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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹と歩む、これからの僕たちの世界
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放課後の友達の家


 僕たちの中間試験が終わった。


 直前に少々問題が発生したけど、結果としては今回もみんな素晴らしい点数を取っていた。

 特にひかりちゃんとメグさんは一夜漬けの成果を存分に発揮し、一部教科では玖音さんに並ぶほどの成績を残すことが出来ていた。


 そして、テストが終わったら息抜きが欲しくなるのは、どこの生徒も同じみたい。


「お兄ちゃん、今日はひかり、遅くなるね!」


 テスト明けの放課後、ひかりちゃんはクラスのみんなとテストの打ち上げに行く約束をしていた。

 僕はそれを笑顔で受け入れ、その日は一人でお留守番をしようと思っていたんだ。


 だけど、今の僕にはひかりちゃん繋がりではない友人も存在する。

 その子はひかりちゃんの友人でもあるけど、元々は僕の知り合いだったから、ひかりちゃんとも面識が出来た子なんだね。


 その知り合いの名前は(あかつき)凛子(りんこ)さん。

 僕のクラスメイトで、しかも席替えがあるのに半年以上席が隣同士になってるという、とても珍しい関係性を持った女の子だ。


 僕はその子から誘われる。


「ねぇ、今日ひかり居ないんでしょ? だったら私の家に遊びにおいでよ。妹たちも会いたがってるし、ね?」


 こうして僕は生まれて初めて、放課後友達の家に遊びに行くという経験をすることになったんだ。




    ◇




 凛子さんの家は、僕と学校の中間くらいの位置にあった。

 ごく普通の一軒家で、誰かがどこかに出かけているのか、ガレージに車は入っていなかった。


 玄関を開けて、凛子さんが家の中に「ただいま」と声をかける。

 するとすぐに、家の奥から小学生の男の子が走り出してきた。


 男の子は僕を見ると大きな声で歓声を上げる。


「おおー! 本当にあのときの兄ちゃんだ! エンシェントドラゴンの兄ちゃんだー!」


 僕は凛子さんの家に来るのは初めてだったけど、彼女の家のだいたいの事情は聞かされている。


 元気に飛び出してきた彼は、幹人(みきと)くん。

 まだあどけなさの残る小学四年生で、遊びなら運動もゲームも何でも大好きという、将来は僕とは違う人種になりそうな男の子だった。


「だから、挨拶もなしに大きな声を出したら失礼でしょ。――お久しぶりです、お兄さん。先日姉におみやげとしてたくさんの料理を持たせてくださいまして、誠にありがとうございました。私も頂戴しましたが、大変美味しかったです」


 次に応対してくれたのは、同じくらいの背格好の女の子。

 びっくりするほど大人びた喋り方をする女の子で、名前は美代子(みよこ)ちゃんというらしい。


 みよことみきと。

 名前も背格好もなんとなく似ている二人。

 それもそのはず、二人は双子の姉弟なんだって。


「ああもう、物珍しそうに話しかけないの! あなたたちが興味あるって言うから、今日は無理言って来てもらったんだからね? あまり迷惑かけないようにしてよね」


 二人が来て玄関は一気に騒がしくなった。

 凛子さんは、二人に迷惑をかけないようにと言い聞かせる。


 でも、僕は迷惑とか気にしてもらわなくてもいい。

 お客さん扱いされるつもりもないし、普段通り過ごしてくれて構わないと思っていた。


 だけどそれを伝える前に、元気いっぱいの小学生コンビが話し始める。


「さあお兄さん、学校でお疲れになったことでしょう。あんな小うるさい姉は放っておいて、私とティータイムにいたしましょう。こう見えて私、紅茶を入れるのは得意ですの」

「なに勝手に仕切ってるんだ! オレだって兄ちゃんと色々と聞きたいことがあるんだよ!」

「何度言ったらわかるの? その大きな声を止めなさいと言ってるの。それに、お喋りなら紅茶を飲みながら優雅にすればいいでしょ?」

「そ、そっか! そうすればいいんだ!」


 僕は二人に圧倒されて、どう答えるべきか迷ってしまった。

 すると隣の凛子さんがフルフルと体を震わせながら怒りを爆発させる。


「あんたたち、いい加減にしなさい!」


 こんな感じで、怒声から始まった凛子さんのお宅訪問。

 だけど僕は彼女たちの日常が垣間(かいま)見えた気がして、こっそりと笑っていたんだ。





 妹たちに大きな声を出した凛子さんだけど、そこはやっぱりお姉ちゃん。

 オモチャ(僕のこと)で遊ぶのは妹たちが満足してから、という思いがあるのか、僕と双子の姉弟が話すことを積極的には止めては来なかった。


「とても美味しい紅茶ですね。蒸らし加減が絶妙だと思います。美代子さんは本当に紅茶を入れるのが得意なんですね」

「わぁ、お兄さん、さすがです。私の一番のこだわりの部分を言い当ててくれるなんて。――ですが、少し減点ですよ」

「え、どういうところが減点なのでしょう? 教えていただけませんか?」

「美代子じゃなくて、親しみを込めて美代って呼んで? 他人行儀はイヤですわ」


 しかし、凛子さんの妹さんは昔とある遊園地で偶然話す機会があったんだけど……。

 その時も思ったんだけど、彼女はとてもおませな女の子だ。


 今もあっという間に僕にしなだれかかってきて、その小さな手を僕の胸に添えてそんなことを言ってくる。

 そこまでしないと僕が言葉を改めないと思われているのかな。やっぱり小さな子にも丁寧語で話すのはおかしいのかなあ。


 あと、少し話が変わるけど、さっきから隣に座る凛子さんがプルプルと震えている気がするんだよね。

 でも、彼女は立派なお姉ちゃんだから怒ってるとかじゃないんだよね? 気にしなくてもいいんだよね?


「ご、ごめんね美代ちゃん。他人行儀ってつもりはなかったんだけど、少し冷たい印象を与えちゃったかな?」

「少しだけ……。でも大丈夫です。お兄さんは優しい人だって、私はわかっていますから」

「そ、そうなんだ?」

「ええ。冷めたお料理でも、あの美味しさ。作ってるお兄さんの優しさが伝わってくるようでした」

「ちゃんと食べてくれたんだね、ありがとう。美味しいと言ってもらえて、僕も嬉しいよ」


 凛子さんの震えがますます大きくなってる気がするけど、僕はおかしなこと言ってないよね?


「兄ちゃん兄ちゃん! オレにも敬語は止めてくれよ。それに、オレのことはミッキーって呼んでくれよな!」

「ああうん。よろしくね、ミッキーくん」

「くんを付けるのかよ……。まあいいや。兄ちゃんは最近どんなゲームやってるんだ?」

「色々やってるよ。RPGからFPS、最近出たあの戦闘機のゲームもやったかな」

「ああ、あの戦闘機のゲームか! オレ、将来はパイロットにもなってみたいんだよな!」


 僕は新しいオモチャとして御眼鏡に適ったのか、双子の姉弟からひっきりなしに話しかけられていた。


 でも、弟くんが次に発言を開始した直後、今まで黙っていた凛子さんが突如介入してくる。


「そういえばあのゲーム、姉ちゃんがどんなものかオレに聞いてきたんだよな。最近姉ちゃんは急にゲームに興味を持って――むぐぐぐぐ!」

「はい! そろそろあなたたちのお話はおしまい! 彼は私の部屋に連れて行くわよ」


 凛子さんは突如立ち上がり、弟くんの口を塞いでそう言った。

 僕は首を傾げ、美代ちゃんに話しかける。


「美代ちゃんも最近ゲームに興味を持ったの?」

「たしかに私も、こいつの姉ですけど……」


 美代ちゃんは少しだけ考える素振りを見せていたけど、すぐに笑うと僕に答えた。


「ええ、面白そうかなと思いまして。姉弟で私だけ遊ばないのもどうかなと思っていましたし」

「なるほど、そうだったんだね」


 僕は美代ちゃんの答えに納得する。

 すると美代ちゃんは、すぐに凛子さんへと耳打ちを始めた。


「さっきから静かにしてくれていたので、交換条件でフォローしてあげましたわ」

「くっ……!」

「あと、自分の部屋は止めたほうがいいと思いますわ。姉さんの部屋はゲームをしている人の部屋には見えないですし。墓穴を掘りたいなら構いませんけど?」

「あ、相変わらず小生意気ね……!」


 僕から顔を背けて、内緒話を始める姉と妹。

 弟くんはその横で、苦しそうに凛子さんから離れていった。


「でも、別に良いわよ? 私は彼と同じクラスなんだし、ゲームがなくとも話題には困らないもの」

「……そしたら私も、仲の良いお姉ちゃんの部屋に遊びに行くとしましょう」

「あんたね……」


 コソコソと話す凛子さんと美代ちゃん。

 でもそこで、フリーになった弟くんがスマホを見せながら言ったんだ。


「なあ兄ちゃん、姉ちゃんの部屋に行く前にさ、ちょっとオレとゲームしてくれよ。一回だけでもいいから、兄ちゃんと一緒にゲームしたいんだよ」


 それを聞いた僕は、すぐに凛子さんの方をチラリと窺った。

 僕としては叶えてあげたいその発言。凛子さんが何と言い出すのかが気になった。


 彼女たちは、すぐにヒソヒソ話を再開させる。


「……姉さん、今日はこれで手打ちにして、共闘作戦と参りませんか?」

「し、仕方ないわね。別にあなたと一緒に戦う必要はないけど、彼の趣味を持ち出されたら、私も無理にダメだとは言えないしね」


 しかしその話は、すぐに決着がついたようだった。

 直後に凛子さんはこちらを向くと、にこやかな笑顔で言ったんだ。


「空、相手してあげてくれる? 私もあなたがゲームしてるところ見てみたいし、ね?」


 僕は笑顔で頷いて、スマホを起動させる。

 弟くんのとても元気な歓声が、部屋に響き渡った。



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