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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件
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タマちゃんと行く世界探検


 彼女は出会った頃から、僕がゲームをやっているところを見るのが好きだと言っていた。

 ゲームは自分がやってこそ楽しいと考えていた僕には不思議に思える感覚だったけど、最近の僕は考えが変わってきていた。


 すっかり定位置となった僕の部屋の巨大ディスプレイの前。

 彼女がそこに座ってゲームをしているところを見るのが、最近僕は楽しみになってきていた。


「あ、奥にでっかいブタさんがいる~。でもだいじょうぶだよね。タマちゃん、いっけ~!」


 独り言なのか僕への会話なのかわからない発言をしながら、彼女はゲームを進める。

 僕はひかりちゃんの話に全部付き合うのは無理なので、明確に僕に話しかけられた発言にしか返事を返さないことが多い。


 それでも彼女に不満はなさそうだ。

 彼女にとって重要なのは、僕が側にいるかいないかみたい。


 そんなわけで、隣に僕が座っている今の彼女は上機嫌だ。

 ひかりちゃんはいつでもよく喋る女の子だけど、今日は一段と口数が多かった。


「わわ、いっぱい敵が出てきた。タマちゃん頑張れ~。回復魔法かけてあげる~」


 タマと名付けたエンシェントドラゴンを飼い始めてから、ひかりちゃんは回復魔法を覚えた。

 最近はタマちゃんばかりに戦わせて、ひかりちゃん自身は回復魔法をかけることに専念していることばかりになってきている。


 しかし、ひかりちゃんは奥の豚の顔をした大きな悪魔ばかりに気を取られて、手前にズラッと並んでいた配下の兵士たちは目に入らなかったみたい。

 手前からゆっくり倒していけばいいのに、哀れタマちゃんは、いきなり奥のボスに突撃させられてしまった。


 いきなり大将を狙われて、てんやわんやとなる悪魔たち。

 タマちゃんはボコボコに袋叩きにされながらも健気にボスを狙い、たまに範囲攻撃を行って敵の数を減らしていく。


「あ、あれ、なんかこのブタさん強い。ひかりの魔法の方が、先に尽きちゃうかも」


 それはねひかりさん、体力がわずかに減ったところに強い回復魔法をかけているんだから、過剰に回復させすぎていて効率が悪いからですよ。


「でも、こんなときはお兄ちゃんに言われたこと! マジックポーション~!」


 贅沢品をガブガブ飲んで、タマちゃんをモリモリ回復させてあげるひかりちゃん。

 エリクサーはラスボス戦でも勿体(もったい)なくて使えない派の僕にとって、その戦い方は目を(おお)いたくなるような戦い方だ。


 しかし僕は止めろとは言わない。本人はとても楽しそうだし、タマちゃんを早く回復させてあげたい気持ちもわかる。

 それに、万が一にでも回復が足りなくなって、タマちゃんがやられちゃう方がよっぽど大変だ。ゲームの状況的にも、ひかりちゃんの心情的にも。


「やった、倒した。タマちゃんえらい! よくやったね~」


 ほどなく悪魔たちは倒され(蹂躙(じゅうりん)されたと言ってもいいかも)、タマちゃんがのしのしと歩いてひかりちゃんの下へと戻ってくる。


「おめでとうひかりちゃん」


 僕は久しぶりにひかりちゃんに声をかけた。

 彼女はわざわざゲーム画面から僕の方に顔を向け、ニコリと笑った。


「ありがと~。お兄ちゃんが取ってきてくれたタマちゃん、本当に強くて頼りになる~」


 本来は手に入らないようなバランスの、強いペットのタマ。

 でもゲーム初心者の彼女にとって、それはちょうどいいサポートになってるみたい。


「気に入ってもらえて、タマちゃんも喜んでると思うよ。それじゃひかりちゃん、忘れないうちに宝物をもらって街に帰ろうか。そろそろポーションが尽きると思うよ」

「わ、ホントだ。またポーションなくなっちゃった。なくなるの早いなぁ。ひかり、使いすぎなのかな?」


 僕は彼女の言葉に迷ってしまう。

 回復魔法の無駄をなくせば、ひかりちゃんが飲むポーションの量は格段に減らすことが出来るはず。


 でも無駄をなくすには、その場その場で適切な判断をして状況に合った魔法を使ってもらわなければならない。

 ひかりちゃんは、その判断を正確に行えるだろうか。大切にしている(無理やり突撃させられたりしてるけど)タマちゃんの命に直結する問題だ。迂闊(うかつ)なことは言えない。


「たしかにひかりちゃんは回復魔法を使いすぎだけど、タマちゃんが無事ならそれでいいんじゃないかな?」


 結局僕は、自分の考えていたことを包み隠さず彼女に伝えることにした。

 ひかりちゃんもその言葉に、満足してくれたみたい。


「そっか~。うんうん、タマちゃんが大事だもんね」


 画面内のタマちゃんを見て、ひかりちゃんが何度も頷く。

 しかし、このままではひかりちゃんのポーションがすぐになくなっちゃう問題が解決しない。

 僕は別のアプローチをすることにした。


「回復魔法を効率的に使う方法も覚えたらいいけど、他にもポーションを自作するって方法もあるよ。各地を駆け巡って材料を集め、ひかりちゃん自身で店で売っているポーションより良いものを作るんだ」


 その発言に、ひかりちゃんは目を輝かせる。

 回復魔法の効率を上げるんじゃなくて、ポーションの効率を上げるアプローチだ。お金も作る道具を揃えるための初期投資だけで、後はタダだ。長い目で見れば確実に節約になる。その分材料集めとかの手間はかかるけど。


「それ、おもしろそう! ひかり、やる~!」


 ひかりちゃんは僕の提案に飛び付いてくれた。

 彼女が新しいゲームの楽しみ方に目覚めてくれると、僕も嬉しいな。




   ◇




「あ、あそこにもあるよ。これで青ハーブはちょうど二十本目だね!」


 そんなわけで、早速街で様々な道具を買い揃えてきたひかりちゃん。

 再び街を飛び出し、野山を駆け巡っていた。


「注意してよく見ると、いろんなものが見つかるんだね。あっちにはキノコが生えてる~」


 冒険の手順として、まずは採集をして初期資金を稼ぎ、それで装備等整えてから本格的に敵を倒しに冒険に出る、というような流れがあると思う。

 しかしひかりちゃんは難しい敵を倒した後に、簡単な採集を始めてる。なんだかあべこべだね。


「あ、木の実発見~。足元だけじゃなくて、ちゃんと上の方も見ておかないとダメだね~」


 意外なことに、ひかりちゃんは収穫できるものを見落とさない。

 彼女が通った後は有用な物は何一つ残らないという、採集の鬼と化している。


「あれ、森が途切れちゃった。ここの森も、全部見たかなぁ」


 一つの森を根こそぎ収穫しちゃったひかりちゃん。

 実際の世界でこんな風に全部取っていったら大変なことになるけど、これはゲームの世界だから大丈夫。


 ちなみにエンシェントドラゴンのタマちゃんは普段は巨体だけど、街とか森とか洞窟とか、大きな体が邪魔になるところでは小型サイズに変身してプレイヤーキャラクターの側を飛んでいる。

 さすがはゲームをクリアした人向けコンテンツの報酬ペットだ。


「ひかりちゃん、そろそろ一度試しに作ってみたら? 結構たくさん拾ってるよね」

「わかった~!」


 ひかりちゃんは早速コントローラーとゲーム画面を交互に見始める。

 彼女はまだ、メニュー操作やボタンを複数使う行為には慣れていないみたい。


「えっとー、まずは道具の準備をするんだよね~。さっき買ってきた大鍋はどこにあるかな~」


 しかしそれでも、彼女は始めた当初よりは飛躍的に上手になった。

 ゲームを始めた頃はメニューやアイコンの見方もわからなかったし、決定ボタンとキャンセルボタンを押し間違えて混乱したりしてたし。


「お兄ちゃん~、これでいい~?」

「うん、準備はバッチリだね。でも薪と火はどうする?」

「タマちゃん! やっちゃって!」


 エンシェントドラゴンに命じ、あっという間に木をなぎ倒させ、切り刻ませる妹さん。

 そして出来た薪をドラゴンブレスで着火。古代竜の贅沢な使い方だね。


「じゃあさっき汲んでおいた水を入れて、次に材料を入れてみよう。特徴が書かれた説明文があるから、それをヒントにひかりちゃんのオリジナルレシピを作ってみて」

「おぉ~! やってみる~!」

「ちなみに街で買ったレシピ本にマジックポーションの作り方も書いてるけど……」

「ひかり、ひかりのオリジナルレシピ作る~!」

「う、うん。頑張ってね」


 ひかりちゃんはお目々をキラキラさせながら、すぐに採ったばかりの材料の説明文を読み始める。

 いろんな種類があるので、おそらく選び終わるのはまだまだ先のことになると思う。


「別にマジックポーションだけを作らなくてもいいからね。ひかりちゃんが作りたいと思ったものを、なんでも作っていいからね」

「はーい!」


 僕は彼女の元気な返事を聞くと、一人頷いてメガネの(つる)に手をかけた。

 すると、視界にスマホの画面が表示される。僕は彼女のゲームを見ながら、自分自身もスマホでゲームをしてるんだ。


 まあ本格的に遊んでいるわけじゃなく、いわゆるデイリークエスト等を軽く遊んでいるくらいだけどね。

 ちなみに、ひかりちゃんも僕が横でたまにスマホをいじっているのを知っているし、それを気にしてもいない。


 そうやってスマホでゲームを遊んでいると、ふと虫の知らせのようなものを感じ、巨大ディスプレイに視線を向けた。


「ちょ!? ひかりちゃん?」

「う? なぁに~?」


 僕が目を離した隙に、ひかりちゃんの大鍋がとんでもないことになっていた。

 彼女、システム上限界になるまで材料を詰め込もうとしている。


「ひかり、ちゃんと説明文読んだよ? きっとすごいポーションが出来ると思う!」

「そ、そっか。ごめんね驚かせちゃって」

「いいの~!」


 僕の妹さんは、一つの森で採れた物資をほぼ全部大釜にぶち込んでしまった。

 闇鍋もびっくりのごちゃ混ぜ具合だ。滋養だけはすごいポーションが出来るのかもしれない。


「煮えろ煮えろ~、美味しく煮えろ~!」


 魔改造されていく食材たち。

 このゲームは入れた材料の組み合わせを好意的に解釈してくれるから、食べられない鉄とかを入れない限り何かしら完成すると思うけど……。


「出来た~!」


 現実なら時間がかかる煮込み調理でも、大抵の一人用ゲームならあっという間に終わっちゃう。

 記念すべき、彼女の作品第一作目は――。


「わぁ、万能ポーションだって! ひかり、すごいの作っちゃった!」


 それは状態異常も体力も魔法力もすべて高水準で回復してくれる、超高性能なポーションだった。


「お、おめでとうひかりちゃん。一人で失敗せずに出来たね」

「えへへ~。うれし~」


 言葉通り、嬉しそうに僕に体を寄せてくるひかりちゃん。

 しかし、彼女には申し訳ないんだけど、それは注ぎ込んだ材料の量と種類を考えるとある意味当然の結果だった。


「よーし、この調子でドンドン作ろっと。……あ、あれ? もう材料なくなっちゃった」


 手持ちの在庫を見て、愕然(がくぜん)とした表情を浮かべるひかりちゃん。

 効率的なプレイを求めた僕のアプローチは失敗したみたい。ひかりちゃんは、ポーションを作るのも効率を度外視した製造方法が好みだった。


 僕は苦笑しながら、それでも心は嬉しい気持ちでいっぱいになりながら、ひかりちゃんに話しかける。


「まだまだ世界は広いから、また採りに行けばいいよ。ひかりちゃんの知っているところにも知らないところにも、まだまだ様々なものが眠ってるよ」

「! 探しに行く~!」


 その日、ひかりちゃんは僕が考える効率的なプレイは出来なかったけど、それでも彼女はとても楽しそうだった。

 ひかりちゃんは再び、タマちゃんをお供に世界を旅していく。


「わ、知らない薬草見つけた! なんかアイテム集めるの、楽しくなってきたかも……!」


 ゲームは自分でやってこそ楽しいと思っていた僕だけど、やっぱりその考えは最近変わってきた。

 生き生きと遊ぶひかりちゃんを見ているのも、楽しい。


 けど、やっぱりひかりちゃんは時々僕をびっくりさせちゃうんだよね。


「あ、敵の砦はっけーん。それいけ、タマちゃん!」

「えっ?」

「わわわ、ものすごい敵が出てきた~。でもだいじょうぶ。ひかりには万能ポーションがあるんだから。ゴクン!」

「そのポーション、速攻使っちゃうの!?」


 エリクサーは勿体なくてラスボス戦でも使えない派の僕。

 ひかりちゃんがゲームをやっているところを見るのは、ちょっと心臓に悪いかも。











「そういえばひかりちゃん、今晩のご飯何が食べたい?」

「えっとね、具材たっぷりのお鍋!」

「…………」


 ちなみに今は春も終わり、そろそろ本格的に暑くなってくるような時期だったりする。



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