伝説の陰陽師の暇つぶし
死してなお、その術の効力は消滅することなく、この国を守り続けている――――
テレビから流れてきた言葉に感銘を受け「すごいなぁ」と、自分一人しかいないリビングで思わず声に出してつぶやいた……はずだった。
「当たり前やん。死んどらへんもん」
返ってくるはずのない声に驚いて振り返ると、自分とさほど歳の変わらない男がソファーでくつろいでいた。
「誰!?」
「安倍晴明」
「……はぁ!?」
これが最初の出会い。
そして現在――――
「なぁなぁ、そろそろ弟子入りする気になった?」
「なってません!」
「それは残念やなぁ。でも、その気になったらいつでも言うてなー」
「なりません!」
何かの術を使ってみんなの記憶を操作し、うちに居候として住みつき、さらに学校にまで一緒に通っている。私は彼が安倍晴明だというのは本当だと思う。そう思える出来事がいくつもあった。
しかしなぜかその伝説の陰陽師はこうして毎日、陰陽師にならないかと私を勧誘してくるのだ。
「ずっと思ってたんだけど、そもそも何で私!? 霊感が強い人なら他にもたくさんいるじゃん」
「桃ちゃんの霊感、普通とちゃうねん。せやからボクが使い方、教えたろおもて」
「はぁ? 普通じゃないってなに!」
「これ、言うてええんかなぁ。でもいつか話す気ではおるみたいやし……ま、ええか!」
「え、なに?」
「あのな……桃ちゃんのお母ちゃん、ホンマは人間とちゃうねん」
「はい? え、何言ってんの?」
「簡単に言えば、偉いお狐様の使いやってん。せやからまぁ、お狐さんやな」
「いやいやいや、ちょっと待って。めちゃくちゃサラッと言うじゃん!」
「でもな……今は人間やで? 人間と一緒になりたい言うて、お狐様にお赦しもうて人間としてここにおんねん」
最初に聞いたときは驚いたが、思い返せばなんとなく思い当たる節があるためすぐに冷静になれた。我ながら驚異の適応力。
「っていうか、仮にそうだとしても……アンタなら、一人で何でもできるんじゃないの?」
「それじゃあ、つまらんやろ?」
「いや知らないけど」
「ほんなら楽しくて明るい世界、創りたいとは思わへん?」
「それは……思うけど」
「せやったら、その力貸してや。ボクが桃ちゃんを令和の陰陽師にしたるから」
「とりあえず、今日はいろいろまとまってないから…………考えとく」
「前向きによろしゅう」
なんだか癪だが近い未来、私はこの陰陽師の思惑通りに動かされる予感がしている。
でも今はまだ動いてやらない。