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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹とゲームを遊んでいたら、僕の世界が深まっていく件
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オンラインRPG


 玖音さんの家は、古風で礼儀作法を重んじているイメージがある。


 玖音さんには気品があるし、そのお父さんもお母さんも和の装いをしっかりと着こなしているし、家も庭もこれぞ日本って感じの様式で作られている。

 家の中には和室以外もあるんだけどね。


 紗雪さんも真面目にしていると別人のようにピシッとしている。

 初めて紗雪さんに会ったときは、一言も喋らずに黒子に徹していたっけ。


 そんな感じで、玖音さんの家は歴史のある良家というイメージがあった。


 だから、僕はお昼が近付くにつれて緊張し始めていたんだよね。

 そんな玖音さんの家で食べる昼食は、一体どんなものなのかなと。


 しかしその時になってみると、あっけなく紗雪さんが部屋まで三人分の昼食を持ってきてくれた。

 しかもラーメン。具がたくさん乗った醤油ラーメンだった。


「……これってどう考えても、僕は気を遣ってもらっているんだよね?」


 玖音さんのご家族が普段からラーメンを食べているようには思えないし、ましてや部屋に個別に持ち込んで食べるとも思えない。


 その発言を証明するかのように、玖音さんは苦笑していたし、紗雪さんは笑いながらバシバシと僕の肩を叩いてきた。勢いだけで痛くはなかったけど。


「坊ちゃまは堅いなぁ。気にせずズルズルいっちゃえばいいんですよ~。ほら、伸びる前に召し上がってください」


 僕はあまり他人の好意に慣れていない。

 僕が来ることでその家の生活リズムが崩れちゃうのは本当に申し訳ないなと思ってしまう。


 しかし、せっかくの食事を最高のタイミングで食べないのも失礼だと思い直し、いただきますを言って汁を飛ばさないように食べ始める。


 めちゃくちゃ美味しかった。

 もしかしたら麺もスープも自家製じゃないかな。





 そんなわけで、昼食を挟んで午後からもゲーム。

 こんなことでいいのだろうかと思うのだけれど、午後は紗雪さんも同じ部屋でダラダラしていたし、用事はないのかな。


「お兄さん、午後はもっと難しいダンジョンに行ってみませんか?」


 玖音さんに誘われ、僕は再び冒険に出かける。


 玖音さんが妙に積極的なのにはわけがある。

 僕たちが今遊んでいるゲームは、マルチプレイを前提として作られたオンラインRPGだからだ。


「あそこを二人だと重装と大盾でも厳しそうですね。聖騎士にでも変わって、追加で回復魔法も撃ちますか」

「すみません、お兄さんには守りを一手に引き受けてもらって。そ、その……、とても頼りになります」

「いえ、僕は守るだけなので。クリアタイムは玖音さんの攻撃力に丸投げしてますよ」


 僕も玖音さんもソロプレイヤー、一人で遊ぶことが多いゲーマーだ。

 そんな僕たちにとって、今回のようなオンラインRPGは鬼門だ。相性が悪い。


 オンラインRPGは複数のプレイヤーが協力して強大な敵と戦うことを想定して作られていることが多い。

 一人では倒せない敵を、みんなで倒そう! ってことだね。


 そういう観点から作られているから、プレイヤーは弱くて敵は強いという設定にされている。

 要するに『プレイヤーは一人では敵を倒せない』というゲームバランスなんだよね。


 そんな理由から、ソロプレイヤーの僕と玖音さんには相性が悪い。

 特に玖音さんはゲームを思うように攻略できず、欲求不満が溜まっているみたいだった。


「クリアタイム……、お兄さんが遊びに来てくれて本当に助かっています。まとまった時間が取れなければ、今回のようなダンジョンはいけませんよね」

「二人だけだと、どうしても時間がかかってしまいますよね」


 でも、玖音さんは僕を連れて行くことで、今まで行けなかった場所にも行けるようになった。

 だから今彼女は積極的になっているんだと思うし、僕もそんな玖音さんのお役に立てて光栄だと感じていた。


「では玖音さん、早速突入しますか。構いませんよね?」

「え、ええ、もちろん。……ですが、お兄さんって準備早いですね。いつも周到に用意しているんですか?」

「まあ、僕は人を待たせてしまうのが苦手なので、周到にってわけでもないですがいつも用意はしていますね」


 玖音さんに承諾を得たので、僕はダンジョンへと足を踏み入れる。

 今回のダンジョンは、一面氷に覆われた難しいダンジョンだ。

 でも、玖音さんの得意魔法は炎の魔法だ。二人で攻略するにしても、属性的には有利に戦える。


「ふふ」


 玖音さんは早速出迎えてくれた氷のコウモリたちを攻撃しながら、笑う。


「お兄さんっておかしいですよね。別に私と遊んでいなくても、いつでも誰かと冒険に出かける準備はしっかりしていたのですよね?」


 僕も目の前の敵と対峙しながら、返事をする。


「そういう玖音さんだって、何度も行き詰まりながらも一人でこのゲームを続けていたんですよね? 他に楽しいゲームもあったはずだし、知らない人のパーティに混ざっても良かったのに」

「不思議ですよね」


 僕と玖音さんは笑い合う。

 不思議なもので、オンラインRPGにもボッチなソロプレイヤーは一定数居たりする。


 ゲームの性質上、序盤は難易度が低い。いきなり最強の敵を出して、後半になるにつれて敵が弱くなっていくというゲームなんて見たことがない。

 そしてRPGの性質上、敵を倒し続けていけばキャラクターは段々と強くなっていく。


 だから、序盤の弱い敵を倒して地道にひたすらキャラクターを強くしていけば、一人でもある程度は冒険できるようにはなる。

 そういう作戦が通用しない、マルチプレイ強制のオンラインRPGもあるけどね。


「お兄さんはどうしてこのゲームを始めたのですか?」

「僕は、例のごとく有名タイトルだったからです。僕は売れてるゲームや人気が出たゲームタイトルは欠かさずチェックしていますので。――玖音さんはどうして始めたんですか?」


 僕たちはダンジョンを攻略しながら、ダンジョンとは直接関係しない会話を続けていく。


「私も……、似たようなものでしょうか。国内同時接続何万人、とか、そんな広告を見てなんとなく始めた気がします」


 玖音さんの心情をハッキリと理解したわけでもないし、僕自身がボッチの代表だと名乗りを上げるつもりもないけれど。

 ソロプレイヤーがオンラインRPGなどを始める理由は、やっぱり人恋しいっていうのもあると思う。


 人付き合いが苦手だったり煩わしく感じたりするけれど、同好の士は見つけたい。人との繋がりは感じていたい。

 そんなことを考えているゲーム好きには、オンラインRPG、MMORPGなどと呼ばれるゲームは根強い人気がある。


 同じ世界を冒険して、同じ敵を倒しているプレイヤーを見ていると、自分は独りぼっちじゃないって思えるんだよね。

 MMORPGは一時期本当に廃れちゃってたみたいだけどね。 


「でも玖音さん、前から気になっていたのですが、お父さんとはゲームで遊ばないんですか?」


 玖音さんがゲーム好きになったのは、同じくゲームマニアのお父さんの影響も大きいと思う。

 親と同じことをして遊ぶのは気恥ずかしいという気持ちもあるかもしれないけど、この手のオンラインRPGでは背に腹は代えられないとなってもおかしくないと思うんだよね。


 玖音さんは灼熱魔法を撃ちながら、現実世界でも熱にやられたように顔を赤くした。


「……父親の前で、あんな役に染まりきった自分、見せられないです……」


 僕はハッとなった。

 玖音さんは気分が乗ってくると、キャラクターになりきって魔法を読み上げたりしちゃう女の子だ。

 それが悪いとは決して思わないけど、たしかに父親の前で演じるのは厳しいものがあるよね。


 赤く俯く玖音さんを見て、僕も顔が火照ってしまう。

 カーッと頭にも血が上るけど、ゲームでは問題が起こらないように少し進行速度を遅めた。


 しかし、これなら大丈夫と思っていた僕に、玖音さんのさらなる追撃が入った。


「わ、私があのように自分を出せるのは、お兄さんの前だけです……」


 メガネが滑り落ちそうになってしまうくらいの発言だった。

 僕は慌ててキャラクターを後ろに下がらせて、仕切り直しをしようと思った。


 それに、僕は忘れていなかった。

 玖音さんのその発言を聞いた僕は、部屋にいるもう一人の女性に目を向ける。


 暇になって、お昼寝でもしてくれていないかな。

 僕はそう願っていたんだけど、紗雪さんは目を爛々(らんらん)と輝かせながらこちらを見ていた。


「嘘じゃないですよ。坊ちゃまの前でしかあのプレイはやってないですよ。でも、玖音お嬢様はノッてくると時折大きな声で喋っちゃうので、私ら使用人や家族にはバレバレなんですよね」

「~~~ッ」


 恥ずかしそうに縮こまっていく玖音さん。

 僕もすごく恥ずかしかったけど、僕が手を止めちゃうとパーティが壊滅しちゃうんだよね。そろそろ玖音さん、攻撃再開してくれないかなあ。


「どうですか坊ちゃま。お嬢様への評価上がっちゃいました? あなただけに見せる私の姿、ですよ?」

「~~~ッ!!!」


 紗雪さんにからかわれ、玖音さんは完全にゲーム画面から目を離してしまった。

 使用人の女性は主の女の子をそこまで追い詰めても止まらない。


「ねぇねぇ坊ちゃま~。なんとか言ってあげてくださいよ~」


 ゲームをすることで辛うじて冷静さを保っていた僕は、しかし、短く答えた。


「無理です」

「え~、何が無理なんですか~?」

「く、玖音さんもう無理です。逃げてください、決壊します!」


 僕の声に、やっと玖音さんが我を取り戻す。

 でも、状況はすでに手遅れだった。最後まで頑張っていた僕だけど、そこは難しいダンジョン。

 キャラクターのキャパシティを越えてしまい、どうしようもなくなってしまった。


「後は任せました……」


 机に突っ伏しながら、僕はそう言った。

 僕のキャラクターも敵の集団に押し潰され、その場に倒れ込む。


「お、お兄さん!?」

「坊ちゃま!?」


 二人の声が聞こえてくるけど、僕は返事をせずに顔を隠し続けた。


 玖音さんは僕のことをゲーム仲間として認めてくれているみたい。

 それを聞けたのは嬉しかったけど、やっぱり僕は恥ずかしがり屋だった。


 僕だけに見せてくれる姿だなんて言われて、僕はなんて返事を返せばいいのかわかんないよ。

 ありがとうだけでもいいのかな。




    ◇




 僕と玖音さんはゲームを仕切り直して、再び氷のダンジョンの攻略を進めていた。

 紗雪さんはやり過ぎたということで、お詫びに美味しいお茶を入れに行ってくれていた。


 僕はこれからどんな話題を出せばいいのか迷っていたけど、意外にも玖音さんが同じ話題を話し始めた。


「父とゲームをしないわけではありませんよ。小さな頃はよく遊んでました」


 今度は彼女は落ち着いているみたいだった。

 ゲームにも集中しながら、語るように話し続ける。


「ですが私が大きくなってからの父は、特に最近は私があの学校で孤立気味になってしまい、後悔しているようでした。自分が私をゲーム好きにしてしまったのが原因と考えてくれていたみたいですね」


 彼女はそこでチラリと僕を見ると、優しく微笑む。


「ゲームのせいじゃなくて、私が勝手に殻に籠もっていただけの話でしたよね。ひかりさんはいつでも手を差し伸べてくれていたのに」


 その姿に僕が驚いていると、ゲームの画面上で大きな爆発が起こった。


「お兄さん、危ないですよ。たくさんの敵に狙われていました」

「あ、ああ。すみません」

「ふふふ」


 僕は顔を赤くしてゲームに戻る。

 玖音さんも少し恥ずかしそうだったけど、彼女は軽く頬を染める程度だった。


 彼女はゲームが趣味ということでお嬢様ばかりの女学院で孤立してしまったことがあったけど、今はもう立派に立ち直っているようだ。

 今でもクラスの片隅でボッチを続けている僕は、彼女のようになりたいとは思わなかったけど、すごく輝いていると思った。


「……少し魔力に余裕がないので控えめに進みますね」

「はい。お兄さんに合わせます」


 それからしばらくの間、僕たちは口数少なく、ゲームの話だけをしてダンジョンを攻略していく。


 でも、やがて僕は今の空気を変えたくなって、彼女に話しかけた。


「でも、それじゃあ玖音さん、これからはまたお父さんと一緒にゲームで遊ぶんですか?」


 彼女のロールプレイが原因ではなく、お父さんが後悔していたのが疎遠になった本当の理由だと思った僕。

 だから玖音さんにそう改めて質問したんだけど……。


 玖音さんは恥ずかしそうに笑うと、僕に答えてくれた。


「どうでしょう。少なくともこのゲームでは遊ばないと思います」

「何故ですか?」


 彼女は改めて笑うと、照れくさそうに、でもどこか楽しそうに言ったんだ。


「私が魔法使いが大好きなように、父は弓職ばかり使うのです。お恥ずかしい話ですが、私たち親子は、どこか似ているのですよ」


 彼女は最後に「後衛二人じゃ相性悪いですよね」と付け加えた。



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