物書きな僕ら3
「書けたー?」朝一番に実花が声をかけてくる。
「俺を誰だと思ってる?」
ノートをポスッと実花の手に納める。
「さすが克己さま!!」
実花が大事そうに鞄にしまう。
「読まないのか?」
400字程度さらっと読めてしまうだろう。
「ん?まぁ、家の方がいろいろと都合いいんだよ」
珍しくいいよどむ実花。
「あぁ、書かなきゃだもんな」代わりに続きを言ってやる。
「まぁそんなとこー!」
[変な男のノートを見た]
通勤途中、男の鞄からノートが落ちるのを見て声をかけた。
「落としましたよ?」
指差した先の内容に目を奪われる。
「くらぇ!!インフェルノガン!!」
開かれたページに一杯書き込まれた言葉。周囲に細かな書き込みが見られるところを見ると何らかのネタ帳だろう。
何度も何度もなぞり書きをしている様子に、これだけの熱意をもって書かれた作品が読んでみたい……と思った。
相手が困惑しているのを見て、本当はここでひいた方がいいよ……と理性が制止する。
「創作されてるんですか?」口をついてでたのはそんな言葉だった。相手の表情がこわばるのを見てあぁ、ツッコミ過ぎたと立ち去ろうかと考えて、相手の情報だけを得て立ち去るのはフェアじゃないと気づく。
「私もしてるんですよ。よかったらお互いどんな作品か見せ合いませんか?」
完全に蛇足だ。とり消さなくては。
ひとりワタワタしていると男が頷いた。
ホッとして私はその男に連絡先を渡した。
翌朝、実花の手から克己にノートが渡される。
[マジかよ]
「ありがとうございます」
変な女の人から渡された連絡先が僕の手元にあります。僕の連絡先を渡すべきでしょうか?相手は女性です。見ず知らずの男性に一方的に連絡先を知られていることが後々不安に繋がるかもしれません。
「ゆうじ、と申します」
ネタ帳の1部を切り取って連絡先を渡しました。そのまま別れて、女性の名前を聞くのを忘れたことに気づきます。
「まぁ明日でいいよね」
ぐいぐいと来る人と話すといつもよりも疲労があります。しかし、この疲労が嫌なものでないのが不思議でもあります。
そんなことを考えながら、ベッドでスマホをいじっているといつの間にか朝になっていました。あの女性に会えるでしょうか?そこまで考えて女性に見せられる作品を持っていないことに気づきました。電車の時間が迫ります。仕方がないのであの見られたネタを元に話を作ろうとしましたがうまくいきません。書くのを諦めて僕は電車に乗りました。
姿を見るなり駆け寄ってきた実花に克己が得意気にノートを渡す。
[早くもネタ切れかね?克己]
男の連絡先を見て顔を覆う。なんであんなに押せ押せしちゃったかなぁ。ベッドに寝転がって足をバタバタと動かす。
丁寧にちぎられた切れ端に男の几帳面さを見る。連絡先をスマホに登録してそのメモを引き出しにソッと仕舞った。
「お風呂が沸きました」と給湯器がしゃべるのに応えてお風呂にはいる。頭のシャンプーを丁寧にゆすぎながら考える。まぁね、嫌だったらあの男の人も断り方はいくらでもあるだろうし。
見えない気持ちを心配しても仕方ないよね。お気に入りのバニラの香りがそうだそうだと思考を肯定してくれる。髪の毛を乾かしながら音楽をつける。「インフェルノガン!」あの場面が頭に浮かんできて、昔ハマっていた特撮ヒーローのオープニングを流す。この特撮を好き担ったきっかけも、幼馴染みが熱っぽく何度も勧めてくるからだっけ。
私はどうやら気持ちのこもったものに弱いらしい。
校門にもたれ掛かっている克己に実花がノートを渡す。