彼女とともに最前線へ
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修正しました。話の流れに大きな変更はありません。
詳しい修正内容は活動報告にまとめておきます。
試合が進むに連れて、凛子さんの僕への視線が変わってきていた。
「左の青い家。窓から投入」
「は、はい」
ドン。
「突き当りの壁の裏。山なりに後ろへ落ちるように」
「わ、わかったわ」
どかん。
「そこの橋の下に逃げ込んだね。多分川を渡ろうとしてる。でも大丈夫。手榴弾は水の中でもちゃんと爆発するよ」
「や、やってみる」
ぼふん。
僕の指示で凛子さんが手榴弾を投げるたびに、彼女のキルが増えていく。
もちろん僕の読みが外れたり凛子さんが投擲に失敗することもあるけど、凛子さんの手榴弾はかなりの確率で敵を倒して来てるんだよね。
「ね、ねえ、相手は同じ人間なのよね?」
「そうだね。全員が全員、僕たちと同じ人間だね」
「それなのに、あなたは相手を手のひらで転がすように仕留めてない?」
「うーん……。伊達に長くやってないからかなあ。それに、ヒヤッとした時も何度かあるよ」
「ぜ、全然余裕そうなんだけど……」
尊敬と畏怖の念をこめて、といった感じの視線で僕を見る凛子さん。
ちょっと照れくさいけど、幻滅されたりしないかな。
「あまり余裕はなくなって来てるかな。今までが順調すぎるんだよ。そろそろ戦闘が激しい地域に入ってくるし、いつどこで何が起こっても――おっと」
「きゃ!」
偶然建物から出てきた二人組と遭遇。
凛子さんが慌てて銃を敵に向ける。
しかし、その前に。
ズダンという轟音が立て続けに起こり、二人組はすぐに地に倒れた。
手榴弾が爆発した音ではない。先ほど僕が相手プレイヤーから奪った武器の発射音だ。
「うん、評判通りのすごい武器だね、これ」
「……相変わらず一瞬で倒すわね。ショットガン、だっけ。そんなに強いの?」
実は僕、凛子さんにこのゲームを教えてと言われたときに、スマホを駆使してこのゲームのことを散々検索したんだよね。
その時出てきた情報の一つに、このショットガンが強いという話題があったんだ。
「そうだね、元々ショットガンは至近距離に特化した武器なんだ。普通の銃と違い、小さな弾を一斉にばら撒く銃なんだよね。日本名の、散弾銃って名前のほうがわかりやすいかもしれないね」
「散弾銃……、弾を散らす銃、なるほどね」
「凛子さんが使っている銃がホースで水をかけると例えるなら、ショットガンはバケツで水をぶっかけるようなものなんだ。凛子さんの武器――ライフル系はそんな感じで距離を問わず攻撃できるけど、ショットガンは目の前に一気に弾をばら撒くしか出来ない」
「でも、ホースで水を掛けられるよりは、バケツでドバッと水を掛けられたほうが瞬間的にずぶ濡れになるってことなのね」
「その通り」
厳密に言えばショットガンにもスラッグ弾なるものが存在するけど、まあここでは割愛してもいいよね。
「そっか、もう一つわかったわ。遠い場所は私に遠投させているから、あなたは近くに気を配ればいいのね」
「うん。遠距離の凛子さん、近距離の僕。役割分担だね」
強いと評判の近距離の武器と、僕の指示による凛子さんの手榴弾。
この二つで僕たちは、今のところ負けなしで進軍出来ているんだよね。
「まあでも、さっきも言ったようにこれからますます戦闘が激しくなってくるからね。そろそろ初めて倒されちゃう覚悟もしておいてね」
「うん、どんなにすごいスポーツ選手だって、プロの世界で全勝っていうのはありえないよね」
「そういうこと」
とはいえ、おめおめと凛子さんを危険にさらすつもりはない。
奥の手もちゃんと準備してるし、彼女のやられた回数は最小限に抑えられそうかな。
と、そこで、ありがたいことに試合を優勢に進めてくれていた味方チームが、敵チームの反撃を受ける。
「……あ、近くの制圧目標、敵チームに占拠されちゃったね」
「陣取りゲームなのよね? 今のルール」
「そうだね。設定された目標ポイントを制圧していくルールだね」
「なら、こっちのチーム負けちゃうの?」
「このまま向こうに占拠され続けていたら負けちゃうね。激戦区になるけど、取り返しに行こうか」
「ど、どこへでも、あなたが向かう場所についていくわ!」
凛子さんが緊張しながらも力強く言うのを聞いて、僕は笑顔で頷いた。
「じゃあ行こうか。でも、あっさり負けちゃうかもしれないから、期待しないでね」
僕は笑ったんだけど、凛子さんはその言葉に眉をひそめる。
「……そこでそんな台詞を言うのが、いかにもあなたらしいわね」
そうして彼女が次につぶやいた言葉は、小さすぎてマイクもほとんど拾ってくれなかった。
「あなたの期待しないでね、という言葉は逆効果になっているんだけど、いつになったら気付くのかしらね」
凛子さんをピッタリと従え、僕は市街地を突き進んでいた。
「あそこの建物を制圧するよ。まずは僕がさっきやったようにスタングレネードを投げ入れるから。で、凛子さんはそれが爆発したら三秒数えて手榴弾を投げ入れてね」
「さ、三秒数えるのね。わ、わかったわ」
「絶対にお願いね。では開始」
スタングレネードとは、爆発時に強烈な光と音を出して、相手の視覚、聴覚などを一時的に麻痺させる手榴弾の一種だ。
ほとんどの場合殺傷能力を持たず、敵を無力化することに特化している。
そんな手榴弾を、僕は建物内に投げ入れる。
とっさに耳を澄ませるけど、残念ながら中の物音は確認できなかった。
だけどそれでも、僕はスタングレネードが爆発した瞬間に建物内に飛び込んだ。
後ろで凛子さんが「えっ!?」という声を上げたのがわかったけど、僕は彼女を信用し、一切の行動を止めることはなかった。
僕は突入と同時に、無作為にショットガンを乱射する。
ズダン、ズダン、ズダン。
しかし、その射撃で敵を倒すことは出来なかった。
建物内に敵が待ち構えていたのはわかっていたけど、その敵もさるもので、ちゃんとグレネードを物陰に隠れてやり過ごしたみたいだね。
でも、状況はまだ僕の思惑通りに進んでいた。
僕は現在有名になっているであろうショットガンを物陰辺りに連射し、そして撃ち尽くした。
そんな僕の足元へ、コン、コンと鉄製の物が転がってくる。
僕は笑いながら、建物の外へと退避した。
そして凛子さんの手榴弾が、炸裂する。
ドン。
念の為僕が奥の手を取り出して再度建物内に突入してみたけど、もう動くプレイヤーは誰もいなかった。
「うん、すごく上手く行ったね。よし、凛子さん、建物内に隠れよう」
僕はそう彼女に告げて、ショットガンのリロードを開始しながら建物内へと隠れる。
恐る恐るといった感じでついてきた凛子さんは、やはり控えめに僕に声をかけてきた。
「あ、あのね、さっきから手榴弾を投げるたびに勲章がすごいことになってきてるんだけど……」
「そうだろうね。凛子さんはすでに十二人も連続でキルすることに成功しているんだ。この場合の連続とは、一度も倒されずにって意味ね」
「そ、そうなんだ。だから色々と送られてくるのね」
「しかもさっきは一発の手榴弾で三人も同時に倒せたんだよ。こんなに上手く行くとは思わなかったよ。やったね凛子さん」
「あ、うん……。それって私の台詞なんだけど……。さっきから不気味になるほど上手く行き過ぎているんだけど……。あなたが超能力か何かを使ってるのかと思えるくらいよ」
ひどいことを言われてしまった。
僕は真っ当な人間のはずなのに、不気味とか超能力とか言われちゃったんだ。
でも思い返してみれば、昔化け物呼ばわりされたこともあったっけ?
「超能力じゃなくて、色々と駆け引きがあるんだよ」
「か、駆け引きね……。そういうものかしらね」
僕はさっきの戦闘の駆け引きを、凛子さんに説明し始める。
「今回の駆け引きも要は単純なものだよ。僕がグレネードで先手を取って、建物内でショットガンを乱射し始めたでしょ。敵は後手に回ってしまい、反撃の機会を窺っていたんだ。そこへ僕が全弾撃ち尽くして、弾切れを起こす」
「……なるほど。相手は無防備になって逃げ出したあなたを追いかけて、私の手榴弾に引っかかっちゃったのね」
「そういうことだね。三人も引っかかるとは思わなかったけどね」
「言われてみれば、ああそういうことね、ってわかるんだけど……、でも……」
凛子さんは駆け引きの内容はわかってくれたけど、まだ納得出来ていない様子だった。
まあ、駆け引きはもう少しだけ複雑な面があって、今強くて有名になっているショットガンだから、装填された弾数もその弱点がリロードにあることも、敵プレイヤーはわかっているかなと僕は考えていたんだよね。
そして、それがわかっているプレイヤーなら、おそらく同時に強い武器であるショットガン自体への『恨み』もあると思ったんだよね。だから絶対に殺してやろうと飛び出してくるかなと、僕は予想したんだ。
だけど、それ以上会話をしている暇はなくなってしまった。
僕の目に、ある情報が飛び込んでくる。
「んー、でも、そろそろお話はおしまいかな。悠長に建物内に隠れてる場合じゃなくなってきたよ」
「そ、そうなの? ここ狙われてるの?」
不安げな凛子さんに、僕は現在の状況を伝える。
「僕たちは安全だと思う。でも、味方が危険かな。制圧ポイントは複数あるんだけど、味方の本陣近くの制圧ポイントも敵側に落とされそうになっているんだ。かなり攻め込まれちゃってるね」
「ご、ごめんなさい。私が変にあなたに楯突いて話を長くさせちゃったりしてるからよね?」
「ううん、僕は凛子さんに楯突かれたとは思ってないし、疑問に思うことは良いことだよ。それに、こういうのは引率役の責任だしね」
「……引率役の責任……」
凛子さんが僕の台詞をつぶやくも、僕は気にせず、倒した敵の装備から手榴弾を回収する。
「よし、じゃあ味方の救援に行こうか。はいこれ、凛子さんの新しい手榴弾だよ」
「ありがと。前から思ってたけど、あなたって責任感強いよね」
凛子さんに手榴弾を渡すと、彼女から意外な言葉が返ってくる。
僕はすぐに自分の考えを言った。
「責任感が強いのは凛子さんのほうでしょ。ボッチの僕にも隣の席だからって声をかけてくれてたし」
すると、彼女もまた、僕の発言が意外だったみたい。
しばらく目を丸くして驚いていたけど、突如苦笑すると、僕に言ってきた。
「時間なかったのよね。この話はここまでにして、味方を助けに行きましょうか」
「あ、そうだね。さすが凛子さん。僕はついうっかりしちゃってたよ」
「あはは……」
彼女は乾いた笑みを浮かべ、そして小さな声で何かをつぶやいた。
「あなたに責任感から声をかけただなんてことは、ただの一度もないんだけどね」
だけど、僕はもう凛子さんから試合のほうに意識を切り替えていた。
ゲーム内で、敵チームが目標を制圧したというアナウンスが流れる。
僕は色々な情報から、そこに行かずに逃げることも考えた。
でも、チームのためには僕たちも力を合わせるべきだったし、何よりそろそろ一度倒されるという経験も味わってもいいかなと思い直す。
「じゃあ、行こうか。目標地点は公園だよ。なるべく最短距離で向かうから」
「わかったわ。私は必死でついていくから、あなたのペースで走っていいわよ。それでも私、あなたから離れるつもりはないから」
「頼もしいね。じゃあちょっと急ぐから、遅れそうになったらすぐに声をかけてね」
「了解!」
僕たちは戦場の最前線へと向かう。
でも、僕は気付いていた。
その制圧ポイントを奪取するのに活躍したのは、あの凛子さんが最初に倒した上級プレイヤー、大佐だということに。




