ゲームの主人公と、妹の彼女
すぐに起きるつもりが爆睡してしまい、今回も分割です。ごめんなさい。
僕たちは並んで座り、RPGを進める。
主人公の女の子は仲間とともに冒険を続け、そして少女を守ろうとすることで成長していく。
やがて女の子の才能は開花。天才魔術師の孫として、相応しい能力を得ることになる。
そのシーンを見たひかりちゃん。
寂しそうに、つぶやくように話し始めた。
「この主人公、最初はどこかひかりに似てるかなって思ってたけど、やっぱり違ってた」
落ちこぼれだった主人公と自身を重ねていたひかりちゃん。
でも、才能を開花させた主人公に置いていかれたと思っちゃったのかな。そんなことを言い出しちゃった。
「ひかりちゃんも成績とか、飛躍的に良くなったじゃない」
僕はすぐにそう答えたんだけど、ひかりちゃんはそれも否定する。
「ひかりの成績は、お兄ちゃんの応援があってこそだもん。お兄ちゃんがいなくなっちゃったらまた下がっちゃうと思う」
確固たる能力を得た主人公と、僕の支援を受けて成績を飛躍的に伸ばしたひかりちゃん。
その二つは似ているようでもまったくの別物だと、ひかりちゃんは言いたいらしい。
僕は苦笑して、ひかりちゃんに問いかける。
「下がっちゃうの?」
「う、うん……。自信ないの……」
自信がない。
ひかりちゃんはそう言った。
たしかにゲーム内の主人公は自信を付けてきているように見える。
そしてひかりちゃんは、僕がいないと不安になるらしい。
「うーん、言われてみれば、違ってきているのかなあ」
「う、うん。お兄ちゃんもそう思うよね。ひかりはこの子みたいに強くない……」
一層僕へ体を寄せてきながら、ひかりちゃんは悲しそうに言う。
しかしそれならそれで、対処法を考えたら良いだけだ。
「なら、これからはひかりちゃんが自信を持てるような勉強方法を考えてみようか」
「……え?」
あっけなく言う僕に、ひかりちゃんが驚く。
それでも僕はゲーム画面を見たまま、彼女と会話を続ける。
「そうだね……、何か資格を取ってみようか。英語とか。あるいは全国模試で順位を上げ続けてみる?」
「え? え?」
ひかりちゃんはしばらく僕の会話について来れない感じだったけど、やがて小さな声で僕に訴えかけてくる。
「で、でも……、ひかり、どんなことをしても、お兄ちゃんがいなくなると不安になると思う……」
そこで僕は、改めて苦笑する。
彼女の発言は、僕にこう答えろと言っているようなものだ。
「そもそも僕は、ひかりちゃんの前からいなくなるつもりはないんだけど」
僕とひかりちゃんは、お互いもう兄妹だと考えていると思っていたのに。
ずいぶんと寂しい発言だよね。
ひかりちゃんはそのことにやっと気付いたみたいで、「あぅ」と小さくうめき声を上げた。
「ごめんなさい」
ずっとくっつけていた体を離し、彼女は僕に頭を下げる。
僕はそこまでは考えてなかったけど、ひかりちゃんは不慮の事態の話をしてしまったと考えたのかもしれない。
しかし。
そこで僕の頭の中に、少し悲しい考えが浮かぶ。
もし僕が急に死んでしまったら。
今のひかりちゃんはどうなるのだろう。ちゃんとご飯とか食べていけるのかな。
機械オンチで家事もなにも出来ないひかりちゃん。
そんな彼女を突然一人にしてしまったら……。
「(……ああ、バカな考えだったみたい)」
そこで僕は目をつぶった。
心の中で首を振る。
考えてみれば、僕がいなくてもひかりちゃんには素敵な友だちがたくさんいる。
悲しんでくれるのは間違いないと断言できるけど、僕がいなくなってもひかりちゃんは大丈夫だった。
「……お兄ちゃん」
「うん?」
仕切り直すように、しっかりと僕を呼んでくるひかりちゃん。
僕は目を開けて彼女を見る。
「ごめんなさい」
視線を向けた先で、ひかりちゃんは今一度きちんと頭を下げた。
僕は笑いながら、彼女が顔を上げる前にゲーム画面へと視線を戻す。
「つい、もしものことを考えちゃったんだね。僕は平気だから、ひかりちゃんも気にしないで」
大げさにしたくなかった僕は、軽い感じで話を流そうとしていた。
ひかりちゃんが顔を上げて、僕を見てくるのがわかる。
「ほらひかりちゃん、強くなった主人公を戦わせに行くよ。すごいダメージが出るんじゃないかな」
僕はそう言ってゲームを進め始めたんだけど、ひかりちゃんはなおもこちらを見続ける。
あまり思い悩まないでほしいなと僕は思っていたんだけど、やがてその思いが通じたのか、ひかりちゃんはゆっくりと元の姿勢――隣に座り僕に寄りかかってくる。
「……どうせならちょっと強い敵に挑戦してみようか。おあつらえ向きにフィールドボスがいるみたいだし。これってそのために用意されたボスだよね、きっと」
妙にしおらしいひかりちゃんに、僕はそう声をかける。
「ひかりはお兄ちゃんのゲーム、お兄ちゃんが何をしていても楽しく思えるの」
控えめな声で返事をするひかりちゃん。
そんな彼女からは、元の元気なひかりちゃんに戻るのにはもう少し時間がかかりそうな予感がした。
でも、そこでひかりちゃんは僕の服の裾をギュッと握ってくる。
「お兄ちゃん、ひかりもお兄ちゃんの前からいなくなるつもり、ないからね」
大人しい口調だったけど、それでもしっかりと宣言するかのごとく言うひかりちゃん。
僕は恥ずかしかったけど、その宣言は素直に嬉しいと思った。
ちなみにフィールドボスは、案の定主人公の覚醒前提で設計されたボスだった。
しかもゲームとしての印象を強くする狙いがあったのか、めちゃくちゃ強く設定されていた。
まあ、勝ったんだけどね。
◇
僕は普段の戦闘やマップ移動は素早く行っていると思うけど、ストーリー部分はしっかりとキャラクターボイスを最後まで聞いて進めていた。
この場合、文字だけ読んでボイスの終わりを待たないプレイに比べて、最後までボイスを聞いていると時間は物凄くかかってしまう。
「今日はどうだった? 楽しかった?」
「うん、楽しかったよ。ありがとう、お兄ちゃん」
夜。
僕はひかりちゃんの前に夕食を並べながら、そう尋ねていた。
ひかりちゃんは楽しかったと答えてくれた。
実際に機嫌良さそうではあったけど、でも、どこか元気がないような、何かが引っかかっているようにも見えていた。
「……ほぐしたササミ入りのサラダに、ササミの照り焼き? それにミニハンバーグも? こんなに食べていいの?」
ひかりちゃんは目の前にならんだ料理に驚いているみたいだった。
僕は笑いながらひかりちゃんの正面に座る。
「照り焼きは若干味付けが薄めに感じるかもしれないし、ハンバーグは豆腐を使ったハンバーグもどきだよ。でも、全部美味しく食べられると思う」
ひかりちゃんはそれを聞いても驚いたままだったけど、僕の「冷めない内に召し上がれ」という言葉に慌てて箸を握った。
「い、いただきます」
「いただきます」
僕たちは軽くお辞儀をしてご飯を食べ始める。
ひかりちゃんはダイエットがしたいと熱意に燃えていたから、ササミの照り焼きじゃなくて棒々鶏みたいなさっぱりしたものでも良かったと思う。
でも、僕は敢えてこのメニューにした。
実はまだ隠し玉も残っている。ひかりちゃんにはしっかり食べても脂肪は落ちるんだということを知ってもらいたかった。
「……美味しい」
「それは良かった」
僕は口を動かしながら、ひかりちゃんの様子を見る。
やっぱり彼女はどこか元気がない。たぶん、僕がいなくなったら何も出来ないという話をした後からだと思う。
「最近またSNSが盛んになってきたね。学校が始まるからみんなやり取りをし始めたの?」
「う、うん。そんな感じだね」
普段とは逆に、僕から話題を振ってみる。
そして普段とは逆に、ひかりちゃんの受け答えがぎこちない。いつもは僕が押されて戸惑う側なのに。
「あ、スープはキャベツとかトマトとか玉ねぎとか、具だくさんのコンソメスープだよ。野菜ばかりだけどボリュームはあると思う」
「あ、ありがとう」
ひかりちゃんがスープを食べようとしたので、僕は思わずその説明を始めてしまう。
でも、よく考えたらそんなふうに口を出し続けられたら食べづらいよね。
「ご、ごめん。ちょっと話しすぎたね。もう黙るから気にせずゆっくり食べてね」
「え、えっと……、お兄ちゃんの話を聞くのは嬉しいから、どんどん話して?」
どうにもチグハグな会話が続いてしまう僕たち。
コミュ力の低い僕には、やはり率先して会話を引っ張るのは難しい。
ムードメーカーのひかりちゃんが元気がない状態ならなおのことだ。
でも、微妙な雰囲気と言えど時間は進んでいくし、口を動かしていると徐々に料理は減ってくる。
やがて食事が終わりかけたテーブルに、美味しい匂いが漂い始めた。
「……あれ? この匂い……」
僕は心の中でよし、と頷いた。
コミュ力の低い僕は、他で勝負するに限る。狙い通りの時間に隠し玉が完成しつつあった。
「大したものじゃないけど、実はデザートもあるんだ。食べ終わったら出してあげるから、今は目の前のものを食べちゃって」
「う、うん……」
戸惑いながら食事を再開するひかりちゃんを見て、僕は気に入って元気出してくれたら良いんだけどと思った。
しかし、状況は僕が期待していたものとはまるで見当違いの方向へと転がっていくこととなる。




