【百合短編】鉄格子を挟んだ愛の形
「またこの日が来たね」
窓から夕陽の差す部屋の中で、対面に立つ栗色のロングヘアの彼女が言う。歳は私よりひとつ上の二十三歳。背が高く、すらりとした体に薄絹をまとっている。
その背後には、人一人入れるぐらいの鉄の檻。彼女はその中に、いそいそと入っていく。檻の中には、お皿の上に肉、そしてと水差しに入れた水が置いてある。
完全に檻に入ったので、南京錠で施錠する。
「やっぱり辛いよ、これ」
「わたしたちには、どうしても必要なことだもの。わたしは大丈夫だから」
暗い声を上げる私を、彼女が元気づける。彼女と出会ってもう一年半ほどになるだろうか。山の中で不意にぼろぼろの彼女と遭遇したときは、それは驚いたものだ。ふらつく彼女を街に連れ帰り、介抱したのが馴れ初め。
私たちはたちまち親友になり、そして間もなく女同士であるにも関わらず恋愛関係になった。
彼女の優しさが好き。明るさが好き。きれいな顔も髪も声も、全部が好き。
ずっと、ずっと彼女のそばにいたい。だから、これは彼女の言う通りどうしても必要なこと。
鉄格子を挟んで他愛もない話をしていると、陽が完全に落ちて、月明かりが差し込む。それと同時に、彼女が人間のものではない恐ろしい声を上げながら、苦しみ悶えつつ姿を変えていく。
私の愛する女は人狼。満月の夜になると、その怪物としての姿を顕にし、理性の抑えが効かないほどに凶暴化する。
彼女がこの秘密を打ち明けてくれたのは、出会ってから二週間と少しのこと。突拍子もない話に最初戸惑ったけれど、彼女の提案で満月の日は彼女をこうして檻に入れることになった。
私を食い殺そうと、牙で激しく鉄格子に噛みつき、爪を伸ばそうとする彼女。
彼女にはかつて私の他に愛した女性がいたが、満月の日に食い殺してしまったと涙ながらに話してくれた。愛する女ならば人狼の本性に打ち勝てると考えたが、愛の力ではそれは叶わなかったらしい。
ぼろぼろの彼女と出会ったのは、その翌日のこと。悲しみと後悔の念に苛まれていたところを、私に救われたのだと彼女は深く感謝していた。
人狼の本能のまま暴れ、そして苦しむ彼女を見るのは辛い。でも、私は彼女の苦しみと向き合いたい。
だって、互いに深く愛し合っているのだもの。
この月が沈んで夜が明けたら、また楽しい話をしましょう。それまで、きちんとここで待っているからね。