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とばっちり

 ウルは壁に背中を預けてマオルと視線を交わす。攻撃の意思がないことを表すべく腕を組むと、静かに話し始めた。


「お前が千年生子で間違いないんだよなって。それがはっきりしないと話が進まない」


「誰が呼び始めたかは知らないぞ。儂が認めた覚えはない。呼びたければ好きにすればいいがの」


「自称したわけじゃないんだな、そっかって。だとしたら話が変わるって」


「話が変わるだと」


「俺も軍も、お前が千年生子だという前提で動いていた。けどお前が千年生子ではない可能性が僅かでもあるのなら、こっからは慎重に行動しないとって」


「おまっさんたちが儂を追っていたのは、ジャンジャラの件があったからだろう。その場に儂がいたことは間違いないしな。だから儂を疑っているのだろう?」


「そうだって。けどそれだけじゃない。そもそも、千年生子ってのが厄介者だと俺は認識してる」


「大なり小なり問題を起こしてきた自覚はある。だが、一国から睨まれるようなことをした覚えはない。厄介者と思われてるのは胸が痛む」


 マオルは口を尖らせて抗議する。


「視点が変われば見方が変わるのは至極当然だって。けど妙なんだ。俺が聞いてる千年生子とお前が結びつかないんだって」


「人の印象なんざ各々で変わるものだ。それよか気になるではないか。おまっさんの聞いてる千年生子はどんな奴だ?」


「それを聞かれて表現できる的確な言葉は、俺の貧相な辞書にはない。頑張って表すとすれば……わからない、だ」


「おまっさん、儂を馬鹿にしてないか」


「しょうがないだろって。容姿は布で隠れてて体格しかわからないし、銀色の髪と瞳を持つって情報は本人の自称なんだ」


「髪と瞳の色だけで判断されたら困るの。迷惑な話だ」


「だったら大人しくしてろって。この目でちゃんと見て思ったが体格が違う。迷惑な話だって」


「儂が悪いのか? 納得いかん。結局、千年生子は儂以外にもいるということか?」


「そもそも、お前が千年生子と呼ばれてるのが間違いだと思うんだって」


「儂が千年生子かどうかはどうでもいい。儂が明らかにしたいのは、ジャンジャラの件は無実だということだ」


 マオルは声を大にして訴えた。


「それを判断するのは俺じゃない。どうする、にょんちゃん」


「ウル君が私に判断を委ねた時点で、君に対する疑いは晴れてるも同然ね。君を帰すわ」


「そんな簡単に決めてしまっていいのか?」


「ただでとは言わないわ。ウル君に協力することが条件よ。セラテシムン元帥の命令です」


「なっ!? なぜ儂が協力しなければならない」


「ウル君は千年生子を独自に追ってるの。第六感が疼くんだってさ」


「第六感、じゃと?」


「俺の勘は鋭いで有名なんだ。千年生子と物体消失は繋がってる。お前の探してることも関係してるって」


「ウル君の勘はすごいよ。灰色のこと、ウル君に話してないよね?」


「な、なるほどな。これは協力した方がいいかもしれん」


 ミルフィライトを目覚めさせるための灰色に近付くべく、マオルはウルに協力することを決めた。


* * *


 ホテルに戻っていたグレンは、ハンバーガーを片手に電話をしていた。口調から緊張感はなく、ベッドで眠るミルフィライトに視線を向ける余裕もある。


「――てなわけで残念ながら会えてない。そっちに全く連絡はないとなると、まだまだ探し回らないとダメってことか」


 ハンバーガーを食べ終わり空いた片手にペンを持つと、うんうんと頷きながら、ささっと走り書きで紙にメモを取る。


「で、会えたらオレはどうしたらいいんだ? このことだけ伝えたら自由にしていいのか?」


 ペン先でとんとんと紙を軽く叩きながら聞くグレンは浮かない表情。伝言を頼まれたようだ。


「うーん……まあ……オレはそれでも構わないけど、あっちがどうするのかはわからないぜ。ああ見えてけっこう頑固なところがあるからな」


 メモを取るのをやめ、ペンを回して遊ぶグレン。だいたい話は済んだようだ。が、その目は遠くなっている。


「ふわぁ~。いっつも思うんですけどね、どうして毎回長電話に持ち込もうとするんですぅ? 可愛い弟子に会えなくて寂しいのはわか……可愛いくないとはひどいぜ。それでも師匠なのか?」


 結局それから十分の雑談に付き合わされたグレンはぐったりとした。思わずベッドにダイブしそうになるが、ここで寝ては留守番の意味がないと堪えた。


「やれやれだぜ、まさかここにきて伝言を頼まれるとは。それになんだよこの内容は?」


 ――戦うな、逃げろ。


「いったい何が言いたいんだ? 剣士に戦うなってのは無理な話だぜ」


 メモを見つめて小首を傾げるグレン。だが、どういうわけか体は震えていた。言葉足らずとはいえ、師匠からの忠告である。わざわざ伝えてきたのには意味があるはずだと、グレンの戦いの勘が訴えていた。


「悪いな師匠。オレはオレで引けないもんがあるんでねえ。関わっちまった以上は力になりたいって思うのが友情ってやつだからな」


 眠るミルフィライトの頭をそっと撫でるグレンの手は震えていた。

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