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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件
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彼女との新しい生活


 (そら)(ひかり)

 まるで申し合わせたような僕とひかりちゃんの名前だけど、僕たちは実の兄妹ではないし、さらに言うならまだ正式に義理の兄妹にもなっていない。


 僕のお母さんが、ひかりちゃんのお父さんの部下。そして二人が交際関係一歩手前というだけで、まだ再婚話が決まったわけじゃないんだよね。

 まあ、連れ子がいる大人同士の恋愛だから、交際=結婚を見据えた真面目なお付き合いになるかもしれないけど。


 それでもひかりちゃんは、やや前倒し気味で僕の家で預かることになっている。

 それはいくつか理由があってのことなんだけど、その内の一つが、僕の家の立地にある。


 ひかりちゃんが通う高校は、百五十年以上の歴史を持つ女学院。

 そしてその女学院は、僕の暮らすマンションから歩いてすぐのところにあるんだよね。


「おかえり、お兄ちゃん!」


 というわけで、教室から自室まで十分かからないという脅威の立地条件を得たひかりちゃん。

 こうしてほぼ毎日、僕を出迎えてくれるようになったんだ。


「た、ただいまひかりちゃん」

「ねえねえお兄ちゃん、聞いてよ~。明日いきなり小テストをやるんだって。事前に教えてあげたから低い点数は許しませんだなんて、ひどいよね?」

「そ、そうだね」


 ちなみにひかりちゃん、僕の帰る時間が近付いたら、玄関から目に付くところに座って待っててくれる。

 部屋に戻っていてもいいよと言っても、スマホでSNSとかしながら待ってるから平気なんだって。


 彼女のその行為はさすがに申し訳ない気持ちでいっぱいになるけど、

 誰もいない家に帰ってくることがほとんどだった僕にとっては、玄関を開けるとすぐに彼女の笑顔が目に飛び込んでくるのは素直に嬉しい。


「じゃ、じゃあ僕も少し課題が出たから、一緒にやってみようか?」

「ありがとうお兄ちゃん。ひかり、本当に感謝してます!」


 意外かもしれないけど、ひかりちゃんは成績があまり良くない。

 もちろんあの女学院のレベルが高いからってのもあるだろうけど、それでもひかりちゃんはあの学校で下から数えたほうが早い成績だったりする。


 幸い僕はテストの成績だけは良い方だから、同学年のひかりちゃんの勉強もなんとか教えてあげられるんだ。

 運動の方はダメダメだけどね。銃を構えてディスプレイに向けるゲームとかなら得意なんだけどなあ。


「それじゃ、僕は制服から着替えてくるから。ひかりちゃんは先に始めててもらえるかな?」

「はーい!」

「着替えたら飲み物入れるけど、何がいいかな?」

「お兄ちゃんと同じもの~」


 僕が着替えてから飲み物を入れるのは、勉強を始めるのが遅くならないかと思われるかもしれないけど、残念ながらひかりちゃんに飲み物は頼めない。

 これが、ひかりちゃんを家で預かることになったもう一つの理由。


 ひかりちゃんは家事が一切出来ない。

 箱入り娘のような彼女は、元来の機械オンチも相まって、生活スキルが皆無な女の子になっちゃってる。


 だからひかりちゃんは、学校から家が近くてご飯が食べられる僕の家に預けられることになったんだ。

 当初は一時的に預かるだけで、すぐに寮を探すって話だったんだけど、今のところまだ新しい寮は見つかってないみたい。




   ◇




「……また正解。ひかりちゃんすごいね」

「えへへ~」


 明日の小テストのためのお勉強。

 ひかりちゃんは少し復習をすれば、あっという間に正解率が跳ね上がった。


「お兄ちゃん、これなら明日のテストも大丈夫かな?」

「うん。大丈夫だと思う。でも、気を抜かずに頑張ってね」

「はーい!」


 元気良く返事をするひかりちゃん。

 でも機嫌のいい彼女には悪いけど、実はこのテスト、中学時代の内容をおさらいするテストなんだよね。


 ひかりちゃんの通う女学院は、中高一貫校。

 基本がエスカレーター式だから、少々成績が悪くても次々進学出来ちゃうみたい。


 だから時々はこんなテストをするのかな。

 ちなみに大学も同じ系列の学校がある。そっちは共学になるけど。


「じゃあ、そろそろ勉強は終わろうか?」

「うん! 今日もありがとうございました!」


 ひかりちゃんはお行儀よく頭を下げた。


「お兄ちゃん、スマホ見てもいい?」

「もちろんどうぞ」


 彼女は僕に断りを入れて、左腕に付けていたリストバンド式のスマホを起動させる。

 最近では技術が発達したから、一口にスマホって言っても様々な形がある。


 ひかりちゃんのは腕から何もない空中にディスプレイが表示されるタイプ。

 僕が身に付けているのは、メガネ式のスマホだ。こっちは網膜に直接投映されるタイプだ。


「ちょっとメッセージ見るね」

「うん」


 ひかりちゃんがSNSを確認するようなので、僕もスマホを起動した。

 まるでゲーム画面のように、視界に色々な情報が映し出される。


「(んー、玉ねぎが安いけど、この前買ったばかりだしなあ……)」


 とりあえずチラシを流し見してたら、ひかりちゃんが画面を指先でポチポチと触れ始めた。

 彼女が文字を打ち込む場合は、ほぼ音声入力で行う。指で操作しているということはスタンプでも送っているんだと思う。


「あれ、お兄ちゃんのお母さんから、私宛にメールが来てる」


 お母さんからわざわざひかりちゃんにメール? 何か重要な話なのかな?


「僕、部屋に戻っていようか?」

「うーん……」


 ひかりちゃんはメールの内容を確認してるみたい。

 僕はちょっと緊張しながら、彼女が読み終わるのを待つ。


 画面に視線を落としていたひかりちゃんだけど、彼女は不意に顔を上げて僕を見た。

 何を言われるかドキッとした僕だったけど、彼女はそんな僕を確認すると、すぐに笑顔で何かを操作した。


「……もう、いいの?」

「うん!」


 あまり重要な話ではなかったのかな?

 僕はそれ以上メールの内容については何も聞かなかった。




   ◇




「え? なにこれ? え?」


 というわけで始まったひかりちゃんとのゲーム時間。

 だけど彼女は早くも、初めてのボス登場に戸惑っていた。


「ひかりちゃん、落ち着いて戦おうね?」

「え? ひかり、あれと戦うの? あんなに怖そうな敵と?」


 ちなみにひかりちゃんの言う怖そうな敵とは、でっかいアマガエルのようなボス。

 僕の感覚からすれば、どう見ても怖くはない。


「とりあえず戦ってみようか? 深呼吸して、落ち着いてやれば大丈夫だからね?」

「わ、わかった~!」


 ひかりちゃんは素直に深呼吸をして、カエルに立ち向かう。

 勇猛に突撃していくひかりちゃんのキャラクター。ちょっと向きがズレているのはご愛嬌だ。


 このボスはびょーんと飛んで、舌でペチッとしてくるだけの、いわばボスのチュートリアルのような敵。

 体力もそれほど多くないし、弱点もいくつもある。ひかりちゃんが持てる技術を駆使すれば、きっと彼女でも倒せるはず。


 そう思ってたんだけど……。


「わ! なんか跳んだよ!?」


 最初のカエルの大ジャンプに、ひかりちゃんはすぐに平常心をなくしてしまったみたい。

 上から迫り来るカエルの巨体に、ひかりちゃんのキャラクターは棒立ちしてしまった。


「つ、潰れる~!」


 僕の隣で懸命にキャラクターを操作しようとするひかりちゃん。

 でもね、ひかりちゃん。体と腕をそんなに動かしても、コントローラーのレバーに触らないとキャラクターは動かないんだ。


「あ~!」


 結局ひかりちゃんは一歩もキャラを動かすことが出来ずに、カエルの巨体に大きく吹き飛ばされちゃった。


「ひかりちゃん、まだ大丈夫だよ。回復アイテムを使おうね?」

「か、かいふくあいてむ?」


 大胆にもひかりちゃんは、ボスから目を離してコントローラーとにらめっこ。

 でもやられることが多いひかりちゃん、回復アイテムの使い方だけは上達してきていた。


「か、回復アイテムはこのボタン!」


 以前よりも確実に早く、彼女はキャラクターの回復に成功した。

 そしてもう一度、ひかりちゃんはボスガエルと対峙する。


「落ち着いて動こうね? まずはカエルのジャンプを避けるだけでもいいから」

「う、うん……」


 そう答えたものの、ひかりちゃんは全然落ち着いているようには見えなかった。

 初めて戦う大型ボスに、彼女はすっかり飲み込まれちゃってるようだった。


 僕の部屋は最大限ゲームを楽しめるように、こだわり抜かれている。

 自慢の巨大ディスプレイに、計算されつくされたスピーカーの位置。そして極上のクッション。


 その臨場感たっぷりのゲーム画面が、どうやらひかりちゃんには仇となっているみたい。


「き、来た!」


 大画面に映し出される迫力満点のカエルのボディプレス。

 それにビクリと反応したひかりちゃん。とっさにキャラクターを右に避けさせようとしたらしく、自分自身の体も右に倒した。


「ひ、ひかりちゃん。動かすのは指だけでいいからね? 体も動かす必要はないからね? あと、めちゃくちゃ僕にも当たってるからね」


 彼女の右隣にいた僕は、ひかりちゃんの突然のボディアタックに驚いた。

 なんとか離れてもらおうとそう言ったものの、ひかりちゃんはゲームに夢中で耳に入っていないようだった。


「さ、避けた! この、この~!」

「ひかりちゃん、ボスに攻撃するのはいいけど、まず体勢直さない?」


 ひかりちゃんは体を右に傾けすぎて、とうとう僕の足の上に倒れ込んできてしまっている。

 それでも彼女はボスの攻撃を避けたことに夢中で、僕の太ももを占拠したような状態でゲーム画面を見続けていた。


「あー、また跳んだ!」

「……落ち着いて避けようね?」


 ひかりちゃんは僕の足に頭を乗せたまま、両腕をバンザイするように伸ばしてカエルの攻撃を避けようとする。

 もはや何も言うまい。僕は悟りを開いたかのような気持ちで彼女を見守っていた。


 今度の攻撃も、ひかりちゃんはなんとか回避した。

 よくこんな姿勢で操作出来るなあと一周回って感心していた僕。


 するとそのとき、視界の端に僕宛のメッセージが届いたことを示すアイコンが表示された。

 (いぶか)しげにそれを確認すると、お母さんからだった。すぐに開いて内容を確認する。


『空ちゃん、お母さん今日からお仕事が忙しくなるから、またしばらく家に帰れなくなるわ。だからひかりちゃんのことは、しっかりと空ちゃんが面倒見てあげるのよ?』


 僕は真顔でメッセージ内容を二度見した。

 その後視線を真下に落とす。僕に体を預けたまま、真剣な顔付きでゲームに熱中する美少女が視界に入った。


「(え? 今日からこの家は、僕とひかりちゃんの二人っきりになるの? 家事が出来ないひかりちゃんを、僕が面倒見てあげるの?)」


 僕は慌てて首を振ると、すぐにお母さん宛のメッセージを作った。


『無茶言わないでよ。だいたい、ひかりちゃんが嫌がるでしょ? お母さんがいたから安心して僕の家で寝泊まり出来ていたんでしょ?』


 この場にひかりちゃんがいなければ、すぐに電話を入れたい気分だった。

 幸いにも、お母さんからの返信は早かった。僕は急いで内容を確認する。


『それがね、お母さんもさっきメール確認を取ったんだけど、ひかりちゃんはあっさりとスタンプで了承の返事してきたのよね』


 驚いた。さっき僕の前でひかりちゃんが読んでいたお母さんからのメール、あれは僕と二人っきりになってもいいかという確認のメールだったみたい。

 ひかりちゃんは悩まずすぐに返事を返していたようだけど、そんなに僕を信用してくれてるのかな……?


『送られてきたスタンプは三つよ。「わかりました」「私は幸せです」「お仕事頑張ってください」。これを見てひかりのお父さんも納得したみたい。だから、頑張ってね、空ちゃん』


 そのメッセージを確認した僕は、顔を真っ青にしながらもう一度下を向いた。

 するとちょうど、僕の方を向いたひかりちゃんと目が合う。


「お兄ちゃん見て! ひかり、いきなり勝っちゃった! すごいよね? 褒めて褒めて~」


 彼女の言葉でゲーム画面を見ると、たしかにひかりちゃんはカエルに勝利していた。

 それはゲーマーなら当たり前の通過点として倒すような最初のボスかもしれないけど、ゲームを始めて間もない彼女にとっては偉業だと思う。


「おめでとうひかりちゃん。ちゃんと回復アイテムも使えてたね。日に日に上手になってるよ」

「えへへ~」


 僕の足の上から、嬉しそうに僕を見上げるひかりちゃん。

 彼女を見ていると、僕の心の不安も和らいでいく。


「(僕は今までも、お母さんが仕事が忙しかった時期は一人暮らしをしてたようなものだし、ひかりちゃんがいてくれたら賑やかでいいかもね)」


 突如始まった兄妹の予行練習のような生活は、突然二人だけの生活に変わった。

 色々と常識外れな状況だけど、ひかりちゃんは幸せそうにしてるし、これからもきっと大丈夫だよね。


「それじゃ、ゲームも一段落したみたいだし、僕はそろそろ夕飯を作るよ」

「わーい! お兄ちゃんのご飯~」

「ひかりちゃんは、お母さんが仕事が忙しくなる話、聞いてるよね?」

「うんうん」

「だったらよかったら、ひかりちゃんはお母さんがやっていたように、洗濯機で自分の分を洗濯しといてもらえるかな?」

「わかった~!」


 こうして僕たちは、新たな生活を始めた。

 これって同棲かなという罪な想像はすぐに頭の端に追いやった。

 ひかりちゃんは僕と同い年で、しかもビックリするくらいの美少女だけど、兄妹だからこれからも大丈夫だよね。












「お兄ちゃん~、やっぱりひかり、洗濯機わかんないよ~。お兄ちゃんやって~?」

「えっ?」



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