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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹と歩む、これからの僕たちの世界
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五辻家のパジャマパーティ、再び


 夜。

 お風呂上がりの僕たちは、パジャマ姿で玖音さんの寝室に集まっていた。

 女性陣は三人並んで髪を乾かしながら、雑談に興じる。


「えっ、今日の夕飯、坊ちゃまだけで作った料理が混ざっていたのですか?」


 その三人の並びは、ひかりちゃんを先頭にして電車ごっこのように一列に隊列を組んだ並びだった。

 ひかりちゃんの髪を玖音さんが乾かし、玖音さんの髪を紗雪さんが乾かしている状況。


 早々に髪を乾かし終えた僕は、そんな彼女らと一緒の空間にいたんだ。


「見よう見まねだけど、お母さんの味付けに似せてみたんだ。言わずに食べさせられたらわからないくらいには、上手く出来たのかな」


 僕たちの中で一番幸せそうにしているのは、やはりひかりちゃんだろう。


 普段は自分一人で手入れをしているひかりちゃん。

 玖音さんに髪を(いじ)ってもらって、とても満足そうに目を細めていた。


「私は何がお兄さんの料理かはわかっていたのですが、それでも似ていると思いましたよ。すばらしい出来だったと思います」

「ありがとうございます」

「それに比べて私は料理どころか、同性のお世話をさせていただくことも出来ないなんて……。えっと、ひかりさん、痛くないですか?」


 玖音さんも、ひかりちゃんの髪を乾かす経験は初めてだったみたい。

 背を向けているひかりちゃんが黙っているから、玖音さんは不安になっているようだね。


 僕はすぐにスマホを起動して、ひかりちゃんを捉える。

 自然な笑顔をしているひかりちゃんを玖音さんに見せてあげようと思ったんだ。


 だから、無断撮影。

 本当はいけないことかもしれないけど、僕は理由があればひかりちゃんを撮ることに拒否感を感じなくなり始めていた。


「全然痛くないよー。むしろひかりは今、本当に最高の気持ちなんだよ~」

「そ、そうですか? 紗雪さんに比べたら技術なんて全然足りないと思うのですが」


 シャッターチャンスを窺っていた僕の前で、ひかりちゃんと玖音さんが会話を始める。

 それは僕が写真を見せなくても、ひかりちゃんの気持ちが玖音さんに伝わる会話だった。


「技術よりも、お友達にやってもらっているっていうのが嬉しいんだよ~。しかもあの(・・)くおんちゃんが一生懸命やってくれているんだよ~。感激するに決まってるよ~」

「お友達……」


 ひかりちゃんにそう言われ、玖音さんは――そして紗雪さんも嬉しそうに笑顔を覗かせる。

 それを見た僕は思わず、ひかりちゃんだけでなく三人並んでいるところを撮ってしまった。


 綺麗に撮れたその写真を、僕は彼女たちに見えるように表示させる。


「あの、ごめんなさい。勝手に撮っちゃいました。ひかりちゃんが本当に嬉しそうにしてるってところを、玖音さんに見てもらおうと思って」


 それに真っ先に反応したのはひかりちゃんで、玖音さんもそれに続く。


「わぁ~、いい絵が撮れてる~。お兄ちゃん、ひかりのスマホにも送って~」

「ひかりさん、こんなにも幸せそうにしてくださっていたのですね……」


 紗雪さんも控えめに「私もほしいかなー、なんて思っちゃうわけで」と言い出したので、僕は三人にそれぞれ写真を送った。


 早速手が空いているひかりちゃんがありがとうとお礼を言って、何やら操作を始める。

 おそらく彼女のもう一人の親友に見せてあげているのだろう。


 そこでお手伝いさんの紗雪さんが、何かに思い当たったように話し始めた。


「しかし最近感じてきていたのですが、近頃の坊ちゃまはずいぶんと女の扱いに慣れてきたような気がします」

「お、女の扱い……?」


 ぎょっとするようなことを言われ、僕は一瞬で赤くなった。

 でも信じられないことに、ひかりちゃんもそれに賛同を始める。


「わかるー。出会った頃からイヤな思いなんてさせられたことないけど、近頃のお兄ちゃんはやっとひかりとかに慣れてきてくれた気がする。昔はこんなふうに写真なんて、自分からは絶対撮ってくれなかったもん」


 女の扱いなどと言われた僕は混乱したけど、要するにひかりちゃんたちの前で変に気構えなくなったと言いたいらしい。

 それは僕も認めるところだ。さっきの写真を撮るときだって、そう感じていたし。


「ひかりさんは、どちらの坊ちゃまがお好きですか? 昔の初々しい坊ちゃま? それとも今の女の扱いに慣れた坊ちゃま?」

「どっちも~!」


 紗雪さんの言い回しは気になったけど、ひかりちゃんはそれに構わず即答した。

 彼女がそう答えるのは(とても嬉しいことに)なんとなく予想がついていたんだけど、しかし次にひかりちゃんが話し始めたのは想定外の話だった。


「でもね~、ひかり思うんだ。お兄ちゃんがひかりたちに踏み込んでくれるのって、ここから先が本当に難しいんじゃないかって」


 マイシスターは僕の目の前でなんてことを話し始めるんだろう。

 まるでもっともっと踏み込んでくれと言わんばかりの発言だった。


「あー、そうですねえ」


 紗雪さんもそれに同意し、玖音さんもこっそりと頷いていた。

 僕は何やら不穏な空気を感じ取ったので、すぐに口を挟む。


「僕は一時、荷物を置いてある和室に戻っておこうか? 女の子だけで話したいこともあるかもしれないし」

「ひかりはね~、このままのんびりと関係を進めていくのもいいかなって思ったり、もっと一気に近付きたいと思ったり、自分でもよくわからなくなってるんだよね。くおんちゃんはどう思ってる~?」


 まさかの完全黙殺だった。

 と思ったら、ひかりちゃんは言葉では僕に反応してくれなかったけど、動作で僕に手招きをしてくれていた。


 なんだろうと思った僕が近寄ると、彼女は僕の手をギュッと掴んでくる。

 まるで部屋から逃さないという意思表示のようだった。


「わ、私は……、も、もっとお兄さんと仲良くなりたいです」


 玖音さんも僕の前で、言葉を詰まらせながらだけどハッキリとそう言った。

 僕はますます顔が赤くなり、ひかりちゃんに向かって口を開く。


「ひ、ひかりちゃん、手を離してくれるかな? 僕は部屋に戻りたいんだけど」

「ヤダ。お兄ちゃんにも聞いてほしいの~」

「そ、そんな……」


 ますます強く僕の手を握りしめるひかりちゃんに、僕は困惑する。

 そこへ次に声をかけてきたのは、紗雪さんだった。


「はい、玖音お嬢様。髪のお手入れ終わりましたよ。私はひかり様のお具合を確かめさせていただくので、玖音お嬢様はお休みください。ひかり様も構いませんか?」

「はーい! くおんちゃん、気持ちよかったよ。ありがと~」

「い、いえ」


 タイミングがいいなと思った僕の前で、紗雪さんは今気付いたような声を出す。


「あら、お嬢様。坊ちゃまのお手が片方空いていますよ。とても寂しそうなので、お嬢様が握って差し上げてはいかがでしょう?」


 それを聞いた玖音さんはみるみる頬が赤く染まっていき、僕も耳にまで熱を感じ始めた。


 どうなることかと思ったのも一瞬。

 玖音さんは無言のまま、静かに僕の手を両手で包むように握ってきた。


「えへへ~」


 何故かひかりちゃんが嬉しそうに笑う。

 反面、僕はこういう雰囲気は苦手だ。

 ガクリと肩を落として、赤い顔で(うつむ)いた。


「むー、お兄ちゃん下を向いちゃった~」

「お、お兄さん、イヤでしたか……?」


 玖音さんにそう問われたので、僕は下を向いたまま首を振った。

 そして僕の代わりに、ひかりちゃんが僕の気持ちを言ってくれる。


「お兄ちゃんは嫌がってないと思う。でも、恥ずかしいんだと思うな~」

「やはり離したほうが――」

「ひかりは離すから、握ったばかりのくおんちゃんが押さえてあげていて」

「は、はい」


 女の子の間でそんな取り決めが決定されたようだけど、限界が近づいていた僕は彼女らに小さな声で言った。


「もう部屋から出ていこうとはしないから、離してください……」


 それを聞いた玖音さんは、すぐに手を離してくれた。

 とっても名残惜しそうな表情をしていたけど、かと言って僕としてもこれ以上握られていることは出来なかった。


 僕はフラフラと自分のために用意してくれた布団へと戻り、バタリと倒れ込む。


「お、お兄さん、大丈夫ですか?」

「お気になさらず。少し顔が熱いだけなので。どうぞお喋りを続けてください」


 僕は倒れたままで失礼だとは思ったけど、そのまま玖音さんに答えた。

 そんな僕を見て、ひかりちゃんが小声で言う。


「お兄ちゃんはくおんちゃんの握手が一番慣れてないみたいだね。くおんちゃんにしてみれば寂しいことかもしれないけど、逆に言えば一番効果があるのかもしれないね~」


 みんなが静かにしている状況だったので、僕の耳はその言葉を逃さず聞き取ってしまい、余計に恥ずかしかった。




    ◇




 僕はまだ顔が赤くなって、恥ずかしさに耐えきれなくなるときがあるみたいだ。

 でもそうは言っても、自分がひかりちゃんたちに慣れてきているのも事実。


 僕は玖音さんの部屋で気付かぬ間に眠っていて、目が覚めたらもう夜が明けていた。

 友達の女の子の部屋でいつの間にか眠りに入るだなんて、自分でも彼女たちに慣れてきたと実感できる事態だった。


「(当たり前だけど、みんなまだ寝てる……。昨日はどんな話をしたのかな?)」


 僕は彼女たちを起こさないように布団から出ると、お手洗いを借りに外へと出た。


「(寒い。もうすっかり秋だなあ)」


 お手洗い等を済ませた僕は、肌寒さを感じる秋の早朝に驚いていた、

 荷物が置いてある部屋に戻り上着を着ると、すっかり目も冴えてしまっていた。


 それでも余所の家であまり出歩くのも不味いかと思い、玖音さんの寝室に戻ろうとする。

 するとその戻り際に、朝の清々しい五辻家の日本庭園が目に入った。


 なんとなくそのまま縁側からそれをボーッと見つめていると、静々とした足音が近付いてくる。


「おはようございます、お兄さん」


 玖音さんだった。

 パジャマに上着を羽織り、手にも服のようなものを持っていた。


「眠気はなくなってしまったのですか?」

「そうみたいです。かなりぐっすりと眠っていたみたいなので、気持ちよく目覚めることが出来ました」


 僕は玖音さんにそう答えると、逆に彼女に質問する。


「静かに出てきたつもりですが、ひょっとして起こしてしましましたか?」

「私は紗雪――、いえ、私もたまに早起きしたりするので」


 玖音さんは何かを言いかけ、でもすぐにそれを取りやめて曖昧(あいまい)な答えを言った。

 そして彼女は、急いで言葉を付け足してきた。


「お兄さん、目が覚めてしまったのなら、私とゲームのお話しませんか? 年末にかけては大作がたくさん出るじゃないですか」


 僕は先ほどの玖音さんの言動は気にならずに、新たな発言のほうに興味を惹かれた。

 ゲームの話は大好きだし、それに今までこうやって話せる友達なんて、僕には一人もいなかったから。


「お相手が僕でよろしければ」


 笑顔でそう言うと、彼女も笑ってくれた。

 僕は玖音さんにつれられ、縁側を歩き始める。


「あれ、玖音さんの持っているその服、男物ですか? 少し大きいような?」

「こ、これはお兄さんが……、い、いえ、寒かったら厚着しようかと思ってただけで」

「なるほど。季節の変わり目ですからね。今日だって急に寒くなったと感じましたし」

「そ、そうですよね。ところでお兄さん、年末の新作と言えば、あのゲームが出ますよね?」

「あのゲームとは……、ひょっとして玖音さんのお父さん好みのあのゲームですか?」

「はい、そのとおりです」


 玖音さんは自室から違う場所に僕を誘導してくれていた。

 日本家屋は防音性が低い。寝室で寝ているひかりちゃんを起こさないようにする配慮だと思った。


「でも実は、父もお兄さんと一緒にそのゲームをやってみたいと言ってまして……」

「僕とですか? それは構いませんが、緊張しそうですね」

「私も、久しぶりに父と同じゲームをやってみようかなって気になっていまして」

「それはお父さんは喜びそうですね」

「その機会には、ぜひお兄さんも一緒によろしくお願いします」

「え? 僕はお父さんと玖音さんの親子水入らずの場所にお邪魔するつもりは……」

「なんだかんだで、父もゲームをしていれば機嫌はいいと思いますよ。ぜひお願いしますね」

「は、はぁ……」


 結局ひかりちゃんが起きてくるまでは、玖音さんとお喋りをして過ごした。

 紗雪さんはすでに起き出してきていて、お茶とかを出してくれていた。


 後から考えてみれば、パジャマ姿の玖音さんと二人だけでずっと話していただなんて、やっぱり僕も成長したのかなと思わされる出来事だった。


 玖音さんも僕の隣に座って一緒の画面を見せてゲームの説明をしたりと、妙に積極的だったと思う。

 思えば彼女も出会ったばかりの頃に比べると、見違えるように変わった女の子だ。


 昨日は早く寝ちゃって話の顛末(てんまつ)はわからなくなったけど、僕は今のまま穏やかに彼女たちと過ごしていければいいと思うんだけどなあ。



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