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灰色首都

 ウルたちと一旦別れホテルに戻ったマオルは、グレンに事情を話した。


「――ということになった。少々面倒だが仕方あるまい。千年生子に関しては儂も他人事ではないのでな」


「オレはいいんだ、どこまでもとことん付き合うぜ。しかしながらミルちゃんを連れていくのはキツいかも」


「それについては心配ない。ウルの魔術は色々と便利で使える。それにまだ実力を隠してるとみた」


「あれ以上の実力を隠してるとしたら笑えないぜ。オレなんか遊ばれちゃってたし」


「おまっさんがそれを言うか。おまっさんだって実力を隠してるだろう」


「そいつは買いかぶりすぎだぜマーオ。師匠や兄弟子と比べたらオレなんかダメダメ」


「そう卑下するな。そうそう千年生きてる儂の目を誤魔化すことはできん」


 マオルの言葉に嘘はない。グレンが実力を隠してることにはとっくに気付いていた。それでもあえて言及しなかったのは、それがグレンの主義だと思っていたからだ。

 ウルがホテルに迎えにくると聞いていたので呑気に新聞を読み始めるマオルであったが、ものの数ページ読んで畳んだ。


「マーオ、新聞読めないのか?」


 口元を手で隠しながら肩を震わせるグレンは、ここぞとばかりに笑ってみせる。


「安心せい。新聞を読まずとも生きていけることを儂は証明してやったのだ」


 マオルは口を尖らせながら言い返すことが精一杯。口下手なのである。

 この後も軽口を叩き合いながらウルを待つ。ウルがきたのは三十分後だった。


「よっ! 超特急できてやったって」


 ウルは、マオルとグレンの目の前にパッと現れるやミルフィライトをちらりと見た。


「本当に眠ってるんだな」


「早く目覚めさせてやりたい。それよりもおまっさん、遂に穴すら使わず現れおったな」


「場所や人を思い浮かべると移動できるんだって。あまり多様すると不審がられるけどって」


「そんな便利なもんを使えるとあっちゃ警戒されるぜ。女風呂とか覗き放題だもんな」


 グレンが顎に手をやり目を光らせる。


「風呂なんか覗いて何が楽しいんだって?」


「おやおや、わからないのかい? 男の永遠の夢とロマンが詰まったパラダイスだぜ」


「俺にはわからないって。風呂は覗くより入る方が好きだ」


「儂もウルと同感だ。というか千年も生きていると、もうそういうのは願い下げじゃ」


「急に年寄り臭くなるなよマーオ。ミルちゃんの一糸纏わぬ姿を見られるんだぜ」


「はあ、馬鹿かおまっさん。ミルフィライトの体も十歳で止まってるんだぞ。そういう目で見ろというのが無理な話だ。儂にそんな趣味はない」


「お、お前、そんな趣味があるのかって!? バスの件に関わらせなくて良かったって」


 ウルはグレンのことを白い目で見る。今のウルの頭の中は、どうやって子どもとの遭遇を回避するかでいっぱいだ。


「待ってくれウル坊! それとこれとじゃ話は別だ! 変な誤解をしないでくれ!」


「その言葉に偽りはないかって」


「ない! ない!」


「それなら安心だって。俺、子どもがひどい目に遭わされるのが嫌なんだ。セラテシムンは奴隷制度を認めてないけど、残念ながら裏ではあってって。軍が懸命に潰してるけどなくならない」


「オレも奴隷制度には反対だぜ。人を売買するなんざ反吐が出る」


「儂は制度そのものに反対はせん。方向性を間違えなければだがな」


「――って、こんな雑談をするためにきたんじゃないって。そっちの準備さえできてれば出発するって」


「こっちはいつでもいいぞ。ところで、千年生子の行方はわかっているのか?」


「最新の情報だとセラテシムンにはいないらしい。最後の目撃情報は、隣国のアンオールだって」


「アンオールか。儂は一度だけ行ったことがある」


「オレはないけど、アンオールって貴族貴族うるさいと聞いてるんだが」


「そんなの昔の話だって。俺、首都のアロポリアなら行ったことあるから移動できるって」


「おいおい、それって不法入国にならないか?」


「その辺のことはにょんちゃんに任せてある。準備万端なら行くって」


 ウルがマオルとグレンの肩に手を置き、ミルフィライトを異空間へと移すと、パッとその場から消えてみせた。


 アンオール・首都――アロポリア。

 高い建物が並び、人々が闊歩する。いくつもある大通りには、さまざまな店も建ち並んでいる――はずであった。


「前にきたのは何十年も前になるが、それでもわかるぞ。明らかにおかしいとな」


 街は全て灰色に染まっていた。

 街を歩く人も、街を走る乗り物も、空を流れる雲さえも動きが完全に止まっていた。


「誰かの魔術だとしたら迷惑だぜ。面白半分でしていい度は越えてるぜ」


「俺は前に似たようなことを経験してる。この状況を打破するには、囚われた色を解放するしかないって」


「で、どこにそれがあるのだ?」


「さすがにそこまでは俺にもわからない。とりあえず歩いてみるって」


「止まってるふりして襲い掛かかってこないだろうな!?」


「それはないから安心してって。俺が心配なのは、止まってるのをいいことにお前が襲い掛かかることだって」


「オレ、そんなことしないぜ!? ウル坊」

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