席替えと人の縁
ひかりちゃんやその友だちと、二学期も変わらない日々を送るんだと僕は思っていた。
しかし、僕の学校生活は少しずつ変わっていく。
二学期最初の席替えの日。
僕はその日もクラスの片隅で、ひっそりとメガネ型のスマホを見て時間を潰していた。
席替えがあることはもちろん知っていたけど、出来れば窓際がいいな、あまり派手で賑やかな人の近くになるのは困るかな、くらいにしか思っていなかった。
ずっと一緒だった隣の席の女――凛子さんと離れ離れになるのはもちろん寂しかったけど、仕方のないことだと考えていた。
しかしボッチ属性の僕とは違って、クラスメイトの大多数は席替えを一大イベントだと捉えていたみたいだね。
今も凛子さんたちは隣で、何やらブツブツと話し合いをしている。
「ていうか、もう何の脈絡もなく話しかけたらいいじゃん。そういう切っ掛けを毎回探してるから展開が遅くなるんじゃん?」
「展開が遅いのを、こういうものだって諦めてる子も多いけどね。あかりんたちって見てて面白いしさ」
「う、うるさいなあ。彼は押されるのがイヤなんだって。ちょっと強引に行くとすぐ顔真っ赤になるし、可哀想でしょ?」
くじ引きの結果を想像してお喋りしているのかな。
楽しそうに会話をする女の子たち。凛子さんは、少しご機嫌斜めっぽいけど、からかわれたりしてるのかな。
「彼、だって。しかも可哀想でしょ、とか。聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ。あー、お熱いことですこと」
「あかりんってマジあいつに惚れてるよね。それでいて全然迫れてないし。恋する純情乙女ってやつ? まさか身近で見られるとは思ってもみなかったよ」
「い、いーでしょ別に私が誰を好きになろうが。私の勝手でしょ」
とはいえ、隣から覗き見たり聞き耳を立てるのは失礼だと思うから、僕は意識を向けないようにしてるんだけど。
「フラれた男はそうは思わないでしょ。一体何人血祭りに上げてきたんだか」
「ち、血祭りってあんたね……。ちゃんとお断りしてるだけよ」
「そうだ、その話で思い出した。あかりんってマジ生徒会長フッちゃったの? いい加減時効でしょ。教えてよ」
休み時間はまだあるし、凛子さんたちの話も終わらない。
「時効って何よ。あの先輩とはクラス委員でちょっと顔を合わせてたから噂にされちゃっただけよ。それ以上はご想像にお任せするわ」
「うっわ、余裕。さすがおモテになる女子は違いますね。あんな良い人と噂になっても平然としてるんだから」
「やっぱ隣の彼以外興味ないんでしょ。一途というか、……見る目ないというか」
と、そこでなんとなく、隣の席から僕に視線が向けられた気がした。
「私の趣味なんてどうでもいいでしょ。それに、空だって生徒会長にも負けてないわよ」
「あー、始まるよ、あかりんのダーリン惚気が」
「たしかにすごい天才キャラってのは知ってるけど……、あと、料理も出来るんだっけ?」
もちろん視線を感じたと言っても、ボッチの僕から確認の視線を送ったりはしない。
僕は気のせいだと信じて、気付かないふりをするだけだ。
「そうそう、お弁当自作してるんだって。ちょっと交換してよって言ったら気の毒なくらい真っ赤になってたから、それ以降あまり聞いてないけど」
「あかりんのダーリンって、すぐ顔が赤くなるよね。でもその代わり、自分の能力で偉ぶったりしないよね」
「そう、そうなのよ、空はそこもいいのよ。成績だってめちゃくちゃハイレベルな争いしてるのに、僕は毎回二位だよ、みたいに自分を小さく言うの。偉ぶったりしないのよ。相手は中学校時代からの神童と呼ばれる有名人なのに」
「あ、うん。あかりん? ちょっと落ち着こう?」
「しかも空ってあんまり勉強してないのにあの成績を叩き出すのよ? 向こうは四六時中猛勉強してやっとの思いで出してる成績っぽいのに。空なんて勉強してるかって聞いたら恥ずかしそうにゲームしてるって答えるくらいなのよ? すごくない?」
「あ、あかりん。あんたのダーリン贔屓もいいけど、ちょっと声が大きいんじゃ……」
そこで僕はまたも、女の子から一斉に見られているような気がした。
僕はボッチスキル『気が付かないふり』を全力で使用して逃げ切った。
勉強という言葉が聞こえてきた気がするし、何か僕に聞きたいことでもあったのかな。
「こ、コホン。まあだから別に、私が空を好きでも、空に対してどう接しようとも、私の勝手って話でしょ。ほっといてよ」
「強引にまとめて逃げたな? でもそれって、結局最初に戻っちゃうだけじゃん。席替えでバラバラになったらどうするのって話っしょ」
「うっ……」
「ダーリンは自分の席から動かないだろうし、授業中やちょっとした休み時間に手持ち無沙汰のフリして話しかける作戦も使えなくなるねー?」
「ううう……」
「そう考えるとあんたらって美味しい関係だったけど、同時に脆い関係でしかないよね。席が離れたらそれまで。はいさよなら」
「そ、そんなことはないでしょ。クラス委員って繋がりは絶対に残るんだし。それに、本当に美味しい関係なら、次も隣同士になるはずだし……!」
そこで露骨な「はぁー……」というため息が聞こえてきた。
ボッチで居ると人の話し声よりこういうため息の方が気になるよね。まあ凛子さんの友だちは僕に対してため息をついたりはしないだけど。……だよね?
「あかりんさあ、どんだけ夢見る少女なのよ。前回一緒になれただけでも奇跡っしょ。現実を見なさいって。今回はバラバラになるはずだって」
「や、やってみないとわからないでしょ。み、見てなさいよ。う、運命ってものを見せてあげるわよ……!」
「うわー、運命とか言い出しちゃったよ。現実は非情だよ。絶対後悔するって」
「べ、別に離れ離れになったら、一学期の終わりみたいに強引に行くつもりだし」
「それって電話番号聞き出した時のこと? それでも良いかもしれないけど、強引に行くつもりがあるなら、別に今から行けばいいじゃない」
「そ、それは……」
ため息が聞こえたからついつい隣が気になっていた僕は、そこで凛子さんの友人たちが顔を見合わせて頷いた気配を感じてしまった。
「二学期からはちょっと前向きになるって言ってたじゃん。たまには強引に行くのも悪くないっしょ」
「それに、今のままじゃほぼ間違いなく離れ離れになると思うしね。ダーリンにも聞いてみればいいよ」
「……聞くって、何を?」
「ちょうど煮詰まっているわ・だ・い。おーい、一条~!」
「ちょ、ちょっと……!」
僕は気にしちゃダメだと思いスマホに戻ろうとしていたんだけど、なんとそこでお呼びがかかってしまった。
すでに心臓がドキッとしたけど、僕は隣の席に顔を向ける。
「は、はい。何でしょう?」
基本的に、僕は誰にでも丁寧語で話す。
それは同級生でも、年下の子どもでも同じだ。
丁寧語が嫌だと言われないかぎり、僕から砕けた言葉で話しかけることはない。
「ごめんね~、ちょっと今席替えの話しててさ~。賢い賢い一条クンに、確率の話を教えてもらおうと思って」
「ちょっと、止めなさ――」
「ああ、そうそう。そうなんだよ。単刀直入に聞くけどさ、このクラスである二人の席が隣同士になる確率ってどんなものなの?」
凛子さんの友だちに質問された僕は、すぐに頭の中で計算式を思い浮かべる。
「それって前後も含みますか? それとも左右だけですか?」
「うわ、やっぱ天才キャラは受け答えが違うわ。速攻真面目な答えが返ってきた」
「というか、こんな風に聞かれても全然気が付かないんだ。これってあかりんが考えている以上に強敵じゃないの?」
「えっ?」
ちゃんと答えを出そうと質問を返すと、確率の問題以外の答えが返ってきた。
不思議に思う僕に、凛子さんの低い声が聞こえてくる。
「あなたたち……、本気で怒るわよ?」
「げ、あかりんが早くもマジギレしてる。だ、大丈夫だって。悪いようにするわけないじゃん」
「そ、そうよ。もうちょっと様子見ててよ」
混乱する僕に、凛子さんの友だちが再び話しかけてくる。
「いやさ、変な話じゃなくて、あかりんと一条って前回も偶然席が一緒になったでしょ? 今回も隣同士になる確率って相当低いよねって話なのよ」
「ああ……」
どうやら僕と凛子さんの話題だったらしい。
たしかに確率の話をするなら、僕と凛子さんはうってつけの話題とも言える。
僕と凛子さんは、一学期はずっと隣同士の席だった。
最初は出席番号で決められた席順で。二回目はくじ引きで偶然に。
これが二学期も偶然隣同士になれば、確率的にはかなり珍しい事態が起こったことになる。
「やっぱり今回はさ、離れ離れになる確率のほうが圧倒的に高いよね?」
「まあ、そうですね。隣同士になれる確率は現実的とは言えないでしょうね」
僕がそう答えると、夢を壊されたと思ったのか凛子さんが悲しそうな表情を浮かべた。
人は珍しいものをありがたがるから、僕みたいなの相手でも、また偶然が起こってほしいのかな?
「ほらあかりん、ダーリ……、一条も現実的じゃないってさ~」
「こりゃ、離れ離れになっちゃうなあ。その前に、何か言っておくこととかあるんじゃないの?」
「あ、あのねぇ、そんなに無理して話を進めなくても……」
凛子さんが少し怒ったように、それでいて迷っているように友だちを見る。
そこへすかさず友人たちが顔を寄せ、内緒話を始めた。
「SNSとかに誘っておきなって。後からやっぱり寂しくなったのって作戦もアリかもしれないけど、今から離れたくないのって攻撃も強烈だと思うわよ」
「強引に行くって言ったじゃん。ダーリンだってあかりんのこと絶対嫌ってないって」
凛子さんは僕に何か言っておくことがあるみたい。
一体何を言われることになるんだろうと、胸がドキドキしてくる。
しかし、凛子さんは少しだけ悩む様子を見せたけど、すぐに顔を上げる。
彼女は笑っていた。それは優しさを感じさせてくれる、素敵な笑顔だった。
そうして彼女は、僕に言った。
「私たちは同じクラスメイトだし、同じクラス委員よね。席が離れ離れになっても、それは変わらないよね?」
凛子さんが言ったのは、否定しようがない事実のみの発言だった。
僕は驚きつつも、反射的に無言で頷く。もしかしたらそれは、あがり症の僕がパニックにならないように悩まないように、凛子さんが気遣ってくれたのかもしれない。
僕は改めて、凛子さんはすごい人だなと思った。
一人で勝手に都合の良い解釈をしているだけかもしれないけど、それでも僕は彼女が優しい気遣いをしてくれたんだと感じた。
僕はホッと安堵の息を吐き、肩の力を抜く。
突然クラスメイトに話しかけられるという緊急イベントが発生していたけど、どうやら無事に終わりそうだった。
だけど、これで納得したのは僕と凛子さんだけだったみたい。
凛子さんの発言に驚いていた彼女の友人たちは、思考が回復すると口々に不満を言い始めた。
「え、あかりんそれだけ?」
「さすがに物足りないっしょ。もうちょっと何か言っておいても……」
しかし友人に文句を言われても、凛子さんは満足そうだった。
小さく微笑を浮かべながら、優しげに友人たちに言う。
「いいのよ、これで。さ、話はもうおしまい。休み時間もそろそろ終わるよ」
凛子さんはそう言ってこの場をまとめようとした。
でも、納得がいかない凛子さんの友人は、このまま終われなかったみたい。
矛先を変えて、僕に尋ねてきたんだ。
「じゃあ、一条はどうなの? 離れ離れになるかもしれないあかりんに対して、一条から何か言ってあげることはないの?」
そう質問された僕は、頭の中が真っ白になりそうになった。
せっかく凛子さんが落ち着かせてくれた心臓が、またドキドキとうるさく音を立て始める。
「ちょっと、いい加減に――むぐっ」
もう一人の友だちが、凛子さんの口をふさぐ。
僕は逃げられなくなってしまったみたい。最後の最後で、あがり症の僕に難しい質問が投げかけられた。
「あ、ええと……」
ゆっくりと顔が赤くなっていく感覚が、自分でもわかった。
思考が無意味に空転を始め、僕は何も考えられなくなってしまいそうになる。
でもそこで、凛子さんが僕を見て、悲しむような表情を浮かべてくれたんだ。
僕はハッとなる。
このまま黙って俯くのは簡単だけど、それじゃ凛子さんが僕のことを心配したままになってしまう。
ここはしっかりと質問に答え、凛子さんに離れ離れになっても大丈夫だよと教えてあげないとダメだと思った。
けど、バカ正直に僕はボッチでも大丈夫、と答えるわけにはいかない。
凛子さんと離れても大丈夫だと思ってもらえるように、僕は前向きな発言をして安心してもらうことにした。
顔が赤くなるのは防げなかったけど、それでも僕は凛子さんに笑いかけ、言った。
「確率的には難しいかもしれないけど、それでも縁があれば、きっとまた隣になれるよね」
僕のその発言は、また失敗してしまったのかもしれない。
少し夢物語が過ぎたのか、凛子さんたちはみんな小さく口を開けて、驚いていた。
◇
時間とともに、僕に後悔の念が押し寄せてきていた。
先ほどの凛子さんへの発言。
あれは裏を返せば、縁がないから離れ離れになる、ということになってしまわないか。
そして確率的には、離れ離れになるほうが圧倒的に多いのではないか。
そんな考えから、僕は頭を抱えて後悔していた。
そりゃ、たしかに彼女たちも驚いたように固まってしまうよね。
凛子さんが言っていたように、離れ離れになっても僕たちは繋がっているよね風な返答にするべきだったかな。
「では皆さん席について。ホームルームを始めます。今日は席替えを行います」
しかし、いくら後悔したところで時間は戻ってこない。
定年間近の担任の教師がやって来て、席替えの開始が告げられる。
教室は悲喜こもごもの叫び声に包まれた。
朝は軽い気持ちで考えていた席替え。
だけど今の僕は、大勢のクラスメイトたちに混ざって唸り声を上げたい気分になっていた。
「それでは早速始めますか。今回もくじを用意したので、前回とは反対の窓側の最後尾の人から引き始めてください」
僕が余計なこと言ってしまったせいで、凛子さんと僕との縁が試される席替えになってしまった。
確率的にはかなり分の悪い賭け。しかしそれでも僕は、凛子さんと隣の席になりますようにと祈っていた。
しかし、人の縁というものは人と人との繋がりだ。
確率や偶然で繋がる縁もあるだろうけど、多くの場合人の輪によって生み出されていくものである。
「せんせーい! その前にちょっと提案があるんですけどー!」
突如声を上げたのは凛子さんの友だち。
クラス中の視線が彼女に集まる。僕も、そして知らされていなかったのか、凛子さんも驚いた表情で。
「はい、聞いてみましょう」
担任の許しを得て、その友人は話し始める。
僕が、そしておそらく凛子さんも想像だにしなかった発言内容を。
「クラス委員の一条さんと暁さんは~、今までもクラスの為に頑張ってきてくれたので~、今回も隣同士にしてあげませんか~?」
僕は一瞬で体中の血が騒ぎ出し始めたと思った。
あまりに無茶な友人の発言。きっとすぐに大騒ぎになり、その渦中の僕と凛子さんは好奇の目にさらされることになるだろう。
ところが、体を震わせて怯えていた僕に、考えていたような大騒ぎは起きなかった。
代わりに担任教師の冷静な発言が聞こえてくる。
「ふむ。しかしそれはいささか特別扱いし過ぎではないですか? 他の皆さんの意見も聞いてみましょう」
そして、教師のその発言を皮切りに、僕の予想とはまるで反対の騒ぎが起き始める。
「賛成~! 二人は無理やり決められたクラス委員なのに、頑張ってると思いまーす!」
「そうだよ。いくら立候補がいなかったからって、出席番号で強引に決められたのは可哀想だと思う!」
「まあ、俺たちはやりたくなかったから指名されずに助かったんだけどね。でもだからこそ、二人に特例を適応するのには賛成」
驚くべきことに、反対意見は一切聞こえてこなかった。
集団の圧力があるのかもしれないと思ったけど、軽く見回したかぎりみんな本当に賛成してくれているみたいだった。
「これは、こっそり根回しされてたみたいね……」
凛子さんがそうつぶやく。
僕は成り行きについていけず、只々驚くばかりだった。
「皆さんの意見はわかりました。ですが、席の場所はどうするつもりなのですか? くじで決めるのは少々厄介なことになりますよ?」
「最初の出席番号順の席だった場所で良いんじゃないですか? 角の席は埋まっちゃうけど、最前列を引く確率が下がってラッキーみたいな?」
「それも賛成~! 私後ろが良いし~!」
あれよあれよと言う間に、僕たちを置いてけぼりにして話が進んでいく。
気が付けば担任が、僕と凛子さんに最終確認を行ってきていた。
「ではクラスの総意はそうなっているみたいですが、あなた方はどうしますか? 一条くん、暁さん」
担任の視線が向けられて、僕の緊張が最高潮に達する。
「もちろんここで拒否してくじを引くことも出来ますよ。どうやらあなた方にはその権利があるようだ。私もそう思います。さあ、どうしますか? 二人で話し合って決めてください」
その言葉で、凛子さんが僕に振り向く。
彼女が言ったのは、主語のない同意を求めるだけの言葉だった。
「いいよね?」
何がいいのか、だからどうするのか、不明瞭なその問いかけ。
でも、もちろん僕は即答――いや、情けないことに言葉が出なかったから、すぐに頷いた。
「では先生、みんなのお言葉に甘えさせてもらいます」
凛子さんがそう答えた瞬間、クラスで歓声が上がり、同時に割れんばかりの拍手が始まった。
◇
そうして席を動かして、僕は入学したときのように、廊下側の一番前に移動した。
もちろん隣には、ボッチの僕にも気をかけてくれるあの女の子。
「参ったわね。まさかこんなことになるなんてね」
「僕はまだ心臓がドキドキしてるよ。自分がこんな話の中心にいたなんて信じられないよ」
凛子さんと言葉を交わす。
すると、僕の席の後ろに座った人から声がかかった。
「なんか、私が一条くんの隣ゲットしちゃったわ」
それは凛子さんの友人の一人だった。
僕と凛子さんは驚き、そして凛子さんは不機嫌そうに声を出す。
「あんたねぇ……!」
「おっと、一応まだ授業中ですぜ、クラス委員さん。それに私に怒るより先に、お隣さんに言っておくことがあるんじゃないのー?」
「うっ……」
凛子さんが怯み、そしてやや頬を朱色に染めて、僕を見た。
彼女はしばらくそうして恥ずかしそうに僕を見ていたけど、やがて明るく笑って言ったんだ。
「私、やっぱりあなたと隣同士になれてよかった。これからもよろしくね、空」
縁あって、再び隣同士になれた女の子、暁凛子さん。
僕も彼女に、笑顔で頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。凛子さん」
僕たちは微笑み合い、そして二学期最初の席替えは終わった。
家に続いて、学校でも楽しい時間が過ごせるかもと感じさせてくれる出来事だった。
それでも僕は、凛子さんたちの内緒話には意識を向けないようにする。
「これでダーリンと、半公認のカップルになれたね、あかりん」
「……空には決して言えない話よね」




