*アンハッピーハロウィン
いやな気持になるかもしれません。
今日はハロウィンだ。
本来は魔除けとか、死者の霊がかえってくるとか、宗教的な意味合いがあって、仮想をするものだけれど、近年の日本のハロウィンはただの仮装パーティだ。
私は別に宗教的なものを持っていないから、別にそこらへんを責めるつもりはないけれど、騒がしいのはいかがなものかと思う節はある。
自治体の子供たちがかわいらしい仮装をして「トリックオアトリート」と言って回るのは微笑ましくて、私も協力したいと思う。
私の娘もあれくらい大きくなったら仮装させてあげたいと思っている。かわいいのだろうな。
そうそう、私の夫はあっち側の人間だ。ハロウィンで盛り上がりたい側ということ。
結婚する前、夫がふざけて仮装して私の家に来たことがあった。
インターホン越しにドラキュラの格好をして「ハッピーハロウィン」なんて言っていた。
その時は私も猫をかぶっていたし、「なにそれおもしろーい」とか言ってたけど、本当は近所の目が気になって恥ずかしくてたまらなかった。
今だったら「やめろよ」って言える。っていうか、その時に戻って言いたいくらいだ。
結婚してからは落ち着いたけれど。でもたまにパリピ的な一面が垣間見れて、少しイラっとすることもある。
まあそれでも好きだから結婚したのだけれど。なんてのろけてみる。
今年はすべてが初めての年だ。
去年は去年で夫婦として過ごす初めての一年だったけれど、今年は三人になって初めての一年だ。
落ち着いたら四人で過ごす初めての一年も経験してみたい。
ただ落ち着くかどうかは今のところ不明。
というのも、やはり子育ては大変だ。
夫はいわゆるイクメンで、助かっているところは大きい。
夫も子育てをして当然だと思うから、イクメンという言葉は好きではないけれど、そういうと夫が喜ぶので使っている。
私は今は育休中なので、普段は私が中心となっているけれど、夫の休みの日は率先して家のことも含めて面倒を見てくれている。
パリピな部分は鼻につくけれど、まあそれくらい目をつむってあげられるくらい、いい夫だと思う。
いい夫エピソードをついでにもう一つ。
私の娘はおとなしい。おとなしすぎる。それをおかしいと思った夫は、病院に何件も掛け合って、原因は何なのかと必死に動いてくれた。
結局なんともなくて、そういう性格ということだったのだけれど、家族のために力になってくれる人なんだなと心強かった。
なんて頭の中でのろけていたら、もう時間は九時になっていた。
今日は夫の休みの日。だからこうして布団の中でだらだらと過ごしていられる。
普段だったら夫の出勤時間の一時間以上前に起きてお弁当を作っているのだけれど、休みの日はそれがない。
夫も元々一人暮らしをしていたから家事全般はできる。だから任せられる。
いけない。こんなふうにだらだらしていたら二度寝してしまう。してもいいのだけれど、夫に完全に任せるのも気が引けるし、そろそろ起きようか。
リビングに行くと、ごみ袋が置いてあった。
今日は燃やさないゴミの日だからと昨日のうちに用意しておいたものだ。
「おい、忘れてるんじゃねーよ」と思わず声に出してしまった。
そんな夫はおそらくシャワーだろう。
夫は無類のシャワー好き。そんな奴いるのかよって思うけれど、よくシャワーを楽しんでいる。どう楽しむんだろう?
まあこれもうれしいことがある。娘のお風呂を率先してやってくれるのだ。私より上手なんじゃないかな?
ベビーベッドに娘はいなかったし、たぶん夫がまた入れてくれているのだろう。娘がシャワー好きになったらどうしよう。
そんなことより燃やさないゴミだ。この時間だったらまだ間に合うだろう。
九時半までに出せば私の住んでいる区画は回収に間に合う。回ってくる順番が遅いらしい。それは助かる。
しょうがないからあとで出しておこう。それで夫に恩を売っておこう。
そう考えたところで私のお腹がぐぅと鳴った、
リビングに来た時からいい匂いがしていた。いつも夫が朝ご飯を用意してくれている。
今日はトーストとじゃがいものポタージュスープだった。シンプルだけど嬉しい。
しかしそんな嬉しいブレックファーストよりも気になるものがテーブルにあった。何やら怪しい紫の箱が置いてあった。
箱の蓋には「ハッピーハロウィン」と書かれている。
蓋を開くとそこには大きな頭蓋骨があった。
私はホラー系が苦手だ。
「パリピ発動してんじゃねーよ」と思わず声に出してしまった。
そっと蓋を閉じた。
一仕事終え、家に戻ると、シャワーから上がった夫がパンツ一丁で頭を拭きながら出てきた。
「出かけてたの?」
きょとんとしている夫。
「出かけてないわよ。燃やさないゴミ出し忘れてたでしょ?」
「あ、いけねー。悪い悪い。ってか箱見た?」
心から謝っている感じではない。この野郎。
「見たわよ。ああいうのやめてよ。ってかリサは? お風呂だったんじゃないの?」
「え? あ、いや、驚くと思って骸骨に仮装させておいたんだけど……」
「え?」
確かに重いと思った。
いったい何なんだと思った。
けれど娘は夫と一緒にお風呂場にいると思っていた。
急いで玄関の戸を開け、外に飛び出す。
回収を終えたごみ収集車がちょうど出発したところだった。