決戦、そして得たもの
昨日予約投稿できていなかったので、本日二話投稿します。
すみませんでした。
最終決戦。
僕は戦闘が進むにつれ、不思議な感覚になってきていた。
「(よく考えたら、夢の共演なんだよね)」
本編では同時に現れることのないドラゴンたち。
それがズラリと並んで僕に襲いかかってきている。
「(なんか、お祭り感出てきたかも……!)」
僕は、純粋にゲームを楽しんでいた。
さっきまでは色んな感情が入り乱れていたけど、今はただただゲームが楽しかった。
キャラクターを動かすのが気持ちよくて仕方がないんだ。
「(右! サンダードラゴンのブレスの予備動作! 左からはファイアドラゴンの突進!)」
すべてのドラゴンの動きに合わせて、キャラクターを操作。
回避して、そしてその都度攻撃も叩き込む。
「ひかり、なんだか綺麗な映画を見てるみたい……」
一人用ゲームの醍醐味の一つに、時間の演出に制限がないことがあると思う。
たとえば大技を叩き込む瞬間、たとえば敵の攻撃をギリギリで避けたとき。
それらの瞬間をスローモーションのように演出することで、プレイヤーは『気持ちがいい瞬間』を長く味わうことが出来て、ゲームとしての見栄えもよくなる。
大人数が同時にやるゲームでこんなにスロー演出を入れてしまうと、他人の演出で一々ゲームが中断されて、テンポが悪くなってしまう。一人用ならではの醍醐味だと思う。
もちろん、みんなと一緒に遊ぶゲームには一人じゃ味わえない楽しみがある。どっちが良いか悪いかじゃないよね。
「(さあて、そろそろ隠しステージの本番かな?)」
自分で言うのもなんだけど、僕は神がかったような操作で最終決戦を順調に進めていた。
ドラゴンの体力は削られ、そろそろ中盤戦に差し掛かろうというところだ。
通常ステージなら、この辺りで光と闇のドラゴンが乱入してくるみたい。
でも僕が訪れたステージは、最初から光と闇のドラゴンも登場している隠しステージ。
「(きっとこの隠しステージだって、何か隠し玉があるはずなんだ。一体どんな敵が現れるんだろう)」
僕はワクワクしながらドラゴンと戦っていた。
不意打ちが来るかもしれないと警戒しながら、まだかまだかと待ち続ける。
でも時間が経つにつれて、僕は拍子抜けし始めていた。
「やった。まずは一匹やっつけたね。残りは四体だね~」
広範囲鈍足攻撃を持つアイスドラゴン。一番厄介なこの敵を、真っ先に撃墜に成功。
でも、新しいボスの乱入は発生しなかった。僕は首を傾げながら、ゲームを進める。
「もう一匹~。残りは三体!」
次に厄介なサンダードラゴンが、光の粒子となって消えていった。
この手の戦闘は、敵の数が少なくなればなるほど楽になっていく。
「お~、すごいすごい。順調そうに倒していくね。残りは二体だよ~!」
火のドラゴンが消滅して、残るは光と闇のドラゴンとなった。
僕はまだ気を抜いてはいなかったけど、頭の中では嫌な考えが浮かんできていた。
「(これ、隠しステージじゃなくて、バグが発生して乱入してくる予定のドラゴンが最初から登場してただけかも?)」
アップデート直後にはバグが発生する確率が多かったりする。昔から言えば格段に少なくなったみたいだけどね。
今回のステージでもバグが起こって、実際とは違う挙動のゲームになっているのかもしれない。
僕は肩を落としながら、もはや消化試合のような気分でドラゴンを殲滅する。
そして、ドラゴンが最後の一匹になっても、ステージに変化はなかった。
「お兄ちゃん頑張れ! 残りは黒いドラゴンだけだよ!」
意気消沈していた僕は、ひかりちゃんの声援にハッとなった。
これが隠しステージじゃなかったとしても、彼女のキャラクターで最後までクリア出来そうなことには変わりないよね。
「(よし、最後はちょっと派手に倒しますか)」
わざわざブレスを宙返りで避けて、着地と同時に剣を構えて突撃していった。
ブラックドラゴンも断末魔のような雄叫びを上げながら、光の粒子となって消えていく。
「やったやったやった~! お兄ちゃんってすごいんだね! おめでとう、お疲れさま~!」
やっぱり僕に抱きついてきて、ひかりちゃんは全身で喜びを表現した。
僕も肩の荷が下りたようで、はーっと大きな息を吐いた。
でも、そこで僕は異常に気が付いた。
ドラゴンはすべていなくなったのに、いつまで経ってもステージクリアの文字が出てこない。
「(え、まさかバグってるステージだから、ここで進行不能に!?)」
ここに来てそれはないよ!
僕が心の中でそう叫んだ瞬間、画面に変化が起こった。
空間が歪むような演出の後、見たこともない色の前足がズシンと一歩現れる。
僕は慌ててコントローラーを握り直した。僕が引いていたのは、紛れもない隠しステージだったんだ。
「(エンシェントドラゴン!? 完全な新ボスだ!)」
登場した敵の名前を見て、僕は驚愕した。それは、初めて目にする巨大なドラゴン。
思わず手が震えてくる。状況は、極めて不利な状態に追い込まれていた。
「(初見のボスは、僕の知識が通用しないかも……)」
今までは過去に戦ったことがある敵ばかりを相手にしてきた。
行動パターンは全部覚えてたし、攻略法も知っていた。
でも、このエンシェントドラゴンは初めて戦う相手。
何をしてくるのかわからないし、どこを攻撃すればいいのかもわからない。
そして極めつけは、こっちは一発も攻撃を食らってはいけないという過酷な条件だ。
何をしてくるのかわからない敵から、一発も攻撃を食らわないというのはなかなかに厳しい。
「あれ~? さっきので終わりじゃなかったの?」
ひかりちゃんが不思議そうにディスプレイを見る。
場違いな行動とも言える彼女を見て、僕は自然と笑いがこみ上げてきた。
「これが最後みたい。もうちょっとだけ待っててね。終わったらご飯作るから」
ひかりちゃんは僕の言葉にキョトンとした表情を浮かべていたけど、すぐに満面の笑顔で答えてくれた。
「はーい! 頑張って~! ひかり、待ってる!」
ひかりちゃんはこれが隠しステージだなんてわからないだろうし、僕がどれほどすごいプレイをしているかもよくわかってないと思う。
でも、いいんだ。彼女が心から応援してくれてるのは事実だろうし、彼女の「最後までやって見せて」という願いに応えられるだけでも十分なんだ。
「よし、やってみよう」
僕は久しぶりに、ちゃんと声に出して気持ちを引き締めた。
◇
実はもうとっくに夕飯の時間は過ぎているんだけど、それでも僕は慎重に様子を窺っていた。
幸いにも、エンシェントドラゴンは既存のドラゴンと同じモーションの攻撃も多かった。
何度か様子を見て、確実そうと思える攻撃の隙にだけ反撃を加えていく。
ひかりちゃんのお腹の空き具合は別として、幸いなことにゲーム自体には時間制限がない。
「……お兄ちゃん、頑張って」
不意に、ひかりちゃんが僕の腕に触れてきた。
これだけ慎重にやっているんだから、ひかりちゃんにもこの戦闘の恐ろしさが伝わったのかな?
「大丈夫、こうみえても順調だよ」
攻めあぐねているようにも見えるけど、着実にダメージを与えていっているだけだ。
ギャラリー受けはしないプレイ内容だろうけど安全第一だから許して欲しい。
地道に攻撃を重ねていくと、エンシェントドラゴンの体力も半分近くまで減ってきた。
けど、こういうゲームって敵が瀕死になればなるほど、よく暴れたりするようになるんだよね。
さらに慎重に行かないとダメかなあ。
僕はそんなことを考えながらドラゴンのブレスを避け、すれ違いざまにズバズバと斬撃を加えていった。
そのとき、ひかりちゃんがギュッと僕の服の裾を握った。
攻撃している側は僕なのに、ひかりちゃんは幼い少女のように僕の服を引っ張った。
彼女の行動が直感的だったのか不安に駆られたのかはわからない。
でも、その行動のおかげで、僕の命は首の皮一枚繋がった。
「(ッ!? 予備動作なしのカウンター攻撃!?)」
おそらく体力が半分以下になった瞬間が発動条件だったんだと思う。
エンシェントドラゴンは突如その巨体を振り回し、周囲に強烈な尻尾の叩き付け攻撃を行ってきた。
「(――でも、まだ行ける!)」
完全な不意打ちだったけど、僕はひかりちゃんの不安そうな行為のおかげで意識が集中していた。
とっさにロングソードを使い、ジャストガードを試みる。
普通の防御とは違った、敵の攻撃と完璧にタイミングを合わせるジャストガード。
それでもちゃんとした盾じゃなかったから、キャラクターにダメージが入る。
ほとんど育っていないひかりちゃんのキャラクター。
ダメージを大幅に軽減したはずの攻撃でも、一撃で瀕死になっちゃった。
「お、お兄ちゃん!? 早く回復しないと……!」
ひかりちゃんが今まで以上に心配そうに服の裾を掴む。
しかし僕は、ゲームが楽しいと思えていた僕は、そのとき笑ったんだ。
「回復はしない。実はねひかりちゃん、このゲームには誰もが使える切り札があるんだ」
それは、ここまで一度も使っていなかった作戦。
安全策を取るなら、絶対に避けるべき行動。
今さらこの方法を選ぶのは僕のワガママかもしれない。
せっかくここまで来たんだから、確実性の高い遠くから様子見しつつの攻撃がいいのかもしれない。
でも、僕は笑って言った。
ここまで来たら、最後までゲームを楽しみたい。失敗したら情けないけどひかりちゃんに平謝りして、もう一度ここまで来ればいい。
「諸刃の剣とも言うけどね。ひかりちゃんも、慣れてきたら試してみてもいいかも。気持ちいいよ」
瀕死状態が続いたキャラクターは、やがて赤いオーラを纏い始める。
ゲーム的には珍しくないシステム。火事場モードとか背水の陣とか色々な呼ばれ方をしているシステム。
「このゲームはキャラクターが瀕死の状態になると、能力が飛躍的に上昇するんだ。ハイリスクだけど、ピンチのときこそチャンスが広がるってやつだね」
僕は指先でコントローラーを操作して、あえてロングソードを格好良く構え直した。
驚いたまま固まっているひかりちゃんの視線を受けながら、僕は笑いながら本当の最終決戦へと身を投じた。
◇
最後のドラゴンが、まるで教材の練習相手のように扱われていた。
僕は隣に座る可愛い妹に向けて、饒舌に説明を続けていく。
「この前ひっかき攻撃は、ドラゴン族共通の攻撃だね。斜めに引き裂くから、場所によって縦に避けるか横に避けるかを判断しなくちゃいけない」
エンシェントドラゴンの攻撃を回避しながら、僕は斬撃を叩き込む。
「この場合大切なのは、攻撃が来てから避けることじゃなくて、攻撃が来る前にどこで待ち構えているかなんだ」
そして次の敵の攻撃が来る前に、すばやく爆弾の置き土産。
「予めわかりやすい場所に立っていれば、避ける方向に縦か横かで迷う必要がないんだよね」
さっきからひかりちゃんには難しい話をしてるとわかってはいたけど、それでも僕の口は止まらなかった。
「そろそろ体力が四分の一を切るね。これは……、多分……」
僕は与えるダメージを調整していき、万全の体勢で攻撃を仕掛けた。
「やっぱり来たね、カウンター攻撃」
ドラゴンが体力四分の一を切った瞬間、再び巨体を回転させて尻尾を振り回してきた。
華麗に宙返りをして、その尻尾の攻撃を避ける僕。着地と同時に、即座に
尻尾が行き過ぎた瞬間に、僕は間合いを詰める。
「(さあ開発者さん、もちろんわかってくれているんですよね?)」
僕は剣を構えながら猛ダッシュしていたけど、頭の中ではあることを考えていた。
そしてその考えは、見事に的中する。
「(来た! 一回目のカウンター攻撃とは違う、尻尾を振り回しての二段攻撃だ!)」
行き過ぎたと思った尻尾は、そのままの勢いでもう一度回転してきた。
しかし僕は――脳内アドレナリンがドバドバ分泌されるのを感じながら――初見のその攻撃を完璧に避けきった。
「(うんうん、一回目の攻撃と丸々同じなら芸がないよね。さすがは開発者さん、その辺しっかりと理解してるなあ)」
僕は回避も含めて最短距離で、ドラゴンの顔へとまっしぐらに突き進む。
「これはゲームに限ったことじゃないかもしれないけど、大抵の場合大技には隙が大きいんだ。今回の尻尾攻撃は、巨体を無理やり振り回した攻撃だから――」
ひかりちゃんへの説明を再開させながら、僕はドラゴンの頭の上へと到着した。
「ほら、ドラゴンは体制を崩しちゃってフラフラしてるね」
理不尽なゲームなら攻撃の後に全然隙がなかったりもするんだけど、このゲームはちゃんとゲームのセオリーを踏まえてくれていた。
まあ理不尽なゲームでも、その理不尽さ加減が面白かったりもするんだけどね。
「そして、これはゲームが現実に似せた部分だと思うけど、ほとんどの生物は、頭が弱点だよね」
体力が発動条件のカウンター攻撃、無理な体勢からの最後の悪あがきのような攻撃、そしてその後起こるであろう状況。
僕はそれらすべてを乗り越えて、その場に立っていた。
その瞬間、僕の目に見慣れぬアイコンが表示される。
開発者さんはさらに粋な演出を用意してくれていたみたい。僕は自分の顔がだらしなく歪むのを自覚しながら、ボタンを押した。
アイコンに表示されていた文字は、フィニッシュブロー。
ボタンを押した瞬間、プレイヤーキャラクターが専用のモーションを取り始める。
ドラゴンの頭の上に仁王立ちして、剣を天に掲げる動作。
「…………」
ひかりちゃんはさっきから何も言わない。
じっと僕に寄り添って、脇目も振らずにゲーム画面を見続けていた。
グギャァアアアァァァ――!!!
剣を頭に突き立てられたドラゴンは、轟くような雄叫びとともに天を仰ぎ見た。
終わった。最高の時間だった。僕も満足して天井を見上げた。
でも、戦闘は終わっても、演出はまだ終わりじゃなかった。
ゲームをクリアすればご褒美がある。演出は、それに移行していた。
「わー……」
ひかりちゃんが感嘆の声を上げた。
倒されたはずのエンシェントドラゴンが、静かにこちらを見つめる。
その演出は数秒ほど続き、やがてドラゴンは一つ頷くと、突如どこかへと飛び去ってしまった。
僕も唖然としながらそれを見ていたけど、ふと、ある物に気付いた。
「……はい、ひかりちゃん。僕がやっちゃったけど、あれはひかりちゃんの物だよ」
僕は笑いながら、ひかりちゃんにコントローラーを差し出した。
可愛らしく小さく口を開けて、不思議そうに僕とコントローラーを交互に見るひかりちゃん。
「入手するには近付いて赤いボタンだよ」
もう一度笑ってコントローラーを手渡すと、ひかりちゃんはいつものように、自分の手の中にあるコントローラーをじっくりと確認していた。
やがて、さっきとは打って変わっておぼつかない足取りで、キャラクターがそれへと近付いていく。
それはエンシェントドラゴンが残していったもの。大きな大きな卵だった。
「お兄ちゃんがくれた、ひかりのもの……」
ささやくようにつぶやきながら、ひかりちゃんは卵に触れた。
するとパキパキと音を発しながら、卵がひび割れていく。
「わぁぁ……!」
中から出てきたのは、予想通りの小さなドラゴンの子どもだった。
すぐに飛び回って、ひかりちゃんのキャラクターへとまとわり付いていく。
「ステキ……、お兄ちゃんありがとう!」
「どういたしまして」
彼女の笑顔を前にして、心地よい疲労感と達成感がこみ上げてくる。
こんなに充実した瞬間は、大げさかもしれないけど、生きてきて初めてのことかも?
「さあひかりちゃん、そのエンシェントドラゴンの子どもに名前を付けてあげて?」
「え、ひ、ひかりが名付けるの?」
「うん、そうだよ」
ひかりちゃんは忙しなく視線をあっちに向けたりこっちに向けたり。
やがて恐る恐る、上目遣いで僕を見た。
「な、名前は、空ちゃん……」
それを聞いた僕の心情は、中々に複雑なものだったと思う。
滅多に名前を呼ばれない僕だけど、僕の名前は、空だ。
「で、出来れば別の名前がいいかな?」
「う~……」
ひかりちゃんは困ったように再び周囲を見回す。
でも、すぐに何かを思い付いたみたい。真剣な表情で、僕に言った。
「じゃ、じゃあ、た、タマちゃん!」
実は大の猫好きの彼女。
僕の妹ひかりちゃんは、ネーミングセンスは微妙かもしれない。