二人も交えて、ささやかなパーティ
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玖音さんもメグさんも、実家には複数のお手伝いさんを雇っているみたい。
僕が知っているのは三人。皆若い女性だ。玖音さんの家のお手伝いさんは二人見かけたことがあって、メグさんの家のお手伝いさんは一人知っている。
彼女らお手伝いさんは運転手として何度もマンションの前まで来てくれているので、僕はすっかり顔を覚えてしまった。
今日も着替えの話が出てから三十分も経たずに登場し、そして今回は両家のお手伝いさんともマンションの駐車場に車を停めて降りてきていた。
「すみません、たびたびご足労いただくことになってしまい……」
「いいんですよ~。元々玖音お嬢様は手がかからない楽ちんなお嬢様ですし、私ドライブも好きですから」
「それが私の仕事ですので、お気遣いなく」
名前も知らない二人だけど、今のように何度か声を交わしたことはある。
玖音さんを毎回送り迎えしてくれているお手伝いさんはお茶目で明るい感じの女性で、メグさんの運転手を務める女性は流暢な日本語を喋るクールな海外の女性だ。
二人が顔を合わすのは初めてのはずだけど、最初にお互い頭を下げただけで言葉を交わすことはなかった。
でも、その礼がお互いバッチリ決まっており、それだけで仕事ができるお手伝いさん感がヒシヒシと伝わってきた。
「ええと、ですが今日は何故車をお停めになられたのですか? 着替えを手伝っていただけるとか?」
いつもは荷物を僕に託して帰ることも多い二人。
そんな二人が、揃いも揃って駐車場を借りられるかと聞いたときには本当に驚いてしまった。
「ナンパよけですよ~。みんなで出かけるのですよね?」
「微力ながら、努めさせていただきます」
僕は「はー」と感嘆の息を吐いた。
さすがはお金持ちのお手伝いさん。SPの真似事もお手の物らしい。
示し合わしたわけでもないだろうに、二人とも僕たちを見守ってくれるんだね。
しかし僕はそこで首を傾げた。
どうやら本日の僕は、女の子に他の人から声がかかる心配をしなくてもいいみたい。
だけど、それって同時に、僕がひかりちゃんたちに弄られているところをお手伝いさんの二人にもバッチリ見られちゃうってこと?
そこまで考えた僕は、一気に顔が赤くなってしまった。
僕はやましいことはしてないはずだけど(ゲームを教えたり毎日甘いものを出してたりするのはセーフだよね?)、彼女らお手伝いさんの前で堂々としていることなんて出来やしない。恥ずかしすぎる。
でも、そんな赤くなる僕に、すぐに玖音さんのお手伝いさんが微笑みながら声をかけてきた。
「もう何度か見てる――って言ったら驚いちゃいます?」
ハッとなって顔を上げる僕。
玖音さんのお手伝いさんは、そんな僕を見て改めて笑った。
「なんて。玖音様とお出かけになられるのは今回が初めてですよね。見る機会なんてありませんでしたよ~」
「そ、そうですよね。いやあ、見事に驚かされてしまいました」
そう言って笑い合う僕とお手伝いさん。
でも、彼女の言葉が冗談に聞こえないのはどうしてだろう。なんだか背筋が震えてきちゃったよ。
「私のことは、路傍の石とでもお考えください」
メグさんのお手伝いさんはお手伝いさんでカッコよくそう言ってくるし、僕は「あはは……」と乾いた笑いを返すことしか出来なかったんだ。
◇
お手伝いさんが持ってきてくれた服は目立たない服だったし、変装用のメガネも用意してくれていたけど、それでも僕は周囲の目が気になって仕方がなかった。
「ひ、ひかりちゃん、あっちの二人と並んで歩かない? せっかくお友だちと一緒に来てるんだからさ、僕にピッタリついて回らなくても――」
「ヤダ」
「……最近それ聞いてなかったのに……」
「センパーイ、人がいっぱいデース。これ、皆さんご飯を買いに来ているのデスか?」
「う、うん。この一帯には食品関係しか置いてないからね」
「農家の人以外は、皆さん食料品をお求めになるのですよね。人は皆、何か食べないと生きていけませんからね」
「そ、そうですね玖音さん。なんだか哲学的ですね?」
地味な服装で目立たないように歩いてはいるけど、よく見ればものすごい美少女の集まり。その中心にいるのは、何の間違いかこの僕だ。
ある程度覚悟は決めて出かけてきたはずだけど、いざ体験してみると、これがめちゃくちゃ恥ずかしい。ひかりちゃんと出会ったばかりの頃を思い出してしまう。
「たくさんの食べ物が売られてて迷ってしまいマース。センパイとヒカリはいつもどうやって選んでいるのデスか?」
「私は気になるものを話したりもするけど、いつも最後はお兄ちゃんに任せてるよ~」
しかし、もう出てきてしまった以上、僕に逃げ込める場所はない。
出来ることと言えば、早く家に帰れるように円滑に話を進めることだけだ。
「僕が決めてもいいですけど、メグさんも玖音さんも興味を惹かれるものがあったら言ってください。出来るだけご期待に添えるよう頑張って作りますので。――もちろんひかりちゃんもね」
三人からお礼を言われ、そして三人の視線が売り場に向いたことで僕は一つ息を吐いた。
食品売り場でメニューに迷って何度も行き来するのはそれだけで結構目立っちゃうし、邪魔にもなったりする。
僕は彼女たちが他の人の迷惑にならないように、さり気なく腕を引いたり声をかけたりして彼女たちのサポートを続けた。
そうこうしていると、ふとメグさんが一つの商品の前で立ち止まり、覗き込む。
彼女は何を思ったのだろう。それは油だった。
「センパイ、これ美味しいのデスか?」
「う、うーん? 大手メーカーさんの油だし質は悪くないと思うけど……、何か揚げ物が食べたくなったの?」
「そうじゃないデース。さっきからたくさんの人が手に取ってマシタ」
「あ、だから気になったの? それは単純に普段から比べると安くなってるからだよ。そこに広告の品って書いてあるよね?」
「オー! こーこくのしな!」
「この店を知ってもらうために、広告として安くしてますよ。そんな意味の商品だね。だからみんな買い求めてたんだね」
「他にもこーこくのしな、あったデース。メグ、見てきてもいいデスか?」
「あ、う、うん。他の人の迷惑にならないようにね?」
「わかりマシター!」
そう言って、メグさんは広告の品を探しに別行動を始めてしまった。
他にも目を引くポップ広告は多いし、一人でもSP役のお手伝いの人がついてくれているだろうし、大丈夫だよね?
と思ったら、さっきまでいなかったはずのメグさんのお手伝いさんと目が合った。
彼女は軽く会釈をすると、すぐにメグさんの後を追うように姿を消した。
完全に自分の行動が把握されているようで怖くなってくるけど、今度は玖音さんの足が遅れているのに気付いた。
彼女が気にしていたのは、パック詰めの鮮魚だった。
「玖音さん、何か美味しそうなものでも見つけました?」
ここで魚が一品決まれば後のメニューも決めやすくなる。
そう思って声をかけた僕だったけど、玖音さんは違うことを考えていたみたい。
「いえ、切り分けられたお魚ばかりだなと思って見てました。小さめのお魚でも処理済みのものが多いのですね」
それは僕の望む話題ではなかったけど、僕はすぐに彼女の発言に返事を返した。
「玖音さんはお魚捌けるんですか?」
「ぶ、不格好な仕上がりでも許してもらえるのであれば、一応……」
意外なのかそうではないのか微妙なところだけど、玖音さんはお魚を捌けるみたい。
でも、前にイノシシを見てお肉を連想していた辺り、加工前の食材のこともちゃんと理解してくれてるみたいだね。
「誰に習ったのですか? お母さん? お手伝いさん?」
「母です。料理が出来ないと好きな男性が出来たときに後悔するかもしれませんよと言われて教えられました」
「な、なるほど」
「で、でも、後悔はしないで済みそうです……」
「え?」
普通の雑談をしていたと思っていたら、突然玖音さんが頬を染めて視線を外しながら、そんなことをつぶやいた。
僕も自分の顔が火照ってきていると感じ、すぐに周囲をこっそりと見回す。
幸いこっちを気にしている人はいなかったけど、でも、だからといって顔の火照りは引いてくれなかった。
「あ、あの、私も他の場所見てきます……!」
しかし、玖音さんもこの場の雰囲気には耐えられなかったようで、少し早口でこちらにそう告げてきた。
僕はとっさに先ほどの話題を引き継いで彼女に声をかけた。
「く、玖音さん、このフロアには魚屋さんも入っています。そこならこの時間でも丸のままのお魚を置いてあるかもしれません。あちらの方にありますので」
「ありがとうございます。行ってみます」
玖音さんは頬を染めたまま、軽く会釈をして僕が示した方向へと歩いていった。
僕も心臓がドキドキしていたけど、すぐに周囲を見回した。
すると、今度は玖音さんのお手伝いさんと目が合う。
彼女は僕に笑いながら小さく手を振ると、玖音さんの後を追いかけた。
「…………」
後に残ったのは、顔が火照っている僕とニコニコ笑うひかりちゃん。
気恥ずかしさが残っていた僕は、そのひかりちゃんに話しかける。
「……ひかりちゃんは、玖音さんとメグさんのどちらかと一緒に――」
「ヤダ」
「早いよひかりちゃん。さっきからほとんど喋ってないけど、それでも僕の横がいいの?」
「うん!」
しかし彼女に話しかけても、気が紛れることはなかった。
僕は小さく息を吐いて、歩き始める。
喋らなくてもいいみたいだし、このまま静かに買い物をさせてもらおう。
でも、お手伝いさんがいなくなっちゃったから、ひかりちゃんのことは僕が守ってあげないと。
そう思って周囲に目を向け始めた僕に、ひかりちゃんがポツリとつぶやいた。
「私も、後悔はしなくて済みそうかな~」
少し冷えてきた頭が、再びのぼせ上がりそうになる。
僕は聞こえないふりをしながら、それでも隣の彼女に合わせてゆっくりと歩いた。
「お兄ちゃんに会えてよかった。私は幸せ者だよね~」
今度はわざわざ僕の方に顔を向けてそう話すひかりちゃん。
けど僕は、やっぱりバレバレの聞こえないふりをするしかなかったんだよね。
◇
みんなで出かけた夕飯の買い出し。
献立を決めるのは難航するか、複数のメニューを作ることになるかもと僕は考えていた。
しかしその予想は外れ、メニューは玖音さんの意見が全員一致で採用されることとなった。
切り分けられたお魚と、丸のままのお魚を見ていた玖音さん。
そのアイディアが出てくるのも納得で、しかも大勢で食べるのにも適したメニューだった。
「さあ皆さん、どんどん食べてくださいね! リクエストも遠慮なくどうぞ。すぐに巻いちゃいますね」
七輪で海苔を軽く炙りながら、桶から酢飯を取り出してくる。
みんなの注文を受け、具材を乗せて力の入れ具合を加減しながら、見栄えにも気を付けて丁寧かつ素早く巻いていく。
その日の夕飯は手巻き寿司。
玖音さんには大感謝だ。こんなのワクワクするのも仕方ないよね。
「お兄ちゃん、鮭といくらで一本お願いします!」
「任せて~!」
食卓にはお手伝いさん二人にも同席してもらっていた。
最初は渋っていた彼女たちだったけど、手巻き寿司ですしみんなで食べたほうが美味しいですよと言って押し切った。
「シチリン……、これ、不思議なものデスね。焼かれるような熱さは感じないのに、すごく温かいデス。不思議デース」
「母は今でもこの炭火の熱が好きなのです。独特の温かさがありますよね」
七輪を持ってきてくれたのは、玖音さんのお手伝いさんだ。
僕の家に寿司桶はあったけど、七輪は持っていなかったから助かった。
「海苔以外にも何か具材を炙ってみる? 食感とか風味が変わるよ。……バーナーで炙る手もあるけどね」
「ワォ、オススメありマスか?」
「少し好みが分かれるところではあるけど……、というか前にも少し聞いてみたことがあるけど、メグさんって魚介類も全部平気なの? 生でもいけるんだよね?」
「ハイ! 酢ダコとかも平気デース!」
メグさんも、もちろん提案してきた玖音さんも、今日の夕飯を楽しめているようだった。
女性向けに小さめにした手巻き寿司。それも彼女たちの食が進む要因になっているのかもしれない。
さっきから僕は巻いてばかりで自分ではあまり食べてはいないけど、それでもまったく不満はなかった。
それよりお手伝いさんにも楽しんでもらいたくて、普段なら気後れしてしまう彼女たちにも声をかける。
「お二人もシーフード平気なのですよね? お好きなものを仰ってください。それとも僕が勝手に巻いても構いませんか?」
僕のその言葉に、玖音さんのお手伝いさんが眉をひそめて笑った。
「いや~、さすがにこれ以上は申し訳ありませんよ~。わざわざノンアルコールのビールまで出していただいて。お噂以上に献身的な方なんですねぇ~」
「ビールは余計でしたか? アルコール類の出し方は僕にはまだよくわからなくて。すみません」
「むしろ逆だと思いますけどね~。本当にわかってない人なら、ビールのことなんて頭から抜けていると思いますけど」
メグさんのお手伝いさんも、それに頷いてくれる。
あまり長く話しかけていると本当に気を遣わせてしまうかもしれないので、僕はそこであっさりと引き下がった。
しかし少し強引に誘ったから心配していたけど、彼女たちの様子からはどうやらそれなりの評価はいただけているようだ。
とりあえず勝手に巻くなとは言われなかったので、適当に見繕って彼女たちにも巻いていくことにする。
ちゃんと手袋使ってるし、気味悪いとか思われないよね? 大丈夫だよね?
「センパーイ、さっきから全然食べてないデース。メグたちも自分で出来マスよ? 少しは食べてクダサーイ」
「あー、うん、ごめんね、自分で巻いて食べるのも楽しいよね」
「センパーイ、そうではないデース」
呆れたように、困ったように話すメグさん。
メグさんの言いたいことはもちろん僕にもわかるけど、今回の手巻き寿司は一個一個小さめになるように用意したから、その分巻かなくてはいけない回数が増えているんだよね。
僕はみんなに美味しく食べてもらいたいし、あまり気を遣わせないように自分でも少しは口にしてるし(その際は手袋を外してお箸で食べる)、見逃してもらえないかなあ。
「お兄さんって、一緒にいるとおいくつなのかわからなくなってしまう方ですよね」
「アハハ。それ、よくわかりマース。センパイって呼んでますので余計にわからなくなってしまいマース」
「えー? ひかりはお兄ちゃんのこと、同じ年齢だって思ってるよ? 同い年で半年早生まれのお兄ちゃん。ひかりお気に入りのフレーズなんだ~」
と思っていたら、見逃してもらえるどころか僕の話題が始まってしまった。
こういう場合の僕の対処法は、別の作業をし続けて話を受け流すことだ。今回はお寿司を巻き続けることだね。
「でも、お兄さんって同学年の学習内容を普通に教えてくれますし、料理の腕前も同い年とは思えませんし」
「正直、私負けてると思いますよ~。申し訳ありません、玖音お嬢様」
玖音さんのお手伝いさんが、おちゃらけながら声を挟んでくる。
これは僕にはまずい展開だ。僕の数少ない取り柄だけを持ち上げられても困る。欠点だって色々あるのに。
「スーパーマンみたいデスね。アハハハハ」
「そう、お兄ちゃんはすごいんだよ~! ひかりね、お兄ちゃんのことならいくらでも話していられるんだ。聞いてくれる~?」
「も、もう止めてお願い、胃に穴が空いちゃうよ」
ひかりちゃんなら本当に延々と話し始めかねない。
僕はそんな強い危機感を覚えてすぐに止めに入った。
そして用意してあった話題へと誘導を試みる。
「ほ、ほら。ちょっと変わり種も用意してみたよ。少し馴染みは薄いかもしれないけど、食べてみてもらえないかな? こっちはアボカドと甘エビ、こっちは牛カルビと卵焼き。貝割れ大根とサニーレタスも挟んであるし結構美味しいと思うよ」
その言葉でひかりちゃんはすぐに目を輝かせたけど、玖音さんとメグさんは苦笑いを浮かべた。
僕が赤面症で小心者で恥ずかしがり屋という認識は、彼女たちにも浸透してきてしまったみたい。
「センパーイ! メグ、まだまだイケマース! 他にも色々頼んでもいいデスか?」
「私は変わったものを続けてみようかな……。お兄さん、オススメを適当に巻いていただけませんか?」
「ま、任せて。ひかりちゃんも遠慮なく好きなものを言ってね」
「お兄ちゃん!」
「……たしかに遠慮なくって言ったけどね。せめて食べられるものにしてほしいかな……」
僕は彼女たちに持ち上げられるのは許してもらいたいけど、彼女たちにご飯を食べてもらうのは大好きだ。
その日の夕食も恥ずかしいことが多かったけど、いつも以上の大人数で食べることが出来て本当に嬉しかった。
「明日も遊びに来てもいいデスか? センパイ!」
「あ、う、うん。僕は平気だよ。他の人の意見を参考にして決めてもらったらいいんじゃないかな?」
メグさんの質問に、チラリとメグさんのお手伝いさんの方を窺いながら僕は答えた。
しかし彼女は会話を聞くとすぐに目を閉じ、まるで「私は意見出来る立場にはありません」と言わんばかりにお寿司を食べ始めた。
「おいで~、メグちゃん。ひかりも大歓迎だよ~」
「ヒカリ、ありがとデース! なら、メグは明日も来るデース!」
「め、メグさん、さすがにそろそろ控えたほうが……」
「くおんちゃんは、ひかりたちがいないほうがお勉強捗っちゃう? もうすぐ期末テストだし、それなら仕方がないけど……」
「う……、ひ、ひかりさん……」
ひかりちゃんの、捨てられた子犬のような瞳アタックを食らってよろめく玖音さん。
この調子なら、明日も玖音さんとも一緒に勉強できるだろう。
僕の日常は変わってしまった。
最近は毎日こんな調子で、玖音さんもメグさんも、僕の家に遊びに来ている。なんだか毎日がお祭りみたいだ。
でも、毎日家に彼女らを呼んでいると、僕は近い内に両家の親御さんから怒られてしまうのかもしれない。
遊んでばかりで何事だ、娘を連れ回して何事だ、と。
僕は玖音さんとメグさんの、この家に来る前の放課後の過ごし方を知らない。
けど、今の彼女らはたしかに勉強もしてるけど、毎日僕と一緒になって遊んでいるのも紛れもない事実だ。
不思議に思われるかもしれないけど、僕は彼女らにやましいことはしていないつもりだけど、同時に怒られる覚悟もしてある。娘を心配する親御さんの気持ちもわかるから。
しかしせめてもの言い訳として、成績だけは少しでも上げてもらおうとも思っていた。
「ひかりちゃんの言う通り、もうすぐ期末テストみたいですし、明日からは少しずつ勉強時間を増やしますか。メグさんもそれでいいかな?」
「アハン? しょーがないデスねー。テスト前デスし、メグも張り切ることにするデース!」
メグさんのその返答に、ひかりちゃんと玖音さんが笑った。僕も笑っていた。
明日も彼女らと一緒に遊んで、勉強して、もしかしたらご飯も食べて。
僕はそれを楽しいと思っていたし、だからこそ、期末テストは彼女らにも頑張ってもらい、他の人に認められようと思った。
しかし、僕は思いも寄らなかったんだ。
この日彼女の心の中に、一つの決意が芽生えていたことに。




