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2 : 植物園

 朝、カーテンの隙間から光がさす。ベッドから起き上がり、ぐっと背伸びする。

 規則正しい生活だから、目覚まし時計なしで6時半ぐらいには目を覚ます。前世からは考えられない体内時計の完璧さだ。


(さて、お手伝いお手伝い〜)


 私は、背中の真ん中ぐらいまで伸びた、長い髪をポニーテイルにして動きやすいよう身支度を整える。そして神竜教徒の証、赤燐せきりん(燐を模した赤い石)のペンダントを首にかけ、服の下に入れた。


「ルカ、起きているかい?水やりの時間だよ」

「今行きます!」


 自室から出ると、既に身支度を整えた父が立っていた。お互いにおはようと言い合って、植物園に向かう。

 父の仕事は、薬草師だ。しかも薬に使う植物も一から自分で作る、こだわり派。

 …と言っても、薬草師は建前で、本当はただ植物が大好きなおじさんなのだ。


 植物を育てて生きたい!

 でも、お金は稼がないといけない!

 そうだ、一番安定した薬草師に就いて、その原料の植物を自分で作ればいいんだ!!


 てな感じで、この仕事に就いたらしい。

 でもその腕前は本物だ。人里離れた場所に住んでいても、父の薬を求めて買いに来る商人や医者、貴族がいるのだから。私の父はすごい。



「ああ、水槽の水が切れていたな。私は倉庫に水肥料を行くから、ルカ先に植物達に会いに行ってくれないか」

「わかりました。水やりの準備もしておきますね」


 「よろしく頼むよ」と言われて、家の玄関で別れた。



 私は、植物園のある南側に向かう。

 すぐに、ガラスの園は見えてきた。


 (今日も綺麗だな、ミニ水晶宮…)


 水晶宮、前世で美術の教科書で見た。ロンドンで行われた万国博覧会の会場、水晶宮クリスタルパレスのことだ。

 この植物園を見て、そんな端の記憶が蘇った。


 鉄の骨組みとガラスで構成された、その外観はまさに水晶のような美しさ。規模はよくあるビニールハウス程度なので、本物と比べれば小さいだろうが、中に入れば、その美しさに魅了されどうでもよくなる。本当に綺麗なのだ。

 

 この植物園は父が45の時に建てたそう。薬草師として信頼と資金を得たからこそ、こんな人里離れた場所でこんな植物園を建てられたのだ。父は今60歳のはずだ。15年経っても、このガラスの園は美しい。それもそのはず、魔道具で常に温度管理と共に、汚れの浄化をしているからだ。

 ほんと、魔道具すごい。

 でも魔道具は魔力の補充が必要らしい。だからすごく維持費にお金がかかるとかなんとか。

 父曰く、

「素晴らし植物達の家は、素晴らしくなければならない!その為のお金を惜しむなど、無粋だ!」

 との事らしい。さすが植物オタク。


 しかし、私も人の事は言えない。父の影響で、私も植物達が大好きだ。


 

「ルカ、待たせたね。準備ありがとう」

 水肥料のタンクを乗せたリヤカーを父が引いて入ってきた。

 水肥料は父が独自に配合した有機肥料。こだわってます!

 

 この水肥料は原液なので水と1(水肥料): 4(水)で割るのだが…


「う…鼻もげる…」

 動物の糞尿や草花などの絞り汁でできたそれは、かなり異臭がする。水で薄めれば、水やり時に毎日嗅ぐしどうと言う事はない。だがしかし、原液はひどい。


「ははは、これがいい栄養になるんだよ」


 (お父さんは原液の開発者なので、慣れていらしゃるかもしれませんが、乙女としてはキツいですよ。)

 などと思いながら、原液と水を大きな水槽ので混ぜた。大きなヘラを回すたび、異臭が舞い上がる。早く終われ。


「もういいかな」と言って、父が水槽に蓋をした。

 臭いものには蓋をする。うん、まさにこれだ!…うん、違うか。


 水槽の下についた蛇口をひねり、如雨露に注ぐ。

 ホースで一気に水やりを終えないのも父のこだわり。植木一つ一つに懇切丁寧に水をあげる。そこで毎日植物の状態を観察、という名の植物との会話を楽しむそうだ。ちょっとキザな父の教えだが、嫌いじゃない。

 

 それから、二手に別れ、1時間弱かけて園内の植物達に水をあげた。

 (今日も植物達は元気!)


 これが毎朝の日課だ。








 午前の仕事を終えて昼食を食べた。

 今日は、畑で取れた(普通に食用も育ててる)、苺がデザートにあった。この世界の苺は大きくピンク色が普通で、1つを切り分けて食べる。味は変わらないので、ちょっと安心する。



「ルカ、午後は川に魚釣りに行こうと思うのだが、どうする?一緒に来るか?留守番するか?」


 (うーん釣りか…。)


「いえ。留守番します。ハイレイルさんもしかしたら今日、明日には来るかもしれないので、客間の掃除とベッド整えます。」

「…そうか、ではよろしく頼むよ。」

 偉い子だと父は私の頭を撫でた。そして数分後父は荷物を持って釣りに向かった。

 もう少し幼い頃は、留守番させる方が危ないって事で半強制で、釣りに同行していたが、8歳の今はもう自由のさせてくれる。留守番もお手の物だ。




 それから私は、宣言どおり掃除の準備に取りかかる。

 人里離れたこの場所は、町から町の間にあり、たまに一晩宿を求めて人が来る。そのため、客間が2部屋程ある。元々は物置部屋の予定だったらしいけど。


 私は木のバケツに水と布巾を入れ、箒と一緒にハイレイルさんが毎回使う方の客間に入った。廊下を挟んで、私の隣の部屋だ。

 彼が前回来てから3カ月ほど経っている。たまに換気はしていたが、やはり少し埃っぽい。

 (…頑張ろう!)

 私は勢いよく掃除を開始した。


植物オタクパパです。


水晶宮クリスタルパレス、皆さん知ってますか?1851年にロンドンの第1回万国博覧会の会場として建てられた鉄とガラスの建造物です。もう実物はありませんが、とっても美しい建物だったそうで。モノクロの写真とか絵が調べると出てくるので良かったら見てください〜。私まじで大好きで〜〜〜!!この名前が付くのも納得です。



お読み頂き、ありがとうございます!

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