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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹にゲームを教え続けていたら、僕の世界が広がっていく件
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そして夏休みへ


 期末テストが終われば、夏休みまではあっという間だ。


 元々反対されてなかったとはいえ、僕の家に来るようになって成績が上がった玖音さんとメグさん。

 テストが終わった後は(特にメグさんは)大手を振って遊びに来るようになっていた。


 僕たちは今まで通りおやつを食べて勉強して遊んだりと、楽しい日々を送っていた。

 メグさんはテスト後も休まず勉強を続けることに嫌そうな顔をしてたけどね。

 しかし、テストが帰ってきた時に出来なかった問題を復習することは大事だから、頑張ってもらった。


「玖音さんは本当にお花が好きなんですね」

「は、はい。現実世界では小さな鉢植えにお水をやるくらいですけど……」


 僕たちが遊んでいるVRゲーム、ラゼルの世界もだいぶ様変わりした。

 ひかりちゃんたちが建てたみんなの家は、増築と改築を重ね、今や立派な豪邸へと進化を遂げていた。


 最初の広場は様々な施設が立ち並び、その周囲にはびっしりと花が植えられている。

 こういうゲームをしていると、それぞれの個性が出てきて面白いんだよね。


 ほとんどの花畑を管理しているのは玖音さんだ。

 彼女は家を建て終わるとすぐに花を植え始めた。話を聞くと、どうやら他のゲームでもそうやってすぐに花を植えていくみたい。


「お兄さん、ちょっとそこに立っていてもらえますか?」

「え、い、いいですけど、何度も写真に残されるのは恥ずかしいかなって……」

「こ、今回は必要なのです。どうにも噴水の形がしっくりと来なくて……。一度SS(スクリーンショット)に残して作り変えてみます」

「また作り直すんですか!?」


 玖音さんが意外に凝り性だと知ったのもこのゲームを始めてからだ。

 僕もゲームにこだわりを持ったりするんだけど、玖音さんには負けたと思わされた。

 だって彼女、植える花の色一本一本にこだわったりするんだもの。


「せ、せ、センパーイ! メグ、すごい生き物を見つけてしまったデース!」


 ゲーム内ではなく、リビングで大きな声が響き渡った。

 僕は彼女が何をしていたのかはだいたいわかっていたので、すぐに巨大ディスプレイに彼女のゲーム画面を表示させた。


「きょ、恐竜デース! なんと恐竜がいたのデース!」

「あー、見つけちゃったかー。恐竜バイオーム」


 冒険が大好きになったメグさん。

 彼女は今日も一人で、まだ見ぬ景色を求めて世界中を旅していたんだよね。


 ラゼルは元々完全に現実世界を再現したVRゲームではない。

 万能ツールのような未知の技術が存在したり、アンデッドやドラゴンなど普通ではありえない生物も存在している。


 しかも発売から長い年月が経っており、何度もアップデートが重ねられてきた。

 恐竜はそんな過程で追加された生き物の一つだ。


 ちなみにバイオームとはちょっと説明が難しいけど、この場合の恐竜バイオームとは、そのまんま恐竜が住んでる地域という意味でいいと思う。

 本来の言葉の使い方とはちょっとズレてるみたいだけど、プレイヤーが使うゲームの用語だからね。恐竜を見つけたら「恐竜バイオーム発見!」とかよく言われてるんだ。


「とっても大きいデース。このゲームをしていると、本当に不思議な感覚になりマース」


 メグさんの画面に映っていたのはブロントサウルス。

 でっかい草食恐竜で、名前と見た目の知名度は結構高いと思う。四本脚で歩く首もしっぽも長い恐竜だね。

 その巨体故に、メグさんは遠くから見つけることが出来たみたい。


 恐竜が追加された当初は賛否両論あったみたいだけど、恐竜地帯に家を建てて踏み潰されたりティラノサウルスとかに追いかけられる体験とかが面白いと評判になり、今では人気のバイオームとして地位を確立している。


「メグさん、のんびり見てるのはいいけど、あの恐竜が居たってことは他に肉食恐竜が居てもおかしくないんだよ?」

「……オゥ」

「メグさんも映画好きなら見たことがある恐竜がいっぱい襲いかかってくる――、あ、ほら言ってる側から。これはもう手遅れかも」

「ノー!!!」


 メグさんに向けて一目散に襲いかかってきたのは、小型の肉食恐竜(それでも人間より大きい)。

 僕もそこまで詳しくないから名前はわからないけど、多分なんとかラプトル。○○サウルスみたいに、○○ラプトルって名前の恐竜も多いんだよね。


 まあ、リアルなVRの世界と言ってもこれはあくまでゲーム。

 持っていたアイテムを失ったりというゲーム的なペナルティは受けるけど、襲われても実際に痛みを感じるわけでもないし、ショッキングな映像が流れるわけでもない。


 メグさんはあっさりとやられてしまったけど、それでも彼女はそこまで気にした様子はなかった。

 彼女はすぐに復活を果たし、今度はゲーム内で玖音さんに話しかける。 


「アハハ、ただいまデス、クオン!」

「お、おかえりなさい、メグさん」


 彼女の復活ポイントはみんなの家がある最初の広場のままだ。

 最近のメグさんはこんな感じで一人で色々と歩き回って、何かに倒されて戻ってくるという遊びを繰り返している。


「玖音、ツールをコツコツするデース」

「あ、はい。いつもありがとうございます」

「問題ありマセーン。センパイもどぞー」

「ありがとう」


 そういうプレイスタイルのおかげで、ツールに一番経験を積ませているのはメグさんだ。

 彼女はいわゆる死に戻りをしているからアイテムを持ち帰ってくることが出来ないけど、その代わり毎回経験値だけはしっかり稼いでくる。

 メグさんはそれをいつもみんなに分けてくれるんだよね。


 まあ、メグさんはやや無鉄砲なところがあるので、出かけてすぐにやられちゃったりもするんだけど。


「ヒカリにもコツコツするデース。ヒカリはどこデスか?」


 メグさんのその言葉で、僕と玖音さんは顔を見合わせた。

 さっきのメグさんの大声にも反応しなかったひかりちゃん。

 同じリビングにいるんだから、聞こえてないはずもないんだけど……。


「……アー、またアソコデスか。ヒカリもクオンと同じデスねー」

「わ、私のお花はお水をあげたりするだけなので……」


 メグさんもひかりちゃんの居場所がわかったのか、僕たちと同じように苦笑した。

 ひかりちゃんも玖音さんやメグさんと同じく、このラゼルでハマっていることがある。


 メグさんの話にも参加できなかったほど、今の彼女は手が離せない状況にいるみたい。




 広場の一角に、森を切り開いて作った大きな施設がある。

 最初は小屋と小さな柵だけで事足りていたんだけど、ひかりちゃんが活動するにつれて手狭になっていき、いつしか森を切り開いて大きくせざるを得なくなったんだよね。


 僕たちがその施設に近付くと、途端にうるさいくらいの「メェーメェー」という鳴き声に包まれた。

 そこは牧場だった。しかも飼っている動物は一種類しかいない。


「ひ、ひかりちゃん? メグさんが帰ってきたよ?」


 僕たちが小屋に到着すると、案の定ひかりちゃんは真剣な顔で何かを眺めていた。

 やはり彼女にも僕たちの声は聞こえていたみたいで、ひかりちゃんはそちらの方を向いたまま答えてきた。


「メグちゃんごめんね、恐竜見つけたんだってね。ひかりも見てみたかったよー」

「残念デース。かなり遠くで見つけたので、もう二度と会えないかもしれマセーン」


 僕たちと会話していても、ひかりちゃんは一瞬たりともその何かから目を離さない。

 その何かとは、羊の母親だった。


「ヒカリ、それ何匹目デスかー?」

「ちょうど三十かな~。あ、待って! 生まれる!」


 母羊が一声鳴くと、その隣にパッと小さな羊が誕生した。

 ラゼルは景色とかは細部までリアルに作り込まれているけど、ゲームっぽくデフォルメされているところもある。


「やった~! 可愛い~!」

「たしかに可愛いデス……。可愛いデスが……」

「こうも数が増えすぎてしまうと、さすがにどう反応したらいいのかわからなくなってしまいますね……」


 僕の妹ひかりちゃん。

 彼女は羊の魅力に取りつかれてしまい、近頃は羊同士の繁殖にも手を出して牧場をモフモフだらけにしていたんだ。


「可愛い~! 可愛い~! 決めた! この子の名前はサンジュちゃんだ~!」


 ひかりちゃんのネーミングセンスは少し変わっているし、名前を決めるのに少し迷ったりすることもある。

 でも、二十九匹目と三十匹目の二匹の名前はあっという間に決めてしまった。

 きっと今回は三十匹目だからサンジュちゃんなのだろう。


 ちなみに二十九匹目の子は、お(29)ちゃんだ。もうどこに紛れているのかわからないんだけどね。多分あそこにいるあの子かな。名前表示させないとわかんないや。


「……私はひかりさんのお友だちにさせてもらってまだ日が浅いのでわかりませんが、ひかりさんは羊全員の名前を覚えていらっしゃるのでしょうか?」


 玖音さんが僕にささやく。

 僕も兄と呼ばれて長いわけじゃないから、彼女の質問には答えられなかった。


 でも、この中で一番ひかりちゃんと付き合いが長いメグさんは慣れたものだった。

 ひかりちゃんの付けた名前に驚くこともなく、あっさりと次の話題を持ち出してきてくれた。


「オー、ヒカリ! 思い出しました! そーいえばアイリが、この夏行く別荘近くに羊と触れ合えるボクジョーを見つけてきマシター」

「お~……」


 アイリさんとはメグさんのお手伝いさんの名前で、正確にはアイリーンさんだ。

 向こうの感覚ではアイリーンの愛称はアイリにならないとも聞くけど、メグさんはアイリ、アイリと呼んでいる。


 僕たちはこの夏、メグさんの別荘にお呼ばれしている。

 メグさんは毎年クラスメイトを別荘に呼んでおもてなししているみたいで、ひかりちゃんはその常連らしい。


 でも、僕が女学院のクラスメイトたちに混ざるわけにはいかない。

 それでもメグさんは僕を別荘に招待したいらしく、彼女らはこの夏、都合二回別荘を訪れる予定になっている。

 一度目はクラスメイトみんなでワイワイ楽しく。二度目は僕たちだけでひっそりと、らしい。


「羊と触れ合えるんだ~。楽しそうだね~」


 たくさんの羊に、モフモフに囲まれてご満悦のひかりちゃん。

 しかしそんな彼女なのに、次に彼女が言った言葉は意外にも思える言葉だった。


「でも、せっかく見つけてきてくれたアイリさんには悪いけど、ひかりは行かなくてもいいよ~。みんなのお話を聞いてから決めよ~」

「そうデスか? クオンは行きたいデスか?」

「え、わ、私ですか? わ、私も皆さんで決めていただければ……」


 ひかりちゃんの返事にメグさんは少し驚いたような声を出したけど、それ以上尋ね返すようなことはしなかった。

 あっさりと話題を振られた玖音さんのほうが、よほどビックリしちゃってたみたいだった。


 でも、僕もメグさんと同じような気持ちだった。

 ひかりちゃんの反応は意外だったけど、ちょっとわかるような気もする。


 ひかりちゃんは犬や猫、特に猫が大好きなんだけど、自分から猫カフェとかに行こうと言い出したことは一度もない。

 きっと彼女の中では、何か線引きがあるんだと思う。


「でも、ヒカリのように毎年来てくれてる子には目新しさがないかもしれマセーン。だからメグはボクジョー、アリだと思いマース」

「うん、そうだね~。でも、ひかりは毎年同じでも平気だよ~。空気もご飯も美味しいし、星空綺麗だし、毎年大満足だよ~」

「あ、アレルギーがある人がいるかいないかでも判断されてはいかがでしょうか? 私はありませんが、羊毛アレルギーという方も世の中にはいらっしゃいますよね?」


 僕の前で、女の子たちのお喋りが始まっていく。

 彼女らの話題には際限がない。ゲームの中でお話していても、すぐに現実世界での話に飛んでいったり、またこっちに戻ってきたりする。


「ンー、メグが覚えている限りではクラスにそのような人はいないはずデース。でも、メグたちの歳でも突然発症したりするのデスかねー?」

「ひかりもそんな話は聞いてないなー。おとなしそうな子も多いけど、みんな強いよね、このクラス!」

「お二人は、当たり前のようにクラスの皆さんのことをご存知なのですね……」

「一番わからなかったのは、クオンのことデシタ! アハハ!」

「す、すみません。ずっとクラスで一人浮いていて……」

「でも、ギリギリセーフデース! クオンもこの夏、メグの別荘に来てくれマース!」

「は、はい……! 私、緊張もしていますけど、日に日に楽しみな気持ちも溢れてきて――」


 僕はこっそりと羊の世話を始めつつ、彼女らの話を聞く。

 ひかりちゃんたちも夏休みが楽しみでたまらないみたいだし、僕も彼女らの話を聞いていると、自然と気持ちがワクワクしてくる。


 夏休み。メグさんの別荘。みんなでお泊り。

 僕も玖音さんのように不安や緊張でいっぱいだったけど、遊びに行く日が近付くにつれて期待のほうが大きくなってきていた。


 これも信頼関係が築けてきたから、なのかな。

 この話が出てきたときは女の子と一緒に泊まりに行くなんて考えるだけでも恥ずかしかったけど、今は彼女らと一緒ならまあ大丈夫かなとも思えてきてる。


 考えてみれば別荘なんだし、知らない人がたくさんいる街に出かけるよりは気が楽かもね。

 ひかりちゃんたちも僕をいじめるつもりで呼んでるわけじゃないんだし、ね。


「センパイは、羊ボクジョー行きたいデスか?」


 メグさんに話しかけられる。

 僕はワクワクしてる自分の気持ちが知られちゃうのが恥ずかしかったから、いつも通りの口調で彼女に答えた。


「僕もみんなに決めてもらっていいよ。クラスの人たちと遊びに行ったのなら僕の時は行かなくてもいいし、逆に行ってないなら見に行ってもいいし」

「センパイの返事も普通デスね。どこか行ってみたいところはないのデスか?」

「メグさんの別荘に行けるだけでも十分だよ」

「フツーの返事デース!」

「でも、ホントなんだよね」


 会話をしていた僕は、気が付けば口元が緩んでしまっていた。

 僕は軽く咳をして、ゲーム内の羊たちに飼い葉をあげていく。

 やっぱり隠しようがないほど、僕も夏休みが楽しみになっているみたい。


「ハァー。欲のないセンパイを、メグたちが喜ばせてあげないといけないデスね」

「うん、ひかり燃えてるよ~! いつもお世話になっているお兄ちゃんにいっぱいいっぱい恩返しするんだから!」

「そうですね。私も日頃の感謝を形にしたいです。……でも、あまり言わないほうがいいのでは……?」


 玖音さんが、最後に小さめな声でそう言った。

 僕にはほとんど聞き取れなかったけど、たぶんそう言ったに違いないと思う。


「お兄ちゃんは賢いから、絶対気付いてると思う!」

「む、難しいですね。私にはこのような時、どういう態度でいればいいのかわかりません……」


 ひかりちゃんの発言を聞いて、僕は苦笑する。

 たしかに僕はあることに気付いていた。


 僕とひかりちゃんは同い年なのに兄か姉を決める必要があったため、お互いの誕生日はお母さんから聞かされていたんだ。

 だからひかりちゃんが覚えていても不思議ではないし、旅行の日程にその日が組み込まれていることから考えても、きっとそういうことなのだろう。


「お兄ちゃん、絶対に楽しみにしててね!」

「何のことかわからないけど、わかった。楽しみにしておくね」

「はーい!」

「バレバレじゃないですか……」


 僕は誕生日に関係なく、やっぱりメグさんの別荘に行くのが楽しみになっていた。


 そして僕たちの、思い出に残る夏休みが始まる。



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