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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹にゲームを教え続けていたら、僕の世界が広がっていく件
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採掘と日没


 この手の昼夜の概念があるゲームでは、たいまつ等の灯りはごく初期から作れるようになっている場合が多い。

 それは早い段階から洞窟に挑戦してくださいねという意図ではなく、暗い夜でもなんとかしてくださいね、という意味合いが強いと思う。


 複数の人が同じ世界で遊んでいるゲームでは、寝るという概念を取り入れることが難しい。

 ゲーム――特にRPGで遊んだことがある人なら、暗くなったからベッドに入る、音楽とともに画面暗転、次の瞬間にはもう周囲は明るくなっている。という流れは経験したことがある人も多いと思う。


 しかし複数のプレイヤーが一緒に遊んでいるゲームでは同じようには出来ない。

 誰か一人の都合でそれをやってしまうと、他の人はいきなり夜が明けて朝になるという不思議な現象が起こってしまう。


 結果、自然な流れで睡眠を演出するには、プレイヤー全員がベッドに入って(あるいは安全な場所に行って)さあ寝ましょうと息を合わせる必要が出てきたりする。


「はい、最後はひかりちゃんの分のたいまつね。手に持ちたいときは、持ち物リストからたいまつを選ぶんだよ」

「お兄ちゃん、やって~!」

「わかった。じゃあ洞窟の入り口でね。中で危ないときは、自分でも頑張ってみてね?」

「うん! ありがと~お兄ちゃん!」

「どういたしまして」


 そんなわけで、たいまつを準備するのは容易だった。

 間に合わせではあるけど、僕たちは他にも色々と準備をして再びひかりちゃんが掘り当てた洞窟の前へと戻ってきていた。

 

「メグ、やっぱりワクワクしてきたデース。クオン、メグと一緒に楽しんでクダサーイ。メグはクオンと一緒に洞窟探検行きたいデース!」

「い、いえ。私は中に入るのが嫌だったわけじゃなくて、失敗したときのことを考えて危ないかなって思ったんです」

「オゥ、クオンは優しいデース。心配してくれてアリガトございマース! でも、楽しいことはやらずに後悔するより、やって後悔するほうがいいデース! 今回はそれでお願いしマース!」

「メグさん……」


 さきほどは洞窟に入るか入らないかで少し意見がすれ違った二人。

 けど、後に引くようなことはないみたい。ちょっと心配してたんだけど、無用だったみたいだね。


「そうですね、全滅しちゃってもそれはそれで楽しいですし、アイテムはまた集めたらいいだけですものね!」


 しかし、玖音さんのその一言でメグさんは再び顔色を変えた。


「……ワッツ? クオン、今何を言いマシタ?」

「え? アイテムのことですか? プレイヤーはやられてしまうとアイテムをその場に落としちゃうんですよ。強くなったツールはそのままですけど、アイテムは再び回収に来ないといけなくなります。そして回収に失敗すると、そのまま消失、ロストしちゃいますね」

「……今日集めた石も全部デスか?」

「は、はい。全部です」

「ノーーー!!!」


 メグさんはリスクを正しく理解したのか、頭を抱えて悲鳴を上げ始めた。

 どうやらこれは、再び今後の行動をどうするかの話し合いが必要みたい。まあ、僕としてはこのまま帰ってもいいしね。


 ところが黙って玖音さんとメグさんのやり取りを見ていたひかりちゃんが、そこで初めて話に入っていく。


「だいじょうぶだよ、メグちゃん!」


 マイシスターの力強い声。それは無垢(むく)なる信頼の証。

 僕もいい加減学習してきたから、彼女の口調を聞いただけで次の言葉を察してしまった。


 まあ、今回は元々行くつもりになってたからダメージも少ないんだけどね。


「お兄ちゃんが一緒なんだし、きっとなんとかしてくれるよ! ひかりはそれで毎日幸せに暮らせているんだから!」


 だいたい予想通りの言葉を聞きながら、僕は思う。

 ひかりちゃんって愛も信頼も重い子だよね。まあそこも可愛いところなんだけど。




   ◇




 結果から言うと、そこはボーナスステージで貴重な資源を採掘し放題だった。そして、真の敵は洞窟の外に存在した。


 しかし、それを知らなかった僕は本当にドキドキしながら洞窟の中へと足を踏み入れた。

 一人だと平気で入れちゃうんだけど、守らなくてはいけない他の人がいるとこんなに緊張するんだね。


 洞窟内では先頭を歩かせてもらい、全神経を集中させて一歩一歩慎重に奥へと進んでいく。

 分かれ道では毎回目印を残して、戻るときは最短ルートを通れるように考えながら。


 入り口は埋まっていたけど、中には今まで何を食べて生きていたんだとツッコミたくなるオオトカゲや大蛇が住んでいたりする。ゲームのあるあるだよね。その分空気が淀んでたりすることも少ないんだけど。

 そもそもこのゲームはスケルトンなどのアンデッドも存在するから、どの道暗闇は注意しなくちゃいけない。

 最悪の場合「僕を置いてみんなは逃げて!」という台詞を使うことも覚悟していたし、玖音さんにも事前にそのことはこっそりと伝えていた。


 そんな感じで、僕はずっと警戒を続けていたんだけど、驚異が現れず希少な鉱石ばかり見つかる状況に後ろの二名がすっかりと緊張を解いてしまった。


「センパーイ! またレベルが上がりマシタ! なんとセンパイ超えてしまいマシタ! 後でコツコツしてあげマース!」

「わ~、キレイー。お兄ちゃん、これも磨いたりできるの~? お部屋に飾ろうかな~、ねぇねぇお兄ちゃん、飾ってもいいよね? あと、お兄ちゃんはどれくらいひかりの私物があっても許してくれるの?」


 まあ、ひかりちゃんは最初から緊張していなかったという考えもあるけどね。

 あと妹様、ひょっとして僕と一緒の部屋にするって話諦めてないんですか? ゲーム内ならちょっと恥ずかしいけど一緒の部屋でもいいんですけど、それやっちゃうとリアルでも一緒がいいとか言い出し始めませんかね?


「……お兄さん、石材を持ってもらえませんか? お二人からも回収してきました」


 玖音さんが近付いてきて、そう言ってきた。

 僕はいざというときには捨て石になる覚悟だったので、持っていたアイテムは玖音さんやひかりちゃんたちに分けておいたんだよね。


「そろそろ荷物きつそうですか?」

「お兄さんのツールを合わせるとまだまだ余裕はありますけど、この調子ならすぐに一杯になりそうですね」

「希少な鉱石だけ掘り出したいところですけど、なんだかんだで石も混ざっちゃいますからね。見切りを付けて帰るか、あるいは捨てていくか。この辺りに簡単な避難小屋を建ててそこに片付けるのもいいですね」


 僕は玖音さんから石材を受け取りながら、彼女とそんな会話を交わす。

 そこへひかりちゃんが声をかけてきた。


「お兄ちゃーん、洞窟の形変わっちゃった~。やりすぎちゃった?」

「ああ、大丈夫だよ。この世界はジオラマ――箱庭のようなものだから、この山自体をすべて削り取って、そこに湖を作ることもできるんだ。だからやりすぎだとか考えなくてもいいよ~」

「おぉ~、豪快~」


 もちろんなるべくゲーム内の自然を壊さずに生きていく楽しみ方もあるけど、それもまた人それぞれ。

 ひかりちゃんが納得してくれたところで、僕は再び玖音さんに話しかける。


「……とはいえ、補強はしておいたほうが良さそうですね。ちょうど物資は余ってますし、玖音さん、崩落防止の補強をお願いしても構いませんか?」

「ええと、私はそこまで詳しくなくて……」

「ああ、見よう見まねでも構いませんよ。よく鉱山とかにあるような、壁や天井に沿って柱を組むだけでいいんです。ゲームですから細かいところは気にしなくても構いませんし、そもそも仕様上かなり無茶をしないと崩れませんしね」

「わ、わかりました」


 不慣れな玖音さんに、少し無理を言ってお願いしてしまった。

 僕がやってもいいんだけど、誰か一人は警戒しておいたほうがいい。

 玖音さんなら警戒に立つほうが慣れているのかもしれないけど、その場合は彼女が犠牲になってしまうかもしれない。彼女ならそれも覚悟の上かもしれないけど、やっぱりそんな光景みたくないよね。


「(しかし……、本当にそろそろいい頃合いかも。今でも十分な成果が出てるし、これ以上奥に行くのは止めたほうがいいかもね)」


 僕はそんなことを考えた。

 しかしこれ以上奥には行かないという作戦はその通り実行されたけど、他のところで予想外のことが起きた。




「め、メグさん、そろそろ帰らない?」

「後少し、後少しデース! 今、新しい鉄鉱石の塊見つけマシタ! これ、これを掘るまでお願いしマース!」

「さっきも同じようなことを聞いた気がするけど……、じゃあ今度こそ、それが最後ね?」

「ハイ! センパイありがとデース!」

「あ、ひかり、また荷物いっぱいになっちゃった。お兄ちゃん持って持って~」

「う、うん、わかった。すぐ行くね。――玖音さん、メグさんの採掘の手伝いお願いします」

「わ、わかりました……!」


 慌ただしく話す僕と玖音さん。

 彼女と僕は焦っていた。たいまつの残りが少なくなったわけではない。僕たち二人が心配していたのは洞窟内の灯りのことではなく、外の明るさのことだ。


 随分と長い間その場にとどまっている僕たち。

 ちょっと掘り進めると新しい鉱石が見つかるため、ひかりちゃんもメグさんも時間を忘れ夢中になって掘り続けた(最初の頃は玖音さんも)。


 しかし洞窟の中の明るさは一定だから気付きにくいけど、一日は確実に過ぎていっていた。

 まだツールに時計機能を追加していないので正確な時間はわからないけど、たいまつの減り具合から考えるとそろそろ日が暮れ始めていると思う。


「――! お兄さん、採掘終わりました!」

「アーン、最後の塊小さかったデース。でも、仕方ないデスね! 帰りマショー!」

「待って~、ひかりのが終わってない~。これ大きいの~」

「オゥ! すぐ行きマース! クオン、いいデスよね?」

「は、はい。急ぎましょう」


 夜は危険がいっぱいだ。

 夜行性の肉食動物の台頭。アンデッドの活動時間。そして人間は夜目にも限界がある。


 ましてや今はみんな、荷物を限界近くまで持っている。

 やられてしまったときの損失は計り知れない。僕一人で素早く回収に向かうにしても、何往復もしなくては終わらない量になっちゃってるんだ。


「あ、採れた。お兄ちゃん採れたよ~!」

「やったねひかりちゃん。みんなもお疲れさま。じゃあ忘れ物がないか確認して帰ろうか」

「はーい!」


 本当は帰る前にみんなの荷物とツールの機能の整理をしておきたいけど、今は本気で時間がない。

 僕はなるべくひかりちゃんたちを不安にさせないように注意しながらも、出来るだけ足早に洞窟を出た。


「わぁ~、綺麗な夕焼け~。この世界でも、日が沈むんだね~」


 大空の下に戻ってきた僕たちを出迎えてくれたのは、水平線に沈む真っ赤な太陽だった。

 女の子たちがそれぞれ感嘆の声を上げる。僕も綺麗だなとは思ったけど、今はそれよりその女の子たちの方が心配だった。

 日暮れ。それは僕の考えでは、すでにギリギリアウトの時間帯だ。


「(どうしよう。もういっそここにセーフティハウスを建てるか? でも、彼女たちは――)」


 僕が考えを巡らせていると、その間にとうとう太陽が隠れて見えなくなってしまう。

 それを切っ掛けにして、景色に見とれていた彼女たちが行動を再開させた。


「では帰りマショー! メグたちの広場に、家を建てるのデース!」

「うん! 帰ろ~!」


 メグさんの帰るという言葉に賛同するひかりちゃん。

 やはり彼女たちにとっては、最初の広場は思い入れがあるみたい。リンゴの木も切らずに残してあるし、近くに綺麗な泉も見つけた。あそこに帰って家を建てたいという想いは強いようだ。

 

「よし、じゃあ帰ろうか。帰りは僕が前を歩いてもいいかな? これから一気に暗くなるし、採取とか寄り道せずにまっすぐ帰ろうね?」

「「はーい!」」


 笑いながら彼女たちに話しかけると、元気な返事が返ってくる。

 玖音さんだけは視線で「大丈夫ですか?」と問いかけてきたけど、僕は黙って頷いた。


 そうして山を下り始めた僕たち。

 しかしそこには、今回の遠出で最初で最後の全滅の危機が待ち受けていた。



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