無性の人形
久しぶりの更新です。
「なんて魅力的なんだ。」
熱に浮かされたようにささやく声と、僕の肩に触れるじっとりとした手が気持ち悪い。
「君ほど美しい物を見たことがないよ。」
そんなのもう聞き飽きた。ただ、はやくこの時間が過ぎてしまえと思う。僕に触れる脂ぎった肌も、血走った目も、弛んだ体もどうしようもなく醜い。存在を主張する下半身も反吐がでるほど気持ち悪くて、悪寒が走る。
はやく、早く終わってしまえ。首輪が僕を拘束する。鎖が僕を締め付ける。苦しい。息ができない。今日も体と意識は解離して、遠くから自分を見つめるだけ。
真っ白な部屋。窓のない壁。硬いベット。くすんだ鏡。ポツンと置かれたクローゼット。無機質な扉。これが僕の世界のすべて。
鏡にうつる僕を見る。性を主張するものが何もない僕の体は、男にしてはしなやかで、女にしては直線的。凹凸なんてなにもない。肩で揃えられた髪は頼りなく揺れる。鏡の中の無感動な瞳と目があった。白いくびに、ネックレスの金具が痛い。レースの服が重くまとわりつく。
クローゼットには色とりどりの衣装がしまわれている。僕を飾るための布切れ。ゴミ達。
レースのドレスはあの女。首輪と鎖はあの男。派手な下着はあの男。僕に用意された服に僕のためのものはない。
「あなたが本当に羨ましいわ。」
化粧の厚い女が言う。
「白い肌も、綺麗な顔も。ほんと憎らしいくらい。」
たるんだ腕が僕の頬を撫でる。女を主張する脂肪が僕にのしかかる。白く塗られた顔は僕をうっとりと見つめる。瞳が熱を持って僕を舐める。
「レースのドレスだって女よりもよく似合う。」
不自然に赤い唇は歪んだ弧を描く。長い爪が首に食い込む。
「女でも男でもないくせに。ほんと、気持ち悪い。」
赤い唇は僕の耳を噛んで毒を吐く。熱のこもった息は耳から僕の体内に入る。僕の体は冷えていく。手も、足も、感覚が遠くなって。僕の体は僕のものじゃなくなる。僕は遠くから僕を見る。
「なのに貴方はこんなにもきれい。嫉妬しちゃう。」
肉が僕の体の上で蠢く。僕が食われていく。
早く、はやく終われ。
僕に群がる肉は、僕で遊ぶ。
おわれ、終われ。終わってしまえ。
白い天井。小さな照明。窓のない壁。くすんだ鏡。ゴミの入ったクローゼット。硬いベット。無機質な扉。僕を組み敷く醜い肉。性別のない僕。僕の檻。僕の世界。僕の全て。
読んでいただきありがとうございました。