四大陸を晴らす者たち
火の大陸の上空に浮かぶ魔力の塊にカザトとクーゴは挑む。しかし二人の剣と拳が通用しない。どんなに腕の立つ剣士にも斬れないものはある。その現実に阻まれていた。
地上では化け物に人々が襲われている。自衛のための魔法や魔術を発動する隙を与えられることなく倒されていく。普段、戦闘とは無縁なのだから無理もない。
カザトとクーゴは唇を噛み締める。戦う力を持っているにも拘らず守れていないことに。それでも化け物は止まらない。本能のままに人々を襲い続ける。
「結局、俺たちじゃ何も守れないってのか!」
カザトが悔しさを吐露する。剣士が剣士として役立てないことに腹を立てる。
「オラたちだって完璧じゃねえんだ。全てを守れるってんなら苦労しねえぞ」
クーゴは無理やり割り切った。たかが人間と言い聞かせて自分を落ち着かせる。だが体を落ち着ける気はない。雷速拳の威力を高めるべく意識を集中させる。
心臓が高鳴り苦しむ。元々、体に負荷がかかる雷速拳の威力を高めるということは、言ってしまえば自殺行為なのだ。
口に溜まった血を吐き出す。視界が定まらない。立っていることすらできず膝をつく。今のクーゴを突き動かしているものは、近衛騎士としてのプライド。
「クーゴ、それ以上はやめろ。死ぬぞ」
カザトが止めるも聞き耳を立てない。正確には聞こえない。負荷に耐えきれず鼓膜が破れていた。
クーゴの魔力の高まり方は普通ではなかった。ロウソクの最後の灯火のような。
「オラの全力の雷速拳だああああ!!」
魔力の塊を貫く一閃は輝いていた。人間の可能性を感じるには十分すぎるほど眩しい。
クーゴの鬼気迫る姿を目の当たりにしたカザトは震えていた。クーゴが恐ろしくてではない。自身の情けなさにである。
「俺には真似できない芸当だ。俺は弱いな、まったく。情けないったらありゃしない。辞めるべくして騎士を辞めたんだな」
クーゴの攻撃を受けても魔力の塊は消滅していなかった。それがカザトの戦意をさらに削る。漆黒の瞳に映るは絶望。ついに剣を手放してしまう。
「ごめんよ、こんなに情けなくて。もう、うなだれることしかできない」
「――おーん。まだ弱音を吐く気力はあるみたいじゃんか。その気力を戦意に回せばいいんじゃね」
カザトの弱音に応えてみせたのはヒラだった。
「どうして君が」
「美人さんが落ち着きなくてねえ。この世の終わりみたいにされちゃ、こちとら落ち着いて寝りゃしない」
ヒラはクーゴの剣を手にしていた。得意げに抜剣するや振り回して感触を確かめる。
「君は剣を心得ているのか」
「見て覚えただけ。あの人、なかなか教えてくれなかったもんでね。それよかさっさと立ってくんな、あの人の弟子が聞いて呆れる。剣は折っても心は折るな、だっけ。まだ剣は折れちゃない。こんな塊、さっさと斬っちまおう」
ヒラは眼鏡を外して呼吸を整えると左手で剣を持ち構えた。
「気衝閃・舞踊」
さっと振った剣から斬撃が発生。縦横無尽に魔力の塊を斬っていく。
「う……そ……だろう!?」
「この世に斬れないものはない。あたしに剣を振らせたら最後、何も残らないってやつだ」
「君は……いったい?」
「あたしのことなんざどうでもいいっての。あたしが細切れにしていくから、あんたの風で塵にしてくれ」
「俺が」
「あんたは強い。あの人が認めたんだからねぇ」
カザトに背を向けたまま促す。その背中はカザトの心を震わせるのに十分だった。
* * *
四大陸の上空に浮かぶ魔力の塊であったが、土の大陸分はすでに消滅。火の大陸分をカザトとクーゴとヒラ、水の大陸分をムロとナティとガントが消滅させた。
「この重い空気の元凶はあれか。誰の迷惑も考えず放ったようで嫌だ嫌だ」
薄桃色の髪を後ろに束ね、同じく薄桃色の瞳で魔力の塊を睨む女性がいた。
かつて存在していた和の国の羽衣も薄桃色であれば、右腰の鞘から抜いた刀も薄桃色。花の擬人化した姿と言われたら納得してしまうに違いない。
「私は愛弟子に会いたいだけなのだ。今は何かを斬りたい気分じゃないのだが」
そう言いつつも飛び上がった女性は簡単に魔力の塊に立つと、そこから景色を眺める。
「この流れは危険だ。どうにかこうにか留めている感じだ。こんなものがあるせいだろう」
女性は刀を塊に刺す。
刀を伝って魔力が流れ出し、塊全体に行き渡る。
「風の大陸に実害が出る前に終わらせよう。気衝閃・桃」
魔力の塊の内側から薄桃色の魔力が溢れ、あっという間に塊は消滅した。
「どうも刀の納まりが悪い。あまりしたくないのだが、私が自ら出向いた方が良さそうだ」
薄桃色の光を発して女性はどこかへと消えた。
これで四大陸の上空に浮かんでいた魔力の塊は全て消滅。オーマの企みは潰えたのである。




