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ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件  作者: 卯月緑
ゆるふわ義妹にゲームを教えたら、僕の世界が一変した件
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課題をしながら妹と会話


 玖音さんと楽しく遊んだ週末が終わり、また新しい一週間が始まった。

 しかしその週初め、僕の教室では悲鳴やらため息やらが溢れていた。


「ホント、月曜日から憂鬱(ゆううつ)になるよね。課題を出すなとは言わないけど、時と場合と出し方を考えてほしいわ」

「そ、そうだね」


 隣の席の女の子も、僕に愚痴を言ってくる。

 彼女の――いや、クラス中の機嫌が悪い理由は、英語教師が出した大量の課題が原因だった。


「提出は来週のこの授業で。皆さんは月曜日の捉え方を間違っています。休みで気持ちがリフレッシュした月曜日こそ、何かに取り組むには適した日なのです。決して週末まで溜め込んで、まとめてやらないように。――って、余計なお世話よね」

「そ、そうだね」


 彼女は英語教師のモノマネをして、そしてまた憤慨(ふんがい)していた。

 彼女は他に話す相手もいるはずなのに、たまに僕にこうやって(から)んでくる。


「あなたってさ、課題はいつも早めに出してるじゃない。今回もすぐに終わらせちゃうの?」


 どうして彼女は、僕が課題を早めに出してることを覚えているのかな。

 ここ何ヶ月も席が隣同士だし、いい加減覚えてきたのかな。


「ど、どうだろう。今回はのんびりと一週間かけてやるかも……」


 僕は頭の中で最近出来た義妹(候補)の女の子を思い浮かべた。

 たしかにいつもの僕なら課題はささっと終わらせちゃうんだけど、毎日ひかりちゃんと少しずつ勉強している近頃のことを考えると、彼女のペースに合わせて課題ものんびりと終わらせることになりそうだ。


 しかし僕がそう答えた瞬間、なぜか隣の女の子の目が光ったような気がした。


「……あなた、最近どこか変わった? なんか、最近お弁当はめちゃくちゃ()ってることが多いし」

「そ、そんなことないよ?」


 僕は心臓が飛び出しそうなくらい驚いてしまった。

 女の勘ってことなのかな。彼女は僕の生活が一変したことをズバリ見抜いてしまった。


 お弁当以外は、登校時間も下校時間も何も変わってないつもりなのに。

 というか、隣だから仕方ないかもしれないけど、僕のお弁当の中身は彼女にしっかりと見られてたんだ。恥ずかしい。


 とはいえ、これ以上彼女に僕の生活が変わっただなんて思われたくない。

 ひかりちゃんと一緒に暮らしてるだなんて、絶対に隠しておかないと。


「や、やっぱり今回もすぐに終わらせちゃおうかな。一時の気の迷いで生活リズムを変えちゃダメだよね。あはははは……」

「……怪しい」


 なんだか余計に怪しまれた気もするけど、素知らぬ顔で明日までに終わらせてきたら、僕は何も変わってないって納得してくれるかな。

 でも隣の女の子にしてみれば、僕が少々変わろうが関係ないと思うけどなあ。




   ◇




「今日のお勉強終わり~! お兄ちゃん、今日もありがとうね!」

「どういたしまして」


 その日の放課後。僕はひかりちゃんの勉強を見てあげながら、頑張って課題に取り組んでいた。

 しかし提出期限まで一週間もある大量の課題。さすがにこの短時間では終わらせることは出来なかった。


「お兄ちゃん、スマホ見ていい~?」

「どうぞ~」


 定番になってきたやり取り。断りを入れる必要はないって何度言っても、彼女は勉強が終わった後はいつも聞いてくる。

 僕は根負けしちゃったんだよね。


「あ、くおんちゃん、昼間の返事をこっちで返してきてる。恥ずかしがらずに教室でも話したらいいのに」


 どうやら玖音さん、やっぱり学校ではまだ話す勇気が出ないみたい。

 まあこの前家に来たときは、会話の練習というよりただ遊んだだけになっちゃったしね。


「そういえばお兄ちゃん、くおんちゃんと連絡取り合ってる?」

「あ、うん。と、取ってるよ?」


 僕はドキリとしながらも、嘘じゃない答えを言った。

 実際には、エンシェントドラゴンの動画への謝礼と、その感想に対して返事を二回ほど返しただけなんだけどね……。


 ちなみに彼女は動画を見て、すごいとは言ってくれたけどそれ以上のツッコミはなかった。

 もう僕のことはとてもゲームが上手なひかりちゃんのお兄さん、という認識で固まったみたい。


「そうなんだ。ひかりには全然送ってくれないのに~」


 ひかりちゃんが頬を膨らませる。

 本当は玖音さんにもろくにメッセージを送っていないんだけど、それを正直に言うとひかりちゃんに怒られちゃう。


「ひ、ひかりちゃんとはいつも一緒に居るから」


 僕は苦し紛れに、思わずそう答えた。

 でもひかりちゃん、その返事がとてもお気に召したみたい。


「えへへ。そっか、ひかりとお兄ちゃんはいつも一緒だもんね」


 機嫌を直しながら、僕の肩に体を寄せてくるひかりちゃん。

 僕は彼女に引きつった愛想笑いを返しながら、後で嘘にならないように玖音さんにメッセージを送っておこうと思った。


 ひかりちゃんは僕の方に体を寄せたまま、そのまま再びスマホを見始めちゃった。

 彼女の興味がスマホに戻ったことを確認した僕は、もう一度ノートを机に広げた。


「……あれ、お兄ちゃんまだやるの?」


 しかしすぐに、ひかりちゃんが手を動かし始めた僕に気付いた。

 彼女は一度はノートを閉じていた僕を、不思議に思っているようだった。


「う、うん。もうちょっとだけ、キリの良いところまで進めようかなって思い直したんだ。ひかりちゃんはそのままスマホでも見ててよ」

「そう? いいの~?」

「うん、もちろんいいよ」

「はーい」

「でも、書くのが大変になるから、少し離れてね」

「ぶ~」


 僕とひかりちゃんは、リビングで勉強している。

 教えるのに都合がいいから隣同士に座って勉強しているんだけど、彼女はこのとき立ち上がると、ぐるっと回って僕の正面に座り直したんだ。


「……ど、どうして前に来たの?」

「お兄ちゃんのお顔を、ちゃんと見るため~!」


 ニコニコと笑いながら、ひかりちゃんは嬉しそうにそう言った。


「これなら離れてるし、書くのに邪魔にならないよね!」


 どうやらそういう考えから、彼女は今の行動に(いた)ったらしい。

 でも、たしかに書くのには邪魔にならなくなったけど、そんなに見られてると余計に勉強に身が入らないんだけど……。


「ま、まだスマホでメッセージを返すんだよね?」

「あ、うん。いっぱい来てたから~」

「なら、そっちに返信しておいで」

「はーい!」


 なんとかひかりちゃんの気をそらすことに成功した僕。

 すぐにノートに視線を落とし、高速で手を動かし始めた。


「へぇ~……、ゆいちゃんも大変だなぁ……」


 ひかりちゃんはたまに小さく独り言を言いながら、送られてきたメッセージに返信を付けていく。

 彼女に見つめられていたときは勉強に身が入らないと思っていたけど、今は彼女が同じ空間にいるということが、不思議と僕の集中力を引き出していた。


「うーん、これは違うと思うけどなぁ……」


 ちなみにひかりちゃん、バリバリSNSで会話する方なんだけど、メッセージを入力するのは速くない。

 だから一人でいるときは、いつも音声入力でやってるみたい。たまに僕の前でもやったりするけどね。


「やだ、めぐちゃんってば、こんな写真どうやって撮ったんだろ」


 ひかりちゃんの独り言を聞いていると、結構たくさんの女の子の名前が出てくる。

 僕は課題を進めてはいたけど、少し気になったので聞いてみることにした。


「ひかりちゃんって、だいたい何人くらいとお喋りしてるの?」

「うーん、今はそんなに多くないよ。十人いかないくらい~」


 十人って。全然多いほうだよひかりちゃん。


「それって全員、同じクラスの女の子?」

「ううん、前まで一緒だった子とか、先輩とか」

「せ、先輩? ひかりちゃん、まだ高校生になって半年も経ってないのに、もう先輩と知り合ってるの?」


 驚いて質問する僕に、ひかりちゃんは目を合わせてくると笑って言った。


「違うよ~。この先輩は、中等部だった頃に知り合ってた先輩~。ひかりたちってほら、一貫校だから」

「あ、そっか。なるほどね」


 彼女が通う女学院は、エスカレーター式で次の学校にも進学できる。

 だから通っている顔ぶれも、何年もあまり変わらないみたいだ。


「高等部に上がってから、初めて知り合った先輩もいるけどね~」

「い、いるんだ……」


 僕なんかには想像もつかないことを行うひかりちゃん。

 やっぱり彼女はコミュ(りょく)おばけだったりするのかな。


「でもさひかりちゃん、それだけ人数が多かったら、この人誰だっけ? いつ知り合ったんだっけ? ってことにならない?」


 僕はボッチ属性だけど、ネット上ではフレンド登録を申し込まれることもある。

 それでたまにフレンドリストを見返してみると、この人誰だっけ、という名前を見つけることがあるんだよね。


「うん。そんな話があるのは、ひかりも知ってるよ~」


 彼女はスマホから投映される画面へと視線を戻しながら、そう答える。


「でも、ひかりはこの人誰だっけとはならないかなぁ。知り合った経緯も、だいたい覚えてるし」


 ひかりちゃんは、ちゃんと相手のことを覚えているみたい。

 そのことが、今の彼女の友だちの多さに繋がっているのかもしれないね。


「あさかちゃんとめぐちゃんは同じクラスになってなんとなく仲良くなったんだし、ゆいちゃんは最初ひかりのことを嫌ってて、ひかりのいないところで悪口言ってたんだよね~」


 しかし突如、ひかりちゃんはギョッとするようなことを言い出した。

 驚いて手を止める僕。でも彼女は機嫌良さそうに笑いながら、言葉を続ける。


「ひかりって遠くから見てると嫌な女の子だって思われちゃうみたいだから、陰口とかもたまにあるんだ~」


 僕は彼女の言葉を聞いて、息が詰まりそうになる。

 女の子には詳しくない僕だけど、ひかりちゃんの言動を嫌う女の子がいそうってことだけは、なんとなくわかる。

 彼女自身が言っているように、遠くから見てるだけだと、誤解しちゃうよね。


「でももうほとんどの人がわかってくれたみたいだし、ここ一年以上、陰口なんて聞いてないけどね。今じゃクラスのマスコットだって言ってもらえて、みんな仲良くしてくれてるし」


 ひかりちゃんは、やっぱりニコニコ笑いながら話し続けた。

 でも僕は、どうしても我慢できなくなって、恐る恐る彼女に問いかけた。


「そ、その、ひかりちゃんっていじめられていた過去があるの……?」


 僕の言葉にひかりちゃんは驚いて目を丸くすると、直後に口を開けて笑った。


「お兄ちゃん、心配してくれてありがとう。でも、そんな過去はないからだいじょうぶだよ。ひかりにはいつも友だちがいたし、ゆいちゃんだって悪い噂を流すような悪質なことはしない子だったしね」


 彼女は元気良くそう言った。

 僕はホッと胸を撫で下ろす。ひかりちゃんのその言葉に影はなかった。彼女はちゃんと、幸せな人生を歩んできたみたい。

 でも、ゆいちゃんって名前はたまに出てくるけど、二人にはそんな過去があったんだね。


「お兄ちゃんもいじめられてた過去なんてないよね。優しい人だし、きっとクラスでも嫌いな人はいないよね!」


 次にひかりちゃんは、僕のことをそう評し始めた。

 僕は少し考え込む。たしかに僕もいじめられた過去はないけど、嫌っている人はいないのかな。どうでもいい、と考えている人が多数かも。


「うん……、嫌われてはなさそうだよ」

「やっぱり! お兄ちゃん優しいもんね~!」


 ひかりちゃんは嬉しそうにそう言う。

 いつものことだけど、彼女は僕を過大評価してくるから恥ずかしいんだよね。


 僕が顔を赤くしながらノートに視線を落とすと、ひかりちゃんはもう一度笑ってスマホに視線を戻した。

 そうしてしばらく会話が途切れる。リビングには、ノートに物を書く音と、時折着信を知らせる音だけが流れていた。


 なんだかんだで、課題の進み具合は順調だった。

 ひかりちゃんは僕を過大評価したり積極的に甘えてきたりと戸惑わせてくることも多いけど、やっぱり僕は彼女と一緒にいると調子がいいような気がする。

 僕はサクサク終わっていく課題に満足しながら、手を動かし続けた。


「……ふふ」


 やがてひかりちゃんが、唐突に小さく笑った。 

 また面白い会話でも始めたのかな。僕も小さく笑って、なおも課題に(はげ)む。


「……あはは、もう、くおんちゃんったら~」


 どうも今の会話の相手は玖音さんらしい。

 僕は(こら)えきれなくなって、ノートに視線を向けたままひかりちゃんに問いかける。


「何の話題で盛り上がってるの?」


 ひかりちゃんは即座に微笑み全開で僕に返事をした。


「お兄ちゃんのこと~!」

「えっ!?」


 予想外の不意打ちに、思わず大きな声を出してしまった。

 僕は慌ててひかりちゃんに尋ねる。


「ぼ、僕の何で盛り上がってるの?」

「お兄ちゃんは優しくてかっこよくて、今も凛々しいお顔で真面目に課題やってる~って送ったら、くおんちゃんがそんなメッセージ送ってこないでください、恥ずかしいですって返してきたところ~」


 それを聞いた僕は、一瞬ふらっと立ちくらみのような目眩(めまい)がした。

 僕の義妹ちゃんは、なんてことを玖音さんに送っているんだ。


「ぼ、僕も恥ずかしいから止めて、お願い」

「えー? 本当のことなのに~」


 ひかりちゃんは不満そうだけど、彼女は僕の言うことを一度はちゃんと聞いてくれる。

 今日のところはこれ以上恥ずかしい会話が続くことはないと思う。


 僕は全身火照っているような感覚を覚えながら、それでもひかりちゃんの暴走を止められたことに安堵(あんど)した。

 大きく息を吐くと、再びノートへと向かう。


 しかし、しばらくすると――。


 カシャ。


「ちょ、今僕のこと、写真に撮らなかった!?」

「うん、くおんちゃんが凛々しいお兄ちゃんの顔見てみたいって言ってきたから~」

「玖音さーん!?」


 ブルータス、お前もか。

 僕はそんな言葉を思い浮かべながら、頭を抱えた。


 まあ、ほどなく課題は滞りなく終わったんだけどね。



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