているが、丹参だけは、いつまでも突っ立っていた。
(『憶測でものを言っちゃいけない。』。何かの本で読んだことがあるな)
そんな時だ。丹参の前まで、一人の子供がやってきた。全身を黒い布で覆っていて、今は夏なので、暑くないのかな、と思う。
(イスラム教なら、ありえなくもないけど)
そして、丹参の手を掴み、『暇だと思う人』という看板のあるところまで、走った。
「ちょ、ちょっと!」
丹参はもちろん、手を掴まれているので、強制的に着いていくことになった。
着いたと思ったら、その子供は手を掴んだまま、下に引っ張る。
「うわっ」
(顔近っ)
「きいて、おねーさんは、みっしょんをこなしていかないといけないの。だから、みっしょんのせつめいは、ちゃんときいておいてね。それと、サボったりしたら、おそとのひとにおこしてもらうからね。」
「!?」
(起こされるのだけは嫌だ。こんな面白い話を途中退場なんて、絶対に無理だ)
「それだけは勘弁して」
「じゃあ、がんばってね。それと――」
続きはよく聞こえなかった。
子供は言い終えると、どこかに消えてしまった。
(夢って、なんでもありだなあ)
その、「ミッション」というのは、クイズに答えて、進んでいく、というものだった。極々シンプルで、理解力が皆無の丹参でもわかるほどだった。
「では、はジまりまース‼︎皆さん、雲に浮かびアがる問題に答エてください‼︎」
(一問目…)
この漢字は、なんと読むでしょう。
『娘』
〈選択肢一 むすめ〉
〈選択肢二 にゃん〉
〈選択肢三 たる〉
〈わからない人〉
(母国語を探ろうとしてるのか…にゃんだな)
もうお気づきかもしれないが、丹参は、出生に中国が大いに関係する。具体的には、八分の一、中国の血が流れている。
父が日本人と中国人のハーフで、母は二人いるが(ワケあり)、一人目の母も二人目の母も、日本人だ。まあ、母が二人いることを説明するのも面倒くさいので、今回はパス。
選択肢の下には、この後の行動について、書かれていた。
〈選択肢二を選びし者は、この雲を通るがよい〉
(なんかすっごい上から目線…まあいいか)
とりあえずジャンプをしてみるが、雲まで届かない。
(ふむ。どうしたものか)
しばらく考えていたら、丹参は少しだけ思い出した。小さい頃に一人目の母から聞いた話を。
『お父さんの家系はね、いろんな能力があるんだけど、中でも、夢の中で羽が生えて飛べるようになれるんですって。あなたも、一度、試してみたらいいと思うわ。やり方はね――』
(思い出した)
目を瞑ってジャンプをする。簡単だ。丹参は早速試してみる。本当に簡単にできた。
(よし)
雲の中は真っ白で、どっちのほうこうへ進めばいいのかわからなくなる。
(ミステリーとファンタジーのお話の題材にしちゃお)
丹参はふふっと笑う。
この時、飛べば飛ぶほど髪の色が薄くなっていたことを、丹参は知らない。
『雲の中に飛び込まれたのですから、さぞお疲れでしょう。この先、レストランがあります。そこで、ゆっくりとお休みみください。ただし、ルールは、守ってくださいね。』
雲の中を進んだ先に、看板が出てきた。すると、看板が出てきた。丹参顔をしかめる。
(休憩していいのなら、錫義兄義兄のチャーハンが食べたい…)
そんなことを思っていても、そう簡単にはいかない。
(それに、ルールってなんのことだ?あの黒い服を着た子供が最後に言っていたことか?)
だとしても、丹参は最後に言っていたことをちゃんと聞けていない。
どうなってしまうのだろうか。
丹参は今、看板に書かれた場所にいるのだが…
(まさか、レストランがくら寿司だとは…)
そして、注文用の端末で、大好物の、とろサーモンを注文する。
(くら寿司のとろサーモン、ほんと、うまいんだよなぁ)
丹参はとろサーモンを食べた時の味を思い出して、落ちそうな頬を両手で支える。
(明らかにおかしい。端末には、待ち時間0分と書いてあるのに、もう十分は経った)
その時、寿司を作ってあるであろうところから、悲鳴が聞こえた。
「鯛が盗まれた!誰か捕まえて‼︎」
(鯛とは。またお高いものを)
小柄で目のつり上がった女性が言った。確かに、女性が見ている先には、鯛を両手で持ち上げている盗んだ張本人がいた。
(あの女の人、世界は自分を中心に回っている、とでも言いたげな態度だな。ま、自分には関係ない。ただ、お寿司が出てくるのを待つだけ――)
「ねえ、こまっているひとがいたら、だれでもたすけないとだめって、いったよね?」
(え…)
その瞬間目の前が真っ暗になり、気づいたら、白い綺麗な天井の下にいた。
(何時間寝てたんだろうか。てか、どこだここは)
「あ、起きちゃったー?」
ベッドの端に座って、こっちを向いた、小さい頃に見た、超美形の美青年がいた。
(ん?このオーラ…あ、錫義兄か!)
「錫義兄?」
「あぁ…」
(やっぱ、もうバレちゃう?)
その青年は思った。
「違うよ。そうだなあ、僕は石尾 錫安。十四歳。その、錫とかいう人とは、まったく違うよ」
青年は右下を向く。
(うそつけ)
「なるほど。私は游 丹参と申します。
それで、ご用件は何でしょうか、錫安様。」
錫とは一応義理の兄妹ということになっているが、なんせ錫はイケメンで、町中の人が知っていて、錫関連の人物と知られたくないため、游 丹参と名のっている。
「用件か…えーとね」
(もしかして、要件はないのにこんなところに勝手に連れ来たの⁉︎)
「君には僕の秘書になってもらおうと思っている」
(なんだ、用件あったのか。てか秘書…?)
「ひ、秘書…ですか?」
「そう」
「それはまた、なぜ?」
「君の性格が気に入ったから」
(うそつけ。手元に追い置きたいだけのくせに)
「そんな簡単に決めちゃっていいんですか?」
「いいのいいの。僕はここで一番のお偉いさんなんだからね」
錫安はそう言ってから、少し「フフン」と威張った。
(これはうそじゃないな)
「…」
「無言ってことは、オッケーなんだね?」
「質問があります」
丹参が右手を上げる。
「言ってみて」
「私、これから二、三日くらい、寝てるつもりなんですけど、寝たままでいられるんですか?」
「僕がほんのちょっとだけ、協力したら、できるよ。もちろんその間も、この夢の中にいてほしいけど。」
「そうですか。やっぱりやりたくないです」
「そうか。残念だなー。秘書になってくれたら、ミステリー小説を何冊でもあげようと思ってたのに」
向こうを向いていた顔がいつの間にか錫安の目の前で、逆正座のような格好で右腕の大きな痣を抑える。
(痣が…なんか変な感じ…頭の中も変になる…体も熱い…)
丹参の息が荒くなる。
「そ、それは…本当ですか!?」
丹参は、あいかわらず、息が荒いままだ。
「そ、そうだよ」
錫安が座ったまま少し後ずさる。
(この子ほんとに可愛いなあ)
錫安はそんなことを思っている。
「そういうことであれば…秘書でもなんでも、なります」
「良かった良かった。じゃあまた明日――」
立ち上がろうとして、戻る。錫安は気づいた。
丹参 の出生について。
(そうか…!!)
名前の由来について。
丹参の左手をとって、右手の痣をみる。
(これは…もしや)
その瞬間、頭の中に、中国語が浮かび上がった。
『我們会保護我們皇室的后裔游矢,并一起度過余生嗎?』
(『我が国の皇族、游家の末裔を守り抜き、一生を共にするか?』…)
『擦傷你的体液。』
(え、『体液を痣に。』ってこれ、他にやり方ないの!?)
錫安は一度、やめようと思ったが、ため息をついてから、痣を舐めた。
「!?」
丹参の顔は、驚きを超えている。
(な、なに!?)
しばらくすると、いきなり痛くなった。丹参は右腕の痣を強く握る。
「うう…」
(なんか、すっごく痛い)
唾液が光ってから消えた。体、全体が変な感じだ。
「大丈夫?」
「たぶん」
「たぶんか…」
錫安は、頭をかく。
(あんたがやってきたくせに)
丹参は腹立たしくなってきた。
「なんなんですか、これ」
「契約」
「は?」
「中国の皇族の末裔だよ、君」
「ど、どういうことですか」
「中国の皇族は、一人につき一人、お付きの護衛兼回復役がいないといけない」
「…」
「君にはそのお付きがいなかったから、僕がなったってわけ」
「…」
「でも、僕を恨まないでね。契約しないといけないのは、十歳までだったのにしてなかったのが悪いんだし。今やってなかったら、君は今頃、アルビノになってたはずだもん」
「あ、アルビノ…ですか」
「うん。肌が弱くなって、太陽の下にも出られなくなる、アレね。だから、むしろ――」
「もちろん、感謝します」
「ふーん、さっきより素直じゃん」
錫安がニヤニヤする。
「どこがですか」
「自覚ないのか…」
「なにがですか」
「別に…」
「あと、まだ痛いんですけど、解決方法って知りません?」
丹参は、だんだん痛みがなくなってきたので、握ってはいないが、右腕の痣をさすっている。
「さあね」
「…無責任な」
「恩人に対して、そんなこと言いちゃっていいの?」
「それより思ったんですけど、」
(話そらすんだ)
錫安は思う。
「なんでそんなに、私の家系ついて知ってるんですか?」
「…それは…言えない」
「なぜ?」
「というか、言いたくない」
「どうして?」
「特に理由はないけど…」
錫安は右下を見る。
(あー。なるほど)
「私の出生について、言いたくないからでしょう?」
「…なんでわかってるんだ」
「あなたは昔から、嘘をつく時、右下を見るんです」
「やっぱり、僕が誰だかわかってたのか…」
「ええ。いつぞやの変態義兄でしょう?」
「え…僕、未来でなにしてるの…?」
「まあ、いろいろ」
「いろいろって、もしかして…え…」
(錫安もある意味変態か…?)
「錫安様が想像しているようなことは絶対にないです」
「あ、そう…なら良かった…かも」
「どうせ、錫安様も未来でそうなってるんですから、今も結構変態なのでは?」
「違う違う。僕は変態じゃないよ。ただ、自分の義妹が大好きなだけだよ」
「それ、結構ぼかしてますけど、『いろんな意味で』、ですよね?十分変態ですよ?」
「君も」
「?」
「君も結構変態だと思う」
「私は変態ではありません」
「小説を渡すと、息荒くなるじゃん」
「あれは生理現象です」
「いや、相当な変態だよ」
「あなたにだけは言われたくないです」
「それ、認めるってことだよ?」
「…認めてませんが、あなたにだけは言われたくないです」
「自覚あるんだ?」
「…なんのことでしょう」
「とぼけちゃってさあ」
「と、とぼけてません」
「あ、今焦った!」
「…」
(あれ、私、なんの話ししてたんだっけ?)
長いこと話していたせいか、すっかり時間は過ぎていて、二人とも、のどがからからだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
次話は夏休み中になります…また読んでいただけるのを楽しみにしています!