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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件
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妹の放課後遊びと、残された二人


「ただいまー……」


 僕はその日、珍しく沈んだ声で帰宅の挨拶をした。

 その理由は単純なこと。どれだけ自分が大きな声で挨拶しても、返事がないことを知っていたからなんだ。


「この家ってこんなに寂しかったっけ……」


 一人つぶやきながら、僕は靴を脱ぐ。

 数週間前までは当たり前だったはずなのに、今では一人が異常なことに思えてしまう。


 今日はひかりちゃんの方が帰りが遅い。

 彼女は今頃、友だちと遊びに出かけていると思う。


「僕から遊びに行っておいでと彼女の背中を押したのに、早くも後悔しそうになってるよ。情けないなあ」


 どうやら詳しく話を聞いてみると、ひかりちゃんはこれまでも放課後は友だちとなかなか遊べなかったみたい。

 彼女の実家はここから離れた場所にある。僕の家に来るまでは、彼女はその通学距離の問題で早く帰らなくてはいけなかった。

 そして僕の家に来てからは、なんと僕を優先してくれて、ひかりちゃんは友だちの誘いを断っていたらしい。


「ひかりちゃんに友だちが多いのは知ってたはずなんだけどなあ。そりゃ、誘われてないわけないよね……」


 彼女が僕を優先してくれていたのは嬉しいけど、人気者のひかりちゃんを僕一人が独占してちゃダメだよね。

 そんなわけで、僕はひかりちゃんにたまには友だちと遊んでおいでと伝えたんだ。


「あー、いけないいけない。僕が落ち込んでいると、ひかりちゃんが帰ってきたときに気を使っちゃうよね。僕は僕で充実した一人の時間を過ごしていないと……!」


 軽く首を振って、さらに頬をペチペチと叩いて気合を入れる。

 今日はひかりちゃんがいない頃の日課を、ちゃんとやろう。僕はそう思って自室に向かった。




   ◇




 少し前に隣の席の女の子にも言われたことだけど、僕は課題をさっさと終わらせちゃう。

 それはゲームに熱中しちゃう僕だから、後で時間がなくなって後悔しないように早めに終わらせているだけなんだよね。


 成績のことも同じ。僕は成績がいいけれど、それは勉強が好きでいい成績を取ってるわけじゃない。

 胸を張ってゲームを遊ぶために、いい成績をキープしてるだけなんだよね。


「ゲームばかりしてるから成績が悪いのよ、なんていう親の小言は、半世紀以上前から続いている伝統の小言らしいしね」


 そんなわけで、僕は当日出た課題に取り組んでいた。

 今回の課題は良心的な量だったので、数十分もかからない。


「終わったら何しようかなー。久しぶりにRAZEAL(ラゼル)でもがっつりやろうかな。最近はデイリークエストぐらいしかやってなかったから、色々便利アイテム溜まってるんだよね」


 と、そこでメッセージの着信を知らせる電子音が鳴った。

 僕はひかりちゃんのようにいつもメッセージが来る方じゃないから、勉強中も付けっぱなしなんだよね。


「ひかりちゃんかな……」


 真っ先に彼女のことを思い浮かべ、それで早くも嬉しくなってしまう自分に苦笑する。

 僕は首を振ってメッセージを開いてみる。


 それはひかりちゃんじゃなかったけど、別の意味で少し胸がドキドキする相手だった。


「玖音さんだ。先日のFPSのお礼だね」


 メッセージの内容は『私も楽しかったです。また機会があれば是非一緒に遊んでください』だった。

 実はこれ、昨日僕が『先日は楽しかったです。ひかりちゃんとまた遊んであげてください』と送ったメッセージへの返信だ。


 ひかりちゃんに玖音さんと連絡取ってるかと言われてたから、遅れに遅れた話題だけど、僕から送ってみたんだよね。

 ちなみに、数日遅れたネタを引っ張り出してくるくらい、まーったく話題が思い浮かばなかった。

 無論、この玖音さんのメッセージにもこれ以上の返信を返すことは出来ない。


 しかし、そこで僕は彼女が手土産として持ってきてくれたカステラのことを思い出した。

 あのカステラはどこで買ったんだろう。美味しかったし、僕からも店に行って買ってみたい。その店には他にどんな商品があるかも気になるし。


「これは話題に出来るなあ。でも、あまり何度もメッセージを送るのも馴れ馴れしいかな。彼女は僕と同じで恥ずかしがり屋さんみたいだし。でもメッセージを送らなさすぎるのも失礼かな……?」


 僕はメガネをいじりながら(繰り返しになって恐縮だけど、僕のスマホはメガネ型だ)、うんうんと唸る。

 やがて顔を上げると、無表情でメッセージを打ち込み始めた。


『先日お土産として持ってきてくださったカステラはとても美味しかったです。僕も買ってみたいので、どこで買ったのかを教えてもらえませんか?』


 そこまで入力してみたけど、そこで操作は止まってしまった。

 あと一つの操作でこのメッセージは玖音さんの下に届くんだけど、それを行う勇気がどうしても出てこない。


 いつの間にか心臓がうるさく音を立てていた。

 顔も熱い。僕はどうしたらいいんだろう。


 全然考えがまとまらず、悩み続ける。

 時間にしてみれば、ほんの数分くらいのことだろうけど、僕はテストのときよりもよっぽど頭を使ったような疲労感を覚えていた。


「よし、この一回だけ送ろう。この話題が終わったら、しばらく玖音さんとの会話はお休み! よし、そうしよう」


 (なか)ばヤケっぱちになりながら、僕はそう決めた。

 これならひかりちゃんに対しても面目が立つと思うし、玖音さんを放置してるってことにもならないよね。


「(よーし、送るぞ~送るぞ~送るぞ~)」


 僕は心の中で呪文のようにつぶやきながら、メガネの(つる)に指を近付けていく。この指が弦に触れれば、メッセージは送信されて玖音さんの下に届く。

 しかし段々と指が震え始めて、なかなか送信できない。後少し指を動かすだけなのに、その少しを動かす勇気が出なかった。


 それでも僕は震えながら、ほんの少しずつ指を近付けていく。

 頭の中では「押せ! 押せ!」という命令を出しているはずなのに、体がなかなか言うことを聞いてくれなかった。


 さらに時間をかけ、やっと指がメガネに触れるかという瞬間。


「うわっ!?」


 僕のスマホに新着メッセージが届いた。

 送り主は、玖音さんだった。


『先日お茶請けとして出していただいたお羊羹は絶品でした。私も家族の者に食べさせてあげたいので、どこでお求めになったのかを教えていただけないでしょうか?』


 そのメッセージ内容を確認した瞬間、僕は口元がニヤけるのを抑えきれなかった。

 やがて、誰もいない自室で声を出して笑い始める。


 僕と同じ恥ずかしがり屋の玖音さん。もしかすると、彼女もこのメッセージを作ったはいいものの、送るのを戸惑っていたのかもしれない。

 そう考えるととても愉快だったし、そうだったらいいなと思った。


『僕もカステラのことを聞こうと思っていました。僕にも玖音さんが買ったお店のことを教えてください。僕が羊羹を買った店は――』


 即座にスマホを操作して瞬時に文章を作成。今度は自分でも驚くほど躊躇(ためら)いなくそれを送信する。


『お兄さんも同じような話題を考えていてくれたのですか? 今度からはお兄さんから送ってくださいね』


 次に玖音さんから、そのような内容のメッセージが来る。

 なんとなく彼女がスマホの前で膨れているような気がして、僕は『ごめんなさい』と入力しながらもう一度笑った。




 僕たちはそれから、お互いのお気に入りの店、そこのオススメ商品などを教え合った。

 彼女は僕が和菓子好きだと思っていたらしい。だから彼女はカステラを持ってきてくれたみたい。


 僕が羊羹を選んだ理由は、もちろん好きってのもあるけど、あのときはお客様を待たせるわけにはいかなかったからなんだよね。

 別に僕は洋菓子も好きだし、もちろんひかりちゃんも大好物ですよといった感じのメッセージを送ると、『今度は美味しい紅茶を入れてくださいね』と返ってきた。

 どこで何を買ってくるのかは教えてくれなかった。『秘密です』だって。


 そんな感じで、僕と玖音さんはしばしの間、ひかりちゃんの助けを借りなくても盛り上がることが出来た。

 これならひかりちゃんに、連絡を取り合ってるかどうか聞かれても平気だね。


 だけど、会話自体は楽しかったけど、僕は段々と不安でいっぱいになってきちゃった。

 今までずっとボッチだった僕。この楽しい会話をいつ終わらせたらいいのか、どうやって終わらせたらいいのかがわからなくて、ビビリ始めちゃったんだ。


「(せっかく玖音さんも楽しそうにメッセージを返してくれているんだし、会話の終わらせ方を失敗して台無しにするわけにはいかないよね)」


 僕は楽しく返事を返しながらも、胸の内は不安でいっぱいという不思議な心境になってきていた。

 そして、徐々に話題が思い付かなくなってくる。


「(適当な用事をでっち上げて、そろそろそちらを行うと言うかな……。他に方法思い付かないよ)」


 ゲーム内では最適解を導き出すことに自信がある僕だけど、現実世界の人間関係ではまるっきりダメだった。

 そうして、そろそろ話題も尽きて頃合いかと思い始めたとき、玖音さんから驚きのメッセージが届いた。


『お兄さん、もしよろしければ、もう少しお話しませんか?』




 玖音さんは今のクラスでは少し孤立がちになってはいたけど、やっぱり彼女もお喋り好きな女の子だった。

 高等部に上がって親しい人とクラスが離れちゃっただけで、決して人と話すのが苦手ってわけではなかったみたいだね。


『あ、あのゲームも数ヶ月前に新作出ましたね。お兄さんもやっていたんですね』


 ありがたいことに、玖音さんはゲームの話題を持ち出してきた。

 カステラと羊羹に関連する話題は尽きそうになったけど、ゲームのこととなると、僕もいくらでも話していられる。


『僕は有名タイトルはだいたい遊んでますよ。それより玖音さんもやってたことの方が意外でした。あのゲームは、どちらかと言えば男の子向けではないですか?』

『あのゲームは父が最初に買ったゲームタイトルらしくて。思い入れがあるのか今でもこっそり同シリーズの作品を遊んでいるんです。私もそれを見て始めました』


 僕と玖音さんは、いつもひかりちゃんがやっているようにテンポよくメッセージのやり取りを始めていた。

 少しの違いだけど、多分玖音さんは今音声入力ですばやく入力してるんじゃないかな。メッセージの文体が口語体になってきてる。


『お父さんが好きなゲームだから、玖音さんも遊んでいるのですね。お父さんは機巧戦記も好きだと聞いていますが、玖音さんもやってるのですか?』

『機巧戦記はちょっとやってないです。父があのゲームにハマっていたころ、私は同じ時期に発売された別のゲームに夢中になっていたので』

『もしかして、どうぶつのお茶会ですか?』

『は、はい。それです。すごいですね、すぐに言い当てられてしまいました。検索したんですか?』

『いいえ、あれも有名タイトルなので覚えていただけです』


 会話をしていると、徐々に玖音さんへの理解が深まっていく。

 やはり彼女のゲーム好きは父親の影響が大きかったみたいだけど、ゲームにのめり込んでからは自分のやりたいものを自ら探したりもしているみたい。


『どうぶつのお茶会もやったことがあるのですか?』

『ありますよ。当時僕は機巧戦記の方を遊んでいたので、後からこんなに売れたゲームがあったんだなって知って買ってみました』

『あのゲームは日常を楽しむゲームで、これといった明確なゲームの目標はありませんよね。お兄さんはどんな風に遊んだのですか? 退屈ではなかったのですか?』

『退屈ではありませんでしたよ。おそらく他の人と同じように遊んでました。いろんなところに行っていろんなNPCと会話を楽しんで、色々自分なりに家を飾ったりしてましたね』


 僕はゲームは雑食性だから、売れてるゲームと聞くと何でも買って遊んじゃう。

 買い切りのゲームを遊ぶなら、趣味としてそこまでお金がかかる趣味でもないしね。


『ただ、さっき言ったように少し時期を外して買ったゲームだったので、オンラインプレイは人が減ってきていて寂しかったですけど』

『ああ、そういうのありますよね。旬を逃したネトゲのレイドイベントなんて、人が集まらなくて悲惨ですよね』

『あー、呼べるフレンドもいないし、結局レベルを上げてソロで時間をかけて倒すんですよね』

『まさしくその通りです。今度からは、お兄さんを呼んでもかまいませんか? もちろん同じゲームを遊んでたらですけど』

『そのときは、僕からもお願いします』


 よくよく考えたら、相手はお嬢様学校に通う同い年の清楚な美少女。

 実際に顔を合わして話していたら、僕は顔が真っ赤になって会話どころじゃないと思う。


 しかし文字だけでのやり取りと、大好きなゲームの話題ということが僕を余計な緊張から解き放ってくれていた。

 会話の最中に片手間にやっていた課題もとっくに終わり、気が付けば随分と長い間玖音さんと会話していたようだった。


「ただいま~!」


 玄関から(かす)かに、それでも元気いっぱいの声が聞こえてくる。

 時間を忘れて玖音さんと話していた僕は、その声でハッとなった。


『ごめんなさい玖音さん、ひかりちゃんが帰ってきたようです。今日はここまでにさせてください』


 僕としては何気なく送ったそのメッセージ。

 しかしそのメッセージを送った途端、途切れなく続いていた玖音さんの返信が止まってしまった。


「ん? どうしたんだろ。家族の人に呼ばれたのかな?」


 と、そこで僕は今更ながらに気が付く。

 そういえば玖音さん、今日は一切ひかりちゃんの話題を口にしなかった。

 僕とひかりちゃんはいつもセットなのは知っているだろうに、まるで玖音さんは、ひかりちゃんが最初からいないことを知っていたような……。


 するとそこに、玖音さんからメッセージが届く。


『私って悪い子ですよね。ひかりさんが遊びに行こうと誘ってくれたのに断って、しかもそのひかりさんがいない間に、お兄さんと楽しくお話してるだなんて』


 それは、今日初めての返事に困るメッセージだった。

 学校では、まだクラスに上手く馴染めないらしい玖音さん。彼女は今、ひかりちゃんの好意を拒んだことで罪悪感を覚えているみたい。


 僕はゆっくりと、メッセージを入力していく。


『もし僕が玖音さんの立場になったとしたら、僕も同じように誘いを断っていると思います。僕は自分に自信がないので、僕がいないほうがみんな楽しいんじゃないかと考えてしまうからです』


 そこまで入力した瞬間、自分の気持ちを正直にさらけ出し過ぎではないかと不安になった。

 しかし、そこへ再び小さく声が聞こえてくる。


「お兄ちゃ~ん?」


 僕は自分が置かれている状況を思い出した。

 いつも僕を出迎えてきてくれるひかりちゃんを、今度は僕が出迎えてあげないと。


 僕は不安や羞恥心を時間がないという理由で誤魔化して、次々にメッセージを入力していく。


『でも、玖音さんは怖がらずにみんなと一緒に遊びに行ってもいいと思います。玖音さんはひかりちゃんといるときは普通に話せていますし、ゲーム以外のことも、いろんな美味しいお店を知っていたりと話題がないわけではなさそうですし』


 自分に自信がない僕だけど、玖音さんには自分に自信を持ってもらいたくて、彼女を励ますメッセージを考える。


『玖音さんは物腰も柔らかで上品ですし、会話の際はちゃんと相手の話を聞いているという姿勢も相手をリラックスさせてあげていると思います。相手も伝統ある女学院の生徒さんですから、そういう玖音さんの立派に育てられた本質に気付いてくれる人もいると思います』


 僕が入力した内容は紛れもない本音だ。

 育ちのいい人は、やはり細かいところで僕みたいな凡人とは違いが出る。僕も見習わないとという気持ちにさせてくれる。


『ひかりちゃんを通じて少し一緒にいただけの僕でも、玖音さんのすばらしさに気付けたんです。きっと直接話す人なら、もっと良いところにたくさん気付いてくれると思います』


 さすがにやりすぎたかと思うような内容だったけど、考え直す時間はなかった。

 すでにひかりちゃんは、手を洗いに廊下を移動した後のようだ。僕は急いでメッセージを送信する。


 そうして椅子から立ち上がった直後、久しぶりに即座に玖音さんからメッセージが返ってきた。


『お世辞を言われると恥ずかしいです』


 僕もすぐに返事を返した。


『少し恥ずかしい内容でした。ごめんなさい。ですが、お世辞ではないですよ。僕の正直な気持ちです』


 時間がなかったから、気持ちを誤魔化した文章は書けなかったんだよね。

 僕はそんなことを考えながら、玖音さんに送信する。


 返事は、また途切れた。


 僕は最後の締めをして、後はひかりちゃんに専念しようと考える。


『今日は楽しい時間が過ごせました。もし同じゲームをやっていたら、今度ヘルプを頼みますね。これからもひかりちゃんと仲良くしてあげてください。それでは』


 そう送信して、部屋を出た。

 部屋を出た途端、僕の部屋に向かってきていたひかりちゃんと鉢合わせする。


「お兄ちゃん、ただいま!」


 せっかくひかりちゃんを出迎えてあげられる機会だったのに、結局間に合わなかった。

 僕はその分今日も美味しいご飯を作ってあげようと心で思いつつ、彼女に笑いかける。


「おかえり、ひかりちゃん。楽しかった?」

「うん、楽しかった! 今日は遊びに行かせてくれてありがとう!」

「それはよかったね。これからも僕のことは気にせず、誘われたら遊びに行ってもいいよ」

「ヤダ。でも、じゃあ時々は行くことにするね~」

「ヤダって……」


 ひかりちゃんが帰ってきて、一気に家が賑やかになる。

 さっきまでも楽しかったけど、やっぱりひかりちゃんがいてくれるといつも楽しい。


「今日のご飯はどうする? いつもどおりでいい? それとも外で何か食べてきた?」

「ひかりはお兄ちゃんのご飯を食べるために、飲み物だけしか飲んでな~い!」

「そ、それは嬉しいけど、みんなの輪を崩さない程度にね?」

「だいじょうぶだよ~。ダイエットしてる子もいるし。ひかり、そんなに浮いたりしないよ~」

「そっか。それなら安心だね」


 すっかり当たり前となってきた、ひかりちゃんとの会話。

 僕に日常が戻っていく。


「じゃあ少し早いけど、そろそろご飯の準備にしようかな。今日はお腹を空かせて帰ってきてくれたひかりちゃんのために、うんと手の込んだ料理を作ってあげる」


 いつも出迎えてくれるひかりちゃんに、謝罪とありがとうの意味も込めて。

 僕がそう言うと、ひかりちゃんはパッと花が咲くように笑顔を見せる。


「やったー! お兄ちゃん大好き~!」


 僕は困ったように笑いながら、彼女と一緒にリビングへと向かう。

 ひかりちゃんとの会話をしてて気付かなかったけど、いつの間にか玖音さんから一件だけメッセージが届いていた。

 後で読んでみると、内容は淡白なものだった。


『私も楽しかったです。これからもよろしくお願いします』


 僕はこのメッセージを文面通りに(とら)えた。

 彼女がどういう心境で、どういう気持ちをこめてこのメッセージを送ってきたのか、深く考えることはなかった。



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