夢のはじまり
作者の夢をもとに書いたお話です!
最後まで読んでいただけると、本当にうれしいです!
ぜひ、ほかのお話も読んでください!
(信号がもう変わりそう)
雨の中、焦った顔しながら走っている少女がいる。名前は丹参。急いで信号を渡る。
そして、右から猛スピードで走っている自転車とぶつかりそうになり、自転車がギリギリでブレーキをかけ、止まった。
「おい!危ないじゃな――」
丹参は、酒で酔ったオヤジなんかに構っている暇などなかった。オヤジがしゃべり終わる前に、丹参はオヤジの目の前を全速力で通り過ぎる。
天気予報では、もう雨が降らないはずだったが、ぽつぽつと雨が降り始めている。
(やっぱ、天気予報ってあてにならないなあ)
そんなことを思いながら、丹参は、家まで、また全速力で走って行った。
「お帰りー丹参!」
丹参の養父にあたる(養父は別にいるが、結局のところ世話をしてくれていたのは正式な養父ではないので、養父のような存在。)、錫が、エプロンを着、手を広げて、玄関に立っている。
(げ、ハグしろってか)
「ただいまー錫義兄ー」
作り笑顔だが、極めてニコやかに言う。
そして、丹参は、錫を横切ってリビングへ急いだ。
「あれー?丹参―?お兄さんとハグしないの?」
錫は体ごと、首をかしげる。
「ごめん、空気みたいなものだと思ってるから、ハグなんていつもしてるようなものなの」
(変態義兄…)
「えー、ひどいよ丹参―。小さい頃はしてくれたのにー」
「小さい頃は、でしょ」
丹参は食卓の椅子に座り、机に置いてある、オムライスの端のトマトを箸で掴む。
その瞬間、後ろから、首に手を回すように抱きつかれた。
「あのー、錫義兄?オムライス、食べらんないんだけど」
錫が右耳の耳元でしゃべり始める。
「ねえ、丹参はまだ十四歳だけど、十六歳になったら、僕と結婚してくれるよね?」
「それは…絶対に嫌です」
「えー?なんでー?小さい頃、丹参から言ってきたんじゃーん」
錫が顎を丹参の頭にのせる。
(オムライス食べたい…)
「あんなのは、子供のたわごとにすぎないので」
「そんなあー」
錫は、そう言ったあと、オムライスを食べたいのに食べられない丹参を差し置いて、目をキラキラさせて、話し出す。
「じゃあさー、丹参はさー、僕のこと、どう思ってるの?」
「単純に、変態。」
「ねーえー、ひどおーい、お兄さん泣いちゃうー」
「オムライス食べさせて。早く寝たいの」
「え⁉︎あ、そういうこと。なるほど。つまり――」
「何?」
「――お兄さんと寝たいんだね?」
(二十歳がそんな事言っちゃう?)
さすがに、ここまで言われると、みんなキレるだろう。当然、丹参もキレた。
丹参は、早速前屈みになり、錫の顎があるであろうところへ頭突きをかました。
錫は舌を噛んでしまい(少しだけ)、「いったあっ!」と叫んでいる。
その間も、オムライスを遠慮なく頬張る。
(うまい。やっぱーー)
「――錫義兄の料理は最高♪」
(…あ。)
言ってしまってから、気づいた。でももう遅かった。錫は目を光らせ、今にも丹参に抱きつこうとしている。とっさに、丹参は言う。
「次やったら、急所、蹴るよ」
錫は驚きのあまり、硬直している。
つまり、錫の動きを封印をすることに成功し、無事、オムライスを完食できた丹参であった。
(うまかった)
食べ終わったので手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
便利な冷房のおかげで快適な部屋、シンプルだけど可愛いベッド。そしてなにより、あの変態義兄に襲われないですむ、鍵付きの部屋。それが、丹参の部屋。
(明日から夏休みだってのに、やーな夜だった)
無理もない。なんせあの後、四回も抱きつかれたからである。
1回目は、お風呂に行くために、着替えを出していた時だ。後ろから、背中に顔をうずめるようにして、抱きつかれた。足音を消していたようで、全く気づかなかったので、座ったまま、飛び跳ねてしまった。
二回目は、お風呂上がり、体を拭き、下着を着終わった時に、前から抱きつかれた。身動きが取れない上に、ベタベタとくっつかれるのが、やはり屈辱的だった。
三回目は、歯磨きをしている時に、後ろから首に手を回すように抱きつかれた。トマトとオムライスを思い出してしまう。
そして四回目は、
ちょうど、今だ。
ベッドで寝転がって、安心して眠れると思って油断していた。またも後ろから抱きつかれた。お腹周りを『ぎゅっ』としめつけられている。
「寝れないから離して」
「お兄さんと寝たいんじゃなかったの?」
「そんなこと一言も言ってない」
「言ってた」
「言ってない」
「言ってた!」
「言ってないって…。意地悪変態義兄」
「ん?今余計なこと言ったような気がする――」
「さあてなんのことでしょうねぇ」
丹参は、錫とは反対側を向いて、「ハッ」っと鼻で笑う。
「とぼけるんだったら、もっと意地悪するよ?いいの?」
「いいよ。受けて立つ」
「無理でしょ。それ以前の問題があるから」
「受けて立つって言ってんのに、寝るわけないじゃ――」
『それ以前に』の意味。それは――
「やっぱり、寝ちゃった」
游 丹参は接吻をされると、眠ってしまうのだ。
「はあーあ、まだ僕のこと、好きじゃないんだ」
具体的に言うと、『好きじゃない相手と接吻すると眠ってしまう』ということである。
「一回目にやった時から、もう六年はたつんだけどなあ」
これについては、まったくわからないので説明できない。
「あ、そうか、丹参からすれば、初めてか!」
これについても、まったくわからないので説明できない。
「やった。六年前の自分に勝った!」
これについても、まったくわからないので説明できない。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
また明日、投稿しますので、次の話は、また明日!