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白と灰色

 シロが目覚めてから三日が過ぎても体は小さなまま。

 それなりに動けるほどまで体力は回復し食欲も戻ってきているが、瞳の色は戻っていない。幸い視力に影響はないが、どこか違和感を覚えていた。


「きもちわるいなぁ。このまま……なのか」


 無意識に左目の方に触れる。窓から見える空は晴れ渡っているが、シロの心は曇り空。


「シロ。カザト君がきたよぉ」


 ルリが声をかけて離れる。

 窓から振り向いたシロの目に映るカザトの着ているワイシャツは白い。それが嬉しくてたまらない。


「カザトにいちゃん」


「くるのが遅くなって悪かった。もっと早くきたかったんだけど忙しくてな。元気そうで安心した」


「カザト兄ちゃん、ぼくいがいにもおしえているの?」


「いんや、俺はお前専属の先生だ。これでも元・近衛騎士なもんで頼りにされてるんだ。お偉いさんの自己中な願いなら突っぱねてるんだが、国のためになることなら断れなくてね」


「ファルスがたいへんなのか!?」


「そりゃまぁ、多少の荒事は日常茶飯事だ。近衛騎士ったって一人の人間にすぎない。わざわざ一対一で付き合う必要はない。そのための応援ってわけなんだ」


「しらなかった。そんなあいまをぬってけいこを」


「別に気にすることはない。いい運動になっている」


 カザトはシロの目線に合わすよう腰を落とす。真っ直ぐシロの目を見たと思うと力強く頷いた。


「うん?」


「お前は変わってない。いつものお前だ。とはいえ、その体じゃ剣は振れないか」


 腕を組んで考える素振りを見せたかと思えば、何かを閃いたのかシロを連れて外に出た。

 何がなんだかわからないシロは首を傾げる。連れられた場所は、いつも稽古をしている芝生。


「けんはふれないよ」


「お前教えてほしいんだろう? 俺が教えてやる」


「なんのこと?」


「魔法だよ。自分で言ったことを忘れたのか」


「おそわってないとはいったけど、おしえてなんていってない」


「言ったも同じだ。ここは素直に教えられろ」


 カザトは柔軟体操を手早く済ませて構える。


「くみてをするの?」


「体力と魔力は別物だ。誰にでも魔力はある。体力をなるべく減らせば魔力を引き出せるはずだ」


「ちょっとまって! ぼくはやみあがり――」


「いつでも万全な状態で戦えると思うな!」


 シロの言葉を(さえぎ)って攻撃を始めるカザト。口元を緩めながらも的確に狙ってくる。


(くそ!? からだがいうことをきかない!)


 八歳の体で組手をするのは初めてでさらに病み上がり。どう考えてもシロが不利である。カザトを大人げないと思いつつ、不利な状況を打破しようと模索する。


「逃げてばかりじゃ勝てないぞ」


(ちっ! そんなこといわれなくたってわかってるって!)


 体の小ささを利用してカザトの視界から消えて背中に回り飛び掛かり、体重を後ろにかけていく。


「無理だ。今のお前の体重じゃ……」


「これならどうだああ!」


 カザトの首に腕を回して力を入れていく。八歳の体とはいえ、力一杯やれば効果抜群だ。


「……んぬおおおお!!」


「え!?」


 カザトは風を起こして体を回転させる。誰も魔法を使わないとは言っていないので反則ではない。

 必死にカザトに掴まっていたもののシロは吹き飛ばされてしまう。芝生とはいえ痛いものは痛い。おまけに目を回している。


「さすがに苦しかった。俺を窒息死させるつもりだったろう?」


「そんなわけ~……」


「実際の戦いじゃめまいなんて言い訳は通じない。こんな感じにな!」


 カザトは掌に風を集めて投げる。シロの体に当たった瞬間、風圧によりシロを吹き飛ばした。


「ぐはぁ!」


 痛みと内臓の揺れに襲われる。芝生の匂いが鼻を刺激して酔いを忘れさせる。

 自然に発生する風とは違う風が頬を撫でるのを感じて立ち上がり、まだぼやけている視界を一点に集中させていく。


「ちゃんと立つとは偉い偉い。俺の稽古の賜物かねぇ?」


「……まだ……まだ……ぼくは……うぐ!?」


 左目に激痛が襲い掛かり手で押さえる。すぐに頭痛が起き、体を急激に寒さが襲う。


「シロ!?」


 カザトはシロの異変に気付き近付くのを躊躇してしまう。それは無理もない。

 シロの体からは灰色のオーラが溢れ、足元の芝生が急速に枯れていく。


「がああああ!!」


 白い髪が一部灰色に染まり、左半身も灰色に染まる。シロの意識は吹き飛び、自我は失われていた。


「シロ待ってろ! すぐに俺が――」


「がああああ!!」


 カザトが動き出す速さを上回ったシロによる灰色の一閃が芝生を、そしてカザトを裂いた。


「がはああああ!?」


 あまりにも速すぎる攻撃を喰らい声を上げて膝をついたカザトの胸からは大量の血が。意識を失っていないのが不思議なくらいだが、日々鍛えているカザトだからこそ失わないで済んでいる。


「あ……ああ……ごぼぉっ!?」


  シロの口から大量の血が噴き出される。よく見ると右目から涙を流している。自我を失っても心までは失っていなかったのだ。


「ま、待っていろ……! お前を絶対に助けてやる!」


 痛みに耐えながらも風を起こし飛び上がり、急加速と急降下でシロに急接近。口に溜まった血を吐き出すと、空中で体を回転させながら鞘を振り下ろす。


「があぁ……」


 体に強い衝撃を受けたシロは完全に倒れ、技を放ったカザトも限界を迎えて気を失う。

 騒音に気付いた警備の近衛騎士が二人を介抱。遅れてやってきたフィリウスとルリは言葉を失う。


「灰色の髪と瞳。あの話が本当ならば――」


「滅多なものを言わないで。あの子は人間です」


 王城の部屋から様子を見ていた父と母。二人は拳を強く握って見ているしかなかったのである。 

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