いつも隣りにいる二人
せっかくの連休に遅くなってすみません。
これからも頑張ります。
凛子さんは僕の家に来てから、その後数日ほど昔の彼女に戻ったようだった。
僕とは挨拶をする程度で、たまに手が空いた時に世間話をしてくれる距離感。
それは冷たい口調で問い詰められるより何百倍も嬉しかった。
おかげで僕はこの数日間、実に心穏やかに暮らすことが出来たんだ。
しかし、それは一時的なものだった。
ある放課後、帰り支度をする僕の前に、凛子さんは再びヌッと音もなく立ちふさがったんだ。
「今日、あなたの家に行くわよ」
「あ、う、うん。決定事項なんだ……?」
凛子さんにそう言われた僕は、おとなしく従う他なかった。
でも、凛子さんはただ闇雲に僕の家に来ると言い出したわけではないはず。
突然のことに驚かされた僕だったけど、すぐに落ち着きを取り戻し、彼女と並んで教室を出る。
「前よりは、ずいぶんと落ち着いているのね」
凛子さんはひかりちゃんとは逆の隣に立つ癖があるみたい。
と、そんな考えていると、その凛子さんから声をかけられる。
「あ、うん。連絡取り合った上で、今日来ることにしたんでしょ?」
僕は学校だから、主語を抜いてそう答えた。
凛子さんとひかりちゃんは電話番号も交換しているみたい。
だから今日も、凛子さんはひかりちゃんと話し合った上で僕の家に来ることを決めたんだと思う。
「そうね。先に連絡させてもらったわ」
「だよね。なら、心配する必要ないかな」
僕は晴れやかな気持ちでそう答えた。
凛子さんもひかりちゃんも、心優しい女の子だ。
友だちも多い二人だし、きっと仲良くなれるはず。
あるいはウマが合わないという可能性もあるかもしれないけど、それならそれで、きっと上手に大人のお付き合いをしてくれるはずだと思う。
そんなことを考えながら歩く僕を見て、凛子さんは小さくため息をつく。
「……そんなに信用されちゃってるなら、おちおち言い争いも出来ないわね」
僕は慌てて彼女に問い返した。
「い、言い争いになっちゃったりするの!?」
「どうかしらね。私はならないと思うけどね」
「そ、そうだよね。なるわけないよね。本当に驚いちゃったよ」
その発言は凛子さんのイタズラだったみたい。
いや、僕が過剰に反応しただけかな。
あの凛子さんとひかりちゃんが会うんだし、二人が大喧嘩を始めるなんてありえないよね。
そう思い直し、僕は再び前を向く。
凛子さんは平静さを取り戻した僕をチラリと見ると、小さく口を開く。
「ずいぶんと気楽なものね。私は大勝負のつもりで緊張してきてるのに」
学校内は放課後になったばかりで、学生の騒ぎ声に包まれている。
僕は彼女が独り言を言ったのか僕に話しかけたのかわからず、聞き返した。
「ごめん、聞き取れなかったよ。もう一度お願いしていいかな?」
凛子さんは苦笑すると、今度はもう少し大きめの声で言ってくれた。
「ずいぶんと余裕あるのね、と言ったのよ。さっきから結構見られてるけど、あなたも堂々としたものよね」
「え? あ、あ……」
彼女に言われて、僕は今さらながらに周囲の目が気になり始めた。
ひかりちゃんで慣れてきていたのもあるし、凛子さんとは元々クラス委員で一緒に歩いていたこともあるから油断してたんだよね。
「そ、そんなに僕たち見られてたの?」
「お似合いの二人だと思われてるのかもね。この前も仲良く一緒に帰ったし」
「そ、そんな……」
僕はすぐに凛子さんに耳打ちをする。
「は、離れたほうが良いよね。僕は先に校門を出ておくから、凛子さんは後から出てきてね?」
彼女は今一度苦笑すると、即座に返事を返してきた。
「冗談よ、冗談。今さら私たちのことを珍しいって思いながら見ている人なんていないわよ」
「じょ、冗談なの? ひどいよ凛子さん。僕はさっきから本当に驚かされているんだよ?」
「ふふ」
僕が抗議の声を上げても、凛子さんは楽しそうに笑うだけ。
さすがにもう少し文句を言ってもいいかなと思った僕は、でもそこでおかしな違和感に気が付く。
「あれ、でも珍しい風に見られないって、それってもう僕と凛子さんは一緒にいるのが当たり前って思われてるってことじゃ……」
僕のつぶやきに、隣の席の彼女は笑いながら半歩近付いてくる。
「だって、一人ぼっちのあなたに声をかけるのは私くらいなんでしょ?」
「な、なんだ、そういうことだったんだね。それならたしかに僕はグループとか作るときにもいつも凛子さんに拾ってもらってるし、今もまたかと思われるだけなのかな?」
「そうそう。だから気にすることなんてないのよ」
「う、うん……」
僕は凛子さんに押され、流され、彼女に頷いた。
背中にぬるっと嫌な汗を掻いていたけど、気のせいだと思い込みながら、僕は歩き続けた。
◇
ひかりちゃんには凛子さんが来るという連絡がいっているみたいだったから、僕はメッセージを送ったりせず、そのまま帰宅した。
だけどそれは間違いだった。僕はひかりちゃんが最初からこんなに全力で来るとは思ってなかったんだ。
「いらっしゃい、凛子さん。おかえり、お兄ちゃん!」
玄関を開けた僕たちは、すぐに飛び込んできた美少女の笑顔に仰天した。
なんとひかりちゃん、凛子さんが来るのを知っていたはずなのに、いつものように玄関から見える位置に座って僕たちを待っててくれたんだ。
「な、なにあの出迎え。もしかして私、警戒されて先手を打たれちゃってるの?」
家に入り手を洗う僕に、凛子さんが素早く耳打ちをしてくる。
僕は仕方なく、でも言いたくないなと思いつつ、凛子さんに返事をした。
「じ、実はひかりちゃんのあの出迎えは、特別なことじゃないんだ。ひかりちゃんはいつも僕のことを、ああしてすぐに出迎えてくれるんだよ」
「……じ、自分から?」
「うん……、止めてって言ってもSNSとかしてるから平気だって言って続けてくれてるんだ」
「あ、あんな、嫁が旦那の帰りを三つ指ついて待ってるような状態が、毎日続いてるの?」
「その表現が全面的に正しいとは思えないけど、ほぼ毎日続いてるのは間違いないね……」
「…………」
僕がそう言うと、凛子さんは真っ青な顔でフラフラと後ずさっていった。
そんな凛子さんに、今度は僕から近寄って小声で話しかける。
「だ、大丈夫? 僕は着替えてこようかと思ってたけど、ひかりちゃんと二人っきりにならないほうがいい?」
それを聞いた凛子さん、顔色は悪いままだったけど、強い口調で僕に答えた。
「ぜ、全然平気よ? 私のことはどうぞお構いなく。いつものように過ごしてちょうだい!」
「そ、そう? ならお言葉に甘えようかな……」
強がっているだけのように見える凛子さん。
だけど、それを指摘すれば怒られちゃうような気がした。
「じゃ、じゃあすぐに行ってくるね」
「……普段通りでいいのに」
着替えるなどと言い出さずに、そのまま二人から目を離さずにいたほうがよかったかなと思ったのは、部屋に帰ってからだった。
凛子さんは用意周到なことに、手土産を持ってきていた。
前に玖音さんにも出したことがある、美味しい羊羹。凛子さんもここから遠くない場所に住んでるみたいだし、同じ店を知ってたみたいだね。
「くっ……、みんなで決めた通っぽいお店で一番高いの買ったのに、さも当然のように食べたことがある品だったなんて……。この人たち、普段から何を食べて暮らしてるのよ?」
僕の隣で、俯きがちに何やらつぶやく凛子さん。
これはあれかな、隠れた名店を教えてあげようと思ったのに、僕たちがすでに知ってて残念がってるのかな。
たしかに僕たちの年齢でお羊羹の名店とかを知ってるのは珍しいよね。
僕としては、凛子さんも同好の士だったとわかって嬉しいんだけどなあ。
「そ、それに何よあの妹さん。私が隣に座ってるのに全然余裕そうじゃない。最初から私の段取りがことごとく狂わされていってるわ」
凛子さんはチラチラとひかりちゃんを見たりもしていた。
やはり他人の家で家主と会うのは緊張してるのかな。
対するひかりちゃんは、いつものようにニコニコ笑ってるだけだけど。
「でも、私だって負けるつもりで来たわけじゃないんだから……!」
しかし、そこで凛子さんは気持ちを切り替えたようだった。
姿勢を正し、ニコニコと笑うひかりちゃんに微笑み返す。
「ひかりさん、改めて自己紹介させてもらうわね。私は暁凛子。彼――いえ、空くんのクラスメイトです」
そして、凛子さんはそう切り出した。
「空くんの妹のひかりです。漢字はお日さまの光、です」
ひかりちゃんも静々と丁寧に頭を下げて応じる。
僕はこのまま和やかに会話が始まっていくんだなと思い、緑茶を一杯口に含む。
でも、顔を上げたひかりちゃんはさっきのニコニコ顔に、そして口調も元に戻っていたんだ。
「でも凛子さん、ひかりのことは気にせず、いつも彼って読んでるならそのまま彼呼びでいいよ~」
「い、いいの?」
僕はお茶を零しそうになってしまった。
ひかりちゃんが自分のことを名前で言ったのもそうだったし、凛子さんの言い間違いを取り上げたのにも驚いた。
凛子さんも一時は呆気にとられたようだったけど、すぐにムッとなったように言い返す。
「彼とはもうずっと席が隣同士なの。他でも何かあればいつも一緒のグループだったし、彼も私のことをクラスで一番仲が良いって言ってくれてるの」
ゲホゲホと僕はむせ返る。
凛子さんも、なんでムキになって僕のことを彼って呼ぶの? それとも本当に、いつも僕のことを他では彼って言ってたの?
咳き込む僕を置いて、ひかりちゃんは感心したように目を丸くする。
「おぉ~。そうなんだ~」
「そ、それだけ? ……まあ、だから私、パッと出の女ってわけじゃないから。それだけはわかってほしいの」
「はーい、わかった~! ずっとお兄ちゃんのことを見てくれてたんだね~!」
ひかりちゃんの反応に、凛子さんはギギギとぎこちない動きで僕に振り向く。
「……この子、実の妹じゃないのよね?」
「う、うん。あんな美人さんと、僕が実の兄妹なわけないよ。それより僕は、クラスで一番仲が良いって話のくだりが気になっているんだけど……」
僕が弱々しく口を開くと、凛子さんの視線が鋭くなる。
「違わないわよね? あなたはクラスの中で、いえ、学校全体でも、私が一番仲良しの相手よね?」
「はい……。それはそうなんですけど……」
僕を目力で封じ込め、凛子さんは再びひかりちゃんへと向き直る。
「それと、私、夏まではアルバイトしたり下の姉弟の面倒を見てたりして忙しかったけど、二学期からは単身赴任してた親も帰ってきて、自分の時間が取れるようになったのよ」
「お~、凛子さんはお姉ちゃんなんだね~。おつかれさま~」
「あ、ありがと」
そこで僕も初めて、凛子さんの面倒見の良さの理由を垣間見た気がした。
ボッチの僕にも声をかけてくれる優しさを持つ彼女は、家でも幼い姉弟の面倒を見てあげてきてたんだね。
「そ、それで、その……」
しかし、そこで凛子さんが言い淀む。
どうしたことかと彼女を見ると、凛子さんは横目で僕を見つつ恥ずかしそうに頬を赤らめ、言い出しづらくなっているようだった。
僕は彼女の心情がわからず首を傾げる。
しかし、ひかりちゃんは優しい笑顔で凛子さんを見つめていた。その表情は、何を言い出すのかわかった上で凛子さんから言い出すのを待ってあげている感じに思えた。
やがて、凛子さんが意を決したようにひかりちゃんをまっすぐに見た。
「これからは、私も彼とゲームして遊ぶことにしたから。だから度々家に遊びに来ることになるかもしれないけど、それを認めてほしいの」
僕は心の中で「えー!?」と大きな声で叫んでしまった。
彼女が言ったことが信じられなくて、何度も頭の中で記憶を呼び戻す。
でも、またも混乱する僕を置いてけぼりにして、ひかりちゃんは凛子さんに元気よく返事を返した。
「うん、大歓迎だよ~! 凛子さんもいっぱい遊びに来て、一緒に遊ぼ~!」
僕も、そして凛子さんも、ひかりちゃんの返事に驚いた。
それはよくよく考えてみればひかりちゃんらしい返事だったけど、その時の場の雰囲気から考えれば意外な返答だったんだ。
凛子さんはかすれ声で、ひかりちゃんに言う。
「え、あなたも一緒に遊ぶの……?」
思わず出てしまったようなその声。
そこでひかりちゃんは、ずっと絶やさなかった笑顔を、初めて悲しそうな表情へと変えたんだ。
「ひかり、邪魔者かな~? 最後に選ぶのはお兄ちゃんだと思うけど、ひかりは凛子さんとも仲良くしたいな~」
切なそうな口調と、俯き加減のお顔から繰り出される上目遣い。
それは僕なら到底耐えられる代物ではなかったし、お姉ちゃんであるらしい凛子さんもひとたまりもなかったみたい。
「わ、私だって、あなたとケンカするのが目的じゃないわよ」
凛子さんはひかりちゃんから、そして僕からも視線を外し、真っ赤な顔でそう言った。
それを聞いたひかりちゃん。
あっという間に笑顔に戻って、凛子さんに優しげな口調で話しかける。
「よかった~。なら、お兄ちゃんを好きな者同士、仲良くしようよ~」
「あ、うん。そうね。仲良くやれるなら、それに越したことはないしね」
「じゃあ、握手しよ~!」
ひかりちゃんが立ち上がり、それを見て凛子さんも苦笑しながら立ち上がる。
だけどわずかな間をおいて、凛子さんがサーッと顔色を真っ青にしていく。
ちなみに僕は、少し前からずっと顔が真っ青だった。
だって、少し前のひかりちゃんの発言には、聞き捨てならない単語が混ざっていたんだよ。
「……ちょっと待って。お兄ちゃんを好きな者同士って……」
やはり凛子さんもその単語に行き当たったのか、そんなことをつぶやいた。
しかしひかりちゃんは笑顔のまま、凛子さんの近くまで歩み寄る。
「お兄ちゃんも、凛子さんのことをクラスメイトとして好きだと思うよ~」
「あ、ああ、そういう好きね、そ、それなら私も大好きよ」
真っ青になっていた僕の顔は、凛子さんの発言を聞いてみるみる赤くなっていってしまった。
大好き。
彼女が言っているのはクラスメイトとして、という意味だろうけど、それでもその言葉の破壊力は大きかった。
それは凛子さんも同じだったのか、彼女も恥ずかしそうに僕を見ていた。
これで、凛子さんとひかりちゃんが仲良く握手をしたら、この場は見事に丸く収まったと思う。
凛子さんがゲームをやりに来るという話は驚いたけど、それも考え直してみれば、彼女の弟さんはエンシェントドラゴンのことを知っていたし、凛子さんだってゲームを知っていてもおかしくなかったよね。
しかし、僕の妹ひかりちゃんは、少々ブレーキが壊れているところがある。
最後の最後でマイシスターは、特大の爆弾発言を行ったんだ。
「ひかりもお兄ちゃんのこと大好きなんだよ~。ただのお兄ちゃんとしてじゃなくて、プロポーズしちゃうくらい心から大好きなんだ~」
そうして凛子さんは、僕へと振り返る。
ギギギ……、とぎこちなく首を回してくる姿は、夢に出てきそうなくらい恐ろしいものだった。
「……あなた、こんな美少女からプロポーズされてるの?」
「そ、それは、ひかりちゃんも冗談かもしれないし言わないほうが良いかなって思っただけで別に絶対に隠そうと思ってたわけじゃなくて」
超早口で凛子さんに説明をし始めるも、彼女は僕の話をぶった切るように凍てつく声を出した。
「されてるのね?」
「はい……」
昔、ひかりちゃんは兄妹になると結婚出来なくなると勘違いしてた時期があった。
その時彼女は誤解が解けた際に、なら兄妹になっても結婚しようねと言ってきたことがあるんだよね。
だから僕は項垂れながら、それを認める。
同時に僕は、次に凛子さんから何を言われるのかと思い身を固くした。
「絶対にただの兄妹愛じゃないとは思ってたけど、まさかプロポーズまでしているだなんて……」
ところが凛子さんは、それ以上僕を問い詰めたりはしなかった。
思い返してみれば、僕がプロポーズにどう返事を返したのかも聞かれてないわけで。
凛子さんも長い付き合いで僕のことをよく理解してくれているのかな。それとも、僕ってわかりやすい性格をしているのかな。
と、そこで凛子さんは、ガバっと顔を上げてニコニコと笑うひかりちゃんへと小声で話しかけ始める。
「ってことはあなた、大好きな相手を他の女に渡したりしてるわけよね?」
「えへへ、そういう言い方もできるね~」
「本当に大好きなの? 取られちゃっても平気なの?」
「大好きだし、そういうことを考え始めると泣きたくなっちゃうけど、でも、選ぶのはお兄ちゃんだから」
僕の位置からだと、凛子さんの声は小さすぎて聞こえないけど、ひかりちゃんがお兄ちゃんと言っているのはわかった。
「……でも、それにしたって脇が甘すぎない? ヤキモチ妬いたりして引き止めたりしないの?」
「お兄ちゃんは素晴らしい人だから、ひかり一人で引き止めたりは出来ないし、それに、ひかりはお兄ちゃんを愛してるし、お兄ちゃんからも愛されてるって感じてるから、ヤキモチなんて妬かなくてもいいんだよ~」
「くっ……。この子、正妻としての貫禄すらあるわね……」
「えへへ~」
そこで凛子さんは何故か一度肩を落とし、そしてまた顔を上げてひかりちゃんを見つめる。
「お兄ちゃん好きな者同士って、そういうことなんでしょ?」
「ごめんなさい。言っちゃダメだった? でもお兄ちゃんは、言わないと絶対に気付かないというか――」
「気付いても、ありえないと否定するでしょうね」
「うんうん」
ひかりちゃんたちは何やら話し、その後不思議なことに僕の顔を揃ってじっと見つめてきた。
僕が視線に気圧されて怯むと、二人は再び会話に戻る。
「言っとくけど、私はあなたに負けるつもりないわよ」
「ひかりは勝ち負けは考えてないよ~。ただお兄ちゃんを、思いっきり愛していくだけだから~」
「ふふ、手強いわね」
ハラハラとし始めた僕は、とうとう心配になって彼女たちに恐る恐る声をかけた。
「あ、あの、出来れば僕としても二人には仲良くしてもらいたいから……、そのために僕に出来ることがあったら何でも言ってね?」
僕がそう言うと、凛子さんは苦笑して、ひかりちゃんは一層嬉しそうに笑う。
「心配しなくても、仲良くなれそうよ。ね、ひかりさん?」
「ひかりでいいよ~。よろしくね~、凛子ちゃん」
「……よろしくね、ひかり」
その時僕は、分厚く黒い雲の間から日の光が差したような気がした。
胸に残っていた不安な気持ちが、次々と消えていくようだった。
そして、僕がさらに感動する出来事が起こる。
凛子さんが優しく笑うと、ひかりちゃんにスッと右手を差し出したのだ。
「……これで、もうひかりたちは大の仲良しだね!」
ひかりちゃんもそう言いながら、ギュッと凛子さんの手を握る。
「まだ早いわよ。それに、そういうのって言葉にしないほうが重みが出てこない?」
「言わないと、気付いてくれない人もいるよ~!」
「あら、一本取られちゃったわね。じゃああなたに習って私も言うわ」
凛子さんは改めて笑うと、ひかりちゃんに言う。
「私とひかりはともだち。大の仲良し。……うん、言葉にするのも悪くないわね」
ひかりちゃんと凛子さんは握手したまま、微笑み合う。
感動的な場面だった。
今度こそ、僕は丸く収まったと思った。
だけど喜びが溢れたひかりちゃんから、次の発言が飛び出してくる。
「ね、ね? 言葉にするのも気持ちいいよね!」
「そうね。賛成するわ」
凛子さんが頷いたのを見て、ひかりちゃんは言葉を続ける。
「だったらもう一度、二人でお兄ちゃんにも気持ちを言葉で表そうよ~」
「え……?」
ひかりちゃんの発言で、二名ほど顔が一気に沸騰した。
僕は頭が真っ白になり、少し中止を求める声が遅れてしまった。
「……そうね。今まで言ってこなかったしね」
そしてその間に、凛子さんが覚悟を決めてしまう。
二人は手を離すと、僕に向き直る。
「お兄ちゃん!」「空」
僕は心臓が張り裂けそうな中、二人の気持ちを告げられた。
「だーいすき!」「好きよ」
兄として、クラスメイトとしてと考えても、強烈な告白だった。




