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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹とゲームを遊んでいたら、僕の世界がますます賑やかになっていく件
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架空のペット

頑張って書いていたのですが、日付変更までに間に合いませんでした。

ごめんなさい。


「わぁ~! タマちゃんだ~!」


 ある日の夕方。

 僕の家のリビングにはいつもの三人が集まっていた。


 まず、ひかりちゃんがテーブルに置かれた巨大クッキーに歓声を上げる。

 続いてメグさんが、そして玖音さんが感想を漏らした。


「相変わらず、センパイは何でも出来ちゃいマスね。アハハ」

「いい香りで美味しそうです。見た目だけじゃなさそうなのがすごいですよね」


 巨大クッキーには、デカデカとチョコレートでドラゴンの顔が描かれていた。

 それはひかりちゃんが大好きなゲーム上のペット、タマちゃん。


 今日はそのタマちゃんを描いたクッキーの、お披露目会だった。

 僕は紅茶も一緒に並べ、彼女たちに声をかける。


粗熱(あらねつ)はもう取ってあるから、すぐにでも食べられるよ」

「ま、待って~! 写真撮る~!」

「メグも撮りマース!」

「わ、私も撮らせてください」


 すると、女の子たちは一斉にスマホを取り出してきた。

 僕は苦笑して、見栄えが良くなるように小物を色々と持ち出してくる。


 そうして改めてテーブルを整えると、SNS向けのお菓子が出来上がった。


「オゥ、さらにいい感じになったデース。センスいいデス」

「こういうの、さり気なくパッとやっちゃうところが本当にすごいです。尊敬します」


 皆が色々な角度から写真を撮る中、何故かひかりちゃんは不満そうにタマちゃんを見る。


「でも、いつも思ってるけど、お兄ちゃんが作ったお菓子はみんなに見せられないから残念だよね~」


 どうやら彼女が不満そうにしているのは、そういう理由かららしい。

 僕とひかりちゃんは特殊な関係だ。だから公にすることは出来ないから、結果として僕が関わることはSNSにはアップ出来ないんだね。


「かき氷のときみたいにメグがアップしてもいいのデスが、なんでDragon(ドラゴン)? と聞かれてしまうかもしれないデスね」

「女の子向けのモチーフではないですよね。作った人か、一緒に食べる人のことを聞かれてしまいそうですね」

「む~、お兄ちゃんの素晴らしさを、もっとみんなにわかってもらいたいのに~!」


 彼女たちの話に、僕は笑いながら声をかける。


「僕はひかりちゃんたちに喜んでもらえたらそれで十分満足だよ。だから心遣いは嬉しいけど、ひかりちゃんも気にせず美味しく食べてほしいな」


 しかし、それを聞いてもひかりちゃんは不服そうだった。

 代わりにメグさんが口を開く。


「メグはもう、センパイの素晴らしさを大々的に広める必要はないと思いマスケドね。クオンもそう思いマスよね?」

「は、はい。お兄さんが望めば別でしょうけど、お兄さんは望んでいないみたいなので……。大々的に広め始めちゃうと、絶対にとんでもない数のライバルが出てくると思うので……」


 メグさんの発言に、玖音さんも同意する。最後は小さな声で言ったのでよく聞き取れなかったけど。


「しかしそんな中、メグたちより先にセンパイに出会っていたレディがいるのデスよね?」

「あ、うん。凛子さんのことだね~。びっくりしたよ~」


 と、そこで意外な名前が出てくる。

 遊園地に行ってた時にばったり出くわした話なので、当然メグさんも玖音さんも説明は受けているんだけど……、どうしてこのタイミングなのかな。


「……そのミス凛子は、ただのクラスメイト……なのデスよね?」

「うん、お兄ちゃんはそう言ってるよ~」


 ニコニコと笑いながらそう答えるひかりちゃんと、苦笑して僕を見るメグさん。

 不思議と玖音さんも僕のことを見つめてきていた。


「……え? なんでみんな黙って僕を見るの? 凛子さんは色々な繋がりがあるけど、ホントにクラスメイトで間違いないよ?」


 話の展開がわからず、僕は混乱しながらそう言った。

 するとメグさんは、改めて苦笑する。


「これは、ミス凛子も苦労してそうデスね」


 そしてメグさんはまだ見ぬ凛子さんのことを、まるで既知の友人のようにそう評した。





 僕のクラスメイトにも話が広がるようなおしゃべり好きの彼女たちだけど、そこはやっぱり年頃の女の子。

 目の前のクッキーを食べてみようという話になり、僕は「いただきます」と頭を下げてタマちゃんの顔を料理用の木槌でコツコツと叩き始めた。


 サクサクのクッキーはそれで適度に割れて、食べごろの大きさになる。


「タマちゃん、いただきま~す!」

「いただきマース!」

「いただきます」


 割れたタマちゃんのクッキーに頭を下げて、みんな思い思いに欠片に手を伸ばす。


「ンー、見た目もよくて味もいい、今日もセンパイのおやつはサイコーデスね」

「やっぱりみんなにも見せてあげよう」

「ひ、ひかりさん」


 タマちゃんクッキーは好評だった。

 凛子さんに味見してもらった甲斐があったかもしれないね。


 とはいえ、僕はまだテーブルに着いてはいない。

 彼女たちがお茶を楽しむ中、僕はササッと作業を済ませ、再びリビングへと戻る。


「いつもならお客さんの前でこんなことはしないけど、今日はタマちゃんのクッキーだからね」


 そう言って僕は、タマちゃんクッキーを砕いて出た粉や端材を集める。

 それを改めて砕くと、サラサラとアイスクリームの上に振り掛けた。


「はい、いくら大きなクッキーとは言え、みんなで分けると物足りないかなと思って、ミニアイスクリームセット。これでタマちゃんも余すところなくいただけます」


 ひかりちゃんとメグさんが「お~」と感心したように声を上げる。

 僕は満足すると、新しい紅茶のポットも用意して、そこで初めて席に着いた。


 女の子たちは、再びお喋りを再開させる。


「しかし、Ancient(エンシェント)Dragon(ドラゴン)のタマ、デスか。実際の姿をスマホでも確認出来るのデスよね?」

「うん、見てみて~。お兄ちゃんも玖音ちゃんも強いと言ってくれた、ひかりの自慢のタマちゃんだよ~」


 ひかりちゃんはスマホを操作し……、そして手間取っている感じだったので、僕がリモート操作して、タマちゃんを呼び出してあげた。

 そしてみんながよく見えるように、リビングの巨大ディスプレイにその堂々たる雄姿を表示させる。


「あ、お兄ちゃんありがと~!」

「オゥ、これがタマ。なるほど格好いいDragon(ドラゴン)デスが、やはり名前が似合ってないデース」

「む~」


 ひかりちゃんは膨れっ面になったけど、メグさんはそれを笑って受け流す。


「頭の上に、先日の遊園地の帽子被ってマスね」

「む~、被ってるけど~。名前も似合ってるもん」


 僕も自分のエンシェントドラゴンを飼っているんだけど、もうエンシェントドラゴンと言えばタマちゃん、みたいに頭の中で刷り込まれつつある。

 ひかりちゃんが名前を付けた当初は僕も違和感でいっぱいだったのに、慣れって怖いね。


 そこで僕は、少し気になったところをメグさんに尋ねる。


「メグさんは日本生まれの日本育ちだから、タマって聞いたら猫の名前に思えるの?」

「イエース。特にヒカリは猫が大好きデシタので、タマという猫は動画で何匹も見てきたデス」


 ひかりちゃんは犬や猫、特に猫が大好きな女の子だ。

 だからエンシェントドラゴンの名前を付けるとき、彼女はタマって名前を思いついたんだよね。


「しかし、そういえば最近のヒカリは、猫の写真や動画を探してないデスね」


 その時メグさんが、思い出したようにそんなことを言い出した。

 ひかりちゃんは、すぐにそれに返事をする。


「猫ちゃんは今でも好きだけど、ひかりはもっともっと、お兄ちゃんのほうが大好きになっちゃったからね!」


 えっへん、と胸を反らしながら答えるひかりちゃん。

 僕と玖音さんは顔が真っ赤になってしまったけど、メグさんは苦笑して話を続ける。


「なら次のドラゴンには、空って名前を付けないとダメデスね」


 それを聞いて、僕は「うっ」と小さくうめき声を上げた。

 ひかりちゃんはそのメグさんの発言に、残念そうに答える。


「ううん、実はタマちゃんを飼うことになったとき、ホントは空ちゃんって名前を付けようとしたんだよ~。でも、お兄ちゃんに止められちゃったの。だから次点でタマちゃんになったんだよね~」

「オゥ……」


 ひかりちゃんが正真正銘のお兄ちゃんっ子だと知ったメグさん。

 とうとう彼女も返事に詰まり、そして僕の方へと視線を向けてくる。


「本当デスか?」


 メグさんの短いその質問に、僕は顔を赤らめながら返事をした。


「う、うん。当時ひかりちゃんとは出会って一ヶ月も経ってなかったのに、名前を空ちゃんにしようとしたんだよ」

「当時のひかりはもう、猫ちゃんよりお兄ちゃんのほうが大好きだったからね!」


 またもえっへん、と自慢げに言うひかりちゃん。

 恥ずかしいからそろそろ止めてほしいんだけど、別の話題にするしかないのかなあ。


 そう思ったんだけど、そこでメグさんがふと、新しいタマちゃん関係の話題を話し始めた。


「しかし……、今思ったのデスが……」

「どうしたの?」

「たしか、ヒカリとクオンの馴れ初めもタマが切っ掛けなのデスよね?」

「そうだね~!」


 ひかりちゃんがエンシェントドラゴンのことを知っていたから、ゲーム好きの玖音さんに切り込んでいけた。

 それが、心の壁を作っていた玖音さんを切り崩す切っ掛けになったんだよね。

 

 メグさんは発言を続ける。


「さらに今回も話を聞いてみると、ひかりはタマのお土産屋さんで、ミス凛子と会ったのデスよね?」

「……おぉー……」


 ひかりちゃんは感心したように声を出して……、そして視線を目の前のアイスクリームへ落とした。

 釣られるように、僕も玖音さんも自分の手元――クッキーがまぶされた、そのアイスクリームを見た。


 なんだか不思議な感覚を覚えた。

 僕は頭の中がぐるぐると回ってきて、上手く考えがまとまらなくなってしまった。


 ゲーム上の架空のペット、タマちゃん。

 それがいつの間にか僕たちに大きく影響を与えていて、そしてゲームを飛び出しクッキーになって、今まさに僕たちの体に取り込まれていっている。


 やっぱり、不思議な気持ちだった。


 そしてそれはひかりちゃんも玖音さんも同じだったのか、二人もただただアイスクリームを見つめていた。

 アイスクリームが溶け始めているのに、彼女たちも、そして僕も、スプーンを向けることが出来なかった。


 そうして誰もがかなしばりにあったような状況の中、一人すんなりと動き出し、一口美味しそうにアイスを頬張る女の子がいた。


「メグだけタマと縁がないデス。のけ者みたいで悲しいデス。クッキー食べたら、タマはメグのことも仲間に入れてくれるデスかね?」


 メグさんは寂しそうに笑い、もう一口アイスクリームを口に運ぶ。

 それを僕たちは放心したように見つめていたけど、ある時ひかりちゃんが、弾かれたように笑顔になった。


「タマちゃんはひかり自慢のペットだからね! きっともう仲間に入れてくれてると思うよ!」


 メグさんはその発言に目を見開いて驚き、やがて困ったように笑うと言ったんだ。


「ヒカリのペットなら、きっと優しいペットで間違いないデスね」


 メグさんのその発言には、ボーッとした頭でもすぐに大きく頷くことが出来た。



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