彼女は帰り、彼女は残る
もっと書きたかったのですが、体調不良もあり間に合いませんでした。
分割させてください。すみません。
次の日、ひかりちゃんとメグさんは体を動かすために出かけようと約束していた。
何故か当たり前のように僕もアイリさんに拉致されて、彼女たちと一緒に外出することになった。
ファミリー専用のジムとやらに連れて行かれて、そこで綺麗な女性トレーナー指導の下運動を始めるひかりちゃんとメグさん。
僕はと言えば、着替えたアイリさんに付きっきりでしごかれてしまった。
体組成とやらを調べられて、その後もベタベタ体を触られて筋肉の付き方を調べられて。
その後僕に合ったトレーニングをさせられた。
とはいえ、いつぞやの仕返しというわけではなく、優しく気遣いのあるしごきだったけれど。
でも、それでも僕は運動不足だったみたいでヘトヘトになっちゃった。
その後は、これまた当たり前のように付属の温泉施設に連れて行かれた。
いや、この場合は温泉が出ているところにジムを建てたのかな。
ひかりちゃんたちと温泉に入る。
一夏に三度目も水着を見ることになるとは思わなかった。アイリさんも同席を勧められていたから、彼女については初水着だったけど。
その夜は本当にぐっすりと眠ってしまった。
だから朝起きたらひかりちゃんとメグさんが同じ部屋で寝てて、心臓が飛び出るくらい驚いちゃった。
メグさんとの休日はそこでおしまい。
彼女は最後に上機嫌で朝ごはんを食べて、そしてアイリさんの運転で帰っていった。
数日ぶりのひかりちゃんと二人だけの自宅。
元気なメグさんがいなくなったから、ちょっとだけ寂しく感じられた。
「メグちゃん課題、終わらなかったね~」
「そうだね。ちょっと遊びすぎちゃったね」
元々絶対に終わらさなくちゃダメってわけでもなかったし、アイリさんが後はお任せくださいって言ってたし、問題ないと思うけど。
「ひかりの宿題も、夏休みには終わらないかも……」
恥ずかしそうにひかりちゃんが言う。
彼女の宿題とは体重の減量のことだと思う。
でも、それは仕方のないことだ。
昨日みっちり運動したとはいえ、すぐに結果は出ないと思う。
僕は笑って彼女に言った。
「元々期限なんて決まってないし、大丈夫だよ。それより今日はしっかりタンパク質を取ろうね。ササミを中心にして色々作るから、よく噛んで食べてね」
「う、うん。わかった~!」
元気良く答えるひかりちゃん。
今の彼女はすぐに痩せられなくても、それほど悲観的に考えなくなったみたい。
僕はこれなら心配することは何もないかなと思った。
「じゃあ夏休みもあとわずかだし、のんびりと過ごそう。何かやりたいことがあったら言ってね。出来るだけ頑張るから」
その言葉に、ひかりちゃんは「ありがとう、お兄ちゃん」と言って頭を下げてきた。
彼女の課題はもう終わっている。後はもう彼女の思いのままに残りの夏休みを満喫するだけだった。
◇
ひかりちゃんが言い出したことは、「お兄ちゃんのゲームしているところが見たい」だった。
照れくさかったけど、僕は夏の初めに発売されたRPGを始めることにする。
「この主人公、どこかひかりみたい~」
主人公の女の子は落ちこぼれ。
天才魔術師の孫だけど、魔法が苦手だった。
魔術師である祖父は焦らずゆっくり頑張ればいいと言ってくれていたけど、ある日突然魔族の襲撃を受け、相打ちになり死んでしまう。
主人公は悲しみに打ちひしがれ、祖父のお墓を作ってあげた後も泣いてばかりいた。
しかしある夜、凄まじい落雷とともに主人公の家の前に幼い少女がやって来る。
少女の登場に驚いていた主人公だったけど、次に少女を追ってきたかのように魔族が現れた。
主人公は少女を守ろうと戦うけど、まるで歯が立たず負けてしまいそうになる。
だけど命を奪われそうになったその瞬間、少女に助けてもらってなんとか生き長らえる――そんな滑り出しで始まるゲームだ。
「主人公は助けてくれた少女と一緒に、危険だと感じた家を捨てて旅に出るんだね~。すごいな~」
実はこのゲーム、ネット上では高評価を受けている。特にシナリオがいいらしい。
売上も順調らしく、僕はそんな理由からやりたくなったんだよね。
隣に座るひかりちゃんは、そんな評判のいいシナリオに早くも引き込まれているようだった。
もちろん僕も面白そうと思えていたけど、でも僕はゲームとしてもこのRPGを見ている。
「小さな女の子、長い髪で剣と盾を持ってるよね。不思議で可愛いよね~」
主人公のパートナーになる幼い少女は、どんな装備も装備できる。
長い髪を手足のように動かし、それで武器を扱う。
でも、装備できるのは何故か二つ。右手と左手分しかない。
まだ髪は余ってると思うけど、二つまで。ファンタジー。
ゲームのシステム的には、この少女がパーティの穴埋め役になる。
序盤はパーティメンバーが少ないから、こういったキャラクターは便利というわけなんだね。
「(でも、僕はこれからゲームをどう進めて行こうかな?)」
この手のRPGには、いわゆるサブクエスト――話が横道にそれるシナリオが複数あったりする。
それを全部回収しながら進めていくか、あるいはサクサクとお話の本筋を追っていくか。どっちがいいのか迷っていたんだよね。
僕は少し捻くれたゲーマーだ。
いろんな解き方があるゲームなら、正道から外れた変わった解き方をすることも多い。
今回はひかりちゃんに合わせて、主人公は後衛の魔法使い、パートナーの少女は剣と盾で前衛、という戦い方を選んだ。
でもこれが僕一人なら、主人公は皮装備で木の盾を持って前衛、パートナーの少女には弓矢を持たせて(この場合も髪の毛で操る)後衛、という戦い方を始めていたかもしれない。
「(僕一人ならサブクエストを回収したり好き勝手するんだけど……)」
チラリと隣に座る女の子を見る。
僕の義妹の彼女は、大変失礼ながら、サブクエストばかり追い回していたらメインストーリーを忘れそうかなと思ってしまった。
「よし、じゃあ次に進もうか。次はどんなお話なんだっけ?」
「えっと……、通行証をもらったから関所が通れるようになった!」
「うん、そうだね」
主人公たちは安全な城を目指して旅をしていた。
そこには祖父のお弟子さんがいるみたいだね。
主人公に仲間が増え、戦闘が派手になってきていた。
コンボを決めて最後に大技でドーンと〆る。
「お兄ちゃんのゲームは、見ていて気持ちいいから好き~」
ひかりちゃんが僕に肩を軽くぶつけながら、楽しそうにそう言った。
気が付けば、ひかりちゃんは僕にピッタリと寄り添ってゲームを見ている。
今もぶつけた肩を離さない。
こうして僕との距離を徐々に詰めてきていたのだろうか。恐るべし。
「メニューの操作は早すぎてわかんないんだけどね」
しかしそこで、再び彼女が楽しそうに言葉を続けた。
僕は慌てて彼女に答える。
「あ、ご、ごめん。いつもの癖で。これからは気を付けるね」
「ううん、いいの~。よくわからなくても、きっと上手くいっているんだろうな~って思えるし、それにお話の部分はゆっくり進めてくれてるし」
ひかりちゃんの言う通り、僕はシナリオ部分の会話は飛ばさないように時間をかけて表示させていた。
でも、他の部分はあまり気にしていなかった。これからは口に出して説明しようかなと考える。
「じゃあさっきの戦闘で見たことのない剣を手に入れたから、装備させてみよう。この手のRPGでは見たことのない装備イコール、現状より強い装備ってことが多いからね」
「そうなんだ~」
その例に漏れず今回も上位互換の装備だったので即決定。
そしてすぐにメニューを閉じて次の敵とエンカウント。ちなみにいわゆるシンボルエンカウント制のRPGだった。
「それと、派手な戦闘が増えたのは、やっぱり仲間が増えたからだね。最近のRPGは仲間が揃ってからが本番っていうゲームも多いんだ」
「じゃあ、仲間が揃うまでは練習なの~?」
「ゲームのシステム的には練習というか、チュートリアルだね。もちろんストーリー的には最初から本番だけど」
ポチポチとボタンを押しながら、敵との戦闘を進めていく。
戦闘はアクション要素のない、キャラクターの素早さ等で順番が回ってくるタイプの戦闘システムだ。
「でも、こうして見ているとゲームって似ている部分多いんだね~。タマちゃんがやってることを今のお兄ちゃんもやってるよ~」
タマちゃんとは、ひかりちゃんの大好きなゲーム内のペット。
彼女が言いたいのは、ゲームタイトルが違っても似た状況になることが多いってことだろうか。
「氷を炎で溶かす。水属性の敵に雷を撃ち込む。岩の巨人には剣よりハンマー。この辺はどのゲームでも一緒だね」
「うん、ひかりもそう思ったの。タマちゃんもそんな感じで戦ってるよね~」
タマちゃんはAIも賢いし、ほとんどの属性を操ることが出来る。
ひかりちゃんはそんなタマちゃんの戦い方を思い出したから、今こうして僕に似ていると言っているみたい。
「まあでもこれって、ゲームが現実に似せようとしているかぎり切っても切れない状況だと思うよ。氷に水をかけても、火にくべるよりは遥かに効果は薄そうでしょ?」
「お~、そっか~。現実に似せてるから、似ている状況が増えるんだね~」
「だからこそゲームクリエイターさんは、個性を出そうと頑張ってると思うんだけどね」
「なるほど~」
今度もコンボが決まり、さっきと同じ大技で戦闘はフィニッシュを迎えた。
これならひかりちゃんから見ると単調になっちゃうかな、と僕は思う。
でもそこでひかりちゃんが、改めて僕に体重を預けてくる。
僕が勝って嬉しいのかなと思ったんだけど、彼女は意外なことを言い出した。
「お兄ちゃんがゲームをしながらお話してくれるのも、ひかり、大好き。聞いていて面白いの~」
彼女の温もりを感じながら、彼女に大好きと言われてしまう。
僕は顔を赤くしてしまったけど、同時に彼女と同じことを考えた。
とても恥ずかしかったけど、僕もそれをきちんとひかりちゃんに伝えることにする。
「僕も、ひかりちゃんに話を聞いてもらって助かってるよ。ゲームのことを誰かと話せるのも楽しいし、人に話を聞いてもらうのって、それだけで嬉しいものなんだね」
その言葉に、すぐに返事は来なかった。
ひかりちゃんは少しの間固まっていて、やがて元のように体をリラックスさせ、優しい口調で僕に言う。
「お兄ちゃんも嬉しかったんだ。ひかりも嬉しいな。ちゃんと聞いててよかった~」
ひかりちゃんはそう言って、とうとう頭まで僕に預けてくる。
さすがにそろそろ恥ずかしすぎるから、そのことを彼女に言おうかと思ったんだけど。
その時ひかりちゃんが、もう一声付け加えたんだ。
「会話をすることで、お兄ちゃんもひかりも嬉しい気持ちになれる。これってすごいよね。ひかりたちって、幸せな兄妹なんだね」
僕は顔が赤くなり、結局何も言えずにゲームに戻ったんだ。




