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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹とゲームを遊んでいたら、僕の世界がますます賑やかになっていく件
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双子の弟と妹


 玖音さんの遊園地に遊びに行こうという提案は、当然のようにひかりちゃんにも受け入れられた。

 メグさんも一緒に行くことになって、そしてお手伝いさんたちが疑似シークレットサービスとして同行することとなるのも、ある意味当然の流れだったのかもしれない。


 そして秋晴れの休日。

 僕たちは大所帯で遊園地へと乗り込んだ。


 当初の目的でもあるゲームのアバターも無事に入手して、その後はいろんなアトラクションも体験して。

 僕はこんな休日もいいなと思いながら、みんなと遊ぶ休日を満喫していた。


 だけど、そんな素晴らしい体験も霞むような仰天の出来事が、その日僕の身に起こる。





 それはお土産を買うために、メグさんが玖音さんを連れて別行動を始めたときのこと。

 僕とひかりちゃんは、二人だけで今回来た目的のコラボーレーション限定のお土産屋に来ていた。


 厳密には、メグさんの命を受けたお手伝いさんが見守ってくれていたんだけどね。


「いろんなキャラクターがいる~」

「僕も来るのは初めてだけど、あのゲームを作った企業とこの遊園地は、もうかなり前からコラボしてるんだよ。だから今回、復刻した商品も含まれてるみたいだね」

「そうなんだ~」


 思えばひかりちゃんは目立たないように変装してたけど、僕の変装は簡単なものだった。

 だから知り合いなら、見た目と声で僕だと特定することは容易だったみたいだね。


「でも、タマちゃんはいないんだね~」

「あのペットは一応隠された秘密のペットだからね。大々的には出せないみたいだね」

「そっかー、残念~」

「けど、あっちにはパッケージにエンシェントドラゴンが描かれているお土産があったよ。中身はクッキーだったかな」

「お~、見に行こう、お兄ちゃん!」

 

 これも思い返してみれば、僕はひかりちゃんの押しにやられて、外でも彼女が寄り添ってくるのをあまり拒まなくなっていた。

 さすがに腕を組むようなことはなかったけど、それでも僕たちは普通の友人にはとても見えない距離にいたと思う。


 そうして僕たちがその場所に向かうと、そこでは一人の男の子がちょうどそのお土産を手に取っているところだった。


「うお、すっげえ! エンシェントドラゴンがいる! これ、ただのドラゴンじゃないんだぜ! エンシェントドラゴンっていう隠しキャラなんだぜ!」


 興奮した様子の男の子に、同じくらいの年頃の女の子が呆れたように返事をする。


「はぁ、ガキ丸出しね。恥ずかしいったらありゃしないわ。喜ぶのはいいけれど、その子どもっぽい大声は止めてもらえないかしら?」

「うるせー、おまえも歳は一緒だろ! 何ひとりだけだけ大人ぶってんだ!」


 小学生っぽい二人は同級生みたいだった。

 僕とひかりちゃんはその光景に思わず微笑み合い、少し遠くで彼らがお土産を選び終わるのを待つ。


「見た目じゃないわよ中身の話よ。あんたのその大きな声がガキっぽい言ってるのよ。他のお客さんの迷惑とか考えたことがあるの?」

「うっ……、そ、それは……」


 男の子は女の子に言われ、周囲を見回す。

 そして少し離れた位置にいた僕に気付くと、ペコリと大きく腰を折って頭を下げてきた。


 僕も軽く頭を下げて応じる。

 声の大きさはともかく、ちゃんと礼儀正しく育てられた男の子だなと思った。そもそもあの年頃の男の子なら、ついつい興奮しちゃって声が大きくなっちゃうものだよね。


 そしてすかさずもう一人の女の子のほうが、可愛らしく微笑みながら僕たちに近付いてくる。


「ごめんなさい、お兄さん、お姉さん、うるさくしちゃって。私たちはすぐに退散しますので、どうかこのままごゆっくりと、お土産を選んであげてください。失礼しました」


 大人顔負けの発言をして、そして微笑む女の子。

 僕は少し戸惑っちゃったけど、ひかりちゃんに応対させるわけにはいかない。


 女の子に微笑み返し、返事をする。


「ご丁寧にどうもありがとうございます。ですが、僕たちは全然気にならなかったですし、今でも落ち着いて商品を選べています。どうかお二人の方こそ、僕たちのことは気にせず楽しい時間を過ごしてください」


 僕の返答が以外だったのか、女の子が小さく口を開けて驚く。

 その際女の子が、ふと何かつぶやいた気がした。


「あら、いい男」


 しかし女の子はすぐに微笑み直すと、僕に言った。


「ありがとうございます、お兄さん。ではお言葉に甘えさせていただきますね。――ほら、ああ言ってもらえたし、ちょっと移動して他の物見るわよ」

「お、おう……」

「……しかし、いい男だと思ったけど、本当にヤバイのは隣の女のほうだったわね。変装して誤魔化してるけど、めちゃくちゃ美人だわ、あれ」


 女の子に手を引かれ、男の子はしょげた様子で歩き始める。

 そんな男の子を見て、僕は少し可哀想に思ってしまった。


 いつもなら僕から声をかけたりは出来ないけど、今回は特別だった。

 彼も僕と、そしてひかりちゃんと同じゲームを愛する男の子なんだ。元気づけてあげたいよね。


 そんな考えから、僕はドキドキしながらも、俯く男の子に声をかけた。


「エンシェントドラゴン、格好いいですよね。やっぱり名前からしてロマンを感じさせてくれますし、登場場面も燃える展開でしたよね」


 恥ずかしい思いをしたけど、その発言の効果は抜群だった。

 男の子はその年頃の少年らしい喜色満面の笑みを浮かべ、またも少々大きめの声を出した。


「お、兄ちゃんわかってるじゃん! そうだよな! やっぱエンシェントって、その言葉だけで男を惹き付けちゃうよな! 兄ちゃんも知ってるだろ? エンシェントってのは古代って意味なんだぜ! 古くからずっと生きてるドラゴンとか、絶対超すげーって。やべーくらい強いに決まってるよな!」


 矢継ぎ早に、一気に長い発言を言い放つ男の子。

 僕は直感した。この子は僕と同じゲームが好きだけど、僕とは違うお喋り好きで人見知りもしない明るい男の子なんだと。


「そ、そうですよね。ただでさえ強いドラゴンが、ますます強力に、そして格好良く思えてきますよね」

「だよなー! いやー、兄ちゃん話せるクチじゃん! 兄ちゃんみたいな同士に出会えるなんて、オレ、今日ここに来てよかったよ!」


 僕に純粋な視線を向けて、男の子が興奮していく。

 しかしそれは、すぐに女の子によって(たしな)められた。


「こら、お兄さんの時間をあまり取っちゃダメよ。すみませんお兄さん、こいつったらゲームが好きでわざわざここに来たいって言うくらいでして……」

「お気になさらないでください、僕も似たようなものなので」

「重ね重ねありがとうございます。ほら、もう行くわよ。優しいお兄さんでよかったね?」

「おう、そうだな! 兄ちゃん、ちょっとだったけど楽しかったぜ! またどこかで会おうな~!」

「僕も楽しかったです。またどこかで」

「じゃあな~! ……っていうか、なんで丁寧語?」


 男の子は首を傾げながら、会釈して立ち去る女の子に引っ張られていった。

 ちなみに僕は、基本誰に対しても丁寧語なんだ。


 そして、男の子と女の子が僕たちから離れていくと、隣で愛想良く微笑んでいたひかりちゃんが僕に声をかけてくる。


「お兄ちゃんって優しいね。あの子、声かけてもらってすごく機嫌良さそうになってるよ。よかったね」

「う、うん。内心とても緊張してたけどね」

「兄妹かなー。どことなく似てたよね~」


 そうして僕たちがお土産選びに戻り始めた頃、その小学生の二人に急いで近寄る人影があった。


「――ごめんごめん。ちゃんとお店から動かないでくれたわね」

「おかえりお姉ちゃん。こいつが大声出したから、居づらくなるところだったけどね。あそこの人に助けられちゃった」

「そうそう。ちょっとだったけど、ゲームの話してくれたんだぜ。優しそうな兄ちゃんだった。でも、何故かオレに対しても丁寧語だったんだよな」


 僕はひかりちゃんが嫌な思いをしなさそうなら、他人のことは気にしない。

 近付いてきたのが女の人だとわかって、その三人からは警戒を解いた。


「お姉ちゃんの知り合いにも、いつも丁寧語で話す男の子がいるわね。……ちゃんとお礼言った?」

「ええ、もちろん。なんか住んでる世界が違ってる感じの人たちだったわ。男の人は優しそうだったし、女の人はめちゃくちゃ綺麗よ。お忍びデートしてる芸能人かもね。お姉ちゃんも話の種にこっそり見てみたら?」

「あんたね……。いつものことだけど、もうちょっと年相応の考え方をしなさいよ……」


 その頃僕とひかりちゃんは、お土産の話をしていた。

 たしか、クッキーにキャラクターの絵を書くのは難しくない、って話をしてたっけ。


「……あ、でも、本当に綺麗な人ね。芸能人っていうのもあながち間違いじゃなさそう。地味で目立たない服装してるのがそれっぽいわね」

「でしょ。けどそんな綺麗な人だけど、どうも彼女のほうが男の人のほうにベタ惚れって感じね。優しそうな笑顔だったし、実際、あの若さで誠実な男性なのかもね」

「…………」

「どうしたの、お姉ちゃん。ずっとあの二人のほうを見て。あ、もしかしてあれが誰なのかわかったの?」

「わかった……」

「おお、誰なの? 女優? モデル? アイドル?」

「クラスメイト」

「……へ?」


 そうして僕は修羅場という状況を初めて経験することとなる。

 いや、修羅場だったのは僕ともう一人の女の子だけで、ひかりちゃんはいつものようにニコニコと笑っていただけだけどね。



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