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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹とゲームを遊んでいたら、僕の世界がますます賑やかになっていく件
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お嬢様には出来ないこと


 メグさんの誕生日が目前に迫っていた。

 ひかりちゃんたちは準備に忙しくなり、参加できない僕は彼女たちのフォローに回るも、手が空く時間が増えていた。


 そんな中、同じくパーティに参加しない女の子が僕を誘う。

 最近ゲーム仲間を探し始めたらしい、隣の席の凛子さんだ。


「よし、彼ってばいい感じに興味持ってくれてる。今日は楽しい一日になりそう」


 日曜日のリビング。

 僕は凛子さんと二人きりで、ゲームの準備をしていた。


「お羊羹のときは役に立たなかったけど、今回の作戦は当たりみたいね。戦争ゲームとは、いいアイディア出してくれたものだわ。たしかにお嬢様には荷が重いゲームよね」


 凛子さんも本当にゲームが好きみたいで、楽しそうに準備をしている。

 彼女が僕に一緒にやろうと誘ってきたゲームは、最近発売された旬の対人FPSだった。


 ひかりちゃんたちとは、ゾンビと戦うFPSで遊んだりしたことがあるけど、プレイヤー同士で戦う対人FPSは遊んだことがない。

 だから僕にとっても、凛子さんのお誘いは新鮮だった。


「……でも、私の分のVRゴーグルとか本当に必要なかったの?」


 そこで凛子さんが、心配そうに僕に尋ねてきた。

 僕は笑って彼女に返事をする。


「大丈夫だよ。これからもずっと、僕の家に来るときはゲーム関連の機材は何も持ち込まなくてもいいよ」

「……ずいぶんと大きく出てない? ゲームって何だかんだでいろんな機材が必要じゃない?」

「まあ、僕の唯一の趣味だし、色々あるんだよ」


 厳密に言うと、趣味プラスみんなが遊びに来るから。

 だから人数分の機材もあるんだね。


「はい、VRゴーグル。ちゃんと拭いて消毒もしてあるから」

「……あなたってやっぱり潔癖症なの?」

「え、いや僕が使ったことがあるゲーム機器だから、万が一にも不快感を感じないようにと思って」

「……やり過ぎじゃ」


 ピカピカにしてゴーグルを渡すと、微妙そうな顔をされてしまった僕。

 そういえば玖音さんともこんなやり取りしたような気がする。


「はい、ライフルもどうぞ」

「ありがとう」


 準備が整ったので、僕もVRゴーグルを被ろうと手に取る。

 すると凛子さんが、慌てて僕に話しかけてきた。


「ちょ、ちょっと待って。準備これだけでいいの? 弟とかもっと、色々体にくっつけたりマット敷いたりしてたけど」

「あ、うん……。僕の家はいつもゲームしてるからね。準備が簡単になるように工夫してるんだよ」

「そうなんだ」


 僕の家のリビングはVRゲームを遊ぶことに特化しつつある。

 メグさんが色々えげつない機械をプレゼントしてくれたんだよね。僕の誕生日プレゼントの一環として。


「それじゃ、始めようか。凛子さんはこのゲームやったことあるの?」

「き、きた。ちゃんと答えなくちゃ。……えっと、実は初めてなのよ。でも話を聞いていると、今人気出てて面白いって評判らしくてね。私もやってみたいかなって思ったのよ」


 何気なく質問した僕に対し、凛子さんはまるで台本を読み上げただけのような不自然さを感じる口調で返事をした。


 とはいえ、彼女の言ってることは何も間違っていない。

 今から始めようとしているゲームは、少し前に発売されたばかりの『今が旬』の対人FPSだ。


 派手な戦争を体験できるゲームで、プレイヤーは歩兵から戦車、戦闘機のパイロットまで、フィールド上にあるものを何でも利用して戦うことが出来る。

 ガチのFPSというよりは、どちらかと言えばハチャメチャなお祭りゲームとして有名なタイトルなんだね。とにかく人の生き死にが軽いゲームなんだ。


「あ、あなたはゲームいっぱいやってるんでしょ? だからちょうどいい先生だと思ったのよ。よかったら、て……、手取り足取り教えなさいよね!」


 どうやらそういうことらしい。

 少し用意された会話っぽさはまだ残ってたけど、彼女の言い分は今もおかしなところは何もなかった。


 実のところ僕もこのゲーム自体は初めて触るんだけど、でもFPS自体は慣れたものだし、最近話に聞いたばかりの凛子さんよりは動けるはず、だよね?


 僕は決心すると、彼女に笑いかけた。


「わかった。僕が教えられることはあまりないかもしれないけど、それでも僕で良ければ頑張って教えるね」


 ところが凛子さん、僕の顔を見た瞬間、いきなり顔が真っ赤になっちゃった。


「え、あ、あの空がこんなに大胆に……?」


 僕は首を傾げる。


「ごめん。そんなにおかしなことだったかな。僕はゲームが唯一の取り柄みたいなものだから、凛子さんにも教えられるかなって思ったんだけど」

「て、手取り足取り……?」

「え? うん、出来るだけ丁寧に教えるつもりだけど」

「ふわぁぁぁ……!」


 どうしたことか、凛子さんから蒸気が出ている。

 いつも出来の悪い弟みたいに思ってた僕が、たまに強気に出たから驚いちゃったのかな。

 でも、僕がゲームばかりしてるのは本当だし、少しくらいは凛子さんに教えられることもあると思うけどなあ。


 彼女はそんな顔を見られたくなかったのか、慌ててそっぽを向いてしまった。


「や、ヤバ。彼ったらゲームになると人が変わるタイプだったり? てっきり真っ赤になるかと思ったのに、全然爽やかに笑いかけてきたんだけど……!」


 そうして彼女は何やらつぶやいた。

 僕の心に、またいきなり怒られなければいいなあという思いと、凛子さんなら理不尽には怒ったりしないよね、という気持ちが同居する。


 果たして彼女が振り向いた時には、機嫌を直してくれたのか薄っすらを微笑が浮かんでいた。


「じゃ、じゃあ教えてもらおうかしら。ううん、教えてください。頼りにしてるね、隣のあなた!」

「あ、う、うん。隣の僕です、はい……。頑張って教えるね?」

「よ、よろしくお願いします……!」


 なんだか鼻息が荒い凛子さんに気圧されながら、僕は彼女に言った。


「じゃ、じゃあとりあえず、チュートリアルに行ってみようか」

「へ? チュートリアル? 手取り足取りは?」

「うん? この手の大手のゲームのチュートリアルは、実に親切に作られてる場合が多いよ。まずはそこで様子を見てみようか」

「わ、わかったわ。……あれ?」


 若干引っかかりを覚えていたような凛子さん。

 それでも彼女は僕に言われて、ゲームのチュートリアルを開始したんだ。




    ◇




 凛子さんは勉強も出来るし、運動神経だって悪くない女の子だ。

 それに弟さんの影響なのかゲームもやっていたみたいで、初めて触るFPSでもそれなりの動きでチュートリアルをクリアしていた。


「うん! 凛子さんすごいよ。特に移動に関してはほぼ完璧だね。射撃の腕前も、筋は悪くないよ。ちゃんと最後には狙った目標に命中させてたね!」

「……どういたしまして」


 僕は彼女を絶賛する。

 しかし何故か、上手にいっているはずの凛子さんが、さっきから微妙にご機嫌斜めだ。


「結局私の体には指一本触れてこないし。そりゃそうよね。手取り足取りって言葉通りの意味じゃなくて、懇切丁寧(こんせつていねい)って意味よね。うん、知ってたわ」


 やっぱり何やら不満そうにブツブツ言ってるし、凛子さんはこんな成果を上げても、まだ納得してないのかな。


「ええと、どうしよう。凛子さんはまだ練習してみる? それとも早速一人で試合に出てみ――」


 僕が控えめに声をかけるとその途中で凛子さんが、ギラリと目を輝かせながらこちらに振り向いてきた。


「この上、まだ私を一人にするわけ……?」


 この、凛子さんの時折見せる凶悪とも言える迫力は一体なんなのかな。

 僕の心臓の負荷テストでもしてくれているのかな。


「い、いやね、凛子さんは未経験者だから、未経験者だけが集まる試合会場に入れる――」

「一人にするわけね?」

「い、いえ、僕もご一緒させてください」


 隣の席の女の子に屈し、僕は下を向きながらそう答えた。

 凛子さんには初心者サーバーで試合の雰囲気を楽しんでもらおうかなと思っただけで、決して放置するつもりじゃなかったんだけどなあ。


「じゃ、じゃあ僕と一緒に試合に出るんだね?」

「当たり前でしょ。絶対に別れるなんてイヤよ」

「は、はい……」


 僕はこのゲームを触るのは初めてだ。

 だから本当は凛子さんと同じ初心者サーバーにも入れるんだけど、事実上の経験者が初心者に混ざるわけにもいかないよね。


 だから僕と一緒なら、凛子さんもめちゃくちゃ強い上級者がいるかもしれない試合に参加しなくちゃいけなくなるんだけど……。


「うーん」


 そこで僕は少し考える。

 どうやったら、僕と一緒で凛子さんにも楽しんでもらえるかな、と。


 始めたばかりでわけもわからず何度も殺されてしまうのも対人FPSの醍醐味の一つかもしれないけど、この手のゲームに初めて触るっぽい凛子さんには少し酷な楽しみ方だよね。

 なんとかして、凛子さんにも楽しんでもらえる方法はないかな。


 しかし、そんなに長い間考えたわけじゃないんだけど、凛子さんが不安になるには十分な時間だったみたい。

 彼女は僕の様子を見ると、一転して不安そうな声で話しかけてきた。


「あ、む、無理ならいいのよ? ワガママばかりを言うつもりはないわ」


 僕はその言葉に苦笑する。

 せっかく先生役に指名されたんだし、何か一つはいいところを見せたいよね。


「無理じゃないよ。でも、ならもうちょっとだけ僕に付き合ってもらえるかな。一緒にあることの練習をしよう」


 地味な練習のお誘いだったけど、凛子さんはワガママを聞いてもらえたと思ったのか、一瞬で笑顔になって僕に答えた。


「うん! どこでも一緒に行くわよ!」


 あることの練習。

 僕が考えたのは、手榴弾の扱いだった。



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