3 : 親友(上)
2話同時更新です。
「8歳おめでとう、ルカ!」
玄関先で、彼が私を抱き上げる。
手紙が届いて3日後の夕方、ハイレイル・ド・デニスはやって来た。
「ハイレイルさん!お久しぶりです!」
彼の首元に私も抱き着いた。額に彼の無精髭がジャリジャリ当たる。頬ずりやめて。
ハイレイルさんは、今年で47歳、バツイチのおっさん。元奥さんのところに息子がいるとか。
若い頃はとてもイケメンだっただろうと推測できる程、雰囲気のあるイケオジだ。
マッチョで無精髭の小汚い感じがまた良い味を出す。赤茶の髪は緩やかなカーブを帯びており肩口まで伸びている。オールバックにしているので、平民では珍しい黄色目がよく見える。
つまり何が言いたいかと言うと、とんでもなくかっこいいのだ!
「ハイレイル、無事に着いたようで良かった。ゆっくりしていくといい」
「ああ、いつもありがとう、トマ!」
片腕で私を抱き上げたまま父と握手をした。
「そうだ、今日は羊肉を土産に持って来たんだ。この時間なら、まだ晩飯作ってないよな?料理していいか?」
「え!!お肉ですか!?やった!!」
「それはありがたい。是非お願いするよ」
ハイレイルさんの本業は旅商人だ。
いろんな所で買い付けて、そしてまたそれをいろんな所で売る。
ここに来る時は必ず、良い物を買い付けて、お土産として持って来てくれる。
人里離れたこの場所で、家畜を捌くか狩猟でも行かないとなかなか肉は食べれない。動物肉は久々だ。
小一時間程で、テーブルに料理が並ぶ。
肉もあるし、何よりいつもより一人分多い。とても豪勢な夕飯に見えた。
(もしかして、手紙で言ってたプレゼントって、この豪勢な肉料理なのかな…?えへへ嬉しいな)
普段の食事は、植物園や畑で取れた野菜や長期保存できる穀物がメイン。だから、基本質素だ。ずっとその生活だから、それに対して苦はない。でもやはり、自分のために用意された豪華な料理は、この上なく嬉しい物だ。
「ハイレイルさん、とっても美味しいです!ありがとうございます」
嬉しくて美味しくて、自然と頭角が上がる。
「……そうか。喜んでくれたみたいで、良かった。」
謎の間があったが、彼は私の頭を撫で回した。それを見ながら、父が「うちの娘は年々綺麗になっているだろう」と笑いながら自慢げに言う。
嬉しいが、親バカが過ぎる。私はみんなみたいに彫りの深くない、平たい顔族だよ?
そんなこんなで、あっと言う間に楽しい晩餐は終わった。
湯浴みを終えて、私は自室に戻った。
普段はお湯で体を洗うだけだが、今日は湯に浸かったので体の芯までポカポカだ。
ハイレイルさんが来る日は、毎回浴槽にお湯を張るのがうちの恒例行事。長旅で疲れた彼を労う為だ。でも一番風呂を私が頂いてしまった。申し訳ない。
ちなみにこの国は、蛇口から水とお湯が出る。休火山、ハルバティアの恩恵の賜物だ。なんだったら、水道水が飲み水だ。そのぐらい水が良質なのだ。
「今日も健やかな1日に感謝を。その加護に感謝を。神竜様に感謝を。」
(ハイレイルさんが無事に到着しました。ありがとうございます!)
今日のお祈りは、一人ですることになった。
父とハイレイルさんは、薬と植物の取引をしている。父にとってハイレイルさんは20年来の商売相手であり、親友だ。
ちょっと長くなるが、父とハイレイルさんの話だ。
20年前、父は40、ハイレイルさんは27の時、二人は出会ったそうだ。
まだその当時、父は王都程ではないが、栄えた町で暮らしていた。薬草師として仕事をこなしたいたが、薬草師として無名のその頃、個人では信頼が薄いため、『薬草師協会』に所属していた。協会に入ると、作った薬に協会の厳しいチェックが入り、それを通ったものだけが協会のマークの入った信頼の厚い商品になる。元々質の高い父の薬草は、そのチェックも容易で、安定した収入があった。
しかし、自分の植物園を持ち、維持できる程ではなかった。
協会はランクありの給料制で、商品の質、出品数、売り上げ、の総合評価でランクが決まり、上に行く程良い金額が支払われる。でも、それは言ってしまえば、どんなに売り上げがあっても、給料以上は入って来ないと言う事だ。つまり安定はするが、搾取される。(前世でも会社に入れば同様な事だが。)
父がこの仕事についたのは、安定した収入は大切だが、一番の理想は自分で植物を育て、それを薬にする事。だが、町のアパートでは、育てられる植物の品種にも限度があった。
(自分の土地が、植物園が欲しい。)
そう思い募らせる頃、父は、ハイレイル・ド・デニスに出会う。
「君がトーマス・バトラーか?協会で聞いたんだが…君、良い物を作るな。」
突然、アパートに訪問者が来たと思えば、自分の作った薬を何種類も抱えた男がいた。
父が言うには、「男でもびっくりする程顔のいい青年だった。」そうだ。…だろうな。
「この、解熱の薬、ピーレル(この世界に自生する赤紫の植物)の新芽を混ぜてあるだろ?その発想はなかったよ。すごくいい薬だ。」
「っ!?わかるのか??こんな粉末にしているのに…?」
「ああ、俺は鼻がいいからな。」
父の薬を買い取りたいとやって来たハイレイルさんは、見た目だけでなくその言動まで目を惹いた。
不信感でいっぱいだった父だったが、その会話だけで彼を受け入れるには十分だった。
彼は『薬草師協会』に加盟する商人ではなかったため(原則旅商人は加盟できない)、手数料を払って外部買い取りをした。しかも買い取り量が凄まじく、在庫はほぼなくなったとか。父は(若いのにとんでもなく肝の据わった男だ)と思ったそう。それもそのはず、半年は王都で遊んで暮らせる程の金額を彼は一括で払ったのだ。
「…たくさん買い取って貰えるのは、嬉しいのだが…その、あなたは大丈夫なのか…(お金とか支払いとかお金とか)」
「?問題ない。いい薬だ。必ず、今回払った金額の4倍は稼げると見た。」
「そ、そんなにか??…協会のマークもなしに…??!」
「協会のマーク?…ああ信頼か?…はは、そこは商人の腕の見せどころだろう?」
顔のいい男の、企むような、逆境を楽しむような、満ち足りた笑みに、父も思わず赤面したそうだ。
人間関係に年齢なんて関係ありませんよね。敬うとかそう言うのではなく、良い悪いの関係は、その人次第です。
パパの名前やっと出ました。トーマス・バトラー、ありふれた感じで。愛称はトマです。
検索したら同姓同名さん、やはり出てきましたー無関係さんです。笑
パパとイケオジの話、ホントに長くなったので、分けました。
設定説明が多い?わかります。私も早くイチャラブ書きたいです!!でも、過程のないイチャラブは私の主義に反するので却下です。もう暫くお待ちを。