これってママ友?
昨日投稿が遅れてしまったので、本日二話投稿しています。
これは二話目になります。ご注意ください。
昼休み、珍しくひかりちゃんからメッセージが届いた。
『お兄ちゃん、スマホからタマを見る方法があるって言ってたよね? 私に教えてください』
このご時世、一人用のゲームでもスマホと連動しているのはよくある。
ひかりちゃんは昨日手に入れたばかりのエンシェントドラゴンの子ども、タマちゃんが早くもお気に入りみたい。
餌をあげたくなったのか、姿を見て癒やされたくなったのか、どっちかな?
僕はそんな感じで彼女の心情を推測していた。
でも、ひかりちゃんは機械オンチだ。簡単な操作だと思って教えても、彼女なら間違える。
だから僕は、これから電話してもいいかというメッセージを送ったんだ。
『三十分以内なら大丈夫。待ってます』
僕はそのメッセージを受け取ると、自分の席から立ち上がった。
そうしたら、隣の席の女の子から声をかけられちゃった。
「あれ、電話? 珍しいわね」
「う、うん。ちょっと行ってくる」
僕は逃げるように教室から移動した。
赤面症の気がある僕は、まだひかりちゃん以外の女の子と話すのは苦手なんだよね。
人気のない場所で電話をかけると、ひかりちゃんがすぐに出てきた。
「もしもし、お兄ちゃん?」
「こんにちは、ひかりちゃん。それじゃ手短に言うけど、スマホの本体にある緊急ボタンを押してくれない?」
「はーい」
「後は、出てくる文字に従ってくれたらいいから」
「はーい!」
僕はひかりちゃんのスマホをリモートで操作することにした。
家族登録をしてあるから、僕たちはお互いのスマホにアクセスする権限がある。
ささっと操作を終えて、ひかりちゃんがスマホからエンシェントドラゴン・タマを見えるようにしてあげた。
ひかりちゃんからありがとうのメッセージが返ってくる。
僕は一人微笑みながら教室に戻った。
でもこの行動が、まさかあんなことに繋がるなんて。僕は予想もしてなかったんだ。
その後の授業中、なんとひかりちゃんから再びメッセージが届いた。
向こうは休み時間なのかな。こんなのは初めてのことだった。
先生には悪いけど、こっそり内容を確認させてもらう。
するとそこには驚きの……、でもある意味、今ままでなかったのが不思議だった内容が書かれてあった。
『お兄ちゃん、今日お友だちを家に連れて帰ってもいいですか?』
授業中なのに顔色を変える僕。
ひかりちゃんが通っているのはお嬢様が集う女学院。そんな場所から彼女は、僕の家に誰かを連れて帰るつもりみたい。
「……?」
隣の女の子が怪訝そうに僕を見る。
僕は慌てて何でもない振りを装った。
ひかりちゃんが友だちと仲良くするチャンスを僕が潰しちゃうわけにはいかない。
僕は視線操作で『もちろんいいよ』とメッセージを返した。
送信を決定した瞬間、心臓がバクバクと音を立て始めちゃった。
◇
放課後。
僕は玄関前までは帰り着いたけど、どうしても扉を開けられないでいた。
ひかりちゃんの学校はここからすぐ近くにある。当然、もう彼女とその友だちは家の中にいるんだと思う。
僕としては、ひかりちゃんは僕そっちのけで友だちと遊んでいてくれた方が気が楽だ。
それは寂しいだろうと思われるかもしれないけど、僕は知らない女の子と話すよりは、一人でゲームしてた方がいいんだ。
でも、ひかりちゃんは僕を放っておいてくれないんだろうなあ。
相手の女の子は赤面する僕を見て、どう思うのかなあ。嫌だなあ。
とはいえ、早めに冷蔵庫に入れた方がいい物も持って帰ってきている。いい加減に腹をくくるべきだろう。
僕は半ば投げやりになって、玄関のドアに手をかけた。
「た、ただいま……」
誰にも聞かせるつもりがないような声量で、僕は家の中に挨拶をした。
いつもならすぐに目に付くはずの、ひかりちゃんの笑顔が見当たらない。
もしかしたらひかりちゃんはいないのかも。
そう喜んだのもつかの間。リビングから、いつもの美少女が飛び出してきた。
「おかえり、お兄ちゃん!」
「お、お邪魔してます……」
ひかりちゃんの後ろから、彼女に負けず劣らずの美少女も現れる。
綺麗でおとなしそうな女の子だった。ひかりちゃんも立派なお嬢様の所作が出来るけど、彼女はそれ以上にお嬢様然とした女の子だった。
「お兄ちゃん、冷蔵庫のお茶もらったよ~?」
「あ、う、うん。すぐにちゃんとしたお茶を入れるよ。ちょっと待っててね」
僕は早くも顔が赤くなりつつあった。
でもそのとき、僕の目に意外な光景が映る。
顔が赤くなっていた僕だけど、よく見るとひかりちゃんの連れてきた女の子の方が、耳まで真っ赤にして緊張しているようだった。
人は自分以上に緊張したりパニックになっていたりする人がいると、少しは落ち着いてくる。
僕も彼女を見て、顔は赤くなったままだったけど、思考は少し落ち着いてきていた。
「くおんちゃん、お兄ちゃんがお茶入れてくれるって。向こうで待っていよ?」
「は、はい……」
彼女はくおんと言う名前みたい。
でもねひかりちゃん、僕はその子と初めて会うから、甘えた口調でお兄ちゃんと呼ぶのは止めてほしいかな?
僕は制服のまま、手を洗って緑茶を入れ始めた。
ほんの少し冷ましたお湯で、一気に煎茶を出し切る。
緑茶は地味だったりするかもしれないけど、すぐに入れられるし僕は好きだ。
ケーキなら並んだり売り切れてたりもするかもしれないけど、緑茶のお茶請けはちゃんとしたお店さえ知っていれば比較的簡単に手に入る。
今日の茶請けも並ばずに買えちゃった。美味しいのになあ。
というわけで、今日はひかりちゃんが友だちを連れてくると言うので、有名店の羊羹を買ってきてみた。
「ごゆっくりと、どうぞ」
お茶と羊羹を差し出して、僕はすぐに部屋に逃げ帰ろうとした。
しかしそこは近頃ますます僕にベッタリのひかりちゃん。すぐに不思議そうな顔で尋ねてくる。
「あれ、お兄ちゃんの分は?」
どうしてこの子は、当然のように僕を女子高生二人の席に同席させようとするのかな?
「せ、制服を着替えないと……」
「あ、そっか。じゃあ待ってるね。お茶ありがと~」
ひかりちゃんは恐ろしい女の子だ。
ごくごく自然に、着替えたら来いという流れを作られてしまった。
僕は頭を垂れながら、トボトボと部屋に戻って着替え始めた。
「五辻玖音と申します」
その子はわざわざソファから立ち上がり、僕に向かって深々とお辞儀をした。
とても美しくて礼儀正しいお辞儀。でも、彼女自身は可哀想なくらいガチガチに緊張してるみたい。
ひかりちゃんは、何を思って彼女を連れて帰ってきたんだろう。
友だちだと言ってたけど、さっきから五辻さんは頬を染めたまま下を向いてばかりだ。
これって僕がいない方が、絶対盛り上がるんじゃないかな?
ひかりちゃん、なんだか僕も居心地悪いよ。
けど、そんなことを考えていると完全に予想外の話が飛び出してきた。
「それでねお兄ちゃん、なんとくおんちゃんも、昨日のドラゴンのペット持ってるんだよ~!」
「……え?」
その言葉に驚いて、思わず玖音さんを見る。
僕の視線に気付いた彼女は、ますます顔を赤くして縮こまってしまった。
「ひかりが教室を歩いてたら、くおんちゃんが見たことのある画面を開いてたの。だからすぐに話しかけちゃった」
ひかりちゃんのその言葉を聞いた玖音さん、観念したようにポツポツと語り始めた。
「私、ゲームをしていることはずっと秘密にしてきたんですけど、今日はついつい我慢出来なくなって、学校でドラゴンちゃんを見てたんです……」
そこをひかりちゃんに見つかっちゃったんだね。なんというか、ご愁傷様です?
「周囲には気を付けていたはずなのに、いつの間にかひかりさんが私の隣に立ってて……」
「えへへ~」
照れくさそうに笑っているひかりちゃん。
けど玖音さんからしてみれば、それって下手なホラーより怖いと思うよ。
「私はバレちゃったって焦ったんですけど、信じられないことに、ひかりさんからエンシェントドラゴンの名前が出てきて……」
「ん? ひかりがゲームのことを知ってるの、信じられないことなの?」
無言で何度も頷く、僕と玖音さん。
でも、これで昼休みのメッセージとは話が繋がった。
「それで、くおんちゃんがドラゴン見せてくれたから、ひかりのタマちゃんも見せてあげたんだ~」
タマを見る方法を聞いてきたひかりちゃん。あれは自分で見るためじゃなくて、玖音さんに見せてあげるためだったらしい。
すると玖音ちゃん、さっきまでは縮こまるように話していたのに、突然身を乗り出して僕に話しかけてきたんだ。
「あ、あのデータを見たとき、私は自分の目が信じられませんでした。キャラは育っていないし、そもそも魔法すら覚えていない。それなのに、ちゃんとエンシェントドラゴンを手に入れてたんですよ……!?」
「えへへ~」
またも照れくさそうに笑うひかりちゃん。
でも、僕はそれどころじゃなかった。玖音さんの勢いに押されて、少し身を引いてしまっていた。
「私はひかりさんに、一体どうやって手に入れたのかを尋ねました。そしたらひかりさんは、誰にも言わないでねといきなり言って、私が止める前に複雑な家庭環境を教えてくれたんです……!」
「も~、くおんちゃん、恥ずかしいよ~」
三度、照れくさそうに笑うマイシスター。
でもねマイシスター、人が良さそうな子に一方的に秘密を喋っちゃうなんて、ある種の脅迫だと思うよ。
僕はちょっと気になったことが出来たので、楽しそうに笑っているひかりちゃんに質問してみた。
「えっと、もしかして、ひかりちゃんと玖音さんがお友だちになったのって……?」
ひかりちゃんは僕の質問に、とってもいい笑顔で答えてくれたんだ。
「もちろん、今日からだよ!」
ひかりちゃんの言葉に、がっくりと肩を落とす玖音さん。
僕は彼女に同情したくなってきた。秘密を知られて、秘密を無理やり明かされて。それってもう友だちになるしかないパターンだよね。
しかし玖音さんは、軽く首を振ると顔を上げた。
「でも私、ひかりさんには感謝してるんです。ひかりさんが強引に私を誘ってくれなければ、私はきっと、自分からは友だちなんて作れませんでしたから」
「むー。前から一緒にお話しようって言ってたのに~」
「ご、ごめんなさい。でも私がやっているようなゲームは、あのクラスでは誰も他にやってないと思っていたので……」
たしかに、いわゆるソシャゲをやっている子はいるかもしれないけど、コンピューターゲームの専用コントローラーを握って、一人用のアクションRPGをする女の子は少数派だろう。
「うんうん、たぶん、他に誰もやってないんじゃないかな?」
しかしひかりちゃん、そこで明るい声で玖音さんの言葉を肯定した。
「…………」
再びズーンと肩を落とす玖音さん。
ひかりちゃんは無邪気ゆえに残酷だ。彼女は単純に事実として言ったのかもしれないけど、言われた玖音さんにしてみれば『クラスで一人だけ変わった趣味を持っている』という事実を突き付けられた形になる。
ところがひかりちゃん、ずっと続けている楽しそうな笑顔を崩さず、玖音さんに言ったんだ。
「でも、これからはひかりがいるよね!」
玖音さんは驚きの表情でひかりちゃんを見た。
もしかしたら、その言葉は玖音さんの心にクリティカルヒットしたのかもしれない。
「は、はい! 私、今日からひかりさんの友だちになります!」
「わーい、ありがと~! ひかり、ずっとくおんちゃんとも仲良くしたいと思ってたんだ~」
ひかりちゃんと玖音さんは、腕を取り合ってはしゃいでいた。
人懐っこいひかりちゃん。こうしてまた一人、友だちを増やしていくんだね。