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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹にゲームを教え続けていたら、僕の世界が広がっていく件
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テスト勉強


 期末テストが近付き、僕の学校でも部活動が活動停止期間に入った。

 教室でも徐々にピリピリとした雰囲気が漂い始め、休み時間にノートを広げる生徒の数も増えてきていた。


 隣の席の女の子もその内の一人だったんだけど、ある休み時間、いきなりその女の子が話しかけてきた。


「あなたってさ、テスト前でもいつもと変わんないよね」

「え? そ、そうかな。そうかもしれないね?」


 不意打ちに驚きながらも、僕はとりあえず彼女の言葉を肯定する。

 困った時、焦った時に相手に同意して逃げるのは僕の常套(じょうとう)手段だ。


 けど、彼女はいきなりどうしたのかな。

 僕も教科書を広げてそれを読むふりをしてたんだけど、実際にはスマホでゲーム記事を読んでたのがバレちゃったのかな。


「優等生の余裕っていうか。この学校のテストってかなり難しいと思うんだけど、怖くないの?」

「こ、怖いかな? やっぱり答案用紙に空白部分が多いと不安になるよね? ひどい点数取ったら補習とかで遊ぶ時間を減らされちゃって大変だし?」


 やや早口でそう言ったんだけど、彼女はその言葉にジト目を向けてくる。


「そんなこと言ってるけどさ、実際のところはどうなの? あなた、今テスト怖がってる?」

「……怖がってません。ごめんなさい……」


 僕が肩を丸めてそう答えると、彼女は笑って言った。


「ほらー。やっぱり余裕だったじゃない」

「ごめんなさい……」


 謝りながらますます小さくなる僕を見て、彼女は微笑みを苦笑のそれへと変える。


「あーごめん、悪かったわね、これじゃ八つ当たりそのものよね。あなたが余裕そうにしているのは日頃から真面目にやってるからだし、今になってそれを妬むなんて性格悪いよね」


 彼女は勉強に追われ、ちょっとイライラしちゃってたみたい。

 僕はすぐに彼女に答える。


「いや、いつもお世話になってるし、僕なんかに話して気が晴れるなら、いくら言ってもらっても構わないけど……」

「……それを本気で言ってるところが、あなたのすごいところよね」

「え、そうかな? 本気じゃなく適当に言ってるほうが、性格悪いと思うけど」

「……やっぱすごいわ」


 そこで視線を外し、机へと向き直る彼女。

 このままお話は終わりかなとも思ったんだけど、彼女はまたも不意に僕を見ると、ニッとイタズラ小悪魔っぽく笑って言った。


「でも、それなら私の気が晴れる協力をしてもらいましょうか? 本気で言ってたのよね?」


 嫌な展開になったと思う僕。

 本気で言ったのは間違いないけど、彼女の発言には少し曲解が含まれている。


「そうだけど、本気で言ったけど、僕には愚痴とかを聞くことくらいしか出来ることはない――」

「協力、してくれるのよね?」

「……はい」


 だけど、彼女に強い口調で言われてしまった僕は、またまた肩を落として頷くしかなかった。

 そんな僕を見て、彼女は改めて笑う。


「じゃあ手始めに、何か面白い話してよ」

「えええ?」


 それはひどい無茶振りだった。

 話術だなんて、僕が一番苦手にしていることなのに。


 と思った瞬間、僕はすぐに返答の言葉を思い付いた。


「でもさ、実際のところはどうなの? 僕から面白い話が出てくるなんて、期待してないよね?」

「あ、それさっきのお返し? まいったわね。たしかに期待してなかったけどね?」

「ほ、ほらやっぱり。僕には無茶なんだよ」


 上手く切り替えせたと思った。彼女も笑ってくれたし、なんとか乗り切れたかも。

 そう考えた僕だけど、でも詰めが甘かった。彼女はもう一度イタズラっぽい笑みを浮かべて、言ったんだ。


「でもさ、それでも私のために努力してくれてる姿は見てみたいじゃん?」


 その言葉に、うっと息を詰まらせる僕。

 たしかにお世話になっている以上、苦手なこととはいえ少しは考えてみるべきだなと反省する。


「ふふ、まあいいわ。もう許してあげる。ちょっと気も晴れたし」

「あ、ありがとう」


 けど、今回はあっさりお許しをいただけたみたい。

 彼女も優しい人だなと思いつつ、同時に次回は頑張らないとなとも思った。


「はぁ、あなたと話すのもいいけど、今は勉強しないとダメね。ま、面倒だけど、勉強の神様も努力してる人のほうが好みでしょ」

「うん、その通りだと思う」


 彼女のその発言は僕の心にストンと落ちた。僕は本心からそう答え、頷く。

 彼女はその返事になぜか寂しそうに笑ったけど、「じゃあ頑張るね」と言って勉強に戻っていった。


「(勉強の神様も、努力している人のほうが好み、か……)」


 僕も教科書に視線を戻しながら、小さく息を吐いた。

 隣の席の女の子との会話が無事終わったから息を吐いたんじゃない。勉強の神様という、彼女が言った言葉が頭の中で引っかかっていたからため息のような息が出たんだ。


「(僕は成績はいいけれど、勉強の神様には好かれてないんじゃないかなあ)」


 もう一度周囲に悟られないように、小さく息を吐く。

 僕は自分のことを、知識を蓄えてテストに備えているわけじゃなく、テストというシステムをゲームのように分析して攻略することで高点数を叩き出していると考えていた。




   ◇




「学校のテストっていうのは、先生が覚えてもらいたいってところが出題されるんだ。聞いたことがあるかもしれないけど、ここはテストに出るぞって言葉が、まさにそれだね。ぜひ覚えてもらいたいから、テストに出すという直接的な言葉を使って印象付けているんだと思う」

「「おお~……」」


 そんなわけで自宅での放課後勉強会。

 僕はひかりちゃんとメグさんに、僕自身が考える『テストで点数を取る』勉強法を教えていた。


 メグさんのこれからはわからないけど、ひかりちゃんは毎日予習復習頑張ってるし、神様、どうかテスト前くらいは許してください。


「もちろん先生だって漫然(まんぜん)と覚えてもらいたいと考えているわけじゃない。社会に出て、あるいは後のテストでも役に立つから覚えてもらいたいんだよね」


 僕はひかりちゃんとメグさんに向けて話しているんだけど、なんだか玖音さんも手を止めて僕のほうを見てきていた。

 玖音さんもテスト余裕組なのかな。さすがだよね。


「というわけで、テストというのはこれからの僕たちに役立つであろうお宝の宝庫です。今日は過去に出されたテストをやってみて、間近に迫った期末テストに備えることにしましょう」

「「はーい!」」


 実は僕、今回のひかりちゃんたちの期末テストは勝ったも同然だと思っていた。

 驚きのコミュ力を持つひかりちゃん。なんと女学院が過去に出してきたテスト用紙を手に入れてきてしまったのだ。これならさらに詳細に、今回のテストに向けての対策が立てられる。


 でも、さすがは女の子だよね。コミュニティの中でこんなものまで流通させてるなんて、ホントに驚いちゃったよ。


「まずは数学からなの? お兄ちゃん」

「うん。次は英語だよ。頑張ってね、ひかりちゃん」

「はーい!」

「ひかりちゃんもメグさんもわからなければ飛ばしてくれていいからね。まずは最後までやってみてね」

「「はーい!」」


 数学と英語は積み立てが必要な科目だ。

 暗記系のテストはテスト範囲さえ覚えたら大丈夫かもしれないけど、数学や英語はそうもいかない。

 足し算引き算が出来るからこそ、掛け算割り算に進んでいけるんだよね。


 だから数学と英語はひかりちゃんとメグさんがどこまで理解できているかで必要な時間が大きく変わる。

 その理由から、僕は最初に数学を選んだんだ。


 幸いメグさんは英語は話せるし(スペルに不安は残るけど)、数学も暗記系科目ほど苦手ではないようだ。

 ひかりちゃんは全体的に点数が低い子だったけど、彼女はもう結構な時間を僕が見てきている。積み立ても出来てきているはずだった。


「お、お兄さん、私も数学のテスト受けさせてください」

「え?」


 そんな感じで僕がひかりちゃんとメグさんが過去問題を解いているのを見ていると、突然玖音さんも参加したいと言ってきた。


「も、もちろん構いませんが……、はい、どうぞ」


 玖音さんは英語の長文を訳すのが苦手らしく、そちらをやると聞いていたんだけど……。

 仲間はずれみたいに思えて寂しくなったのかな。


 ちなみに僕も同学年だし、ひかりちゃんたちを見ながら自分でも女学院の問題を受けさせてもらっていた。

 彼女らの学校のテストは奇をてらったような問題はなく、王道というか正統派のようなテストだった。


「メグ、終わったデース!」

「わわ、はやーい」


 僕が全問解き終わるくらいにメグさんも終了宣言をした。

 答案用紙を見せてもらうと空白の部分も多かったけど、基礎的な問題は出来ているようだった。


 しかし――。


「(いわゆるケアレスミスが多いなあ。でも、見直してくれって言ってもメグさんの性格なら嫌がりそうだなあ)」


 僕は迷ったけど、本番では使えない手で見直してもらうことにした。

 あまり答案用紙を眺め続けているのも不安にさせちゃうかもしれないし、これも取っ掛かりと思えば悪くない、はず。


「メグさん」

「ハーイ」

「これから間違い探しの時間です」

「……オーゥ」


 顔をしかめる洋風美少女。

 彼女の様子から察するに、どうやら不注意を咎められるのは今回が初めてではないみたいだ。


「メグさんが書いた答えには、間違いが三つ隠されています。それを見つけて、訂正してみましょう」

「ノー!」


 嫌そうな声を上げながらも、メグさんは素直に答案用紙を受け取って再確認を始めてくれた。

 今回は三つという数を教えてあげられたけど、本番ではあるかないのかわからない見直しをしてもらわなくてはならない。今回のことで少しでも見直す癖がついてくれればいいんだけど……。


 そのメグさんが見直しを始めてしばしの後、次に問題を解き終えたのは玖音さんだった。


「で、出来ました。お兄さん採点していただけますか?」

「はい、わかりました」


 玖音さんの点数を知るのは今回が初めてだったけど、話に聞いていた通り優秀な人だった。


「書けているところは文句なしの満点ですね。最後の空欄が惜しいところでした」


 それはそのテストで僕も一番難しいと思った問題。

 僕はかろうじて解くことが出来たけど、玖音さんは諦めちゃったみたい。


「お兄さんはその問題、解けました?」

「いつもなら解けないかもしれませんが、今回はわかりました。テストを作った先生が優しい人だったんですよね」

「え?」


 その返事が意外だったのか、玖音さんが目を丸くする。

 僕は苦笑しながら、言葉を続けた。


「これ、前に出てる問題がそれぞれヒントになっているんですよ。三段跳びの要領みたいな感じですかね、一、二、三、みたいに応用していく感じです」


 玖音さんはその言葉でテスト問題を見返し始めた。

 そしてすぐに、彼女も正解がわかったみたい。


「……ああ、なるほど!」


 僕はテストをゲームのように分析したりする。

 その問題だけではわからなくても、今回のように裏を読むことで正解にたどり着けることもあるんだよね。


 まあ、この手の問題の出し方はよくあるみたいだし、ゲーム関係ないかもしれないけど。

 玖音さんも、今回は運悪く気が付けなかっただけだよね。


「クオン、満点になったデスか。すごいデース。ますます賢くなりマシタか?」

「毎日皆さんとお勉強しているからでしょうか? なんだかスラスラと解けてしまいました。自分でも驚きました」


 玖音さんはここで勉強することで効率が落ちてしまってはいないか心配だったけど、どうやら大丈夫みたいだ。

 でも、これは玖音さんの元々のスペックの良さが大きく現れているだけで、自宅で一人で勉強したほうがもっといい点数を出せるのかもしれないんだよね。彼女自身が楽しそうにしているし、そこまで悲観的に考えなくてもいいのかな?


 しかし、僕にはもう一つ気がかりなことがある。

 それは僕の妹ひかりちゃんのことだ。


 答案用紙を覗き込ませてもらうと、彼女はまだ半分も終わっていなかった。

 まだ実際にテストが行われていたとしても時間は残っているはずだけど、このペースだと最後までたどり着けない計算になる。


「うーん……」


 わからないところは飛ばしてもいいよと伝えているはずなのに、ひかりちゃんは一つ一つの設問で長考していく。

 彼女がいつも見せてくれているように、パッと目を輝かせて答えを書くときもあれば、そのまま悩み続けることもある。


 玖音さんも不安そうにひかりちゃんを見る。

 僕も声をかけるべきか迷い始めていたけど、その前にメグさんがサッと手を挙げるのが見えた。


「ハイ、センパイ! 三つ見つけマシタ!」

「あ、見せてもらえるかな? ……うん。これでメグさんも、埋めてある問は全問正解だね」

「やほぅ! なんだかメグもテスト出来るような気がしてきたデース!」

「うん、自信を持つことも大事だからね。頑張ってくれてありがとうね」

「イエイエ、こちらこそデース!」


 本当に嬉しそうに喜んでいるメグさん。

 僕は心が痛んだけど、そんなメグさんにチクリと水を差す。


「でも、だからこそ惜しい。間違い探しをしてなかったら三問も落としてたよ」

「……アゥ」


 しょげ返るメグさん。

 僕は笑いながらメグさんに言った。


「問題文を読むときにね、視線だけで文字や数字を追っていくより、ペンの先を同時に当てながら読んでいくのもアリかもしれないよ」

「ムムム?」

「こんな風に、視線の先にペン先も合わせるんだ。これなら読み間違いも減るかもしれないし、それに気になった点にはこうしてそのまま下線だって引けちゃうしね」

「オー……」

「指差し確認ならぬペン先確認は設問と解答欄がずれないか確認するときもやったほうがいいよ。この場合は両手で、片手は設問、片手は解答欄を指さしながら確認していくと間違いは少なくなると思う」

「――わかりマシター!」


 テストの点数は、こんな風に細かいテクニックでも上げることが出来ると思う。

 僕の成績がいい理由は、取りこぼしが少ないからでもあるはずだしね。


「後は、面倒だけど終わったからといって安心しないこと。せっかく今までやってきたんだから、最後の最後で失敗しちゃうと勿体(もったい)ないよ」

「モッタイナイ……」

「うん。だから最後に見直しは絶対にしてね。つまらない間違いでメグさんが点数を下げるのは、きっとみんなも悲しいと思ってくれるはずだしね」

「……ハイ、センパイ! メグ、気を付けマース!」


 メグさんは素敵な笑顔で僕と約束してくれた。

 これなら彼女も本番で忘れることもないと思う。メグさんもいい点数とってほしいな。


 今日の残る心配は、あと一人。


「……あっ!?」


 ニコニコと僕とメグさんのやり取りを見ていたひかりちゃん。

 みんなの視線を受けて、慌ててテスト用紙に視線を落とした。


「ご、ごめんお兄ちゃん、ひかり集中できてないみたい」

「う、ううん。僕たちが喋っているんだから当たり前だよ。本番は静かなはずだしね」


 僕はそう言ったけど、彼女の解答欄を見るとさっきからあまり進んでいない。

 いくら会話のたびに手が止まってしまったとしても、それにしても遅すぎる気がする。


 心配になった僕は、とうとう彼女に声をかけた。


「ひ、ひかりちゃん、わからないところは飛ばしてもいいんだよ?」


 その言葉で、ひかりちゃんは焦ったように顔を上げた。


「あ、も、もうお終いの時間?」

「本番だとしても、まだ少しは時間に余裕があるはずだけど、逆に言えばもう少ししか残されてないかも」

「あぅ、そっか~。ひかり、次からは急がないと」

「難しい問題多かった? どの辺がわからない?」


 不安に思った僕はひかりちゃんにそう尋ねる。

 でもひかりちゃん、笑いながら首を振ると、楽しそうに答えてくれたんだ。


「逆だよ~。ひかりもなんだか不思議なんだ~。問題文を読んでるとね、なんか全部答えがわかりそうな気がしてくるんだよ~。だから全部の問題をじっくり考えちゃうんだ~。結局難しくて投げ出しちゃう問題も多いのに、困っちゃうよね」


 ひかりちゃんは照れくさそうに「えへへ」と笑った。


 僕と出会ってからはほぼ毎日、一緒に勉強してきたひかりちゃん。

 彼女は僕が考えていた以上に、その身にしっかりと実力をつけてきてくれていたみたい。


「……期末テスト、いい点数が取れそうだね?」


 少し感動してしまった僕は、気が付けばそうひかりちゃんに話しかけていた。

 本当なら解答までの時間を縮める方法を教えてあげるべきだったんだろうけど、胸が熱くなって忘れちゃってたよ。


「うん! ひかりはずっとそう思ってるよ~。お兄ちゃんが教えてくれているんだし、心配なんてしてないよ~!」


 元気良くそう言ってくれるひかりちゃん。

 またも頭が真っ白になってしまいそうになるけど、今度は気恥ずかしさが僕に冷静な言葉を言わせてくれた。


「じゃあ、みんな最後まで気を抜かずに頑張ろうね」

「はーい!」


 ひかりちゃんの明るい返事の後に、すぐに他の二人の声も続いた。



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