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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹とゲームを遊んでいたら、僕の世界が深まっていく件
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新しい毎日を、いつもの彼女と


 僕にはお兄ちゃんと呼んでくれる女の子がいる。

 同い年だけど誕生日は半年遅れの女の子。


 容姿端麗で気立ても良く。

 仕草も上品で友だちも多い。


 でも、そんな僕の妹ひかりちゃんは、少し変わった感性の持ち主だったりもする。


「わ、またワンちゃん散歩させてる人を見つけたよ。やったね。嬉しいな~」


 彼女が今遊んでいるのは、都市開発シミュレーションゲーム。

 プレイヤーは街の舵取りを任され、立派な都市を目指して街を発展させていくゲームだ。


 今までとは違ったジャンルに手を出してるけど、これは学生の僕たちが夏休みに入っているから。

 時間がたっぷりあるんだから、ひかりちゃんは僕の好きなゲームを色々やってくれているんだよね。


「もっとペットショップ増やそーっと。次はどこに建てようかな~」


 街の通りがペットショップで埋まるほど乱立させても、なおも彼女は足りないと言う。

 これは街を発展させていくゲームであって、ワンちゃんニャンちゃんを増やすゲームではないと思うのだけど。


「えい、えい、えい。あれ、資金が残り少ないって言われちゃった。む~、残念。三つまでしか追加オープンできなかったよ。店長、もっとお店増やせるように頑張ってね!」


 謎の店長へのエールを口にするひかりちゃん。

 でも非常に言いづらいことだけど、この場合の店長はあなただと思います、ひかりちゃん。


「あ、でもそっか。お兄ちゃんがお金がない時はTAXがなんとかって言ってたんだった。えっと~、これだね! えへん! ひかりだって一人でも出来るんだから!」


 TAX――この場合は税金のことなんだけど、その関連メニューを開いてひかりちゃんは画面とにらめっこを始めちゃった。


「む、難しそう……。なんか項目がいっぱいある~」


 ひかりちゃんは僕と出会うまでは、ゲームとは無縁の生活を送っていた。

 でもそれが今では、ひかりちゃんは毎日のようにゲームで遊んでくれている。

 嬉しいことに、彼女は僕と共通の趣味を持とうと考え、ゲームを覚えてくれたんだよね。


 でも、ひかりちゃんは元来の機械オンチだ。

 ゲームを始めたばかりの頃は、まともにゲームを進めることすら覚束(おぼつか)なかった。


「一律設定……、これかな~。一律で設定できれば簡単だもんね?」


 しかしそんなひかりちゃんだったけど、最近は一人でも色々と出来るようになってきていた。

 今でも突如出来ていたことが出来なくなったり、焦って手が動かなくなっちゃったりすることもあるみたいだけど、最初の頃に比べたら大きく上達している。


「お兄ちゃ~ん、お金増やすのって、この数字を上げるんだっけ? 下げるんだっけ?」

「……その数字を(ゼロ)にすると、お金は一切入ってこなくなる」

「お~、そうなんだ~。ありがと~!」

「どういたしまして……」


 僕は税率のことをしっかりと説明するべきか迷ったんだけど、なんだか怖くなってボカして答えちゃった。

 今のひかりちゃんに税収と街の発展の関係を説明するのはなんか違う気もするし。


「ゼロでお金が入ってこなくなるなら、数字を増やせばお金が入ってくるようになるんだよね。じゃあもちろん最大にしよっと」


 僕に戦慄(せんりつ)が走る。

 ひかりちゃんはペットショップを増やすために、容赦なく市民に重税を課してしまった。

 犬公方、徳川綱吉もビックリの暴君っぷりだ。


 と、そこで僕は閃いた。

 生類憐れみの令の話をすれば、ひかりちゃんに街の現状に気付いてもらえるかもしれない。


「……ひかりちゃん、遊んでいるところ悪いんだけど、ちょっと歴史の問題」

「え~? お兄ちゃん突然なぁに~? えへへ、でもお兄ちゃんから話しかけられるのって珍しいな~。嬉しい~。何でも答えちゃうよ~!」


 早速考えを実行に移した僕。

 するとひかりちゃん、機嫌良さそうに返事を返してくれる。

 もし彼女に尻尾があるなら、ブンブンと勢い良く左右に振られているような気がした。


 彼女のその反応は僕にとっても嬉しかったけど、でも今はひかりちゃんの街が危機かもしれない。

 僕は静かに彼女に問いかけた。


「江戸幕府、その第五代将軍の名前は?」

「え? えーっと、ま、待ってね! ひかり、絶対知ってるはずだから!」


 ひかりちゃんは出会った頃、自分のことを頭が悪いと言っていった。

 彼女はそれなりに勉強が出来ないと入れない女学院に通っているんだけど、その学校はいわゆるエスカレーター式で進学できるので、何年もかけてひかりちゃんは落ちこぼれちゃったみたいなんだよね。


 だから、簡単な問題でもわからないことがあるんだよね。

 一学期の成績は飛躍的に上がっているんだけど。


「江戸時代は、徳川なんとかさんだよね。家康さんは違う。作った人だよね。吉宗さんも、たしか八代の人だよね。他に有名な徳川なんとかさんは~」


 意外と言っては失礼だけど、ひかりちゃんは間違えずに各将軍の名前を挙げていた。

 これなら答えは出てくるかなと思った瞬間、彼女は予想外の名前を言った。


「あ、わ、わかった。徳川光圀さんだ! お兄ちゃん正解でしょ!?」


 僕はガクリと首を折る。

 ひかりちゃん、それじゃ水戸の黄門様になっちゃうよ。どうしてそこで将軍以外の名前が出てくるのかな。


「あ、あれ? 違っちゃった?」


 僕の反応を見て、ひかりちゃんが不安そうな顔をする。

 僕はすぐに笑って言った。


「違っちゃったけど、惜しかったよ。その人は同じ時代を生きた人だね。着眼点は悪くないと思う」

「そ、そう? わーい、褒められちゃった~」


 喜ぶひかりちゃんを見て、僕はホッと安堵の息を吐いた。


 僕はひかりちゃんに弱い。

 彼女が悲しそうな不安そうな顔をしていると僕まで気持ちが沈んでくるし、逆に彼女が笑っていたら、それだけで僕も幸せな気持ちになれる。


「でもお兄ちゃん、いきなりどうして歴史の問題なの~?」

「う、ううん。たまには僕も抜き打ちテストしようかな、なんて」

「え~? も~、お兄ちゃんイジワルなんだから~」


 僕のことを意地悪だと言いながらも、嬉しそうに体をぶつけてくるひかりちゃん。


 僕は誤魔化してしまった。

 やっぱり楽しそうに遊んでいるひかりちゃんに、正論をぶつけて邪魔をすることなんて出来なかったよ。


「あ、お金増えてきた~。よーし、もっとワンちゃんも猫ちゃんも増やすぞ~。あ、お散歩できる公園を建てるのもいいかも!」


 ひかりちゃんが嬉しそうにゲーム専用のコントローラーを握り直す。

 僕は彼女のその笑顔を見て苦笑した。余計なことを言わなくてよかったと思った。


 ゲームは遊んでいる本人が楽しいかどうかが大切だと思う。

 ひかりちゃんは今笑ってるし、それが一番の正解のような気がした。


 それに、ゲームはせっかく現実では味わえない不思議な体験が味わえるんだ。

 都市開発シミュレーションゲームで犬猫を増やすのも一興だよね。


「るん、るん、る~ん。お~、公園は当たりだね! グッと見栄えが良くなったよ~!」


 楽しそうに口ずさみながら、ひかりちゃんは街を創り上げていく。

 そしてまたお金が少なくなった頃に、彼女は開発の手を止めて市民の営みを眺め始めた。


「……お兄ちゃん」

「うん?」

「どうしてお空から人々が生活しているのを見ていると、ボーッと見入っちゃうのかな~?」

「どうしてだろうね。僕にもわかんないや」


 妹と二人並んで、僕はディスプレイを眺める。

 落ち着いた時間だった。

 僕とひかりちゃんはまだ出会って二ヶ月くらいだけど、もう実の兄妹にも負けない絆が出来ていると思っていた。


 ひかりちゃんが自分の街を見ていて、あることに気付く。


「わ、車から降りてきた人もワンちゃん連れてる! やった~。ペット連れてる人増えてきてるよ~」


 嬉しそうに言った彼女は、でも次の瞬間、首を傾げた。


「……でも、なんか街を歩いている人の数減ってないかな~?」


 それはねマイシスター、あなたの街から市民が逃げ出しているからですよ。


 まあ、ゲームオーバーになりそうになったら僕が手を貸せばいいだけだよね。




    ◇




 キッチン。

 僕がローストビーフを切っているところを、ひかりちゃんがニコニコしながら見守ってくれていた。


「お肉、薄~い」


 薄くスライスされていくローストビーフを見て、ひかりちゃんが嬉しそうに言う。

 僕は手先に注意しながら、でも切る速度は落とさずに答えた。


「ひかりちゃんの包丁、すごくいいよ。もう元には戻れない切れ味だ」

「えへへ~」


 僕はつい先日誕生日を迎えた。

 その時ひかりちゃんが僕にプレゼントしてくれたのが、この包丁だ。


 今まで使っていた包丁も決して悪くない包丁でずっと愛用してたんだけど、今回彼女がプレゼントしてくれた包丁は超がつくほどの高級包丁。

 ちょっと信じられないような値段がついていたけど、その切れ味は値段に負けない優れたものだった。


 ひかりちゃんの友だちにはお金持ちのお嬢様が多いけど、彼女だって普通にお金持ちだ。

 小心者の僕は包丁の値段を調べて腰が抜けてしまったけど、それが彼女の僕への気持ちだと思うとありがたく受け取るしかなかった。


 そんなわけで、僕は最近ますます料理が楽しくなっていた。

 ひかりちゃんは家事ができない。彼女に美味しいものを食べさせてあげるのは、僕の大切で大好きな役目だ。


「薄く切る分、ソースにもこだわっているから、楽しみにしててね」

「お~……!」


 さっきまではニコニコしてたひかりちゃん。

 でも僕の話を聞いて、食い入るようにローストビーフを見始めた。


「……お腹空いちゃった? ちょっと味見する?」

「ッ!?」


 味見という言葉に驚愕(きょうがく)の表情を浮かべるひかりちゃん。

 彼女は体重を気にする女の子だ。僕は全然太っているようには思えないけど、彼女はスタイルの維持には人一倍気を遣っている。


「……ううん。お兄ちゃんのこだわりのソース、後でちゃんと美味しく食べたいから我慢する~」


 ひかりちゃんは未練を振り切るようにそう言った。

 でも、僕は美味しく食べたいという言葉に反応して言葉を続ける。


「なら、ブラックペッパーとハーブソルトで軽く食べてみる? ソースとの違いが出て、ソースが余計に美味しく感じるかもしれないよ」

「ッ!!!」


 ひかりちゃんが再び目を見開く。

 それに、なんだか体がぷるぷると震え始めた気もする。


「……う~!」


 やがて彼女は涙を浮かべながら、僕に唸り声を上げ始めた。


「い、いや、僕は意地悪するつもりはないんだよ? ただひかりちゃんに美味しいご飯を食べてもらいたくて……」

「う~……!」


 僕の言い訳にも、ひかりちゃんはご立腹のままだった。

 反省した僕は、彼女に謝罪する。


「ご、ごめん。後でちゃんと食べるって言ってくれたのに、余計なことを言って惑わせちゃったみたいだね。もう味見のことは言わないよ。もうちょっと待っててね」

「う~、う~!」


 僕はそう言ったんだけど、何故かひかりちゃんはますます不機嫌そうに頬を膨らませ始めた。

 困った僕は左右を見回して……、そして彼女に尋ねた。


「味見、したいの?」

「…………」


 彼女の視線が揺れる。

 僕は恥ずかしかったけど、ひかりちゃんに機嫌を直してもらうために、滅多にしない行動に出た。


「は、はい、あーん」


 小さくカットしたお肉をお箸に取り、ひかりちゃんの口元に運ぶ。

 するとひかりちゃんは迷う素振りも見せずに、すぐに満面の笑みで口を開いた。


「あ~ん」


 口元にあるのに自分からは食べようとはせず、あくまで僕に口の中に入れてもらおうとするひかりちゃん。

 すでに僕は顔が真っ赤だったけど、ここで止めてしまえばひかりちゃんがさっき以上に不機嫌になるのは目に見えている。


 僕は震える手を押さえつけながら、頑張って彼女の可愛らしい口の中にお肉を運んだ。


「……美味しい?」


 至福の表情でもぐもぐと咀嚼するひかりちゃん。

 そしてお肉を飲み込むと、そのままの表情で僕に答えた。


「うん! お兄ちゃん、大好き!」


 いや、そこは料理の感想を言ってほしかったよ、ひかりちゃん。





 でも。

 彼女の笑顔を見て僕は思う。


 もうすぐ僕の料理が完成して、彼女は目をキラキラさせながら食卓でそれが並べられていくのを見てくれて。

 そして彼女は、今日も今日とて元気な声を食卓に響かせてくれるのだろう。


 いただきます、と。


 その光景が現実のものになるように、僕は口元を緩めながら料理の仕上げを急いだ。 



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